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ウルトラマンカイナ

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米国編 ウルトラセイバーファイト 後編

 
前書き
 

 
 ――その頃。この世界とは異なる次元の宇宙から、地球に迫る宇宙怪獣の影を観測している者達がいた。

 無機質な機械音と共に開かれた地下シャッターから、続々と飛び出して来る4人の巨人達。小惑星を改造して建設された「基地」に身を置いていた彼らは、草一つない灰色の地表を真っ直ぐに駆け抜けていた。

 先頭を走るウルトラマンシュラ。その後ろに続くウルトラマンリード。さらにその後方のウルトラマンアルミュール。そして、最後尾のウルトラマンブフ。
 いずれもBURK惑星調査隊メンバーのために戦ってくれた、ウルトラの戦士達だ。ホピス星の戦いの後、本来の持ち場を無断で飛び出した責任を問われた彼らは、宇宙警備隊の管轄下であるこの辺境の観測基地に「左遷」されていたのである。

『あの次元の宇宙に侵入者が現れた!』
『なんだ、なんの怪獣だ!?』
『ウルトラマンジャックすらも退けた宇宙大怪獣……!』
『ベムスターが出たのだ……!』

 ウルトラアキレスとBURKに託された地球。そこに迫ろうとしている宇宙怪獣の実態を、彼らはいち早く感知していたのだ。
 「帰ってきたウルトラマン」ことウルトラマンジャックすらも追い詰めたと言われている、「宇宙大怪獣」ベムスター。その生命反応を観測していた4人のウルトラマンは足を止め、互いに顔を見合わせる。

『行こう皆、アキレスを助けに行かねば!』
『いくら何でも、今のアキレスには荷が重過ぎるッ!』
『待つんだアルミュール、ブフ! 私達はすでに厳罰を受けた身だ、これ以上あの次元に干渉し続ければ……今度こそ左遷では済まなくなるぞ!』
『止めるなシュラ! 俺達は、ベムスターを殺すッ!』

 特に若く血気盛んなリードを筆頭に、アルミュールとブフはアキレスを助けに行こうと躍起になっている。そんな3人の前に両手を広げて立ちはだかるシュラは、同胞を思うが故に彼らを制止していた。

『リード、冷静に考えろ! もし私達が再び無断出動で裁かれた時、最も傷付くのは誰だ! 我々がそうなることを、アキレスが望むと思うか!』
『しかしシュラ……!』
『……我々はあの星で見たはずだ。決してウルトラマンに依存することなく、自分達の力で活路を開こうとしていた地球人達の勇姿を。あのBURKという精鋭達を!』

 まだウルトラ戦士としては幼いアキレスを案じる余り、気持ちが逸っている3人を懸命に宥めるシュラ。彼は仲間達を抑えながらも、この観測基地の頭上に広がる無限の星空を仰いでいた。

 遥か先の次元に在る、アキレス達に託された地球。その星に棲まう人々ならば、凶悪な宇宙大怪獣にも決して負けないのだと信じて――。

 ◇

 夜のハドソン川に出現した「宇宙大怪獣」ベムスターには、腹部に存在する五角形状の口腔――「吸引アトラクタースパウト」で、あらゆるエネルギーを吸収する能力がある。
 それはまさに、機首部のレーザー銃を主武装とするBURKセイバーにとっては「天敵」とも言える特性であった。

 戦闘機隊の総攻撃はまるで通用せず、アメリア機とエリー機を除く全てのBURKセイバーは、ベムスターの角から放射される破壊光線によって敢えなく撃墜されてしまったのである。
 それは戦闘機隊がニューヨークに侵入しようとしているベムスターを捕捉してから、僅か数分後のことであった。

『ひ、ひぃいぃいっ! なんで、なんで私達の攻撃が効かないのよぉおおっ! こんな、こんなはずじゃあぁあっ!』
『アメリア隊長、しっかりしてくださいッ! 理想を実現するのでしょう!? 最後まで諦めてはいけませんッ!』

 撃墜されて行く仲間達の悲鳴を幾度となく聞かされ、非常な現実に打ちのめされてしまったアメリアは、恥も外聞もなくコクピット内で泣き叫んでいる。それでも破壊光線の連射をかわし続けているところを見るに、パイロットとしての資質は本物なのだろう。

『ふっ、ぐっ、うぅ……! ちくしょう、ちくしょうっ、こ、この私が、こんなぁあぁあ……!』

 だが、すでに彼女のプライドは耐え難い恐怖によって、ズタズタに痛め付けられていた。
 レーシングバイクのシート状になっている操縦席に肢体を擦り付け、懸命にしがみ付いている彼女は――その下腹部に、女としての尊厳を破壊する湿り気(・・・)温もり(・・・)を残していた。ぷりんっと突き上げられた安産型の桃尻は、その「屈辱」を物語るようにぷるぷると震えている。

(まずい、このままでは……!)

