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ソードアート・オンライン~豪運を持つ男~

作者:
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溢れる気持ち

  ・・・・・・「死」

 その言葉を知ったとき、俺は死にたくないと思った。 人は生まれ、そして死んでゆく。
 そんな当たり前な事はしっていた筈なのに、それでも俺はそれに逆らってでも生きたいと思った。
 頭では、『人は死ぬ』 それを理解している筈なのに、心が死を拒絶する。


 それが俺だった。





 ある晩の事だった。俺がまだ7才の時のことだったと思う。
 俺の親父の親父、そう曾爺ちゃんが寿命で死んだ晩の事だ。
 その晩、家のベットに眠ったまま死んだ曾翁ちゃん見たときに俺は思った。.


「ひい爺ちゃんは死ぬ時に何を思い何を考えたのだろう」と。
 俺の母親は20歳の時に俺を産んだから、祖父母も若く、そして死んだひい爺ちゃん以外もその産まれた時にもう亡くなっていた。
 だからこそ、俺は周りの親しい人間が死ぬなんて事に遭遇する事もなかった。.
 故に、俺はひい爺ちゃんが死んだ時、死について考えるようになった。


「痛いのは嫌だな」とか、「死ぬ前に悔いがないようにしたい」とか色々考えた。
 それでも、死を受け入れる事は出来なかった。

 これは俺が11歳の時の事だ。
 僕の学校の先輩の女性が亡くなった。原因は信号無視で飛び出してきた大型トラックに轢かれ、そのままそれの下敷きになり病院に輸送されるも死亡したらしい。

 彼女の父親は有名な俳優であり、ニュースにも取りあげられたことがある。 また、その父親がその時の気持ちを書いた本も出版され、大勢の人々に読まれた。

 おっと、話が少し逸れちまったな。じゃあ話を本線に戻そう。


 彼女が轢かれたのは朝の7時45分らしい。彼女の家は学校から少し離れており、歩いて30分程かかるとか。
 それで、彼女は学校に向かうために渡る大通りを渡ろうとしたときに、そこで信号無視し突っ込んできたトラックに轢かれたらしい。
 その道路は国道であり、都心のほうに向かう車が沢山通っている。逆もまた然りだ。



 偶然近くを通りかかった彼女と家ぐるみで中がよい女の子が、彼女が轢かれているのを発見し彼女の家に報告しにいったらしい。
 そして彼女と女の子のご両親。そして、近くにいた車の運転手の人達が一丸となり、大型トラックを持ち上げ、女の子をトラックの下から助けたというのだ。
 普通なら、大型トラックなんて持ち上がる筈がないのだが、火事場の馬鹿力という奴か、簡単に持ち上がったらしい。
 そして、彼女は病院へと搬送された。


 幸いにもその国道を少し進んだ先に病院があり、そこに急いで搬送された。
 だが、彼女は11時に息を引き取ったらしい。
 そして、学校にその連絡がいったのが11時15分。


 その時俺は奇蹟としか言い表せない現象に遭遇するのだった。
 11時15分。俺はその時に学校で授業を受けていた。
 俺は塾に通っていたので、学校の問題は簡単に出来てしまった。
 そして、ふと窓に目を向けたんだ。その時に俺は奇蹟と遭遇した。

 空から、儚く、そしてとても切ない白い雪が舞い降りてきたのだ。
 たった、数分間のことだった。
 だけど、彼女が死んだ時間に降りだしたということは多分奇蹟といってもいいだろう。

 俺はその時に、彼女が泣いているのかな?と思ったのを今でも憶えている。


 だが、この時に俺は彼女の心情について考えたのである。
 轢かれた時、どんな気持ちだったのだろうか。また、その犯人のことをどう思ったのだろうかと。
 多分、悲しかったのだと思う。優しい先輩だったらしいし、親孝行出来ずに、悲しんでいたんじゃないだろうか。
 それとも、友達ともう一緒に入れない事にか。

 それは彼女しか知り得ないだろう。





* * *

S I D E Z i n

「ふぅ・・・」
 俺はそう言うと、意識を過去から現在へと移動させる。そして息をゆっくり吐きだす。
 肺の中の空気がなくなっていくような感じになる。その後、俺はゆっくりと、鼻を動かし空気を摂取する。
 システム上息をしなくても大丈夫だから関係ないかもしれないが、何時もの日課なので俺はもう一度深く深呼吸した。


「こんなとこでも夢なんか見るんだな」
 と自嘲気味に呟いた。
 そして少し程まだ過去を思い出している意識を今の状況に対応出来るように気を張る。
 ゆっくりと体を動かし、周りを見渡す。


