Dragon Quest外伝 ~虹の彼方へ~
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Lv70 ダーマ神殿
[Ⅰ]
アシュレイアとの戦いから一ヶ月ほど経過した。
その間、イシュマリアの王城はずっと慌ただしい日々が続いていた。先の動乱の爪痕はちょっとやそっとでは消えない為、これは仕方ない事ではあった。
俺も例外ではない。ヴァロムさんとヴァリアス将軍から引き受けたミュトラの書回収任務に奔走する日々を送っていたからだ。
しかし、それも昨日で全て終わり、今日はこれまでの成果を確認する1日となる予定である。
まぁそんなわけで、やや暑い日差しが降り注ぐ中、俺は今、ベルナ峡谷へとやってきているところであった。
上空には青々とした空がどこまでも広がり、カラッとした暑い空気が周囲に漂っている。なので、とりあえず、雨は降りそうにない。
また、辺り一帯には前と変わらず、グランドキャニオンのような切り立った褐色の岩山が軒を連ねていた。俺がこの世界に来た時の姿のままであった。
ヴァロムさんのお使いが始まって以降、この峡谷へは来ることがなかったので、少し懐かしさを感じる今日この頃である。
ちなみに今は、ラーのオッサンの案内に従い、ベルナ峡谷のとある場所を進んでいる最中だ。
移動は勿論、徒歩である。
(ここは何も変わらんなぁ……相変わらずの険しい岩山の峡谷だ。まぁでも、見た感じだと魔物の数はかなり減ったかな。たぶん、リュビストの結界が正常に動き出したからだろう……さて、懐かしがるのはこのぐらいにしとこう。それよりも、今日はようやくラーのオッサンの進言を実施する日だが、本当にダーマ神殿とご対面できるんかな。この世界に来てその名前を聞いてから、ずいぶん時間が経ったけど……)
そう……今日はいよいよダーマ神殿の封印を解く日なのである。
ダーマ神殿……ゲームではⅢ以降の作品において、頻繁に出てくる有名な施設の名前だ。
その性質は簡単に言うと、ドラクエ世界における職業安定所に他ならない。
戦士や武闘家、僧侶に魔法使い……果ては盗賊や遊び人などと言う、反社会的な職業や社会的信用度0の職業まで網羅したすごい職安なのだ。
とはいえ、この神殿は別に仕事の斡旋や紹介をしてくれるわけではない。
しかし、ここで祈って職業に就くと、成長パラメーターがそれに応じたモノになるので、俺的には職安というよりもプロフェッショナル養成所のような施設という認識であった。
(さて……この世界のダーマ神殿はどういうモノなんだろうな。上手くいけば、今日それがわかるかもしれない。が……探索隊の人数、少なすぎんか、これ……なんか不安やなぁ……)
そこが気になる部分であった。
なぜなら、今日の探索隊の人数は俺を含め6名だからである。
面子は、俺とアヴェル王子とウォーレンさん、そしてシャールさんとヴァロムさんとアーシャさんという構成だからだ。
一応、ラーのオッサンもいるにはいるが、今回の面子には入れないでおいた。
ラーのオッサンは道先案内以上の事は期待できないからである。
だがとはいうものの、このパーティ構成は仕方ない部分もあるのだ。
実はこのダーマ神殿の探索ミッションを知っているのは、極秘会談メンバーのみだからである。
つまり、今回の探索は極秘任務なのだ。
まぁとは言うものの、今回は例外が1人いるわけではあるが……。
俺はそこで、例外的に同行する事となったアーシャさんに視線を向けた。
今日のアーシャさんは、風の帽子と魔法の法衣と祝福の杖を装備する出で立ちで、長い髪はポニーテールのように後ろで纏め、その表情は気合十分といった感じだ。とりあえず、暴走しないことを願うばかりである。
それはさておき、なぜアーシャさんが同行することになったかというと、それは勿論、風の帽子の存在が大きい。
ソレス殿下も娘の機嫌を損ねたくないようで、今回の探索に同行する事を渋々認めたのであった。
恐らく、ヴァロムさんやシャールさんといった屈指の宮廷魔導師がいるのも、認める好材料となったのだろう。
(しっかし、アーシャさんのおてんば娘気質はここに来ても変わらないなぁ……まぁアーシャさんらしいちゃらしいけど。さて……それよりも俺達が進む先だが、ここは確か行き止まりだった気がするんだが。そこに何かあるのか? そういやこの先で、俺が彷徨う鎧と戦っていた時、アーシャさんに見つかったんだっけか……)
