strike witches the witches of stratos
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Ep-02
蒼と藍のグラデーションで彩られた空に、幾重もの雲がたなびき、はるか先にはウラルの山々が連なっている。そのどこまでも拡がる雄大なオラーシャの空を、一機の旅客機が飛行していた。
空の回廊を悠然と進む旅客機。けれど、その操縦席内は異様な雰囲気に包まれていた。
「こちらVV214。IS01、応答せよ」
通信機のスイッチを入れ、機長が呼びかける。
『こちらIS01』
若い女性の声だ。
緊張しているのか、それとも、あまり得意ではないのか、返ってきたブリタニア語《公用語》は酷く強張っている。
「状況を報告してくれ」
そのどこか頼りなさげな声音に、酷く不安を覚えた機長だったが、何とか平静を装いながら返信する。
『はい。周囲にネウロイの姿はありません』
「そうか。もう少しでカールスラント国境だ。それまで頼むぞ」
『了解です』
ぷつりと通信が切れると、機長は大きく溜息をつく。
すると、傍らの副機長が窓の外を見ながら、心配そうな口調で訪ねてきた。
「機長、この機は本当に大丈夫なんでしょうか?」
「君も心配性だね。そんなに、『彼女』たちのエスコートが不満なのかい?」
副機長の不安げな視線の先には、悠々と空を飛ぶ一つの影。
正確に表すと、鎧を纏った人影と言った方が良い。真新しい深緑の鎧、背中から伸びた装甲が羽を広げているようにも見える。
インフィニット・ストラトス。通称、『IS』と呼ばれるそれは、数年前に開発された、マルチフォーム・スーツである。
その性能は既存のあらゆる兵器を遥かに凌駕し、開発から僅か数年という短い期間で、国
家防衛の要に置かれるようになった、最新鋭の機動兵器である。
「トラブルで来れなくなったリバウの航空隊の代わりと言ってましたが……何かとんでもないものを運んでいるのではないですか?」
「そうだったら、軍の輸送機を使うはずだ。なんでわざわざ民間の、こんなオンボロ旅客機で運ばなければいけないのかね?」
同じように、外を飛ぶ影を見ながら、ウンザリとした様に機長は言った。
「不安になる気持ちもわかるが辛抱したまえ。もうすぐカールスラントとの国境だ。国境を過ぎてしまえば、ネウロイも手を出したりは出来んよ」
「……そう、ですね」
子供に諭すように言い聞かされて、副機長はようやく顔を上げた、その時である。
金属同士が擦り合う様な、甲高い音が空に響いた。
「な、なんだ!?」
耳を劈く不快音に、思わず二人は眉根を寄せた。と、次の瞬間。
窓の外で爆炎が起こり、機体が大きく揺れた。
『きゃあああっ!』
通信機の向こうから、少女の悲鳴が上がった。
二人が窓の外を見ると、旅客機の横を飛んでいたISが爆炎に包まれていた。
「ISO1、いったい何が起きた!」
掴みかからんばかりの勢いで、IS01を問い詰める機長。しかし、その答えは大きな爆発音とノイズ、機体を揺らす衝撃に阻まれて、聞くことは出来なかった。
◇ ◇
白く細長い円筒上の物体が、旅客機に向かって真っ直ぐ飛行している。
それがミサイルだと気付いた時、IS01――山田真耶山田真耶は、一直線にミサイルに向かって飛び込んでいた。
ミサイルと旅客機の間に無理やり体を割り込ませて、側面についているシールドを前方に展開。その瞬間、真耶の体を激しい衝撃が襲った。
「くっ!」
シールドから伝わる衝撃に、真耶の顔がゆがむ。意識が飛びそうになるのをこらえながら
、飛行機に突っ込みそうになる機体を制御し、衝突を防ぐ。
体勢を立て直すと、空中に投影されたウィンドウに目を向けて機体の状態をチェック。機体、システム共に損傷は見当たらない。機体全体を覆うエネルギーフィールドの消耗だけで済んだ。
