| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-

作者:セリカ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

無印編
  第五話 出会いは騒動に満ちている

 外套の準備などしているとあっという間に日曜になった。
 そして俺は今、月村邸の前に俺は立っている。
 それにしても改めて見るとでかいな。
 あの死神の家と同等かそれ以上だろう。
 そして、自身の装備を確認する。
 ジーンズに黒の長袖のシャツに、投影した赤竜布を纏い、魔力殺しのアミュレット、そして帽子を被っている。
 赤竜布は投影品なので対魔力などの性能は劣るがないよりはいいだろう。

「よし。いくか」

 呼び鈴を押すと

 ピンポ~ン

 と結構庶民的な音がした。

「どちらさまでしょう?」
「本日招かれた者です」
「ようこそいらっしゃいました。どうぞまっすぐお進みください」

 その声と共に門が開く。
 そして俺は普通に門をくぐり、先に進む。
 それにしてもこの屋敷とんでもないな。

 門から正面玄関に続く道。
 道に沿って植えられた植木。

 これだけならただ感心できるのだが。

 明らかに道を外れれば発動するように仕掛けられたトラップや攻撃用の武器がこれでもかと設置されている。
 最初は数を数えていたが、二十を超えた辺りから数えるのをやめた。

 それに俺に向けられる視線。

「荒事にならなければいいんだが」

 残念ながらそれを願って叶った事はないのだが




side 忍

 さて、今日は来客の日。
 あれから国外にまで手を広げたけど情報は一切出てこない。
 つまりこの世界の中で一切の記録がない。
 もっとも裏にいけばあるかもしれないけどさすがにそこまでは時間的にも手が回りきらない。
 ようするに私たちはこれから会う相手の情報をほとんど持っていないに等しいのだ。
 だからこそ敵の可能性を捨てきれなかったけど会うという事を選んだのだけど。
 気になるのが

「恭也、本当にやるの?」
「ああ、確かにやり過ぎかもしれないが、相手の素性が全く分かっていないんだ。
 それに剣を交えれば見えてくる事もある」
「まあ、そうなのかもしれないけど」

 恭也の言葉に美由希さんも苦笑している。
 確かにあの子が私達に害をなすモノなのかはっきりさせたいのは事実ではあるけど。
 
「そろそろだな。
 美由希、忍達を頼むぞ」
「わかった。任せて」

 恭也を先頭に玄関に向かう。




side 士郎

 発動してないとはいえ、周囲にトラップや武器が用意されている事で歩みは自然とゆっくりとしたものになる。

 そしてようやく玄関まで辿りついた。
 もっとも玄関の向こうには数人の気配がする。

「ここからが本番か」

 扉の向こうからこちらに向けられた視線に自然とため息が出る。

 これだけあからさまだと扉を開けようとした瞬間にということはないだろうが、警戒しつつ扉を開ける。

 かなりの広さの玄関ホールには俺を待ち構える様に黒い服を着た男性が一人。
 その男性の少し後ろに女性が一人。
 顔つきが男性と似ているところがあるから恐らく身内。
 そして、ホールの中央に長い髪の女性が立っており、その左右にメイドが控えている。

「よく来たな」
「ああ、ここまで警戒された招待は初めてだよ」
「さて招待しておいて申し訳ないが―――」

 男の姿勢が低くなる。

「―――覚悟してもらおう」

 抜刀される小太刀。
 それに合わせ外套から抜く様に投影する干将・莫耶と同じぐらいの刃渡りの無骨な剣鉈。

 男の一撃を受け止めるが軽い。
 この手応え、俺が動かなければ寸止めするつもりだったか。
 もっともその事を信用できる程、俺も相手の事を知っているわけではない。

「ずいぶんな挨拶だな」
「自覚はしているが、まったく得体の知れない相手ならば、自分達に害をなすモノなのか。
 相手の実力を測るためにも剣を交える必要もある」
「乱暴な考えではあるが、一理はあるな」
「それに」

 男は間合いを開け、もう一本の小太刀を抜く。

 小太刀二刀流か。

「剣を交えれば見えてくるものもある」

 生粋の剣士だな。

 この人なら付き合うのも悪くない。
 それにこの子供の身体でどこまで動けるのか試したくもある。 
 
 外套から抜く様に右手に握る剣鉈と同じものを左手に握り、静かにいつものように構える。

「御神流、高町恭也」
「衛宮士郎」

 これは死合ではなく、試合である。
 互いに剣を交え信頼に値するのか、荒っぽい剣の対話が始まった。




side out

 洋館の中で刃と刃がぶつかり金属音を響かせ、火花を散らし、刃が太陽光を反射し輝く。

 そんな中で衛宮士郎は二十歳ぐらいの男の予想以上の技能の高さとその秘められた才能に舌を巻いていた。

 対する高町恭也も自身の下の妹と同い年ぐらいの子供が自分と打ちあえる実力の高さに驚いていた。
 だがなにより驚くと同時に困惑していたのは

(打ちあい始めた時は身体が流れたりと乱れていたが凄まじい速度で技が冴えていく。
 同じ人物とは思えない)

