Fate/WizarDragonknight
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見えてるから
「松菜さん!」
紗夜に助け起こされながらも、ハルトの右腕の痛みが消えることはない。
もう、完全に陽が沈んでいる。
もし、彼女が本当に影に潜む能力を持つのならば、この環境は最悪。
そして。
闇の中から伸びる、不気味な白い手。
「紗夜さん!」
右腕がまた痛む。やがて、白い手たちはハルトを掴み、そのまま投げ捨てた。
もう、残った白い手から紗夜を守る者はいない。
そして。
もう間に合わないと思った、その時。
「_______!」
鳥の嘶き。
赤いハルトの使い魔、レッドガルーダの姿が現れた。白い手を一つ一つ打ち消していく。
だが、ガルーダだけでは、白い手の波は収まらない。だが、ガルーダがいるということは。
「迅位斬!」
ガルーダに続く、赤い斬撃。それは、紗夜を襲う白い手を一気に切り払った。
「大丈夫? 紗夜さん!」
「衛藤……さん?」
「可奈美ちゃん!」
衛藤可奈美。
ともにこの地に訪れた少女が、ハルトと紗夜、そしてフォーリナーを見渡す。
フォーリナーが纏う雰囲気を察したのだろう。可奈美は、即座にその御刀、千鳥を向けた。
「……もしかして……参加者?」
「あらあらあらあら。そういうあなたも参加者で間違いなさそうですわね?」
フォーリナーはにやりと笑みを見せる。
「今日は忙しくなりそうですわ。何しろ、参加者が二人もいるのですから。で・も・しっかり頂かないと」
フォーリナーは唇を舐める。
そしてその姿は。
またしても、夜の闇の中に消えていった。
「え!?」
もう、フォーリナーは影の中だろう。ハルトは身を乗り出して叫んだ。
「可奈美ちゃん、気を付けて! 相手は影の中から狙ってくる!」
「影……?」
可奈美はその言葉に何度も瞬きした。
彼女は同時に、自らの影を見下ろす。すると、やはりハルトが見た通り、影の中より白い手が伸びてくる。
「影の中って、こういうこと!?」
可奈美は体を回転させ、白い手を全て斬り伏せる。だが、斬っても斬っても白い手はまた湧いて出る。
可奈美は諦めてジャンプして離れる。着地した彼女は、改めて周囲を見渡した。
「……」
完全に消失したフォーリナーの姿。
だが、彼女は、暗闇という地の利を活かしている。全ての影から白い手を放ってくる彼女に、ハルトは内心慄く。
そして。
「銃弾!?」
見えない敵は、白い手に加えて銃で攻撃してくる。
止まることない銃声。だが可奈美は、暗闇のどこからそれが聞こえてくるかいち早く察知し、すぐに斬り落とす。
「どこに……っ!?」
可奈美はさらにジャンプ、回転しながら地面に着地した。
その間も、何度も回転し、千鳥を駆使。四方八方から彼女を狙う銃弾を的確に防御し、地面に撃ち落していった。
やがてそれがしばらく続き。
「そこっ!」
可奈美が振るった千鳥。それは、見えない虚空を斬り裂く。
ハルトには何もないように見えるそれ。
だが。
「……っ!?」
影の中から、フォーリナーの驚嘆の声が聞こえてくる。
「見つけた! 迅位斬!」
さらに続く、可奈美の技。
目にも止まらぬ可奈美の速度から繰り出されるそれは、彼女が狙った影の一か所を切り裂いた。それもまた、ただ単純にアスファルトを傷つけただけのようにも見える。
だが。
「ありえませんわ……ありえませんわ!」
やがて、暗がりを包む柔らかい月明りが、フォーリナーの姿を浮かび上がらせる。
「この暗がりで、このわたくしの銃弾ですのよ? 普通の人間ならば弾くことはおろか、見えることさえ出来ないはずなのに……! あなた、本当に人間ですの?」
「でも、見えてるから!」
可奈美は笑みを浮かべたまま、フォーリナーへ斬りかかる。
フォーリナーは銃で剣を受け止め、そのままぶつかり合う。
「面倒くさいですわ……」
フォーリナーは苛立ちを見せる。
やがて、彼女の背後に時計盤が現れた。
「刻々帝 一の弾」
一時を指す時計盤から銃へ、そして銃から、フォーリナーの体へ。
加速能力としてフォーリナーの体に宿ったそれは、可奈美の剣を避け、そのまま姿を消す。
「!?」
可奈美の体を何度も貫く銃弾。写シと呼ばれる刀使特有の能力がなければ、今頃彼女の体は蜂の巣になっていただろう。
可奈美は銃弾の内数発は凌いでいるが、体に走るダメージをゼロには出来ない。
「っ!」
可奈美はジャンプで避けた後、上空から一帯を見渡した。
だが、彼女の表情から、フォーリナーの姿をはっきりと捉えることはできていないようだった。
着地と同時に、無数の白い手が迫って来る。
「また来た!」
『フレイム シューティングストライク』
可奈美へ接触するよりも速く、ハルトの炎が発射された。白い手を押し流したそれは、可奈美が自身の懐から鈴祓いを取り出す時間を与えた。
「可奈美ちゃん……それ……」
目覚めの鈴祓い。
ほんの少し前、セイバーのサーヴァント、煉獄杏寿郎がその命をもってして可奈美に託した神具。
可奈美がそれを鳴らすごとに、鈴より緑の光が溢れ出す。粒子のように舞い上がっていくそれは、どんどん可奈美の周囲を浮遊し始めていく。
銃弾を一部は受け、一部は避け、また一部は弾きながらも、可奈美は鈴祓いを鳴らし続ける。