ある意味、思い出の場所ではあるのだが、先が行き止まりとなっている岩山の回廊を延々と進み続けているので、ラーのオッサンの記憶違いの線も考慮に入れておいた方が良いのかもしれない。
まぁとりあえず、今は、オッサンを信じるとしよう。
ちなみに奥には切り立った岩壁があるだけで、それ以外は何もない。
しかし、ここはドラクエ世界。ラーのオッサンがそこに向かっている以上、何かがあるのだろう。多分……。
それから暫く進み、俺達はようやく行き止まりの岩壁へと辿り着いた。
風の帽子でこの地に舞い降りてから、約1時間の行軍であった。
岩壁の前に来たところで、ヴァロムさんはラーの鏡を取り出した。
「ラーさん……着いたぞ。ここで良いのだな?」
「うむ。ここだ。ではヴァロム殿、我をこの岩の壁に向けてくれ。悠久の長きに渡って施された封印を解くとしよう」
「では頼む」
ヴァロムさんはラーの鏡を岩壁に向けた。
すると次の瞬間、鏡は猛烈な光線を岩壁に向かって放ったのであった。
岩壁に到達した光線は水飛沫を上げるかの如く縦横に広がってゆく。
すると程なくして壁に異変が現れた。
岩の壁と思われていたモノが、徐々に別のモノへと変化し始めたのだ。
それはまるで水で汚れを洗い流すかのような現象であった。
そして俺達の眼前に、白っぽい四角い石を幾重にも積み上げて作られた巨大な神殿のようなモノが姿を現したのである。
その高さたるや20m以上は優にあると思われる。威圧感は凄いモノであった。
また、出現した石の壁は綺麗なレンガ積み様式で積みまれており、その中心には銀色の大きな門扉のようなモノがあった。
その門扉の周囲には四角い窪みが9個あり、そこには古代リュビスト文字と思われる文章がみっしりと刻み込まれていたのである。
窪みの数と形からして、ここにミュトラの書を納めるのだろう。
全体的な雰囲気は岩山の間にあるせいか、ラルゴの谷の神殿みたいな感じであった。
しかし、神聖さと厳かさが段違いなのは言うまでもない。
それはさておき、ギャラリーの驚く声が聞こえてきた。
「ふむ……ここがそうであったか。意外と近くにあったようじゃの」
「なんと……ここは岩の壁ではなかったのか」
「こんな事が……」
「いよいよ、伝説の姿が見れるのね。楽しみだわ」
まぁ無理もない。俺も同じ心境だからだ。
(まさか、ここがダーマ神殿の入口だったとはね……俺も修行時代に何回かこの辺りで魔物と戦った事はあったが、これは想像もしてなかったよ。ン?)
アーシャさんがそこで俺の傍に来た。
「コータローさん……ここって以前、貴方が魔物と戦っていたところですわよね? まさか、ここがそうでしたの……」
「どうやら、そうみたいですね。灯台下暗しってやつだったようです」
「トウダイモト? 何の事かよくわかりませんが、言いたい意味はなんとなく分かりますわ」
「ええ、お察しの通りです。さて……どうやら真実は曝け出されたようですね」
周囲が少しざわつく中、ラーのオッサンは声高に言った。
「さぁ済んだぞ。鏡の力が必要なのはここまでだ……これよりは、9つの鍵がダーマ神殿への道を開く。さぁ、そこの窪みに鍵の石板を納めるがよい」
やはり、扉の周囲の窪みに石板を納めるようだ。
ヴァロムさんは俺に視線を向ける。
「ではコータローよ、フォカールで仕舞ったミュトラの書を出してくれぬか?」
「わかりました」
俺はフォカールを唱え、空間の中からミュトラの書を全て取り出した。
ミュトラの書は、以前アーシャさんが言っていたとおり石版であった。
美しい純白の石版で、サイズ的にはA1用紙くらいだろうか。
なので、そこそこの大きさの石板である。
但し、もの凄く強い魔力の波動を感じるので、ただの石版ではないという事は近づいただけですぐに分かった。とりあえず、そんな感じの代物である。
まぁそれはさておき、石版を出したところでラーのオッサンの声が聞こえてきた。
「コータローよ、左端から順に九編のミュトラの書を窪みに納めよ。まずは第一編からだ」
「了解」
俺は頷くと、それらを納めていった。
ちなみにだが、ミュトラの書の解読はヴァロムさんの手によって既に終わっている。
一応、それらはこんな感じだ。
―― ミュトラの書・第一編 ――
我が名はミュトラ……全てを統制する者。
エアルスより生み出されし、至高の存在。
後世の者達は我をこう呼んだ。全てを統制する至高の神と……。
我はこの世界を統制する者であり、エアルスより全権を委ねられた者なり。
