綾小路くんがハーレムを構築する話
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清隆くんのお宅訪問 神室編
3月初旬の朝。
AM7:00
ピピッピ♪ピピッピ♪ピピッピ♪ヒピッピ♪ヒピッピ♪ヒピッピ♪ヒピッピ♪ヒピッピ♪
カチっ………
神室「あーうるっさい……もう朝?はぁー眠っ……寒っ。」
私はうるさい目覚ましのせいで最悪の朝だった。
まぁ、いつも自分の力で起きれないから目覚ましや携帯のアラームが鳴って起きるから……まぁ、いつも通りか。
私は昔から朝が苦手だ。
せっかく学校の近くに寮があるって言うのに……何でこんなに朝早くに起きて学校に行く準備しなきゃなんないのよ……
それもこれも全部アイツのせいだ。
神室「何で最近早めに学校に行くのよ……坂柳のやつ。……ほんっといい迷惑。」
アイツというのは私のクラスの絶対的リーダーの坂柳有栖。
足の不自由な坂柳はカバンを持って学校に登校するのも大変なため、私がアイツのカバンを持ってあげている。
……だからしょうがなく坂柳に時間を合わせて登校するようにしている。
なぜ、この私が坂柳のためにここまでしているかというと……私は坂柳に『脅迫』されているせいだ。
坂柳には私が入学して間もない時に万引きした時の証拠を握られてしまったから。
その後、坂柳は万引きを黙認する代わりに『お友達』になれと言って、力を貸すように話しを付けてきた。
私にはその時点で拒否することは出来なかった。私は二つ返事で了承してしまった。
それがきっかけでこの悪魔に命令されたり、色んな意味でいいようにコキ使われている。
これが今の私の状況。
ほんっと最悪……。
まぁ、元はと言えば万引きした私が悪いんだけど……
それでもあの悪魔に命令されるくらいならさっさと自分で自供して停学でも何でも受け入れる方が楽だったかも……って最近思う。
今となってはそれも遅いんだけど……
あぁ、もう!やめやめこんな事うだうだ考えるのは性に合わないし!
もう終わり終わり!!!
でも………
今日の私はまた違う事を考えてしまう……頭によぎるのは坂柳の事じゃない。
神室「……そういえば、今日だったわね。綾小路と過ごすとかどうとかってやつ……まぁ、どうでもいいけど……」
クラスの違う一人の男……綾小路清隆。
あの他人を道具のように扱う冷徹な悪魔の坂柳がやけにご執心になっている男。
そのせいで、私は坂柳の命令で綾小路を放課後に尾行するように今まで散々頼まれてきた。
最初に尾行していて思ったことは良くも悪くも目立たない影の薄そうな男だなって思ったのは覚えてる。
綾小路は私の尾行に気付いていて、日付や場所まで覚えていて、勘の鋭い注意深いやつだなって思ったけど……
私にはどうしても、坂柳が気にするほどのそんな凄いやつにはみえないけどね……
何であの男の事を思い浮かべるのかというと……
今日が私の番だからだろう。
神室「まぁ、そんなに悪い奴では無いと思うけどね……それに容姿もそんな悪くないし歌も上手いし……って何で私は綾小路の事褒めてんのよ//////!!!」
私は寝癖の付いた髪を整えながら叫んでしまった……
はぁー……朝から何でこんな事考えるんだろ?
いつもこんな余計な事考えないのに……
まぁ、仮に……今日綾小路と過ごせたとしても……いや、別にそんな気はさらさら無いけど//////!!!本当だから!!!
元より私はあんな奴と、どうにかなる気はこれっぽっちもないんだし!!!
どのみち、私には関係ない話しだ。
私は無駄な事を考えるのを止めて、さっさと制服に着替えて部屋を出た。
AM7:35
私はエレベーターを降りて一階のロビーに着いた。そこにはもう坂柳がいた。
早すぎでしょ……ったく。
坂柳「ごきげんよう真澄さん♪待ってましたよ。」
神室「はいはい……悪かったわね。朝は苦手何だから仕方ないでしょ。」
坂柳「ふふ♪そうでしたね。忘れていました♪」
忘れてた……なんてよく言うわよ。
これも一種の嫌がらせ?