『IS01、大丈夫か!』
「は、はい。何とか」
機長からの通信に答えながら、真耶はウィンドウに目を走らせる。
「センサーに反応が無い……索敵モードB、二時方向を索敵」
全周囲索敵から切り替えてミサイルが飛来した方向を集中的に索敵を開始する。
反応は一秒とかからずに返ってきた。
「二時方向、距離……15000!? そんな、近すぎる!」
センサーがとらえた反応は、鳥と見紛うほど小さい反応だったが、そのシルエットは鳥とは大きくかけ離れた形をしていた。
ズングリとした胴体に、小さな翼を生やした奇怪な身体。ラロスと呼ばれる小型のネウロイは編隊を維持しつつ、こちらに向かってきている。その数、およそ三十機。
「――IS01から各機へ、これより迎撃に当たります! 02から06は私と共に迎撃。07と、08は引き続きVV214の護衛に就いてください!」
真耶は真っ直ぐネウロイを睨み付けて、全機に命じる。
すぐさま、火器管制装置を機動、兵装一覧から兵装を選択し、展開する。高周波音があたりに響くと、真耶の左手から光の粒子が放出され、形を成していく。
現われたのは一丁のアサルトライフル。真耶は火器管制を操作してセイフティを解除。初弾を薬室に装填して構える。
「行きます!」
真耶は気合の声を上げ、スラスターを全開。真正面からネウロイの大群に向かって突撃する。
突撃してくる真耶たちに気が付いたのか、ラロスから再びミサイルが放たれる。だが、真耶は恐れることなく、ラロスの群れへ向かって飛翔。迫るミサイルに向けてライフルのトリガーを引いた。
連続で発射されたライフル弾は超音速で飛来するミサイルを次々と打ち抜き、爆散させる
。
真耶はさらに加速し、爆煙を切り抜ける。
距離にしておよそ五百メートル。真耶は素早く先頭のラロスを照準に捉えると、ライフルを放つ。
すれ違いざまの一撃が、ラロスの胴体を真っ二つにたたき折った。
撃ち落とされたラロスの体が、白い破片となって空に消えていく。それを合図に後続のISが、一斉にラロスの群れへと襲い掛かった。
真耶は、そのまま敵の群れの中を突き抜けて、左へ旋回。背後からラロスの群れへ再度、攻撃を仕掛ける。
目の前に現れた敵にライフルを放ち、薙ぎ倒す。地表へと落ちていく敵に目もくれず、次の敵へ向かう。
味方の背後に張り付いていた敵に、狙いをつけて一連射。
機首部分に命中し、ラロスは成す術なく爆散した。
見敵必殺、目に映った敵に向けて機銃弾を撃ち込む。
敵も反撃も試みて、必死に背後を取ろうとするが、機動性は圧倒的にISの方が上だ。
仲間達は我先にとラロスに襲い掛かり、銃弾を浴びせていく。
もはや奇襲が成功したときの勢いは消え去り、哀れにもラロス達はなぶり殺されていく。
真耶たちは決して手を抜かず、次々と敵を片付けていく。
『全機撃墜確認、周囲に敵影ありません』
仲間のISから、報告が入る。
戦闘開始から僅か二分。襲い掛かってきたラロスの編隊はすべて撃墜されていた。
「了解。全機、そのまま気を抜かず警戒を続けてください。レーダーよりも目視での索敵を重視してお願いします」
真耶は命じて、自身も周囲を観察し警戒を続ける。
ハイパーセンサーにより強化された視界で全方位をくまなく精査するが、クリアーな視界に映るのは、流れていく雲と、遠くに連なるウラルの山だけだ。
静けさを取り戻してはいたが、またいつ敵が現われるか解らない。先ほどと同じ轍を踏むわけにはいかなかい、気を抜くことなく周囲に目を配る。
再び敵が襲撃してくる。漠然ではあるが、そんな予感がしていた。
そして、その予感は的中する。
突然、耳元でアラームが鳴り響く。センサーが敵機を捉えたのだ。
真耶は、表示されたウィンドウに素早く目を走らせる。
