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相良絵梨の聖杯戦争報告書

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横田基地サーヴァント防衛戦 その1

 電話を片手に私は少し考える。
 ここで手の内を晒すという事はしたくない。
 米国だけでなく日本にも手札を晒す事になる訳で、それは私の日常生活が崩壊する事を意味する。

「私には手伝うメリットは見えないのですが?」
「あなたにはなくても私にはあります。それが何か?」

 電話越しに分かる。
 相手はとてもいい笑顔だと。
 こういうタイプを相手に駆け引きは無用だ。

「お断りします」
「あら残念。
 犠牲者が増える事になりますが」

 まるで明日のご飯の事を考えているかのような返事が返って来るが私は気にしない。
 多分、私も同じような笑みを浮かべているのが分かる。

「あいにく私は、貴方と違ってか弱い人間ですので」
「か弱い?貴方が!?」

 相手の声に怒気が乗る。
 しめたものだと思いながら、私は挑発した。

「それはともかくいいんですか?
 逆探知始まっていますよ?」

 私の声が終わる前に、銃声が響く。
 米軍基地内での携帯電話なんて逆探知してくれといわんばかりである。
 まぁ、捕まる事は無いだろうが、追い払えるだけでも御の字という所だろう。

「ご協力に感謝を。ミス神奈」

「いえいえ。
 こういう場所で、ああいう事をやらかしてくれる相手と取引なんてできなかっただけですよ。
 せっかくですから、聞いていたでしょう『化け物』の説明もしておきましょうか?」

 こういう時には誤解を解くというか、こちらから説明して追及を逃れる方が得策である。
 横田基地にまだ潜伏しているだろうサーヴァント相手に私も駆り出されるなんて御免である。

「ありがとうございます。
 率直にお聞きしますが、貴方ならば今ここで暴れているサーヴァントを倒せますか?」

「無理ですよ。
 奴らは、一騎当千の戦闘機みたいなものですから。
 ただ、追い払う事はできます」

 私の返事にアンジェラの目が細くなる。
 さて、うまくごまかすとしよう。

「私たちみたいな連中は魔術使いと蔑まれているんですが、それは同時に現代社会に適応していると言えます。
 私たちの強みは、その適応力なんです」

 米軍が撃墜したアトラム・ガリアスタもその系列である。
 事前例があるとごまかしも楽である。

「私が『戦闘機みたいな』と例えた事が答えです。
 サーヴァントが暴れたのに未だ隠れているのはどうしてだと思います?」

「……燃料切れ?」

「私はそう思っています。
 この場合、サーヴァントの燃料は魔術師の体にある魔力です。
 あの電話の相手が犠牲者が出ると言ったのは、これでしょうね。
 やってきた海兵隊。討伐できなかったらサーヴァントの餌になりますよ」

 このあたり正しい説明でもないのだが、門外漢のアンジェラが納得してくれるのが大事である。
 考え込むアンジェラを前に私が畳みかける。

「それよりも、カバーストーリーの方はお願いします。
 横田基地でテロが発生したなんて騒がれたら、この国だけでなくワシントンでも火の手が上がりますよ?」

「そっちは何とかします。
 今の所、飛行機事故で押し切れます。
 これ以上の犠牲者が出なければですが」


(……それはこっちで何とかしますよ)

 これ以上目をつけられたくなかったので、その言葉を言うつもりは無かった。



 相変わらず実施的に監禁されている部屋の中で私はタロットカードを広げる。
 占い師である事は向こうも知っているので、これについての何か言われることは無い。
 カードを広げて何か占っているふりをする。
 探していたのは一枚のカード。
 私はそれを手に取って燃やす。
 実際には、そのカードを使ったのだが、監視カメラで見ているだろうアンジェラたちにはちょっとしたまじない程度の演出にしているのがポイントである。

『フール』

 リーダー以外の敵キャラをその戦闘中だけ消す効果があるこのカードだが、マスターをリーダーと考えるならば、これで奴は襲ってこれないはすだ。
 そのまま魔力切れまで待てばいいが、マスターを殺して逃げだした奴だ。
 しばらくは生き残れるだろうなとため息をつきながら、若宮友里恵分析官が迎えに来たので私たちは横田基地を後にした。

「まったくカバーストーリーが大変よ。
 しばらくは基地反対派で暴れるし、米国の尻ぬぐいで残業確定ね」

「少なくともテロにはならなかったのをよしとしましょう。
 あれ、まだ横田基地に潜んでいますよ」

 私の一言に若宮友里恵分析官の顔色が変わる。
 この件で最悪なのは『横田基地がテロに襲われた事』であり、『横田基地で事故が起こった』や『横田基地で殺人事件が起こった』に比べるとフォローができない。
 私の今回の仕事は、その最悪を回避しただけで、問題の解決にはまだほど遠い。

「冬木教会の言峰神父が布告を出したわ。
 『聖杯戦争のルールに則り、監督役が命ずる。横田基地で暴走したサーヴァントの討伐。それを成した者には令呪一角を付与する』だって」

 こちらがわの介入を魔術協会や聖堂教会は嫌がっていたから、恩を売って手を引かせる魂胆が見え見えである。
 既に言峰神父への信頼はゼロだから、更に何か裏があると考えた場合、彼に任せるのも怖い。

「無駄に犠牲が出るのも好きではないですからね。
 後始末に動く程度の事はしますよ」

 私はそこまで言って、ため息と共に言葉を続けた。


「ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトと獅子劫界離に連絡をとります。
 潰せるならばこちらで潰してしまいたいので」

(だって貴方、私と同じ化け物じゃないですか)

 あの電話の声の主と当たるのだろうなと嫌でも悟りつつ私は若宮友里恵分析官の運転する車のシートに身を預けて目を閉じた。 
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