はぁ……めんどくさい。
神室「あっそ……さっさとカバン渡して。」
坂柳「いつもすみませんね♪」
そんなこと微塵も思ってないくせに…と思いながら坂柳のカバンを持った。
神室「…それじゃ、私は先に行ってるから。」
一々あんたのスピードに合わせて歩くのも疲れるし……
私はそう伝えて坂柳に背を向けて歩こうとしたら……
坂柳「ちょっと待って下さい、真澄さん。」
急に坂柳が腕を引っ張って止めてきたから危なくこけそうになった……
神室「ちょっ……危ないでしょ!急に引っ張って来たら!こけたらどうするつもり?」
坂柳「ふふ♪すみません……ですが、真澄さんの身体能力なら心配ないかと。」
神室「………」
坂柳「そんなに怒らないで下さい、真澄さん。今日は少し貴女にお話しがあるので、一緒に登校しませんか?」
いつもと同じように微笑みながら、こちらに言ってきた。
こういう笑顔を向けるとき、大体こいつは何か裏がある……
でも仮に裏が有ろうが無かろうが私には拒否権は無い。
それを分かった上でこいつは笑顔を向けながら、私の答えを待っている。
無論、私の答えは1つ……
神室「……分かったわよ。」
反論できるわけでもないし、大人しくコイツの言うことに従うしかなかった。
坂柳「ふふ♪では、ゆっくり学校に参りましょう♪」
私が拒否しない事を最初から分かっていたように微笑みながら、坂柳は愛用の杖をついて私の前を歩き始めた。
そして、私も二人分くらいの距離を置いて坂柳の隣を歩く。
急に話しって何なのよ……ほんっと分からない。
一体何のつもりよ……。
はぁーめんどく……
坂柳「今、真澄さんはこの状況を面倒くさい……って思ってますよね?」
神室「………」
坂柳「ふふ♪顔に出てますよ?貴女はいつも口数が少ない分、表情に出やすいですから。」
あんたには何でもお見通しって訳ね……分かっていたけど。
だったら……
神室「私の事分かっているなら……どうして引き止めたわけ?」
坂柳「あら?先ほど言ったじゃないですか。貴女とお話しがあるって♪」
神室「……それなら別に後でもいいでしょ?今じゃなきゃいけないこと?」
坂柳「ふふ♪今、周りに誰もいないこの状況だからこそ話せる事もあるんですよ?それに…そんなに急かさないで下さい♪」
私に話したい事があるなら、さっさと言えばいいじゃない?
こっちの様子を伺いながら、コイツはただただ微笑みながら杖をついて歩く……
あーもう何なのよ……ムカつく。
神室「あっそ……」
坂柳「あらあら?……ふふ♪これ以上からかうと真澄さんが怒ってしまいそうですし……お遊びはここまでにして話しますね。」
こっちの表情を察してか坂柳は話す気になったらしい。
まぁ、もう色々限界だったし実際イラついてるのは事実だから、話してくれる気になったのなら楽だからいいけど……
神室「……あんたから折れるなんて珍しいわね?」
坂柳「ふふ♪そうですか?」
神室「まぁ、何でもいいけど……話しってなに?」
坂柳「ふふ♪話しというのは他でもありません……清隆くんの事です♪」
ピタッ……っと私はつい足を止めてしまった。
もしかして……坂柳がしたい話しって…
神室「……は、はぁっ//////?な、なんで急にアイツが出てくんのよ!」
坂柳「あらあら?思った通りの反応ですね♪真澄さん?」
神室「……どういう意味?」
坂柳「ふふ♪まぁ、貴女の反応もそれはそれで面白いからいいですけど♪……確か今日でしたよね?」
神室「……なにが?」
坂柳「ふふ♪真澄さんとぼけるのも大概にした方がいいですよ?貴女はクジでは6番目……と言うことは順番的に清隆くんと過ごせる日が今日という事です♪」
神室「まぁ、確かに今日だけどさ…//////」
坂柳「あら?随分と顔が赤いですね?」
神室「……気のせいよ//////!大体それはあんたに関係ないでしょ!!!」
坂柳「ふふ♪確かに関係はありませんね。……ですが、せっかくですから真澄さんにも清隆くんを知って頂く良い機会にしてほしいと思いまして♪」
坂柳は私の反応が面白いのか……微笑みながら、からかうように言ってきた。
落ち着ついて冷静に処理しないとダメだ。
そうじゃないとこいつは調子に乗る……
神室「……別に私は綾小路の事なんて知りたいなんて思ってないし…勝手な事言わないでくれる?」
坂柳「あら♪そうですか?……それは残念ですね♪」
坂柳はこっちを見ながらまだニヤニヤしてるのが腹立つけど……
とにかく今はこの場を離れよう。
私が何を言っても……今の状況はコイツにとって格好の餌食になるだけ。
神室「……話しは終わり?なら、私は先に学校に行くから。」
私は坂柳を無視して学校に向かおうとしたら……
坂柳「真澄さん。待って下さい♪」
また腕を急に引っ張って止めて来た……
あんたはさっきから何なのよ!?子供なの?