「敵襲! 二時方向、距離30000!」
先ほどのラロスよりも反応が大きい。反応のあった方へ目を向ける。
大きな主翼に、一対の垂直尾翼。大きさはラロスよりもふたまわりも大きいが、シャープな身体は、ハエの様にずんぐりとしたラロスとは違い、鋭角的で近代のジェット戦闘機を思わせる。
新たに表れた敵の数は八機。扇状に広がり、ラロスを上回る速度で迫ってきている。
「全機、散開!」
命じると同時に、真耶は新手に向かって飛んだ。
狙うのは先ほどと同じく先頭を飛ぶ一機。その出鼻をくじく。
機首を狙い、ライフルを一連射。
まずは一機、真耶がそう確信した、その時だった。
必中の距離で放たれた五十一口径弾は、敵の機首へ吸い込まれていく。だが、そのまま装甲を貫くかに思われた機銃弾は、敵の表面を浅く傷つけるだけに終わった。
「そんな!?」
驚きの声を上げる真耶。
すれ違いざまに敵が放った機銃弾が真耶のシールドを削る。
衝撃に顔を歪めながらも、真耶は敵の一団から抜けて旋回、背後に回り込む。
最後列の一機に照準をあわせて発砲。だが当たる寸前で、敵は左へロールして回避した。
「くっ!」
敵は左右にロールし、複雑な機動で真耶を引き離そうとする。
真耶は決して逃すまいと、必死に食らいつき、その距離を縮めていく。
背後に手が届きそうな距離まで近づき、引き金を引く。
五十一口径の一斉射が敵の装甲を抉り、胴体に無数の銃創を作った。
思わず、喜びの声を上げそうになる真耶。
だが喜んだのもつかの間、抉られた銃創はみるみる塞がっていった。
「く、再生が早い!」
真耶は果敢に機銃弾を叩き込む。けれど、敵の装甲は攻撃を加えた傍から再生していき、効果的なダメージは与えられない。
「核さえ破壊できれば――」
ライフルを収納し、兵装一覧を開く。グレネードランチャーを呼び出して展開。敵の尾翼のつけ根に狙いを定める。
発砲。
爆炎がネウロイを包み込む。
煙が晴れると、そこには尾翼を破壊されたネウロイが、錐もみしながら墜ちていく。
真耶はグレネードを一斉射。弾倉が空になるまで、ネウロイに焼夷弾を叩き込む。
次々と上がる火球。ネウロイは成す術なく火球に呑まれて、粉微塵に吹き飛んだ。
(このままじゃ、まずい)
焼夷弾を全て叩き込んでようやく一機。予想以上に、敵の装甲が硬い。
残りの敵は七機。
状況はかなり厳しかった。
真耶は肩で息をしながら、周囲を確認する。
すると、上空で仲間の一人が、ネウロイに必死に攻撃を仕掛けているのが見えた。
「しまった!」
ネウロイの進路上には、旅客機が飛んでいる。
このままでは、旅客機が、襲われてしまう。
真耶はアサルトライフルを再び展開して上昇。ネウロイの進路を妨害するようにライフルを撃つ。
だが、ネウロイは気にも留めず、真っ直ぐに飛行し、旅客機に向かっている。
真耶も追い付こうとスラスターを全開にして加速するが、真耶が追い付くよりも、敵が旅客機を射程に捉えるほうが早い。
牽制に放った機銃弾は空しく空を切る。
護衛についていたISから五十一口径弾が放たれるが、ネウロイは物ともせず、旅客機に迫る。
そしてついに敵はその射程に旅客機を捉えた。
敵の主翼から、ミサイルが発射。
ミサイルは真っ直ぐに旅客機へと向かって行く。
真耶はライフルをミサイルに向けて発砲。だが、撃ち落とせない。
「っ、だめぇぇぇ!」
真耶が叫ぶ。
だが、その叫びも空しく、ミサイルは旅客機に吸い込まれて――
空を包む閃光。
大気を震わせる轟音。
突如、奔った雷が、敵とミサイルを呑み込んだ。
白い破片となって空に溶けるネウロイ。その上空を、四つの影が駆け抜けていった。
影が通り過ぎた後に煌めく蒼。
あれは……
「あれは……ウィッチ」
蒼い光の軌跡。
それはストライカーユニットから洩れる魔法力の光だ。
