Fate/WizarDragonknight
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入れ替わり
「よし、それじゃ一回整理しようか」
ラビットハウス。
見滝原と呼ばれる街の西部。木組みの街と呼ばれる地区に、その隠れ家のような喫茶店はあった。
松菜ハルトと衛藤可奈美の両名は、それぞれそこで住み込みの従業員として働いており、現在の生活の拠点としていた。
「こうなった原因は、間違いなくあのファントムの金縛りだよね」
自意識は衛藤可奈美である、松菜ハルトが確認する。彼女___彼(?)は顎に手を当てながら、天井を睨み上げていた。
「ほら、成功とか言ってたし。あの時までは、私はまだ私だったと思うし」
「間違いないだろうね。全く、本当に面倒な能力だな……」
同じく、自意識松菜ハルト体衛藤可奈美は同意した。
可奈美は買い足ししてきた食料を指定された箇所に入れ、ラビットハウスのカウンター席に深く腰を落とす。
「こういうのは大体原因であるファントムを倒せば元に戻るけど……あのブラウニーってファントムを探そうにも、人間態さえ分からないからなあ」
「それはそうだけど……その……ハルトさん」
「何?」
「ガニ股やめて……」
ハルトが顔に手を当てながら懇願する。
可奈美が顔を見下ろすと、確かに今、美濃関学院の制服を着たままの可奈美は、深くカウンター席に大きく股を広げて座っている。目の前のハルトからは、直接下着が見えてしまうのだろう。
「ああ、これか……ごめん」
ハルトの指摘に従って、可奈美は足を閉じた。
「にしても、よくよく考えれば、このスカートって奴はどうにも落ち着かないなあ……なんかヒラヒラして」
「ハルトさん、揺らさないで!」
ハルトはそう叫んで、可奈美の肩を掴む。
「中身はハルトさんでも、それは私の体だからね! そういうことは、しないでね!」
「か、可奈美ちゃん……」
「何?」
間近に迫る自分の顔という怪奇現象を味わいながら、可奈美は冷や汗を流す。
その最中、可奈美の口から出たのは……
「案外そういう女の子っぽいところ気にするんだね」
「私だって気にするよ!」
ハルトはそう叫んで、頬を膨らませる。本来の可奈美だったら可愛らしかったのだろうが、今はハルトの体になっているので、青年が年甲斐もなく拗ねているということになってしまっていた。
その時、チリンとラビットハウスの扉が開く。
いらっしゃい、と反射的に口にしそうになった可奈美だったが、来客の姿を見て口を閉じる。
「あ、ガルちゃん」
ハルトが呟く。
全身がプラスチックでできた赤い鳥。
ウィザード、松菜ハルトの使い魔であるプラモンスター、レッドガルーダ。一瞬だけ可奈美の肩に止まったガルーダだったが、すぐに首を傾げ、背後のハルトを見つめる。
「え? 嘘、ガルーダお前、見分け付くの?」
ガルーダはしばらく二人の上空を旋回し、やがてハルトの手元に降り立つ。
ハルトの体。可奈美の精神がある方に。
「すごいすごい! ガルちゃん、私のこと分かるんだ!」
「何でだよおおおおおお!?」
可奈美は机を叩いて嘆く。
「可奈美ちゃんの姿になっても、俺より可奈美ちゃんに懐くんだな……!」
「えへへ」
ハルトはガルーダと戯れながら笑顔を見せた。
「すごいねガルちゃん。もしかして、分かる人には分かるのかな?」
「まさか……いや、そんなわけないよね」
可奈美は困惑しながら、他の使い魔たちのことを思い浮かべた。
「このあと、試しにゴーレムにも可奈美ちゃんが見分け付くかやってみる?」
「えへへ。もし私だって見分け付いたらどうしよう?」
「もしかして煽ってる? これでゴーレムが見分け付かなかったら、今度一回シフトタダ働きでもしてもらおうかな?」
「いいよ! 面白そう!」
ハルトは満面の笑みを浮かべた。
可奈美は羽ばたくガルーダを両手でキャッチ。そのまま、流れるようにガルーダの胸元に付いている指輪を外した。
すると、ガルーダの体は瞬時に薄くなっていく。すぐに残っているのは、可奈美の手に残る赤い指輪だけとなった。
