機動6課副部隊長の憂鬱な日々
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第19話:エアボーンミッション
ヘリが離陸してすぐに、ゲオルグは機内のメンバーの顔を見まわす。
なのはやフェイトは引き締まった表情をしているが、
固さや気負いは感じられない。さすがは歴戦の雄といったところである。
一方の新人達は緊張感でガチガチになっているのが容易に見てとれた。
(これは作戦開始前に一回話をしないとな・・・)
ゲオルグはそう考えるが、同時に前線指揮官として現場につくまでの間に
作戦を立案し、ブリーフィングを終えなくてはならない。
ゲオルグはレーベンが表示するディスプレイに映った現時点での情報から
作戦を立てるとブリーフィング用の作戦図を作成していく。
作戦図を作成し、作戦案の見直しも終えたゲオルグは機内の中央に立ち、
前線メンバーに向かって話を始める。
「ブリーフィングを始める。全員注目」
ゲオルグがそう言うと、機内のメンバーはゲオルグの顔に目を向ける。
全員の表情を確認すると、状況の説明から始める。
「まずは全体状況だ。
約15分前に、指定ロストロギアであるレリックを運搬中の列車が
ガジェットの編隊によって襲撃されているとの連絡が教会本部から入った。
本作戦の目的は、第1に運搬中のレリックの確保。第2にガジェット編隊の
完全撃破だ。ここまでのところで質問は?」
ゲオルグが機内を見渡すと全員が頷いているのが見えたので、先を続ける。
「では詳細状況を説明する。このモニターを見てくれ」
ゲオルグは、そう言って先ほど作成した作戦図を表示させた。
「列車は渓谷地帯を走行中のため、陸戦が可能な領域は列車内および
列車の上面に限られる。また、片方は深い谷になっているため、
列車から谷側への落下には十分注意するように。
敵戦力は現在確認できている限りで上空に飛行型が10ないし20。
列車内に1型10機以上、および未確認だが新型の存在する可能性がある」
ゲオルグがそこまでを一気に話すと、ティアナが手を挙げた。
「新型の数は?」
「不明だ。性能も含めてロングアーチで調査中。他になければ続けるぞ。
レリックは、列車中央の車両に搭載されている。
よって本作戦では列車の前後両端に部隊を降下させ前後双方から
列車中央に向かって順番に制圧していく方法をとる。
ただし敵に航空戦力があるため、降下前に制空権を抑える必要がある。
よって陸戦要員に先行してスターズ01およびライトニング01が出撃し、
敵航空戦力をせん滅してもらう。両名とも頼むぞ」
「「了解」」
ゲオルグがなのはとフェイトに目を向けると、2人はゲオルグに向かって頷く。
ゲオルグも2人に向かって頷き返すと、説明を続ける。
「現場周辺の制空権を確保した時点で、残り4名は列車に向けて降下・制圧だ。 列車前方はスターズ03および04、後方はライトニング03および04だ。
いいな?」
「「「「はい」」」」
「降下完了後、先行した2名は上空警戒。
前方部隊のリーダーはスターズ04、後方部隊は俺が直接指揮する。
スターズ04は逐次状況を報告するように。
また前方部隊は先頭車両を制圧後に列車を止めろ」
「なぜですか?迅速な列車全体の制圧が優先されると思いますけど」
ティアナが首をひねりながら尋ねる。
「列車が高速走行していると、揺れるし走行風もバカにならんからな。
万が一屋根の上でバランスを崩したら崖下にまっさかさまという
事態にもなりかねん。なので、安全に作戦を遂行するためにも列車は止める。
いいな?」
「了解しました」
ゲオルグの言葉にティアナは大きく頷く。
「また、列車内という狭隘な空間に多数のガジェットが展開していることから
列車内のAMF濃度はかなり高いと推測される。十分注意しろよ」
「「「「「「はい」」」」」」
「以上が作戦骨子だが、何か質問は?」
ゲオルグがそう訊くと、なのはの手が挙がった。
「ロングアーチ01の配置は?」
「俺は、リイン曹長とともに現場における全体状況の把握と指揮に専念する。
ただし、列車内での戦闘において問題が発生した場合に備え、
ヘリからは出撃して、上空で待機する。
リイン曹長には広域警戒を担当してもらう。
両隊長は知っての通り俺の空戦能力は実戦に耐えうるものではない。
よって上空警戒は両隊長に依存する形になる。十分注意してくれ」
「「わかりました」」
「他に質問がなければ、以上だ。全員待機」
ゲオルグはそう言うとなのはに近づく。
「なのは、4人の実戦用デバイスの起動テストは終わったのか?」
ゲオルグがそう聞くと、なのはは首を横に振った。
「今日の午後にテストを予定してたから、ぶっつけ本番だね。ごめん」
「仕方がない。お前のせいじゃないから気にすんな」
「うん、ありがと」
「ゲオルグさん。列車が視界に入りましたよ!」
操縦室のヴァイスからゲオルグに報告が入る。
「よし、両隊長は出撃してくれ。気をつけろよ」
「「了解」」
なのはとフェイトはそういうと、後方のドアから出撃していった。
後には、緊張で固くなった新人たちが残された。
ゲオルグは、彼ら4人に話しかける。
「俺からちょっとアドバイスがあるんだけど聞くか?」
ゲオルグがそう言うと、4人は一斉に俺を見た。
「
お前らはこれまでなのはの厳しい訓練を1カ月頑張ってきたんだ。
だから,実戦くらいは頑張らなくていい。
ただ,自分ができることを無理のない範囲でやればいい。
やばいと思ったら助けを呼べばいい。
さっきはレリックの確保が第一目的だって言ったけど,