神室「だから……急に腕を引っ張って来ないでよ!危ないじゃない!」
坂柳「ふふ♪まだ話しは終わってないですわ♪」
神室「………これ以上話す事ないんだけど。」
坂柳「ご心配なく、言うことは1つだけですので、すぐ済みます♪」
神室「……なによ?」
坂柳「今日1日真澄さんにお暇をあげます。それだけです。」
は……?
聞き間違い……じゃないわよね?
今までそんな事一度も言わなかったくせに……
神室「……どういうつもり?」
坂柳「ふふ♪そんなに警戒なさらずとも裏なんてありませんよ?あの時クジを引いた時から真澄さんの番になったら1日自由にするつもりだっただけです♪」
坂柳の口調から察するに嘘はついてなさそうね……。
神室「ふーん……。まぁ、それなら今日1日好きにさせて貰うから。」
坂柳「ふふ♪勿論ですわ♪真澄さんが今日1日どう遣おうとわたくしは何も詮索するつもりはありませんので、ご安心下さい♪」
神室「………あっそ。私は今度こそ先に学校行ってるから。」
私は坂柳にまた腕を掴まれないように早歩きで前に出た。
坂柳「ふふ♪分かりました。……そういえば、清隆くんはお昼休みは屋上に居るみたいですよ?」
神室「………だから?」
坂柳「それから、放課後は長谷部さん達のグループと一緒に過ごしていないそうです。清隆くんはケヤキモールのカフェでコーヒーを飲んでから帰ってるみたいですよ?きっと……長谷部さんと佐倉さんはわたくし達のために気を遣っているのでしょうね♪」
坂柳は私に聞こえるように微笑みながら、話してきた。
神室「……それを私に話してどうする気?」
坂柳「ただの雑談ですわ♪……ふふ♪」
神室「………」
私はそれから坂柳の方を振り返らずに学校に向かった。
学校に着いてAクラスの教室に入るとまだ誰も居なかった。自分の席に座ってようやく落ち着けた……。
はぁー……朝から疲れた…。
坂柳の奴……ほんっと何なのよ!!!
クジの番だろうがなんだろうが私がどうしようと勝手でしょ?私が聞いてもいない綾小路の情報もペラペラ勝手に喋りだして…
ほんっと……ムカつく!!!
まぁ、でも……今日1日自由に過ごせるんなら悪い話しでもないけど……
それを思うとあのクジを引いたおかげかもね……そこには少し感謝しておこう。
とにかく、1つだけ言えることは……
私は綾小路と干渉する気はさらさら無いってこと。
私は自由な時間をどう過ごすかだけを考えることにした。
放課後。
私は一人でケヤキモールにあるブティックで服を見ていた。
神室「……なんか久しぶりな気がする。何も考えず放課後に一人でブラつくこの感じ。」
まぁ、それもそうよね。ケヤキモールに来たときは大体アイツの荷物係だし……
それにしても……今日は本当に坂柳に何も命令されなかった。
実際は今の状況になってみるまで半信半疑だったけどさ……まぁ、息抜きも大事だしね。
今はこうして誰にも縛られずに過ごせるのが心地良かった。
私は余計な事考えるのを止めて、服を見るのに集中した。
店内をざっと見て廻ったけど、特に欲しい物が見付からなかったため、何も買わずに店を出た。
神室「このあと……どうしようっかな。特に行きたい場所も無いんだけど……」
せっかく1日自由なのに行きたい場所とか無いっていう事実……
それに確か今日の天気予報で夕方雨が降るとか何とか言ってたし……
私は面倒な性分だから傘なんて持ってきてないし……やっぱ帰ろうかな……
『清隆くんは放課後カフェでコーヒーを飲んでから帰るそうですよ?』
神室「………」
何で今頃……坂柳の言ってた事を思い出してんだろ?