突如戦場に現れたウィッチ達は、次々にネウロイへと襲いかかっていく。
「先生、これは一体」
直援に当たっていた仲間から戸惑った声が届く。
仲間の質問に答える事も出来ず、真耶は目の前で繰り広げられる猛攻を呆然と見つめる。
その時。
『間一髪って、ところでしたね』
突然、通信に若い男の声が割り込んだ。
驚いて、あたりを見回すと、こちらに近づいてくる二つの影を見つける。
「お久しぶりです、真耶さん」
「え?」
現われたのは一人の少年。
ざんばらな黒髪に、青い瞳。扶桑皇国空軍大尉緋村優刀がウィッチを引き連れて近づいてきた。
「緋村くん!? どうしてこんなところに」
「後はこちらで引き受けます。真耶さんたちは、旅客機の直援に回ってください」
戸惑う真耶をよそに、優刀は指示を出す。
「わ、解りました。敵は再生速度が速いので気をつけてください」
「了解」
優刀はウィッチを引き連れて、戦闘が繰り広げられている空域に飛んで行く。
真耶は思わず安堵のため息を漏らした。
何とも心強い味方が来たものだ。
ウィッチの持つ魔法力はネウロイにとっては脅威であり、魔法力を付加した攻撃なら、ネウロイの再生能力を大きく減ずることが出来る。
さながら猛禽の様に、ネウロイを狩っていくウィッチ達。
その様子を観察しながら、真耶は心中で自嘲した。
最新鋭のISを八機でかかりながら、満足に旅客機を護る事すら出来ない、自分たちのなんと不甲斐ない事か。
内心忸怩たる思いで、真耶は戦場に目を向けた。
◇ ◇
真耶の元から離れた優刀は、一気に乱戦となった戦場の只中へ突撃する。
前方からネウロイの巨体が突っ込んでくる。
放たれる火線。恐れず、冷静に、優刀は降りかかる火線を、左にロールして回避。ネウロイの背後へと抜ける。
左に旋回。敵の背後へと回り込むと、機関銃の引き金を引いた。
敵は放たれた機銃弾を右に回避。だが、上空からロケット弾が襲い掛かり、右主翼のつけ根に直撃。根元から吹き飛ばした。
ロケット弾を撃ち込んだのは二番機の位置についていたバルクホルン。
優刀と交差するように降下。急上昇して、再びネウロイにロケット弾、パンツァーファウ
スト3を発射する。
ロケット弾はネウロイの左主翼に命中。爆炎が翼をもぎ取っていった。
その瞬間、優刀は加速。敵が再生し終える前にトドメをそうと、距離を一気に詰める。
照準、そして引き金を引く。
だが、
「優刀、後ろだ!」
バルクホルンからの通信に、振り向く。
別のネウロイが後方から迫っていた。
敵の翼下からミサイルが発射される。
優刀は左右へロールして、回避機動をとるが、ミサイルは食らいついてきて離れない。
機首を下げて急降下。その背中をミサイルが追う。
だが、次の瞬間。
優刀はエンジンのスロットルを引き絞り減速。両足を前に突き出し、エンジンに魔法力を叩き込み加速。撥ねる様に急旋回した。
ほぼ鋭角に近い急旋回に、目標を見失ったミサイルはそのまま地表に落ちていく。
そして上昇。
先ほどミサイルを撃ってきたネウロイが再びミサイルを放ちながら突っ込んできた。
臆せず真っ直ぐに突っ込む優刀。
迫るミサイルを、バレルロールで躱す。
すれ違い様に、その胴体を機関銃で縦一閃に斬り裂いた。
「もらった!」
上空から急降下してきたバルクホルンが、旋回しているネウロイの胴体に機銃弾を叩き込む。ネウロイの体に次々と穴が穿たれていく。
そして、駄目押しとばかりに放たれた一撃が、ネウロイの中心部を破壊し、赤く光る物体を露出させた。
ネウロイのコアだ。
急降下の中、バルクホルンは狙いをつけてさらに引き金を引く。
放たれた銃弾は、迷うことなくコアを貫く。
コアが貫かれた瞬間、ネウロイは白い破片となって砕け散った。
「一機撃墜確認。バルクホルン、次に行くぞ」