ここに我は記そう。
エアルスの奇跡と、この世界の真実を。
この世界の未来の為に。
そして、盟約を結びし者達の為に……。
光も闇も無き世界……。
いつから、そこにあったのか、なぜそこにあったのか……未だ、わかる存在はいない。
それは恐らく、全能なる者にもわからないのかもしれない。
ただ1つの事実として、そこにこの世界があり、この何も無き世界に、全能なる者・エアルスが舞い降りてから全てが始まった。
エアルスは2匹の巨大な龍、蒼き龍と紅き龍を生み出し、この何も無き世界にそれらを解き放った。
蒼き龍は下へと駆け、紅き龍は上へと駆け巡る。
それらはやがて、この何も無き世界に変化をもたらし始める。
下層は広大な大地となり、上層は眩い光をもたらす天となったのだ。
エアルスは何も無き世界に天と地を創造したのである。
それが新たな世界の始まりであった。
―― ミュトラの書・第二編 ――
天と地を創造した全能なるエアルスは、続いて雨を降らすと大地を潤して草木を生やした。
エアルスは大地を豊かにすると、次に万象を生む力を用いて数多の生命を創り出した。
そして豊かな大地に生命を解き放ったのだ。
エアルスは創った世界の様子を暫く見る事にした。
しかし、日が経つにつれ、数多の生命は醜い争いを繰り広げるようになった。
世界は次第に、無秩序な混沌の世界へと傾き始めていった。
だがある時、エアルスすら予期せぬ変化が現れた。
憎悪に蝕まれた生命から、邪悪なる魔の獣が産み出されたのだ。
全能なるエアルスは、魔の獣をどこかに隔離せねばならないと考えた。
だが魔の獣を隔離するだけでは、混沌の中から、また更なる魔の獣を生み出すことになってしまう。
そこでエアルスは、まず世界を5つに分けて争いを減らす事にした。
しかし、そこで更なる問題が出てきた。
5つに分けた事により、エアルスだけでは世界を管理しきれなくなったのだ。
エアルスは、自分以外の世界を管理する存在が必要であると考え、高位なる存在を創る事にした。
エアルスは早速、自らの化身を創り出した。
全てを統制する至高の神・ミュトラ。
審判を司る天界の王・アレスヴェイン。
死と再生を司る冥界の王・ゾーラ。
繁栄を司る精霊界の王・リュビスト。
魔の世界の監視者・ティアスカータ。
地上界を見守る時空の門番・ファラミア。
それ以後、この6つの化身が世界の管理をする事になった。
―― ミュトラの書・第三編 ――
エアルスより全ての統制を任されたミュトラは、精霊界の王リュビストに魔の世界の脅威から大地を守りなさいと指示をした。
叡智に優れし精霊界の王リュビストはすぐに取り掛かった。
魔の世界の淀んだ瘴気が大地を覆わないよう、リュビストは秘術を用いて、清らかなる気に満ちた世界を至る所に創造していった。
悠久の時が必要だったが、それも何れ終わりを迎えた。
大地は清らかなる気に覆われ、この世界から魔の世界の瘴気が取り除かれたのだ。
しかし……リュビストはミュトラにこう告げた。
『残念ながら、魔の世界の瘴気を完全に塞ぐことは出来ませんでした。隅々までは難しい上に、我等の力が及ばぬエオールの地は結界の施しようがないからです。しかし、それ以外の大地の穢れは、これでほぼ取り除かれた事でしょう。この大地は魔の世界の脅威から解放されたのです』と。
魔の世界の瘴気を完全に取り除くことは不可能だった。
だが、これは予期していたのでミュトラに驚きはなかった。
エオールの地は我等の力はおろか、魔の世界も力がなかなか及ばぬ禁断の地。
これ以上はどうにもならないからだ。
しかし、リュビストの働きのお陰で、この世界は嘗てない平穏が訪れた。
だが、まだまだ魔の世界への対策が不十分であった。
そこでミュトラは、この大地に住まう者達が自らの力で歩んで行けるように、魔の世界に対抗する術を授けよと、精霊界の王リュビストに更なる指示をした。
リュビストはすぐに、それに取り掛かった。
そしてリュビストはこの世界の者達に、万物を操る知識と精霊達と疎通を図れる文字を授けたのだ。
―― ミュトラの書・第四編 ――
精霊界の王リュビストの力により、この世界は平穏を取り戻しつつあったが、他にも問題があった。
魔の世界の脅威が和らいだことにより、大地に住まう者達はまた次第に、互いに罵り合い、それが争いへと発展していきつつあったのだ。
このままでは、また新たな魔の獣が生み出されてしまうと考えたミュトラは、審判を司る天界の主アレスヴェインに、邪悪なる生命を監視し、必要とあらば罰を与えなさいと指示をした。