「はい、可奈美ちゃん。多分今はガルーダを呼ぶ必要はないけど、必要に応じて召喚して」
「う、うん……」
投げ渡されたガルーダの指輪を、ハルトは両手でキャッチ。
「そういえば、指輪ってこうやって使うのであってるよね?」
ハルトは受け取った指輪をそのまま右手に嵌める。そのまま、腰のベルトに当てると。
『ガルーダ プリーズ』
「おおっ! やっぱり出た!」
「今俺が解除した意味ねえ!」
可奈美が叫んでいる間にも、ランナーが分離。再びプラモンスター、レッドガルーダを形作っていく。
「おおっ! 憧れの魔法が使えた!」
「ああ、憧れていたんだ……」
可奈美はジト目でハルトを見つめる。
ハルトが指輪を収納すると、ガルーダの形を作ろうとしていたプラモデルが消失していく。
「他の魔法はどんなのかな?」
「今やる必要はないでしょ。あとで俺が見てあげるから、それまでは我慢して」
「ぶー……」
ハルトは口を尖らせる。
「……それ、可奈美ちゃんが可奈美ちゃんの体でやるから可愛いのであって、俺の体がやってるのを見てもイライラするだけだな」
「酷いっ! あとそれ、自分に向かって言ってるよ!」
「まあ……今のハルトは可奈美ちゃんだからね。……自分で何言ってるのか分かんなくなってきた」
可奈美は顔を抑えた。
「とにかく、今の俺たちは、他のみんなには知られない方がいいよ」
「何で? 友奈ちゃんたちに協力してもらおうよ」
「友奈ちゃんや真司たちに伝えると、なんかややこしいことになりそうだしなあ。ココアちゃんたちに伝えると、俺たちが戦ってることまで説明しなくちゃいけなくなりそうだから、ここは絶対だよ」
「ココアちゃんたちの方は分かってるけど……」
ハルトがそれ以上言うよりも先に、再び店の呼び鈴が鳴った。
「いらっしゃいませ」
体が入れ替わっているからといって、仕事を無下にはできない。
可奈美は振り向いて、手慣れた挨拶をする。
だが、店に入って来たのは客ではなかった。
高校生と中学生の少女たち。姉妹のように体を密着させた二人は、それぞれ学校の制服を着用しながら入って来た。
「可奈美ちゃん! ハルトさん! ただいま!」
「ただいま戻りました」
それは、今さっき二人の会話に出てきた人物たちだった。
保登心愛と香風智乃。それぞれこのラビットハウスで、ハルト、可奈美よりも長く生活しており、チノに至っては、ここの店主の娘でもある。
「ココアちゃんにチノちゃん。お帰りなさい!」
「おおっ! ハルトさん、なんか今日は明るいね!」
ハルトの体の中に可奈美の精神が入っていることなどいざ知らないであろうココアは、そのままハルトとハイタッチ。
「それに、ただいま! 可奈美ちゃん!」
「うわっ!」
ココアは笑顔で、可奈美へ飛びつく。
先ほどとは真逆に、可奈美の体にハルトの精神が宿っていることなど、当然ココアは認知していない。
「そ、そういえば可奈美ちゃん、しょっちゅうココアちゃんに抱き着かれてたっけ……?」
可奈美はそう言いながら、ココアを引き離す。
「えっと……今日は早いね。始業式なんだっけ?」
「そうなの! 今日から私とチノちゃんは進級したんだよ!」
「あ、そうだよね……そうだよね!」
ハルトは一瞬顔に影が入るが、すぐに元気にココアの隣に並ぶ。
「進級おめでとう! ココアちゃんは二年生になったんだよね」
「そうなの! チノちゃんは中学三年生だから、来年からは一緒に通えるね!」
可奈美は、そんな二人を見守りながら、少しずつ後ずさりをしていく。
だが。
「可奈美さん、どちらへ?」
捕まった。
ココアの妹分(妹じゃありません)であるチノが、すでにラビットハウスの制服を着て先回りしていた。
「どこって、私はここに……」
「あれ? 何でハルトさんが答えてるの?」
「ん? あっ!」
ハルトは慌てて口を抑える。
「えっと……! その、間違えちゃった! あはは……!」
明らかに苦しい言い訳をしている自分の姿に、俺そんな可愛い喋り方しないよ、と心の中で呟きながら、可奈美はココアとチノにどうすれば怪しまれないか考えを巡らせる。
