少女は 見えない糸だけをたよりに
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13-3
5月の連休はお店を土曜、日曜とお休みにして、お父さんと島に行くことになった。今度は、事情もあるので、お父さんは無理にお母さんも誘ったのだ。巧は実家に帰って、私とのことを報告してくると言っていた。巧のお父さんは、もう亡くなっていて、実家の車の修理工場はお兄さんが次いで、お母さんの面倒を見ていると、前に聞いたことがあった。
島に着いた後、お墓に登っていく坂道を見て、お母さんは
「えー 聞いていたけど こんなに急なんですか 私 歩けるかしら」
「お母さん すみません ゆっくり上りますから・・ 私 支えますから」
「そうね 私 足が弱くてね お願い 香波のお父様とお母様にお逢いできるんだから 頑張るからね」
私 独りだったら、15分位なんだけど、1時間位かけてゆっくり上って行った。お父さんは、さすがに先に行ってお墓の前で待っていた。
それから、私は、掃除をして、お墓の前で報告したのだ。きっと、お父さんもお母さんも、そして、おばぁちゃんも反対はしないだろう。私、幸せなんだから・・。そして、お父さんとお母さんは、声を出して、(香波のことは責任を持って見守りますのでどうか私達の子供として任せてください 不幸になるようなことは絶対にしません) と。もう、一度、私はお参りをして・・涙が出てきていた。少し、親不孝なのかなって感じたりもしていた。でも、どっちみち、藤原から赤嶺になるんだから・・。
そして、巌さんの民宿に・・。今夜はお世話になるつもりで連絡しておいたのだ。あらかじめ、お世話になるからと伏見のお酒をお父さんは送っていたから、また、お父さんは巌さんと飲むつもりなんだろう。それでも、お母さんは手土産にと宇治のお茶と和菓子を持ってきていた。
バクのお墓の墓標はずいぶん古くなっていたけど、周りは、ちゃんと草も丁寧に抜いてあった。私は、焼いたお肉を少し持ってきていたので、手を合わせていると、お母さんが寄ってきて
「ここが、香波ちゃんと仲のよかったバクちゃんのところね」と、一緒に手をあわせてくれた。
「バク こうやって幸せでいられるのも いつも バクが見守ってくれているからよ」と、私は、心の中でお礼を言っていたのだ。
もう、夜になる前から、お父さんと巌さんの酒盛りが始まった。お母さんは、おばさんに私の籍を移すことを報告したのだ。おばさんも、喜んでくれて
「本当はね ウチも子供が居ないから 香波ちゃんがひとりぼっちになった時になー、私等のとこにこないかと言っちょたんだけんど・・そのうち、黙っておらんようになってしまって・・だけんど 良かったわー いい人ばっかーで」
お風呂に入った後、お母さんと浜辺に出て、星空と暗い海を眺めながら
「香波ちゃん 素敵な島ね あなたが、素直に育ったんがわかるわ きっと、おばぁさんも優しい人だったのね」
「うん 明るくてね 私に 両親が居ないこと 寂しい思いをさせないようにと・・」私、また、思い出してしまっていて、涙が・・
「ごめんなさい 思い出させてしまったわね ねぇ お父様のこと お願いしてもいいかしら 私 疲れたので、お先に寝てしまっていい? 私がお酒 止めても言うこと聞かないんだから・・ 香波ちゃんが傍にいると きっと 無茶しないと思うからね」
「いいですよ 私 ちゃんと見張りしますから 休んでください あんなきつい坂を上ったんですから・・」
「でも、すばらしい海の景色見させてもらったわ おかげでね」
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