最優先すべきなのは,お前たちが無事に帰ってくることなんだ。
お前たちが笑って無事に戻ってきてくれることが,
俺やなのはやフェイトにとっては最大の喜びだからな。
せいぜい,無事にもどって俺たちを喜ばせてくれ」
俺がそう言うと,4人の顔に笑みが浮かんだ。
『こちら,スターズ01。航空戦力のせん滅を完了。上空警戒に移行します』
『ライトニング01より,ロングアーチ02。こちらも制空権を確保』
「よし,ちょうどなのはとフェイトがお前たちの花道を用意してくれたんだ。
ありがたく使わせてもらって来い!」
「「「「はい!」」」」
フォワード4人が降下してから,俺は気持ちを引き締めた。
「よし,俺たちも行くぞ!リイン」
「はいです!」
俺は,操縦室に向かうとヴァイスに声をかけた。
「ヴァイス。ここまでありがとう。気をつけてな」
「はい。ゲオルグさんも気をつけて。あいつらを守ってやってください」
「言われるまでもねぇよ。じゃあな」
俺は笑ってそう言うと,空中に身を投げ出した。
「レーベン!セットアップだ!」
《了解です。マスター》
俺は漆黒の騎士甲冑を身にまとうと,列車の速度に合わせて飛行を始めた。
列車の方を見ると,すでにフォワード達が戦闘を始めていた。
俺が,車両後方の状況を注視していると,ティアナから通信が入った。
『こちらスターズ04。先頭車両を制圧しましたが,
手動での列車制御ができません。応援を要請します』
「リイン。列車制御の回復作業はできそうか?」
「現地に行けばなんとかできます!」
俺はリインの言葉に頷くと,ティアナに指示を出すことにした。
「ロングアーチ02よりスターズ04。列車制御回復要員としてリイン曹長を
向かわせる。スターズFは次の車両の制圧に移行しろ」
『スターズ04了解。次の車両の制圧に移行します』
「ロングアーチ02よりロングアーチ,ヘリからのサーチャー散布と
広域警戒を要請する」
『ロングアーチ了解。ヴァイス陸曹,サーチャーを散布してください』
『了解!』
「ロングアーチ02よりスターズおよびライトニング各員へ,
広域警戒がリイン曹長からロングアーチに移行した。
以後,広域警戒情報のタイムラグに注意。なお本信への返答は不要だ」
俺がもう一度列車後方に目をやると,エリオとキャロが
順調に制圧を完了し次の車両の制圧に向かうところだった。
ティアナからも順調に制圧が進んでいる旨の連絡が入っている。
(順調だな。これなら俺の出番はないか・・・)
エリオがレリックを搭載している車両に後一両まで迫ったとき,
エリオから通信が入った。
『こちらライトニング03。新型のガジェットと遭遇しました。
AMFが強力で・・・』
そこで通信が途切れたかと思うと,中央部の車両から1両後ろの車両の屋根が
吹き飛び,触手のようなもののついた大型のガジェットが姿を現した。
新型ガジェットは,一方の触手でエリオを突き飛ばすと,
もう一本の触手でエリオを掴んで谷側に投げ捨てた。
「キャロ!!」
俺がそう叫ぶとキャロは列車から飛び降り,AMFの圏外に出ると,
フリードを大型化させた。
大型化したフリードはエリオを回収すると,列車と同じ高さまで上昇していく。
「ライトニング04。フリードの制御は問題ないか?」
『はい,問題ありません』
「ライトニング03。戦闘継続は可能か?」
『はい。可能です。』
「よし,キャロ。エリオに攻撃力のブーストをかけろ。
エリオは新型を一気にブチ抜け!」
『『了解!』』
キャロの補助魔法で攻撃力が増大したエリオが,新型ガジェットを
撃破したのを見て,俺はほっと息を吐いた。
『ライトニング03よりロングアーチ02。レリックを確保しました。』
『スターズ04よりロングアーチ02。ガジェット全機撃破』
「ロングアーチ02了解。ライトニング04はレリック封印作業に移行しろ」
『ライトニング04了解』
『ロングアーチ02。リインです。列車制御を回復しました。停止させます』
「ロングアーチ02了解」
俺がそう言うのと同時に列車が停止した。
「ロングアーチ02よりロングアーチ。状況終了。警戒態勢に移行します」
『ロングアーチ了解。お疲れ様でした』
俺たちは停止した列車の脇に集合した。
俺の前にはフォワードの4人が立っていた。
「お前らよくやった。初陣なのにほぼ完ぺきだったぞ」
「「「「ありがとうございます」」」」
そこに,上空警戒に当たっていたなのはとフェイトが下りてきた。
「なのはもフェイトもお疲れ。とりあえずあいつらをねぎらってやって」
俺がフォワード達を指さして,そう言うとなのはとフェイトはそれぞれの
部下たちのもとへ行った。
『ロングアーチよりロングアーチ02。現場引き継ぎはライトニングに任せ,
スターズとともに帰投してください』
「ロングアーチ02了解」
俺はそう返答すると,ライトニング隊のところに向かった。
「フェイト。さっきの通信のとおり,現場の引き継ぎは任せるよ」
「うん,任せて。ゲオルグもお疲れ様。おかげで安心して戦えたよ」
「どういたしまして。お,そう言えばエリオにキャロ」
「「はい?」」
「お前らよくやったよ。エリオは新型に勇気を持って向かっていったし,
キャロの状況判断はとてもよかったぞ」
俺はそう言うと,2人の頭をグシャグシャとすこし乱暴になでた。
「「ありがとうございます,ゲオルグさん」」
「どういたしまして。んじゃフェイト」
「うん。先に帰ってて」
そして,俺とスターズ分隊の3人はヘリで隊舎へと戻った。
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