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第一章
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フィリップ=フランツ=バルタザール=フォン=シーボルトは面長で傷があるその顔を顰めさせそのうえで出島にいるオランダ人達に語った。
「幾ら何でも警戒し過ぎでは」
「幕府の対応はですね」
「何かと」
「そう思われますね」
「はい、ここから出られないことはまだわかります」
外国人は出島からというのだ。
「彼等がキリスト教を警戒しているので」
「その警戒はおわかりですね」
「何しろ幕府が出来る前に民を奴隷として売られていたので」
「宣教師達がそうしていたので」
「そうしたことがあったので」
シーボルトもこのことは知っていた。
「もっともそれはです」
「貴方のお国もそうですね」
「カトリックですからね、バイエルンも」
「あれはカトリックの宣教師達がしていたので」
「だからですね」
「私もあれこれとは言えません」
プロテスタントであるオランダ人達に述べた、知的であるが逞しく武骨さも備えている顔で話をした。
「このことは。ですが」
「それでもですね」
「シーボルト卿としては」
「地図を祖国に持ち帰れない」
「このことは」
「ミュンヘンは内陸にあります」
その中にというのだ。
「海はありません、しかも日本から遠くにあるので」
「日本を攻めるなぞですね」
「想像も出来ませんね」
「そのことは」
「全く、しかも日本の守りときたら」
今度は幕府の国防のことを話した、ある部屋でコーヒーを飲みながらそのうえで憮然として話していく。
「全く何もしていません」
「その通りです」
「この国は平和に慣れ親しんでいます」
「もう戦のことはほぼ忘れています」
「そうした状況です」
「それで何故今時です」
憮然とした顔のまま言った。
「地図を持ちだしては駄目なのですか」
「幕府は幕府で国防を考えているのです」
「戦を忘れていても」
「だからこうして出島もありますし」
「地図も持ち出させないのです」
「普通に店で売られていても」
その地図がというのだ。
「そうなのですね」
「左様です」
「ですから地図には気をつけて下さい」
「持ち出してはことです」
「大問題になります」
「ですが学問を考えますと」
それならというのだ。
「やはり地図もです」
「必要ですか」
「そちらも」
「そうなのですね」
「生物学でも何でもです」
あらゆる学問にというのだ。
「何処に何があるかどんな生きものがいるのか」
「知る為にですね」
「地図は必要なのですね」
「どうしても」
「地理だけではないです、確かに軍事において欠かせません」
地図はというのだ。
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