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死海文書

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第三章

「思っていただけで」
「それだけでしたか」
「この修道院で古代の文字に詳しい者はいなかったので」
「そのこともあって」
「それで、です」
「わかりませんでしたか」
「はい」
 そうだったというのだ。
「とても、それでその羊皮紙に書かれていることは」
「旧約聖書のイザヤ書の文章です」
「イザヤ書の」
「はい、しかもこの文体から察するに」
 専門家はさらに言った。
「紀元前のものですね」
「キリストが産まれる前のものですか」
「間違いないです、旧約聖書の最初のヘブライ語の写本はです」
「確か九世紀か十世紀でしたね」
「それが最初でした、ギリシア語のものはあったのですが」
 それ以前にはといいうのだ。
「かなり後代の原本を元にしていますね」
「それで実際に書かれていたとは違うとも言われていますね」
「そうです、ですが若しこの文章が他にあれば」
「教えにかなりの発見になりますね」
「キリスト教の教えのこれまでの定説を覆すかも知れません」
 専門家は興奮して語った、そしてだった。
 ここからだった、アラブを中東戦争等複雑な戦乱が覆ったがその合間を縫ってその巻きものが発見された辺りを調査したが。
 切れ端の様なものばかりでもこの辺りに旧約聖書の各書があった、そしてそこにはこれまで知られていなかった文章も多くあり。
「紀元前二世紀のものか」
「旧約聖書の正典は紀元前一世紀末に成立したというが」
「それと同時期だ」
「その時に残されなかったものがあると言われていたが」
「そうしたものだ」
「現代に伝わっていなかったものがこんなにあったとか」
「しかもだ」
 研究者達はさらに話した。
「イザヤ書の部分は今の旧約聖書と殆ど同じだ」
「調べたら内容が異なる複数の旧約聖書も使っていたな」
「正典成立以前の知識が一部でもわかったぞ」
「これは凄いな」
「全くだ」
 学問そして何よりも宗教のうえで大騒ぎとなった、そしてそれからも調査が続けられることになった。
 その状況を見てだった、もう大人になっているムハマッドはハールーンに話した。二人は今も遊牧をしている。
「まさかな」
「ああ、俺達がたまたま見付けたな」
「それで何でもないと思ったことがな」
「こんな大騒ぎになるなんてな」
「思わなかったな」
「夢にもな」
 それこそというのだ。
「思わなかったのにな」
「それがだな」
「こんな大騒ぎになるとか」
「大発見だなんてな」
「キリスト教の話だけれどな」
「そしてユダヤ教のな」
「まさかな」 
 二人で羊達を見ながら話した。
「何でもない巻きものがな」
「ちっぽけな値段で売れただけだったのに」
「それがあんな大騒ぎになるとか」
「信じられないな」
「世の中何があるかわからないな」
「本当にな」
 こう話すのだった。
「世の中が大騒ぎになる位の価値があったとか」
「驚くしかないな」
「ああ、あんな二束三文がな」
「本当にわからないもんだ」
 二人でこう話した、そのうえで騒動を見るのだった。
 死海文書はユダヤ教それにキリスト教の中で歴史的な発見だとされ今も研究され調査が行われている、だがそのはじまりはこうしたものだった。ほんの些細なはじまりが大きな出来事になる。こうしたことは実際に起こるのである。


死海文書   完


                2022・1・16 
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