 何時もと変わらない宿の風景が目に飛びこんできた。
「取り敢えず起きるか。」
 ベットから出て簡単にシャワーを浴び、簡単な飯を作る。最近はこの時間が一番至福に感じてきている。
「よし、今日も頑張るか!」と自分に喝を入れつつ、朝食を食べようとしたところでドアからコンコンッとリズミカルな響きのノックが聞こえてくる。

「はぁーい、今あけやーす」
 といい、マグカップをおいて俺はドアへと向かう。

「うっす。どうした?」
 目の前にいる、全身黒づくめのプレイヤーKirito(キリト)に向かってそう言うと、
「いや、飯食いたいだけど下の店の奴もう飽きたからさ・・・良かったら飯貰えないかなぁと思ってな。Zinの飯上手いからさ。」
 と言ってきた。
 こちらもそんなことを言われちゃあ断るわけにもいかないし、俺はいつものように

「解ったからそこでも座って待ってな、すぐ用意するから。」

 といいながら簡易キッチンのほうに向かう。

「いつもすまないな」とすかさずキリトが謝ってくるので、
「俺も困ったときには頼りにさせて貰うぜ」
 とこちらもすかさず悪戯っぽい笑みを浮かべてそう返す。

 キリトは一瞬驚いた顔を浮かべるが、笑顔で「おう。」とだけ返す。
 こうしているうちに朝食が出来上がったので素早くテーブルに運び、キリトと一緒に朝食を食べる。

「そういえばさ。」  「うん?どうした?」
 パンを頬張りつつ、スクランブルエッグにがっつく姿は見ていてほほえましい。
 俺はふと遠い目をしながら
「もうあれから一週間以上たつのか~と思ってさ」
 と呟いた。
 キリトも俺の言いたいことを理解したのか、「あぁ。」と返してきた。
 俺はあのすべての元凶ともいえる事件を思い出していた。





* * *

S i D E O u t


 いざナーブギアを装着するにあたって不思議と緊張はあまりなかった。
 とはいっても危険だからと幾つも安全確認は行なった。あとはなるようになれだ。
 このゲーム、「ソードアートオンライン」の公式サービス開始時間が午後1時になっているのでサービスまであと10分ちょっとある。

 今のうちにおさらいしておこうと思い、あの青年がくれたソフトの箱の中から取扱説明書を取り出しぱらぱらめくってみる。
「なになに、『このゲームはソードスキルという技があり、一般的には最初のモーションをあわせていくと後はシステム補正で技を繰り出せます』だって。後は・・・・」


 っと、もう始まるじゃあねぇか。
 俺は説明書を箱に直そうとすると、裏にメッセージが書かれていた。
 ただシンプルな黒いインクで『少年ならきっと耀ける、ガンバレ!』と。


 俺はおもわず頬が緩み、苦笑いしてしまった。
「買い被り過ぎだっての。」
 思わずそう呟くと、急いで説明書を箱に直すとナーブギアをかぶった。

 何もないことを祈りながら、俺は小さな声で
「リンクスタート!」
と呟いた。



 簡単なアカウント登録を終え、俺有明刃ことZinは今「始まりの街」にいた。


 率直な感想を言うと「すげぇ」のひとことである。
 体にまるで違和感がなく手を開いたり閉じたりしているけれど、本当に仮想空間に来たのかが判らなくなるほどの出来だ。
 俺はダイブするまで「すぐに飽きて辞めるだろう」思っていたが、どうやらすっかりハマってしまったみたいで、今は修学旅行のようにわくわくしている。
 これなら危険(?)を犯しても沢山の人が来る筈である。
 実際な所、このソフトを買うためだけに徹夜して店に並ぶなんてのはざらにあるらしい。
 それを考えると俺はつくづくラッキーだと思う。

 取り敢えず突っ立ってても始まらないので、商店街をみて回った後に、メインのソードスキルとやらを試しにいくように決めた。

 商店街のほうを見ていると、様々なものや人で溢れかえっていた。
 取り敢えず武器は最初のがあるから問題ないので、先に消耗品のポーション等を買っていくことに決め、近くの多分NPCであろう商人に声をかけた。

「「すいません、ちょっといいですか!?」」

 ・・・?辺りを見渡す。しかし声の主がみつからない。

 なんとなく下を見ると、あっさり声の主は見つかった。
 何かこっちを睨んでいるっぽいが全然怖くない。むしろ微笑ましいぐらいだ。
 身長はぎり150あるかないかぐらいで、くりっとした小動物を連想させるような目にサラサラの髪をサイドポニーにしている。
 明るいお日様のような髪色は、見ているこっちが暖かくなるような不思議な効果(?)を持っていて見ていて自然と眠たくなってくる。
 あまりの眠気にあくびをしてしまうと、その少女が