アレスヴェインは了承したが、それは困難を極めた。
世界が広大な為、全てを監視するのは難しかったからだ。
そこでアレスヴェインは遠見の秘術を用いて、そこから大地を見渡す事にした。
これにより監視はしやすくなったが、それでもまだ不十分だった。
アレスヴェインだけで監視するのは無理があったからだ。
そこでアレスヴェインは監視の目を増やすべく、天界に住まうに相応しい心清き者を大地から集めることにした。
アレスヴェインはその為に、大地と天界を繋ぐ霊樹を生み出したのである。
するとアレスヴェインも予期しなかった嬉しい誤算が起きた。
エアルスが造りし大地から存分に養分を得た霊樹は、清らかなる癒しの力を持つようになったのだ。
それは死者をも蘇らせるほどの強い癒しの力だった。
霊樹はすくすくと育ち、巨木となり、天界へと伸びていった。
アレスヴェインはこの霊樹を世界樹と名付けた。
そして、アレスヴェインに認められし者達は世界樹を昇り、天界へと足を踏み入れ、そこの住民となったのである。
それ以後、アレスヴェインは天界の王となり、この世界を見守り続けたのだ。
―― ミュトラの書・第五編 ――
生きとし生けるものは、いずれ終わりを迎える。
役目を終えた生命の器は大地に帰り、その魂は大地の奥深くを駆け巡る蒼き龍と結ばれ、また新たな命が大地に育まれてゆく。
そうして途切れることなく、この世界は生命の輪を紡いでいった。
しかし、例外があった。
魔の世界の瘴気に深く蝕まれた穢れた魂は、蒼き龍とは結ばれなかったのだ。
行き場を失った穢れた魂は大地に留まり、この世界を蝕み始めてゆく。
それはゆっくりとではあったが、確実に世界を悪い方向へと蝕んでいった。
この流れを変える為、ミュトラは冥界の主であるゾーラに、行き場を失った穢れた魂を救いなさいと指示をした。
ゾーラは了承し、すぐに対策に取りかかった。
大変な作業ではあったが、ゾーラは冥界にて全ての魂を少しづつ浄化し、蒼き龍へと戻していった。
これにより、世界はまた良き方向へと傾いていった。
だが問題があった。
増えつづける数多の魂をゾーラだけで浄化していくのは難しかったからだ。
その為、ゾーラは清らかで強い魂を冥界に留め、配下に置き、それらの魂に冥界の住民としての役割を与える事にした。
それにより、この冥界は良き方向へと歩み出した。
そしてゾーラは冥界の王となったのである。
―― ミュトラの書・第六編 ――
精霊界と天界、そして冥界の働きで魔の世界の脅威はかなり薄らいだ。
だが、魔の世界は消えたわけではない。
その為、ミュトラはティアスカータに魔の世界の監視を指示した。
ティアスカータは了承し、この世界と魔の世界が交差する場に身を移し、そこで監視をする事にした。
だが、監視を始めてしばらく時が経った頃、魔の世界に異変が起きたのだ。
今までの混沌とした魔の世界に秩序が生まれ、監視の目が届かなくなってしまったのである。
そこでティアスカータは魔物を懐柔し、魔の世界の調査を実行した。
それにより、ティアスカータは魔の世界で何が起きたのかを知り、驚愕したのである。
ティアスカータはミュトラに告げた。
『魔の世界で、驚異的な力を持つ複数の魔物が誕生し、それらが王となり魔の世界を統治しておりました。魔の世界は混沌から秩序だった世界へと変わりました。今までの監視方法では、もう通用しないかもしれません。もはや、私自らが魔の世界へと赴き、監視するしか無いでしょう』と。
ティアスカータは今までの方法では監視を続けられないと考えた。
その為、自らが魔の世界に足を踏み入れる事にしたのだ。
それは危険な行為であった。
だが、ティアスカータは監視者としての責務から、魔の世界に留まる決意をしたのである。
―― ミュトラの書・第七編 ――
エアルスの化身達の力により、この世界は平穏が続いていた。
しかし、その一方で、魔の世界は日増しに邪悪な力を増大していった。
強大な力を持つ魔物が増え、その勢いは増すばかり。
その上、魔の世界の王達は狡猾で強大な力を持ち、いつしか、我等エアルスの化身では抑えられない程の存在となっていたのだ。
だが魔の世界は1つに纏まることはなかった。
魔の世界の王達が互いに退かず、縄張り争いを始めていたからだ。
しかし、ある時を境に、魔の世界の王達は争いをしなくなった。
それは不気味な静けさであった。