私は別に綾小路とどうにかなりたいわけじゃないのに。
……っていうか私は一人で気兼ねなくブラブラする方が私好きだし//////!!!
『真澄さんに清隆くんの事知って頂く良い機会にしてもらおうと思いまして♪』
別に綾小路の事なんて知ろうとも思わないし……ってかどうでもいいし//////!!!
……何で、いまこんな事思い出すのよ//////!!!
あーーー……もう!とにかく雨が降る前に帰ろ。
私はくるっとUターンして帰ろうとしたら……
ドンッ……!
私は誰かにぶつかったらしい。
ぶつかった衝撃で尻餅をついてしまった。
神室「……いったぁ。」
???『悪い、大丈夫か……って真澄?』
ビクッ……
聞き覚えのある声がした……
私の事を名前で呼ぶ男はアイツしかいない……
おそるおそる見上げたら……
神室「綾小路……!!!。な、なんでこんなところにいるのよ?」
綾小路「カフェに寄った帰りだ。お前こそどうしてここに?」
本当に一人でコーヒーを飲んでたのね……坂柳の情報源は正しかったんだ……。
まぁ、疑ったことはあまり無いけど。
神室「……あんたには関係ないでしょ。」
綾小路「それもそうだな。……ほら。」
綾小路は私が座っている状態を見兼ねて手を差し伸べてきた。
神室「……。」
私は迷ったけど、綾小路の手を取って立ち上がった。
綾小路「怪我は無いか?」
神室「別に平気……だけど」
綾小路「何だ?」
神室「……あんたいったいどんな身体してんのよ?」
綾小路「……は?」
神室「は?……じゃないわよ!ぶつかった瞬間、電柱にでもぶつかったと思ったじゃない!」
綾小路「そんな事言われてもな……ん?」
神室「……あ。」
ポツ…ポツ…ポツ。
口論している内に雨が降ってきた……。
綾小路「……降ってきたか」
神室「はぁー……最悪。私、傘持ってきてないのに……」
綾小路「天気予報で言っていただろう?見てないのか?」
神室「……ほっといて」
はぁー……せっかく自由な1日だったのに雨降るなんて……最悪ね。
幸いまだ、雨脚は強くなさそうだから走って帰ればそんなに濡れないで帰れるかな……。
私がそう思っていたら、綾小路がカバンから何かを取り出して……
綾小路「これ……良かったら。」
折り畳み傘を渡してきた……
神室「……どういうつもり?」
綾小路「傘持ってないんだろ?」
神室「持ってないけど……雨が弱まるまで、どっか寄ってから帰るから。無理に私に貸さなくても……」
綾小路「残念だが、予報だと雨は強くなる一方だぞ?」
神室「……だったら、尚更あんたが使いなさいよ!」
綾小路「それなら大丈夫だ……雨が弱い今のうちに俺は走って帰る。脚には少し自信があるしな……じゃあな。」
綾小路は体育祭で魅せたスピード並みの速さで走っていった……
折り畳み傘は地面に置いて。
神室「……はぁ?ちょっ……待ちなさいよ!」
アイツ、一体何なのよ……//////
私なんかに気を遣わないでさっさと一人で帰ればいいのに……わざわざ私に傘なんか渡して……何が大丈夫よ……馬鹿じゃないの?
あーーーもう!面倒くさいわね//////!
私はしょうがなく、アイツの置いていった折り畳み傘を持って後を追った。
寮のロビー。
神室「はぁはぁ……あんた足速すぎ。」
私は綾小路の後を追って、先程ようやく綾小路に追いついた。私たちが寮に着いた後、雨が本降りになって来た。
助かった……雨が弱い内に帰って来れて。
それにしても疲れた……。こんなに長距離走ったの久しぶり……。
綾小路「……よく追いついたな?結構スピード出して走ったんだがな。」
こいつは……何でそんなに平気そうなのよ!