「人の顔見てあくびするなんて失礼でしょうっがっ!」
 と言って脛を蹴ってきた。

 思わず現実のノリで「いってぇー!?」と叫びそうになったが、少女からなんとなくまたうるさいっと言われブチ蹴られそうだったので自重した。

 なんとか冷静になり、改めて少女を見る。小さい体と相まって如何にも背伸びしている姿がとても微笑ましい。

 そんな彼女を見て俺は思わず
「可愛えぇ」  と呟いてしまった。

 しかも間の悪いことに聞こえてたみたいで、

「は、はぁ!? ///」
 と耳まで真っ赤にしてあっさりフリーズしてしまったようだ。
 どうやら見た目とは裏腹に耐性がないようだな。
 この状況で悪戯するのも面白そうだが、今はやめておこう。
 なんだか申し訳ない気もするが、俺はここに来た本来の目的をはたすとしようか。

 ・・・・・・・・・・。

「こいつ、まだフリーズしてやがったのか?」
 俺は目的のポーションを買い戻ってきたんだが、この子はまだ依然ラグっているらしい。
「可愛いっていわれた・・・。」とずっとうわ言のように呟いている。

 混乱させたのは一応俺が原因っぽいのでどうにかしようと思い、取り敢えず声を掛けることにした。
「おーい、お――い!」

「可愛いって・・・はっ!?」

「はあ、やっと気が付いたか?」

 俺が近づき顔を覗き込むような形でそう声を掛けると、少女は「ッッツ!!!」と声にならない悲鳴をあげて一目散にどっかにいってしまった。

「何だったんだいったい?」←主人公は生粋のフラグメーカーで天然

 まあ気にしていても仕方がないので、当初の目的通り圏外に行こうとした瞬間、目の前を青い光に包まれた。
『はあぁ!?』という声虚しく俺ごとZinは始まりの街の鐘の前に放り出された。



「一体なんだってんだ!?」
 にしても強制転移(テレポート)っちゃあよっぽどのことがあったのだろう、と俺は一人で勝手に納得しつつ、辺りを見渡した。

 どうやら強制転移を喰らったのは俺だけじゃないらしく、他にもかなりの量の人がここ始まりの街の鐘の前に集まってくる。下手したら、今回サービスにいる一万人全員くるんじゃないか?
 と、しょうもないことを考えつつ、少し今の状況について考えてみることにした。

「何でいきなりプレイヤーを広場にあつめた?まさかこの行為事態がバグ等とは考え難いし他にシステム上でミスが、それも致命的なバグがでたのか・・・?」
 とそう結論付ける。それなら十二分にありえる話だ、と考えた点で今度は別の疑問が残る。


「じゃあその致命的な欠陥って何だ?」

 俺がそう考えた瞬間、空が真っ赤に染まった。
 周りはざわざわしていてとてもじゃないが落ちついた表情じゃあない。

 そんな中、空に[Warnig]の単語が空を覆いつくしたかと思うと第二層の底辺にはこれまた真っ赤な文字で[System Announcment]という文字が見えた。
 それはシステムを管理する運営側からのアナウンスが始まることを示している。

 だがしかし、俺はさっきからどうしようもない不安を抱いていた。
『まるでもう二度と現実には帰れない』
 まるでそういわれたかのような猛烈に嫌な予感がした。
 とにかくその不安を断ち切るべく俺はすぐさまにメニューウィンドウを開き、ログアウトボタンを・・・・。


「・・・・はぁっ!?」

 俺は驚きのあまりすっ頓狂な声をあげてしまっていた。

 ・・・ないのだ、ログアウトボタンが何処にも。
 そんな筈はないと思いもういちど探すが、やはりない。

 それと同時に俺は今度こそ確信した。これは危険だと。
 しかしもうすでにダイブしてしまったのだ。今更足掻いたところでなんにもならない゜

 そう、取り敢えずまずは落ち着こう、落ち着いたら良い考えの一個か二個浮かんでくるさと楽観的に考えていた矢先、あたかもそれを否定するかのように落ち着いた声が上から聞こえてきた。

 何かと思い、上を仰ぎ見るとそこには中身のない紅いフード付きローブの巨人がいた。
 何時の間に!?と思っていたが、取り敢えずこいつがGM(ゲームマスター)だろうということはおおむね理解できた。
 しかしローブだけで中が何もないその存在は、胸の不安感を煽るようにしか思えなかった。そして、



 その巨人はおもむろに声を発した。


『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』と。



 この時に俺は悟った。もう普通の日常に戻ることは叶わない、と。

 そして、その宣言によって後に語り継がれるであろう最悪で最凶なゲーム、
『ソードアートオンライン事件』とも呼ばれるゲームが幕を開けた瞬間でもあった・・・・・・。 
 

 
後書き
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