 士郎の技能がこの戦いの中で急激に成長している事である。

 もっともこの原因は単純に士郎の肉体の変化である。

 柄こそ投影の際に子供の手にも握りやすいように少し細くしているが、それでも子供の手には大きい。
 それでも死徒である力で小さな手でも握り、振るう事は出来る。

 そんな事より士郎が困惑したのは

(体の変化が大きすぎる)

 190cm近い身長がいきなり子供の身長になり、体重が変わる。

 つまりは腕や足の長さも当然変わり、間合いも、一歩の踏み込みの距離も変わる。
 そして体重の変化は

(踏ん張りが利かない!)

 軽くなった体重は子供には大きく厚みのある剣鉈を振るえば、その重さに体勢が少しでも不安定だと身体が持っていかれる。
 さらに刃と刃がぶつかり合った衝撃で身体が浮かびかける。

(もっとコンパクトに無駄なく刃を振るえ。体勢を常に意識し、元の世界では振るえていた事など考えるな。
 攻撃は受け止めるな、間合いを修正し、受け流し、かわせ!)

 恭也との戦いの中で子供の肉体での的確な戦い方を組み立て、修正しているのだ。
 それゆえに恭也は刃を交え始めた時から急速に冴えていく士郎の動きに困惑し、攻めきれない。

 そして士郎と恭也の戦いを見ていた美由希や忍達も

(すごい。恭ちゃんとここまで打ちあえるなんて)
(この子、本当に何者?)

 恭也と正面から打ちあう士郎の得体の知れない技能の高さに驚いていた。

 打ち合う事、数十合。

 徐々に押され始める士郎。

(隙が出来てきた。
 集中力が切れて来たか?)

 恭也がそう感じ始めた時には互角だった戦いは攻める恭也と守る士郎という一方的なモノになっていた。
 そうその場にいる士郎を除く全員がそう認識していた。

 左手の小太刀の横薙ぎを受け流し出来た右脇腹の隙。

(貰った!)

 そこに右手の小太刀で突きを放つ。
 その時、士郎の表情は笑っていた。

(誘い!?)

 気がついた時には既に遅く、突きは受け流され、士郎の返しの刃が恭也の胴を薙ぐ。
 それを防ぎ、さらに攻め、加速する剣速。
 ぶつかり合い出来る隙。
 だが隙を攻めればまた当たり前のように防がれ、返される刃。

(なんて戦い方を)

 相手の察せられないように打ち合いの中で自然と隙を作り、その隙を狙わせることで攻撃を予測する。
 防ぎ損なえば死に直結する行為。
 だがそれをこれだけ自然とやれるという事は、何度もやり慣れているという事の他ならない。

 一旦、間合いを開ける恭也。

「……とんでもない戦い方をするんだな」
「生憎と非才の身でな。
 対価を上げねば勝てないのだよ」

 平然と返答する士郎に眉を顰めながらも

(息もあがってない。
 それに子供の手にとっては太い柄を握ってこれだけ戦える。
 なにか秘密はあるな。
 だが)

「そろそろ手合わせは十分じゃないか?
 貴方とは無駄に血を流す事はないと思うが」
「そうだな。
 それは同感だ
 だが」

 剣を握り直し、構える。

「この手合わせの決着はつけたい。
 付き合ってもらえるかな?」

(剣士としてこの試合をきっちりと勝敗をはっきりさせたい)

 恭也の剣士としての闘争心が剣を再び構え直させた。

「かまわないさ」

 対する士郎も自身の身体の変化による戦い方を実戦に限りなく近い状況で、この身体での戦い方を導き事が出来た。
 その礼も含めて付き合うのは悪くないと考えていた。
 それと同時に

(この人の技を見てみたい)

 剣士として格上な彼の技を見たいと思っていた。

「いくぞ」

 一息に詰められる間合い。
 恭也の右手の袈裟斬りを士郎は一歩下がる事でかわす。
 恭也はさらに一歩踏み込み、袈裟斬りから続けて左の小太刀を首への一閃。
 それを受け流し、逸らす士郎。
 攻める暇は与えないと右手の小太刀の横薙ぎを放つ恭也とそれを受け流そうと士郎の刃が触れた瞬間。

 今までとは比べ物にならない衝撃が士郎の右腕にかかり、今まで以上に甲高い金属音を響かせ弾き飛ばされる刃。

(何だ今の一撃は?)