ここまで、結構距離あるってのに……ていうか……
神室「……嘘ばっかり。あんた途中から私が追いつける速さで走っていたでしょ?」
綾小路「……さぁな。お前の身体能力が凄いだけじゃないか?」
綾小路は適当な返事で答えた。
色々言ってやろうと思ったけど、それよりまずは……傘を返すのが先ね。
神室「はぁ……これ返す。」
綾小路「あぁ。」
私が余り濡れてない様子を確認してから、傘を受け取った。
神室「その……一応礼を言うわ。ありがと//////」
綾小路「……お役に立てたようで何よりだ。」
綾小路はそれだけ言って、エレベーターに乗った。
それに続いてエレベーターに乗る。そして、私は自分の部屋の階を押した。
神室「……。」
綾小路「……。」
エレベーター内に流れる沈黙。
別に気まずい空気じゃないのが不思議だと思った。
まぁ、私たちはそんなに話す方じゃないけどさ……。
ふと、綾小路の方を見た。私たちが帰る時はそんなに雨は強くなかったけど……綾小路は私に傘を貸して寮まで走っていたから……傍目からでも結構濡れているのが分かった。
チン………。
綾小路の部屋の階に着いた。
綾小路は当然だが、エレベーターを降りようとした。
そして、私は……自分でも意外な行動を取った。
神室「……待って。」
綾小路「……どうした?」
私は綾小路の袖を掴んで、引き止めていた。
神室「……私の部屋に来て。温かいココア出すから。」
綾小路「……どういうことだ?」
神室「……そのままじゃ風邪引くでしょ?タオルとか貸すから。」
綾小路「……いや、もう部屋が目の前なんだが?」
神室「……分かってるわよ//////!!あんたに借りを作ったままなのが嫌なだけ//////!」
私は半ば逆ギレのようにいい放った……。
何で私はこいつを引き止めてるんだろ……
はぁー……何やってんだろ……私は。
そしたら、驚くことに綾小路は……
綾小路「まぁ……そういう事なら。」
神室「!!!。……じゃあ、早く乗って//////」
私の部屋。
ガチャッ……
綾小路「今更だがいいのか?」
神室「……いいから早く入って。」
綾小路「……お邪魔します。」
神室「……どうぞ」
綾小路は周りを確認してから、部屋に入った。
靴をきちんと揃えるところを見ると几帳面なのが伺える。
綾小路「……意外だな。」
私が部屋のドアを開けると、綾小路の第一声はそれだった……
神室「それ…どういう意味?」
綾小路「勝手なイメージですまんが、真澄の部屋は余り物とか無さそうだなって思っていたからな。」
神室「ふーん……正直にどうも。」
綾小路「気に障ったならすまない。」
神室「私は別に……とにかく適当に座っててくれる?私タオル持ってくるから。」
綾小路「あぁ、分かった。」
私はタオルを持ってくるため洗面所に向かった。鏡に映る自分を見る。
そして、今の状況を頭の中で整理した……
どうしてこうなったんだろ?
……いや、ほんっと私何してるのよ//////!!!
確かにアイツの傘のおかげで私は濡れずに済んだし……綾小路に借りを作ったままなのが嫌なのは本当だけどさ……
だからって何で安易に部屋に連れて来たのよ私は//////!!!
アイツもアイツで何で断らないのよ!いや、引き止めたのは私なんだけどさ……
まさか、こんな事になるなんて……数時間前の私が知ったら驚くわね……。
とりあえず、早く綾小路の元に戻らなきゃ。風邪引かれたら後味悪いし……
私はタオルを持って部屋に戻った。
神室「はい……これ。」
綾小路「あぁ、すまない。ありがとう。」
神室「……別にこれくらい普通でしょ」
私からタオルを受け取った後、綾小路は髪を無造作に拭いていた。
私は綾小路が髪を拭いてる様子を見て思った……
こいつ案外癖っ毛なんだ……って何でこんなこと考えてんのよ//////
綾小路「どうかしたか?」
神室「……別に//////」
私の視線に気づいたのか……綾小路は話しかけてきた。
言っとくけど、そんなに綾小路を見ていたわけじゃないから//////!
