イベリス
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第七十二話 満ち足りた夏休みその十二
「自分はいいもの食べて」
「メロンとかね」
「それで愛人さん一杯いて」
「お金にも汚くてね」
「そんな人ですよね」
「そんなのをそう言ったのよ」
「最も浄土に近いって」
咲は呆れた口調で言った。
「そんなの子供でもわかりますよ」
「その子供でもわかることがわかってないからよ」
「読んだら駄目ですか」
「読む価値ないわよ」
こうまでだ、先輩は言い切った。
「本当にそんなば馬鹿の本読むならね」
「漫画や小説の方がいいですか」
「ライトノベルとかね」
「ずっといいですか」
「さっきお話した奇妙な冒険のシリーズなんか」
それこそというのだ。
「吉本隆明の本なんぞよりね」
「なんぞですか」
「本当になんぞだから」
その程度だというのだ。
「そんなの本読むことこそ時間の無駄よ」
「何も得られないですか」
「全くね」
「そんな程度ですか」
「程度どころか無価値よ」
「そんなものなんですね」
「本当にあんな馬鹿の本読むなら」
全く無駄、価値のないそうしたものをというのだ。
「まともな本をね」
「読むべきですね」
「そうよ」
まさにというのだ。
「奇妙な冒険シリーズとかね」
「漫画と思想書じゃ思想書の方が格上って」
「それ違うから」
先輩はきっぱりと否定した。
「価値あるものは何でもよ」
「漫画でも何でもですね」
「価値があってね」
「思想書でもですね」
「価値ないものがあるのよ、吉本隆明の本を読んであいつのことを語ることはね」
そうした行為はというと。
「完全に無駄で無価値だから」
「最初から読まないことですね」
「そうよ、馬鹿な思想家もいるのよ」
「思想家だから頭がいいんじゃないですね」
「そういうことよ」
まさにという返事だった。
「要するにね」
「どんな職業でも頭がいい人がいて」
「頭が悪い人がいるのよ」
「それで吉本隆明はそっちなんですね」
「それでそんな馬鹿がね」
先輩は忌々し気に言った。
「戦後最大の思想家って言われてるの」
「子供以下でもですか」
子供でもわかる様なことがわからない、それが子供以下と言わずして何と言うか。咲はこう考えて言った。
「そう言われるんですね」
「それだけ戦後の日本がおかしいのかもね」
「思想とかが」
「テレビつけたら変なコメンテーター一杯いるでしょ」
「そうですね、タレントでも大学教授でもジャーナリストでも」
「そうでしょ、そんな中ならよ」
碌な人間がいないならというのだ。
「その中でね」
「馬鹿でもですね」
「戦後最大の思想家になれるのよ」
「周りが酷いから」
「〇点の人間の中に〇点の人間が目立ったら」
吉本が優れているとは決して言わない。
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