 そんな彼女を懸命に励ましているエリーも、コクピット内で焦燥に駆られていた。BURKセイバーの燃料にも限りがある以上、このままでは自分達も時間の問題だからだ。

『ダァァアーッ!』
『……!?』

 ――その時。遥か遠方から迫り来る真紅の巨人が、ベムスターの顔面に痛烈な飛び蹴りをお見舞いした。

 ハドソン川の水面が天を衝くような水飛沫を上げ、宇宙大怪獣の巨躯が豪快に転倒する。日本からはるばる駆け付けて来たウルトラアキレスが、その大河に降り立ったのはそれから間もなくのことであった。

 神話の英雄を想起させる名を冠した、新時代のウルトラ戦士。そんな彼の勇姿を目撃したニューヨークの市民達は、避難も忘れて大歓声を上げていた。
 闇夜に輝くアキレスの双眸は、実際の姿よりもさらに荘厳な印象を与えている。夜のハドソン側に立つ真紅の巨人は、その煌めく両眼でベムスターを射抜いていた。

『ウルトラ……アキレス!? まさか、ニューヨークにまで来たっていうのっ!?』

 その光景を上空から見下ろしていたアメリアも、目の敵にしていたアキレスの登場には思わず瞠目している。いつか必ず超えてやる、と息巻いていた相手が突如目の前に現れたことで、彼女はごくりと生唾を飲み込んでいた。

 ――だが、日本からここまで急行して来たアキレスこと暁嵐真(あかつきらんま)にとって、ニューヨークへの道のりは決して気楽なものではなかったのだろう。体力の消耗も厭わず全速力で飛んで来たためか、胸のカラータイマーはすでに赤く点滅し始めていた。

(嵐真君っ……!)

 その現象から、嵐真が無理をしてここまで駆け付けているのだと理解したエリーは、唇を噛み締め、操縦桿を握る手を震わせている。彼をこれほど追い詰めてしまった自分の至らなさを、悔いるように。

『デヤァアッ!』

 一方、アキレスは即座に倒れたベムスターに飛び掛かると、マウントポジションからの手刀の連打をお見舞いしていた。両腕をはためかせてその場から脱した大怪獣を追撃するべく、彼は額のビームランプからトロイレーザーを発射する。

 だが、腹部の吸引アトラクタースパウトによって細い光線はあっさりと吸い込まれてしまい、アキレスは疲労のあまり片膝を付いてしまう。

『いけませんアキレス、ベムスターに光線技は通用しないのです! アキレスラッガーを使わなくてはッ!』
『デュッ……!』

 エリー機からの呼びかけに反応したアキレスは、力を振り絞るように立ち上がるとベムスターから距離を取り、頭部のアキレスラッガーを投げようとする。だが、ベムスターの角から放射される破壊光線の嵐が、アキレスの反撃を執拗に阻んでいた。

 回避に徹すれば、その動きの分だけニューヨークの街を巻き込んでしまう。避難が完了していないこの状況では、大勢の市民が犠牲になりかねない。それ故にアキレスは避けることも叶わず、ただ両腕で破壊光線を防御する一方となっていた。
 命を削るような無理を重ねて、ここまで来たというのに。このままでは、アキレスまで負けてしまう。その戦況にますます唇を噛み締めていたエリーは、意を決するようにアメリア機へと声を掛けた。

『くッ……! アメリア隊長、我々も攻撃を仕掛けましょう! アキレスの宇宙ブーメランなら、ベムスターを攻略出来るはず! 私達で、そのチャンスを作るのですッ!』
『む、無理よエリー……! だって、だって私達の攻撃なんて一度も……!』

 だが、ベムスターの圧倒的な力に心を折られてしまっていたアメリアは、攻撃に踏み切れずにいた。
 BURKセイバーによる総攻撃も全く通じなかったのに、今さら自分達に何が出来るというのか。そんな諦観が、弱々しい声色に表れている。

『……いい加減にしなさいッ! その顔はなんですか、その眼はなんですか、その涙はなんですかッ!』
『……!』
『私達がやらずに、誰がアキレスを助けるのですか! 誰がこのニューヨークを守るのですかッ! あなたの涙で、ベムスターを倒せるのですか!? お父様と、あなた自身の理想を実現出来るのですかッ!』