 士郎は右手が若干痺れる中で思考しながらも動きを止める事はしない。
 なぜなら恭也の四撃目は既に放たれているのだ。

(今度こそ貰った)
(そう簡単に負けるのも癪なのでね)

 恭也の左の小太刀からの逆袈裟。

(残った左の剣鉈で防いでも次で詰む
 ならば武器を奪わせてもらうとしよう)
(っ!
 下か)

 剣鉈を放り投げると共に左側に自ら倒れ、恭也の視線から突如として消える士郎。
 両手を床につき、下半身を跳ね上げ、蹴りを恭也の左手に持つ小太刀の柄頭に叩き込む。

「ぐっ!」

 その衝撃に手から小太刀を奪われた恭也。

 士郎は両手に力を込め、宙に跳び、放った剣鉈を握り、突き出す。
 それを

「はあっ!」

 右の小太刀の下からの斬撃で迎撃する恭也。
 そしてぶつかり合った瞬間に衝撃が奔り、もう一つの剣鉈が弾かれると共に衝撃で飛ぶ士郎。

 空中で体勢を整えるが、飛んでいった方向が運が悪い事に花瓶がある。
 花瓶を破壊し、水を浴びながら、壁を蹴る。
 宙を舞った恭也の小太刀を空中で掴み、さらに一歩踏み込み。
 恭也から間合いに入ると共に繰り出される突き。

 それを前に倒れ込むように体勢を低くし、さらに踏み込む。
 士郎の間合いに恭也が入る。

 その時を同じくして伸ばされる恭也の左手。
 そこには士郎が先ほど弾かれた剣鉈があり、恭也の手に収まる。

 そして繰り出される士郎の小太刀の突きの一撃と恭也の剣鉈の振り下ろしによる一撃。

 士郎の頭の1cm手前で止められた剣鉈と恭也の左胸の1cm手前で止めれた小太刀。

 相討ちであった。




side 士郎

 はあ、と大きく息を吐き、剣鉈を引っ込める恭也。
 俺も方も力を抜き、小太刀を引っ込める。

「相討ちか。
 しかも最後はお互い相手の得物でとは」

 恭也さんは少し不満足そうだ。
 花瓶を割り、水を浴びた時点でやめてもよかったが、興が乗り過ぎたな。
 俺自身この身体での初めての試合とはいえ戦いにしっかり決着をつけたかったのだろう。

 それにしても恭也さんは基本的にバトルマニアなのだろうか?
 申し訳ないが今後、このような戦いには付き合いたいとは思わんぞ。
 
「すみません。花瓶まで割ってしまって」
「それは俺じゃなくて」

 髪の長い女性に向けられる恭也さんの視線。

「彼女に頼む」

 髪の長い女性がメイドさんを二人と小太刀を持った女性と共に近づいて来る。

「恭也、彼は?」
「色々秘密はあるだろうが、ちゃんと話しあえば心配はないと思う」
「そう。恭也がそう言うなら大丈夫そうね。
 改めまして月村家当主、月村忍です」
「衛宮士郎です」

 差し出された手を握り返し握手を交わす。

 だが驚いた。
 恭也さんが差出人の月村家当主かと思ったら女性の忍さんの方だったとは。

「とりあえずお茶でもしながら色々お話でもしましょうか。
 お互いに理解を深めるためにも」
「それは構わないが、彼女はいいのか?」

 俺の視線を追って皆の視線が一人の少女に向けれる。

「すずか、出てきちゃったのね」
「まあ、アレだけ金属音を響かせれば気付くとは思うが」
「それもそうね。
 しょうがないわね。あの子も同席させていい?」
「ああ、構わない」

 忍さんについて行こうとしたら

「ちょっと待って。
 忍さん、この子、士郎君服びしょ濡れだよ」

 恭也さんの身内であろう女性が濡れているのを確かめるように俺の身体に触れる。

「あ、そうね。
 ノエル、彼に着替えを、それが終わったら応接室に案内して。
 ファリンはお茶の準備を」
「かしこまりました。
 どうぞ、こちらへ」

 ショートヘアーのメイドさんが俺の傍に立つ。

「はい。とちょっと待ってください。
 すみませんが、これをお願いします」

 恭也さんの身内であろう女性に小太刀を渡す。

「恭也さん、俺の得物はお預けします。
 帰る時にでも返して下さい」
「わかった。預かっておくよ」

 恭也さんに剣鉈をお願いし、メイドさんに視線を向けるといつの間に近づいたのか、メイドさんの傍に立つ当主。

「じゃあ、お願いね」
「はあ、よろしいのですか」
「大丈夫」
「えっと、お待たせしました」
「あ、はい。
 ご案内します」

 メイドさんから離れる当主と先導を始めるメイドさん。

「また後でね」

 楽しそうに手を振る当主。

 何がそんなに楽しいのか内心首を傾げる。

 俺はこの時気が付いていなかった。
 当主こと、月村忍の口が楽しそうに、とても楽しそうに歪んでいる事を。

 防衛のためとはいえあれだけ数をのトラップや攻撃用の武器を仕掛ける人物だ。
 そして、死神の家の割烹着の悪魔という前例を知っていた。
 そう、知っているにもかかわらず、トラップを設置したであろう当主である彼女を疑わなかったのだ。 
 

 
後書き
続いて第五話です。

にじファンの時とは違い、色々と書きなおしてだいぶ変わっていたり。

ではでは 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