熊鈴は必要
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第二章
「俺が熊鈴出して鳴らすまでな」
「大袈裟ですよ、ツキノワグマなら」
「いや、ここは慎重にな」
絶対にというのだ。
「動かないでな」
「貴方がそう言うなら」
初対面だが強い口調で言われたので。
吉原もそれならと頷いた、そしてだった。
彼が熊鈴を出す間その場にいるとだった、少し離れたところの茂みから熊が出た。その熊は本州なので間違いなくツキノワグマだったが。
「いたな」
「えっ、野生の熊ははじめて見ましたけど」
動物園でなくとだ、吉原はその熊を見て驚いた。
「これはまた」
「大きいな、あと大人しくても何かの弾みでな」
「襲い掛かって来ることもですか」
「あるからな」
登山客は彼に自分のリュックの中に手をやりつつ話した。
「そうなったらな」
「あんなのに襲われたら」
「わかるな」
「大変なことになりますね」
「だからだ」
それでというのだ。
「用心するんだ、今熊鈴出したからな」
「はい、熊鈴鳴らして」
「熊除けにするぞ」
「わかりました」
吉原もそれでと頷いた、そうしてだった。
登山客が熊鈴を鳴らして動きだしたのについていって登山をした、そして帰ってから店の者から熊鈴を買って言った。
「見て怖かったから」
「だからですか」
「ここで買うよ、そしてね」
それでと言うのだった。
「今後は熊鈴を持ってね」
「山に入られますか」
「そうするよ、熊は熊だよ」
ツキノワグマもというのだ。
「だからね」
「用心されますね」
「山の他のこともね、自然は油断したら駄目だよ」
こう言ってだった。
吉原はこの時からこれまでより遥かに熊それに山の自然に気をつけて登山をする様になった、その結果安全に登山を楽しめる様になった。熊のことからそうなったと彼は山の話をするといつも言うのが常だった。
熊鈴は必要 完
2022・12・20
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