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少女は 見えない糸だけをたよりに

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第十二部
  12-1

 9月に入って、巧がウチの家に来ることになっていた。私は、朝から、お母さんと食事の準備に追われていた。あの人の好きなお肉とサラダに私の故郷のバラ寿司を用意していた。

 お父さんも朝からそわそわしていて、お母さんに何を着たらいいんだろうとか聞いていた。特別なものでなくて、普段着でいいんじゃぁないですかと言われていたみたい。お姉ちゃんは、白い長袖のブラウスにグレーのボックスのスカートだったので、私も、白いブラウスに濃紺のフレァースカートにした。お母さんは、いつものように着物のままだった。

 私は、岡崎公園まで迎えに行って、白のポロシャツの巧の姿が見えた。

「香波 何にも お土産 持ってこなかったんだよ いいかなー」

「そんなの いいの いいの 気楽にね」

「そ~いうけどなー 緊張するよ 何 話したらいいのかなー なんてね」

「私も わかんない でもね お姉ちゃんがそーいうところ うまいから 安心してー」

 表の門扉をくぐると

「うわー まだ あっちにもくぐり戸みたいなのあんのかー すごいね」

「うん 私も最初 びっくりした」

 玄関にはお母さんが迎えに出てくれていた。

「いらっしゃい 香波の母です」と、私 なんだか 変な気持ちだった。

「赤嶺巧です 今日は お招きありがとうございます」

 部屋の中では、お父さんとお姉ちゃんが待っていた。

「ようこそ 香波から聞いていて 一度 お会いしたかったんですよ」

「いいえ こちらこそ 赤嶺巧です よろしくお願いいたします」

「まぁ 今日は気楽にしてください 君が就職決まったって聞いたんでな そのお祝いも兼ねているんだから まぁ さっそく 一杯 まだ、外は暑いだろー」

 そして、さっそく、みんなで巧の就職のお祝いに乾杯したのだ。私も、少しだけビールを飲んだのだ。

「君は農政のほうだってな」

「ええ 京都市街地の周りには、近いところで大原とか久御山、洛西のほう亀山なんかも、京都野菜もそうですが、品種改良して新しい農産物を目指している人がいっぱいいるんです。そんな人達と僕も一緒にやれたらなぁーって思っています」

「そうかー そりゃー 素晴らしい志だなぁー 京都もいつまでも伝統だけじゃぁ だめになるもんなー」

「はい 頑張ってやっていこうと思っています」

 それから、お父さんは帯の伝統の話とか、これから伝統を守りながら、どう発展させていくかとか一人でしゃべっていた。私達は、その話を黙って聞いていたのだが、しびれをきらしたのか、お姉ちゃんが

「ねぇ 巧さん 最初 香波に会った時、どんな感じだったのか 聞かせてー」

「はぁ そーですねー 最初 見たとき 細いんだけど真っ黒に陽に焼けて、不愛想な男の子に見えたんですよね。だけど、女の子だった。そして、人に対しても優しいし、話をしていても素直で賢いのがすぐにわかったんです。なんか、僕の心の中に飛び込んでくる感じだった」

「だから 香波もあなたとつながっていると思ったのよね」

「そうです 僕は香波を離したくありません ずーと。 仕事が落ち着いたら、結婚したいんです お願いします そのときは 香波を 僕に 任せてください」と、巧はお父さんとお母さんに手をついて頭を下げていた。私も、あわてて、頭を下げていた。

「いゃ そのー 頭を上げてください ワシは香波が幸せになるんだから これ以上のことはないと思っている。君も立派な男だと思う。だけど、ここに居る聡も燿も香波もワシの宝なんだ。その宝の一つを奪っていくんだったってことだけは忘れんでくれよな」

「わかってます 僕は、香波と一緒に幸せになるんです」と、はっきり言ってくれた。私、その言葉がうれしかったのだった。 
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