神室「今、温かいもの出す。……言っとくけど家にはココアしかないから。」
綾小路「あ、あぁ……分かった。」
私は気を紛らすため、ココアを淹れる準備に取りかかることにした。
……マグカップ余分に買っといて良かった。
まぁ、これは客用とかじゃなくて壊れた時の予備用のだったけど。
綾小路は髪を拭き終わったタオルを畳んでいて、自分のカバンの上に置いていた。
やっぱアイツ几帳面なのね……まぁ、そんな感じはするけど。
適当にそう思いながら、ココアを淹れたマグカップをテーブルの方に持っていった。
神室「……ん。」
綾小路「ありがとう。何から何まですまない……タオルは洗って返す。」
綾小路はマグカップを受け取って、ココアを飲みながらそう言った。
神室「別にタオルくらい洗って返さなくても大丈夫。あんたが濡れたのは私の責任だし……」
綾小路「そうか。」
神室「……聞きたいことあるんだけど、いい?」
綾小路「答えられる事なら。」
神室「何でさ……その…傘貸してきたわけ?」
私はまず、最初に綾小路に聞いた。
本当はもっと早く聞きたかったんだけど……
あんたが急に走り出すからタイミングを逃したからね……
綾小路「……お前が傘持ってなかったから?」
神室「そんなの答えになってない。……あんたが持ってきた傘なんだから、自分で使えば良かったじゃない。」
綾小路「……あの状況で自分だけ傘差して帰るのは気が引けるだろ。」
神室「だから私に傘渡して走って行ったわけ?別に私なんかに構わなくても……」
綾小路「……いくら俺でも傘を持ってない顔見知りの女子を雨の中、一人で放ってはおけないだろ。」
綾小路はココアを飲みながら、あっけらかんと普通に言った。
神室「……は、はぁー//////?」
そして私は思わず、驚いた声を出してしまった……
な、何よ、それ……意味分かんない……//////!!!
放ってはおけないとか……な、なに言ってんの、こいつは//////!
綾小路「……そんなに驚くことか?」
神室「……うっさい//////」
綾小路「いや、うるさいのはどちらかと言うとお前……」
神室「分かってるわよ!うっさいわね//////
」
綾小路「……」
私が大きな声で言ったから綾小路はうんざりしたような呆れたような表情をしている気がした。
いつもと変わらず、この状況でも無表情だけどさ……ったく。
神室「……あんたって何やってたの?」
綾小路「何がだ?」
神室「だから……その脚の事よ。絶対普通じゃない。」
体育祭の時も思ってたけど、こいつの身体能力は尋常じゃない……
別に気になっていたわけじゃないから//////!!!
綾小路「さっきのは濡れたくない一心で走っただけだ。……強いて言えば、ピアノと書道なら習っていたぞ?」
へぇー予想外の習い事……ってそんなわけないじゃない!
ぜっっっったい嘘!!!
そんな習い事で身に付くわけないじゃない!!!
私を馬鹿にしてるの?
神室「…しらばっくれる気?別に言いたくないならそれでいいけど……」
綾小路「本当に習っていたんだが……何でそんなに疑うんだ?」
神室「もし…ピアノと書道が本当だとしても、あんたのその身体は鍛えていなきゃおかしい。そうじゃなきゃこの私が吹き飛ばされるわけない……」
綾小路「あぁ……そういえばさっきは俺のことを電柱呼ばわりしていたな…失礼なやつだ。」
神室「……はぁ?失礼でもなんでもないわよ!ぶつかった瞬間、本当に硬くてゴツゴツしたから電柱に当たったと思っただけ。」
綾小路「……俺はヒトですらないのか?」
神室「……少なくともね。」
綾小路「……酷いな。それにしても……お前って結構喋るんだな?」
急になに言ってんの、こいつ?
神室「はぁ?……私だって人間なんだから話すわよ。」
綾小路「前に俺の部屋に来たとき、『こんなに口動かしたの久しぶり』とか言ってただろ?」
神室「そんなことよく覚えてるわね……」
綾小路「記憶力は良い方だからな。」
神室「ふーん……まぁ、確かに私は自分から率先して話すタイプじゃないけどさ。あんただって似たようなもんじゃない?」
綾小路「ん?」
神室「あんただって自分から率先して話さないでしょ?たまたま今は、私が話を振ってるだけ……違う?」
綾小路「……まぁ、確かにな。」
神室「でしょ?……あっつ!」
私はココアを口に含もうとしたら……
まだ、余り冷めていなかった……もっと口で冷ませばよかった……猫舌なのに。
綾小路「本当に猫舌なんだな?」
神室「……なによ//////!」
綾小路「いや、それも前に言ってたなって思っただけだ。と言うことは……冷え性も本当か?」
神室「!!!。……別にいいでしょ、そんなこと//////」
私は恥ずかしくなったので、こいつから視線を逸らして冷ましながらココアを口に含んだ。
何でこいつはそんなどうでもいいことまで覚えてるのよ……//////
なんか腹立つ……。
でも……なんだろ……この感じ。
こいつといると……遠慮なく言いたいこと言えるっていうか……
一緒に居て不思議と嫌な感じはしないかも……って何で私はこんなこと思ってるのよ//////!!!
