少女は 見えない糸だけをたよりに
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12月になって、寒い朝、お店に行くと、燿さんが
「カナミちゃん これ 使いなさい」と、毛糸の手袋とマフラーを渡された。
「寒いでしょー 風邪なんかひかれたら、お店も困るんよ」
「有難うございます 京都って寒いんですね 助かります 嬉しい」
「私が 高校の時使ってたやつよ 探したら、あったから・・ それと・・カナミちゃん あなた コートもお洋服も持ってないんでシヨ 今晩 お店終わったら、ウチに来なさい 地図書くから」と、燿さんがその場で簡単な地図を書いていた。強引だった。
私は、渡された地図を頼りに探していたんだけど、高い塀が並んでいて、塀の向こうには樹が生い茂っていて、お家なんか殆ど見えないところばっかりで、おまけに、門なんかでも、灯りが暗くて、灯りも無いお家もあった。やっと見つけた「帯屋荘兵衛」の表札。古い木造の門構え。ここだよねと思いながらも、辺りを探したけど帯屋の文字はなさそうなので、思い切ってインターホーンを押してみた。すると、燿さんの声で「はーい」っと。
しばらくして木の門扉を開けて出てきたのは、着物姿の燿さん。一瞬、私はお家を間違ったのかと思ったけど
「迷ったの? 少し、遅い 待ちわびちゃったのよ 入って」と、中に案内された。
「あのー 自転車は」
「ああ いいわ それも中に入れて」
と、それから、飛び石を歩いて、又、格子戸をくぐった先に玄関が現れた。途中、奥まで続いている池なんかもあったのだ。私は、こんなお家・・初めて・・と、だけど、燿さんが付いて来てと言うもんだから・・
玄関に入ると、燿さんのお母さんらしい人が
「いらっしゃい 燿の母です」と、挨拶をされて・・私は、声も出なくって、お辞儀だけしていた。
「燿さん 男の子をお部屋に入れるなんて・・」と、言われてしまった。
「あらっ お母様 カナミちゃんは 女の子よ ほらっ 胸もあるでしょ あっ 無いかー 私より」と、私の胸をいきなり触ってきて・・。
長ーい廊下の奥にある階段を登って、燿さんの部屋だというところに案内された。入口は障子なんだけど、中はフローリングでベッドなんかも置いてあった。広いお部屋で片側はタンスが二つ、アコーディオンカーテンで仕切られていた。その片側を開けて
「うーん どれがいいかなー」と、燿さんは言いながら洋服を選んでいた。そして、何点か選んでベッドの上に並べていた。
「とりあえず、冬物はこれでいいわ。私のお古で申し訳ないんだけど、着てちょうだい。春になったら、又、持って帰ればいいわ いっぺんにじゃ 持ちきれないからね」
「えぇー 私 そんなー そのために呼んでくださったんですか?」
「そうよ この中から気にいったのだけ選んでちょうだい」
「店長 有難うございます いただきます」と、私は、頭を下げていた。でも、私は、今までこんな華やかな色のも、ワンピースも着たことがなかった で・・躊躇していた。
「カナミちゃん 大丈夫よ これくらい みんな 着ているから・・ あなた 可愛いから、服に負けないわよ」
そして、洋服箱に詰めてもらった後
「ねぇ カナミちゃん そろそろ 聞かせてもらっても良い? あなたが、バックひとつで、お店に面接にきたいきさつ 私ね、最初 あなたが身寄りも居ないっていうし、いきなり、京都に来たって言うでしょ こんなのって思ったけど あなたを見ているとね 私を真っ直ぐに見て、その澄んだ眼でね だから、この子をこのまま、ほおりだしちゃったらどうなるんだろうと 私が引き受けるしかないじゃぁない だから、聞かせてもらう権利あるわよね」
「はい」と、私は、これまでの両親が亡くなったこと、秋におばぁちゃんが亡くなったこと、そして、どうして京都に来たのかを全部うちわけた。
「そう でも その男の人 信じているの もう、捧げたの?」
「捧げたって?」
「わかった その様子じゃぁ まだなのね じゃぁ どうしてその子信じているの 向こうは、ただの気まぐれかもね まだ15才でしょ あなた その年で、男を追いかけるのって・・もっと、出会いあるかもよ」
「違います! あの人はそんな人じゃない! 私 初めてなんです こんな気持ち 手を繋いでくれて、言ってくれたんです だから、巧さんと糸で・・見えない糸が・・」と、ムキになっていたのがわかった。
「カナミ あんた ほんとうに純真で真っ直ぐね あのね 名前が解っているんなら 探すのは・・直ぐ、見つかるけど・・」
「本当ですか? すぐに 見つかりますか?」
「ウ うん でも・・と思う 少し、待ってね」と、燿さんは、なんか、そのあと口ごもってハッキリと言わなかった。
「店長は 恋愛したことありますか あっ すみません 余計なこと聞いちゃてー」
「うふっ いいのよ 私は・・事情があってね すんなりいかないのよ」
帰る時、お父さんが帰ってきているみたいで、燿さんに案内された。
「お父様 ウチのお店の子 私の妹みたいなものですから、ご挨拶だけ」
座敷に座って、お酒を飲んでいた。私は、座って緊張してしまって
「あ あのー ふっ 藤原香波と申します」と、頭を下げていた。
「ウン 澄んだ良い眼してる 燿 女の子だよな いや 失礼 最初、見た時、少年に思えてしまったから・・わからんかったから」
「お父様 本当に 失礼よ そんなこと 口に出さないでー 謝ってよー」
「ぁぁー すまない かなみさんだっけ 燿 わがままだけど よろしく頼むな あぁ 帰るんだったら、松寿司の折 じゃまじゃあなければ、持って帰ってもらいなさい 無理やり、折に入れてもらったんだ」
そして、表まで送ってもらった時
「ごめんね お父さんたら なんでも、思ったこと口に出しちゃうんだから 気にしないで」
「店長 私 見た目 男の子みたいなんですか?」
「うーん 今のとこ 美少年 ってとこかなー まぁ 大丈夫よ 一人住まいの時は、その方が良いのよ あなたは、可愛いわよ 充分」
「そうですかー あぁ お洋服とお寿司 ありがとうございます 楽しみ」
「うん 明日もおねがいね お店」
アパートに帰って、私は貰って来た洋服を全部着てみた。身体にぴったりとして大人っぽいものも・・。どれも、可愛くて、私 こんなの着たことなかった。そして、お寿司を食べたら、生まれて初めて、こんなにおいしいのって・・。
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