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ずっと家に帰りたいと

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第二章

「孫の顔も見たし」
「だからですか」
「もうね」
「そうですか」
「思い残すことはないわ」
 こう言ってだった。
 実際に身体が動かなくなった、身体は日に日に弱っていき幾許もない状況になっていた。それでだった。
 萌は夫と話し合って義母を家に迎えた、彼女がずっと暮らしていた家に。すると。
 あとどれだけ生きられるかわからない彼女は笑顔で言った。
「最後の望みが適ったわ」
「最後の?」
「最期は家に帰ってね」
 そうしてというのだ。
「お父さんのところに行きたかったから」
「そうですか」
「こんなにいいことはないわ」
 こう萌に言うのだった。
「本当に最後まで幸せだったわ」
「そう言ってくれるんだ」
 息子は母の言葉を聞いて頷いた。
「僕達もそう言ってくれたら嬉しいよ」
「じゃあお互いに嬉しいままね」
「お父さんのところに行くんだね」
「そうするわ」
 息子にも笑顔で言ってだった。
 薫は静かに眠る様にして息を引き取った、そしてだった。
 葬式の時夫婦は亡くなった彼女の顔を見て話した。
「凄く幸せそうだね」
「ええ、満足しきった」
「そうした顔だね」
「ずっと幸せだった思い残すことはないって言われてたけれど」
「最後に家に帰ることが出来て」
「それで旅立ててね」
 微笑んでそこにいる彼女の顔を見て話した。
「お義母さん幸せなのね」
「そうだね、じゃあ僕達もね」
 夫はそんな母の顔を見つつ妻に言った。
「笑顔でね」
「見送りましょう、さあお祖母ちゃんにお別れの挨拶をしてね」
 萌は立てる様になっている息子と娘に言った、そうしてだった。
 一家で笑顔で別れを告げた、満足しきって世を去った彼女に。


ずっと家に帰りたいと   完


               2022・7・22 
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