 そんなアメリアに、エリーは眉を吊り上げ怒号を飛ばしていた。常に淑やかで滅多に怒らない彼女らしからぬ叫びに、アメリアは思わずハッと顔を上げる。
 自分が、愛する父が、今日まで全力を尽くして来たのは何のためだ。こんな無様な醜態を晒すための19年だったとでも言うのか。

 そんな自問自答を経て――若き女傑は、失いかけていた誇りを取り戻し、凛々しい笑みを浮かべる。

『……誰に向かって物を言ってるのよ。分かってるわよ、言われなくたって分かってるわよッ! エリー、奴の角に1発ぶちかましてやるわよ! しっかり付いて来なさいッ!』
『……了解ッ!』

 そんな彼女の気勢を耳にしたエリーはふっと笑みを溢し、操縦桿を握り直す。
 彼女達のBURKセイバーは同時に急上昇すると、そこから豪快に宙返りし始めていた。さらに、その体勢から背面飛行での急降下を仕掛けて行く。

 ベムスターの弱点は、吸引アトラクタースパウトによる吸収能力を発揮出来ない、背面にあるのだ。
 これまでは破壊光線の弾幕に阻まれ、背後に向かうことすらままならなかったが。ベムスターがアキレスにのみ気を取られている今なら、死角を突くことが出来る。

 地球人の兵器など取るに足らないと侮り、隙を見せた今が最初にして最後のチャンスなのだ。人類を無礼(なめ)た宇宙大怪獣に目に物を見せるべく、2機のBURKセイバーはベムスターの頭部に照準を合わせて行く。

 2人の美女はその肉感的な肢体を操縦席に擦り付け、むにゅりと乳房を押し潰し、安産型の桃尻をばるんっと後方に突き出していた。身を乗り出すようなその姿勢は、「絶対に仕留める」という女傑達の固い信念を物語っている。

『はぁあぁあぁあーッ!』

 そして、射程圏内に飛び込んだアメリア機とエリー機が、同時に機首部のレーザー銃を撃ち放った瞬間。背後から頭部の角を撃たれ、その発射器官をへし折られてしまったベムスターが、甲高い悲鳴を上げる。

 時間にして、僅か数秒。だが、その数秒の隙が、ベムスターにとっての命取りになったのである。アメリア機とエリー機の攻撃に怯んでいた隙に、アキレスは頭部の宇宙ブーメランに両手を掛けていたのだ。

『……ダァァアーッ!』

 次の瞬間、念力によって舞い飛ぶアキレスラッガーの刃が、ベムスターの首を刎ね飛ばしてしまう。それが宇宙大怪獣の最期であることは、誰の目にも明らかであった。
 一瞬のうちに命を絶たれ、力無くハドソン川に沈み行くベムスター。その骸を一瞥したアキレスは戦いの終焉を確信し、夜空の彼方へと飛び去って行くのだった。

 嵐真の献身とエリーの叱咤、そしてアメリアの奮起が功を奏して――ニューヨークで起きたこの戦いは、人類の勝利で幕を下ろしたのである。
 その瞬間を街中から見届けていた大勢の市民は爆発的な歓声を轟かせ、飛び去って行くアキレスに手を振り続けていた。背面飛行から体勢を立て直し、ニューヨークの上空を飛んでいるエリーも、安堵した様子で微笑を溢している。

『ふぅっ……やりましたねアメリア隊長、お見事でした。……隊長?』
『……負けないわ。もう私、絶対に負けない。この借りだっていつか、必ず返してやるんだから……見てなさい、ウルトラアキレスッ!』

 だが、悔し涙で頬を濡らしていたアメリアは、唇を噛み締めながらアキレスの背を睨み付けていた。感謝の想いと対抗心が混ざり合った、複雑な表情を浮かべている彼女の横顔を、エリーはキャノピー越しに静かに見守っている。

『……えぇ、そうですね。いつか必ず、私達で返しに行きましょう』

 今はまだ、地球人の力だけで地球を守り抜くことは出来ない。だからこそ、その理想に向かって自分達は戦い続けねばならない。

 その苦い現実に直面し、それでも立ち上がった彼女ならば。きっといつかは、ウルトラ戦士に頼らずとも地球を守れる戦乙女に成長出来るだろう。
 そう信じることに決めたエリーは、これからも自信過剰なお嬢様の副官として、彼女を側で支えて行く決意を固めたのだった。

 ――そして、約5年後。テンペラー軍団の侵略に立ち上がった彼女達は、最終決戦の舞台でこの日の借りを返すことになる。
 
 

 
後書き


 今話で米国編も完結となりました。最後まで読み進めて頂き誠にありがとうございます! 成長したアメリアの活躍については、すでに公開されている特別編や女傑編を参照ですぞ(*^ω^*)


 
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