「ああ」
撃墜するところを確認した優刀は次の敵に向かう。
旅客機に向かおうとしていた敵に、下から突き上げる様にして襲いかかった。
放たれた火球が、ネウロイの装甲を引きはがしていく。
すると突然、機銃弾の豪雨の勢いが弱まった。
「ちい、詰まった!」
連射の無理がたたったのか、見ると銃身が赤熱化していた。
敵はその隙を逃さず、加速し弾雨を抜け出すと反転。真正面から突っ込んでくる。
敵との距離は僅か3000メートル。予備銃身と交換している暇はない。
優刀は機関銃を投げ捨てると、腰に差した扶桑刀に手をかける。
ユニットに魔法力を注ぎ込み、加速。ネウロイに突撃。
抜刀。
すれ違い様に放たれた斬撃が、ネウロイの半身を斬り裂いた。
砕け散る白い欠片を置き去りにして、優刀は上昇。上空からネウロイに襲い掛かる。
再生を始めたネウロイは迫る優刀から逃れようするが、バルクホルンから機関銃の掃射をあびて、動きを封じられる。
心強い援護を受けて、優刀はネウロイに突っ込む。
「これで、終わりだ!」
蒼穹に瞬く白刃。
唐竹に振り下ろされた一撃は、コアごとネウロイを一刀両断した。
切り捨てたネウロイを背後に残して残心。刀を血振りするように振り下ろし、鞘に収める。
鍔なりの音共に、背後のネウロイが白い破片となって粉微塵に吹き飛んだ。
◇ ◇
「敵全滅を確認、周囲に新たな敵影は確認できず」
武子からの報告に、優刀はようやく緊張の糸を解くと、一機のISが近づいてきて声をかけた。
「お久しぶりですね、緋村くん」
「……真耶さん」
「欧州にいるって聞いてましたけど、まさか、こんなところで会えるとは思っていませんでした」
真耶は優刀を見て、微笑した。
嬉しそうで、それでいて悲しそうな笑みだ。
哀切な表情の真耶に、優刀は気まずそうに笑みを浮かべて返した。
「真耶さんは、どうして欧州に?」
「政府からの要請で、ISの対ネウロイ戦のデータ収集に」
「そう、ですか」
それきり、二人は一言も発しず相手を眺める。
互いに何か言いたげではあったものの、言葉が見つからない。
「……では、後は我々が引き継ぎます」
結局、かける言葉が見つからず、優刀は任務の引き継ぎに移った。
「後はよろしくお願いします」
「……失礼します」
僅かな躊躇の後、優刀は真耶に背を向ける。
真耶の何か言いたげな様子が背後から伝わったが、優刀は構わず武子たちの元へ向かった。
◇ ◇
「部隊長、彼は一体」
去っていく優刀の背中を見て、部下の少女が真耶に尋ねた。
「……彼は緋村優刀君。扶桑皇国空軍に所属する数少ない魔法力が使える男の子です」
「へえ、都市伝説か何かだと思ってましたけど、本当にいたんですね」
少女は物珍しげに去って行った方へ再び目を向ける。
まるで、魔法力が発現するのは圧倒的に女子が多いのだが、何事にも例外と言うものがあり、極稀に男子が発現する事もあった。
彼も、その数少ない例外の一人であるが、部下の珍獣を見るかのような眼差しに、真耶は苦笑を浮かべるしかなかった。
「お知り合いだったんですか?」
「え、ええ……以前、任務で一緒になったことがありまして」
部下の質問に、真耶はあいまいに頷いて答える。
彼との関係を答えるのは、筆舌にしがたい。
再会できたことは素直にうれしいと思う。けれど、彼の顔を見て結局何もいえなかった。
――雨空に煌めく蒼。
――舞い上がる血の飛沫。
――血肉に溢れた大地に、墜ちていく黒い人影。
――木霊する悲痛な叫び。
過去の記憶が胸を突く。
「任務完了、これより帰投します」
真耶は湧き上がる感情を押し殺し、基地への帰路へ就いた。
後書き
ご意見、ご感想、お待ちしてます。
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