綾小路「さてと……あまり長居すると真澄にも迷惑が掛かるかもしれないから、俺はそろそろ帰る。」
別に迷惑とは思ってないけど……むしろ私が迷惑かけたわけだし……
神室「……あっそ。」
綾小路「本当にタオル洗って返さなくてもいいのか?」
神室「別にいいって。タオル返しに来られるの面倒だし」
綾小路「分かった。」
綾小路はそれだけ言って帰り支度をした。
その後、立ち上がって部屋のドアを開けようとしたときに……私は最後に綾小路に聞いてみた。
神室「最後にちょっといい?……どうして私が万引きした事実を学校に言わないの?」
綾小路「……随分と急だな?」
綾小路は少し驚いているようだった。実際、私はずっと聞きたかった……
あの時、坂柳の命令で自分の過去を話すように言われたけど……綾小路は話しを聞いた時点で、学校側に報告するもんだと思ってたから。
でも……こいつは私の万引きの話しを聞いた時、動じていなかった。まぁ、単に興味なかっただけかもしれないけど……
とにかく一度聞いておきたかったことを思い切って今、尋ねてみた。
綾小路「そうだな……はっきり言えば、もう時効だと思ったからだな。」
神室「時効?」
綾小路「あぁ……今更、学校側に報告したとしても意味ないと思った。」
神室「なんでよ?だって肝心の缶ビールは今だって……」
こいつにはその日の内に万引きしてきたと見せつけたし……
防犯カメラの映像だって……やりようはいくらでも……
綾小路「確かにな……今も手元にあるだろうし簡単に学校にバレるかもしれないが」
神室「だったら……」
綾小路「今更、4月の万引きの事実を報告したって意味ないだろ?」
神室「!!!」
こいつ……何で知ってるのよ?
まさか、あんたも近くで見ていたとか?
綾小路は私の反応を尻目に話しを続けた。
綾小路「実を言うと缶ビールを持って見せて貰った時に期限を確認したときに気付いていた。」
あんな一瞬で?それなら尚更……
神室「気付いていたなら……今からでも学校に報告すれば私は停学処分は確実。そしたらAクラスにダメージ与えられるんじゃないの?」
綾小路「確かに万引きした証拠もある……だが、もう万引きした日から一年近く過ぎてる上に防犯カメラの映像も一新されてるかもしれないからな。」
神室「……」
綾小路「その事実をもっと早い段階で知っていたら行動していたかもしれないが……まぁ、全て今更だな。これが俺の見解だ。分かってくれたか?」
神室「ふーん……気に食わないけどね。」
綾小路「そんなに停学になりたかったのか?」
神室「別にそういうわけじゃないけど……答えてくれてスッキリした。」
綾小路「そうか。」
神室「話しは終わり。後、言っとくけどこれで貸し借りは無しだから。」
綾小路「あぁ、分かってる。じゃあな。」
パタン……
神室「はぁ……今日はいつもの倍疲れた。」
私は綾小路が帰った後、すぐにベッドに移動した……。
結局、私は綾小路を自分の部屋に呼んだことになるんだろうか?
いやいやいやいや……そういうんじゃないし//////!!!
まぁ、色々話し聞けて良かった気もしなくもないけど……
『真澄さんに清隆くんを知って頂くいい機会にして貰おうと思いまして♪』
……あんたは出てくんなーーー//////!!!
そういうんじゃないから!これは……えっと……ただの気まぐれ……そう気まぐれだから//////!!!
はぁー……とにかく、坂柳にこの事知られたら……確実にネタにされるわね……気をつけないと。
今日1日大変だったけど……まぁ、悪くない日だと思ったのは誰にも内緒。
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