だが。
「そっかあ! たまにあるよね! 可奈美ちゃん、今日はこれから一緒のシフトだね!」
その考えは不要だったようだ。
ココアは可奈美の腕を大きく振りながら、喜びを示している。
苦笑いを浮かべながら、可奈美はココアの手を振りほどく。
「そ、そうだねそれじゃ、お……私は、早く着替えてこないとね!」
「え」
可奈美のその発言に、ハルトは血相を変える。席を飛び出し、可奈美の手を掴んで奥の厨房に連れ込んだ。
「き、着替えって……! ハルトさん、私の体で……!?」
「この際仕方ないよ。なるべく、俺たちはいつも通りにすごさないといけない。どこで二人に様子がおかしいとバレるか分からないからね?」
「う、うん。それは分かってる」
「運が悪いことに、これから可奈美ちゃんはシフト入っていたでしょ? つまり、俺がこれからシフトに入るから、可奈美ちゃんはいつも通りの俺と同じことをやって」
「いつものハルトさんって……」
ハルトが目を泳がせている。近づいた自分の顔と向き合うというのも不思議な気分だと感じながら、可奈美は続けた。
「大丈夫。可奈美ちゃん、人を見る観察眼は本当に凄いから。自信を持って」
「わ、分かったから……」
ハルトはもじもじと体を捻らせている。
可奈美はその理由を察する。
「まあ、可奈美ちゃんの年頃の女の子が、自分の着替えを他人にさせられるっていうのが辛いのは分かるけど、今は緊急事態だからね。俺も目を瞑るようにするから」
「そうじゃなくて……」
「何? あ、俺の行動? 俺、丁度今指輪作っていたところだったんだ。道具とかは全部机の上に置いてあるけど、この際何もしなくていいよ。部屋から出なければ、こっちでココアちゃんたちには作業中って言っておくから」
「だから……その……!」
ハルトは、顔を真っ赤にして切り出した。
「トイレ……行きたい……!」
新年度が始まったばかりのこの日。
肉体的にも精神的にも。
衛藤可奈美という少女は、乙女として大事な何かを失った。
後書き
ほむら「今日の夕飯は……」
キャスター「マスター」
ほむら「何?」
キャスター「ここの所、偏食が続いています。たまには、栄養価の高い物を」
ほむら「いつも思うけど、サーヴァントがそれを気にする必要はあるのかしら?」
キャスター「栄養失調でマスターが倒れることがあれば、聖杯戦争も不利になります」
ほむら「デスゲームの死因が栄養失調……」
キャスター「今回は雑煮は避けるべきでしょう」
ほむら「説明したわよね……? 奴がいつ来るか分からないのよ。栄養補給の時間さえ惜しいのよ」
キャスター「貴女が倒れた方が時間の無駄であろうに……」
ほむら「ふん……」
キャスター「こういうものとか、いいのでは?」
ほむら「トマト?」
キャスター「必要なら、料理しましょうか?」
ほむら「サーヴァントが手料理を振る舞うって……? まあいいわ、好きにしなさい」
キャスター「では……」
???「あっ」
キャスター「むっ」
ほむら「……まさか最後のトマトを取り合うことになるとは」
???「もしかして、君もトマト好きなの!?」
キャスター「別に好きという訳では……」
ほむら「世にも珍しいトマトからの仲ね」
キャスター「フン」
???「トマトから育む友情! そういうわけで、今回はこちら!」
ほむら「誰が友情よ」
___今日だって最高の 未来に変わってく 昨日の涙さえ誇れる場所になるから___
キャスター「ビビッドレッドオペレーション」
ほむら「2013年1月から3月放送のアニメね」
???「夢のエネルギー、示現エンジンを狙う謎の敵、アローンとの戦いを描いた、友情の物語!」
ほむら「この黒騎れいとかいう子、何となく私に似てるわね」
キャスター「主人公の一色あかねが、ドッキングと呼ばれる合体で、力を飛躍的に向上させるのが持ち味だ」
???「さあ! トマトを食べて、友達になろうよ!」
ほむら「妖怪トマト縁結び……!」
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