それから暫くすると、魔の世界で不穏な動きが出てきた。
魔の世界の王達は、互いに、統率の取れた軍勢を持ち始めたのである。
軍勢は次第に大きくなり、こちらの世界へと矛先を向かわせようとしていた。
それはティアスカータからの報告でミュトラは知り得た。
ミュトラはこの事実に戦慄を覚えた。
このままでは、この世界に未曾有の危機が来るのは避けられない。
そう考えたミュトラは、時空を超える力を持つファラミアに、来たるべき日の為の秘法を授けた。
そして、秘法を授かったファラミアは時空の門番となり、静かにこの世界を見守ったのである。
―― ミュトラの書・第八編 ――
エアルスの化身達が守りしこの世界に、魔の軍勢の足音が近づいていた。
それは程なく現実のモノとなった。
魔の世界の瘴気が突如、この世界に噴き出したのだ。
それはリュビストの力が及んでいない所からであった。
なんと、エオールの地から魔の世界の瘴気が出現したのである。
止め処なくあふれ出る魔の世界の瘴気によって、力のある魔王達が軍勢と共に、この世界へとやってきた。
魔の世界の瘴気はエオールの地から噴き出し続け、辺り一帯は魔の世界へと化していった。
大地に住まう者達は手を取り合い、魔の軍勢と相対した。
しかし、強大な力を持った魔の軍勢の前に、容赦なく討ち取られてゆく。
武に優れた者も、次々と魔の軍勢の餌食となった。
ミュトラが考える以上に、魔の軍勢の侵攻に対して、この大地は脆弱だったのだ。
緑豊かで美しかった大地は血に染まり、青く清々しい大空は闇が覆い始める。
この世界から平穏な日々は消え失せようとしていた。
とうとうこの世界に、未曽有の厄災が襲来したのである。
―― ミュトラの書・第九編 ――
エオールの地から始まった魔の世界の侵略は、日を追うごとに激しさを増していった。
この世界の全てに及ぶのも時間の問題だった。
ミュトラはこの事態を打開する為、ファラミアに授けた秘法を使う事にした。
しかし、それだけではまだ不完全であった為、ミュトラはある秘法を今度は大地に住まう者達に授ける事にしたのだ。
天界の王アレスヴェインの手を借りて、ミュトラはこの大地を見渡し、そこから6名の心正しき者達を選んだ。
そしてミュトラは、その者達と盟約を交わし、6名の者達に秘法を授けたのだ。
ミュトラに選ばれし者達は魔の軍勢を追い返す為、エオールの地へと旅立った。
選ばれし者達の前には様々な困難が待ち受けていた。
しかし、彼等はそれらを乗り越え、エオールの地へと足を踏み入れたのである。
そして彼等は、エオールの地で秘法を行使し、魔の軍勢を追い返したのだ。
しかし、これで終わったわけではない。
選ばれし者達に犠牲が出た為、秘法は完全に行使はできなかったからだ。
だが、いつの日か、ミュトラの秘法は我の願いとともに成就されることだろう。
それが選ばれし者達とミュトラが交わした永久の盟約だからである――
これがミュトラの書に記されている全容であった。
まぁはっきり言えば、この世界の創世記といった感じだが、内容が未完なのが気になるところであった。
なんというか、『俺達の戦いはこれからだ!』的な感じの終わりだろうか。
加えて、今まで時折耳にしてきた単語がこのミュトラの書には沢山記されているので、妙に神秘的であり、信憑性も高く感じてしまう物語なのである。
とはいえ、鵜呑みにするわけにはいかないが……。
(ミュトラの書か……昨日、ヴァロムさんから解読した文書を見せてもらったけど、色々と引っかかる部分があるんだよな。信憑性は高いのかもしれないけど、肝心なところがボカして記されているから、釈然としないんだよね……ま、今考えたところでわかるわけもないし、後にしよう)
俺はそんな事を考えながら、ミュトラの書を窪みに納めていった。
そして、最後の第九編をセットした次の瞬間、異変が起きたのであった。
なんと納めたミュトラの書と銀色の扉が眩く輝き、音も立てず、静かに扉が開いたからである。
まさに鍵であった。
そこでラーのオッサンの声が聞こえてきた。
「これで長きに渡るダーマ神殿の封印は完全に解けた。我が出来るのはここまでだ。これより先はダーマ神殿。さぁ中へと進むが良い」
そして俺達は、期待と不安をそれぞれが胸に抱きながら、恐る恐るダーマ神殿へと足を踏み入れたのであった。
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