やがて彼女の周囲に、緑の光が集っていく。可奈美が鈴祓いの音をどんどん上げていくのに従い、光が彼女の体に実体の布を宿らせていく。
そして。
「祭祀礼装・禊!」
可奈美が叫ぶ。
すると、彼女の体へ、白い巫女服が纏われていく。同時に、彼女の頭部や耳元に金の装飾が彩られ、その姿は完全に変わった。
祭祀礼装。
それこそ、可奈美が手に入れた新たな力、祭祀礼装。
「何ですの……?」
影の中から、フォーリナーの動揺が聞こえてくる。
フォーリナーの銃弾。可奈美はそれを斬り落とした上で、さらにフォーリナーが潜んでいると目される影に斬撃を放った。
間違いなく、フォーリナーの息を呑む音が聞こえる。
千鳥を振り下ろしたまま、可奈美は静止した。首だけを回し、周囲に気を配る。
「……」
可奈美は目を閉じた。
それが、どういう意図なのかは、ハルトには全く分からない。
やがて。
「そこっ!」
可奈美は、虚空を裂く。
何も反応はない。ただ一つ。フォーリナーの声を除いて。
「なぜ分かるんですの……!? 今のわたくしは、影の中ですのよ!」
「分かるよ? 何でか分からないけど」
可奈美はハッキリと答えた。
そのまま可奈美は、どんどん影、その一か所に斬りつけていく。
見えない相手。だが、あちらこちらから聞こえてくる音から、間違いなく彼女の剣はフォーリナーの銃とぶつかっている。
そして。
「無双神鳴斬!」
ジャンプして振るわれる千鳥。
そこから放たれた無数の斬撃。それは周囲のコンクリートごと影を切り刻み、大きく破壊していく。
「そんな……っ!?」
影から投げ出されたフォーリナーが地面を転がる。
そんな彼女の首元に、可奈美は千鳥を向けた。
「勝負あり……だよね?」
隠しきれない、可奈美の笑み。
「……なぜ殺さないのですか?」
光る刀身を見ながら、フォーリナーは尋ねた。
可奈美は首を振って、ハルトへ目配せする。
「だって私たち、聖杯戦争を止めるために動いているんだもん。ここでそんなことしたら、聖杯戦争に賛成しちゃうことになっちゃうじゃん」
「呆れましたわ……でも、その力には勝てませんわね」
フォーリナーは、可奈美の力をそう断じたのだろう。
おそらく、この先何度フォーリナーが影の中に逃げこもうとも、可奈美の眼は全てを見通してしまうのだろう。攻撃は回避され、どこに潜んでいようとも可奈美の剣が迷いなくフォーリナーを捉える。
敗北を察したフォーリナーは、ほほ笑んだ。
「これは、負けですわね」
「っ!?」
可奈美がその速度に反応できないはずがない。彼女が対応できなかったのは、フォーリナーの行動があまりにも予想外だったから。
自ら可奈美に接近し、千鳥の刃に腹を貫かせるフォーリナー。
「がはっ!」
「嘘……自刃……!?」
可奈美はその事実に驚愕した。
だが、すでに事実は翻らない。吐血したまま、フォーリナーは自ら千鳥から抜かれ、崩れ落ちた。
「な、何で……!?」
だが、驚いても、事実は変わらない。
自ら致命傷を貫いたフォーリナーの目からは光が消えている。
ハルトは可奈美に駆け寄った。ハルトを見返す可奈美は、目が震えていた。
「大丈夫?」
「うん……私は平気……だけど」
血だまりに染まったフォーリナーの体は、だんだんと消えていく。
可奈美はフォーリナーがいた場所と千鳥の刃を見比べた。
「私……本当に……っ!」
「可奈美ちゃん!」
はっとした可奈美は、ハルトへ向き直った。
「……落ち着いて」
「う、うん……」
「深呼吸」
「すう……はあ……」
可奈美は言われた通り、息を吐く。
そしてそのまま、祭祀礼装の姿を解除した。
見慣れない和服から、見慣れた美濃関学院の制服へ。だが、元に戻った瞬間、可奈美はぐったりと崩れ落ちた。
「可奈美ちゃん? どうしたの?」
「体に力が……入らない!」
可奈美は必死に訴える。だが、何度も起き上がろうとしているのに対し、彼女の体はピクリとも動かない。
「そんなっ……! 何で!?」
「貴女のその力、確かに強力ですけど……」
その声に、ウィザードと可奈美は震えあがる。
振り向けば、たった今遺体となって消えたはずのフォーリナーが、背後にいたのだ。彼女の手に握られた銃から、今の攻撃はフォーリナーのものに違いない。
「それほど長くは持たないようですわね?」
「フォーリナー……!? どうして……!? だって、今……!」
「時間を駆使する能力者ですのよ? 過去と未来、どちらのわたくしを相手にしていても不思議ではないのではなくて?」
フォーリナーはそう言って、銃を自らのこめかみに当てる。同時に、その背後には巨大な時計盤が並び立つ。
そうなれば、どうなるかはもうさっきまでの戦いで証明されている。
ハルトが可奈美の前に立つのと同時に、フォーリナーが冷たく告げた。
「これで、終わらせましょう」
「トレラアルディガイザー」
突如として、その声が、フォーリナーの声を塗りつぶす。
蒼い落雷。
ハルトは可奈美を抱えて飛び退き、フォーリナーもまた影に潜み、その落雷を回避した。
トレラアルディガイザー。
その技名は、いやというほど聞き覚えがあった。
その正体。破壊した廃墟を静かに降りてくるそれは。
「トレギア……!」
「トレギアッ!」
その姿に、背後の紗夜が悲鳴を上げた。
ウルトラマントレギア。
フェイカークラスのサーヴァントにして、ハルトたちの宿敵。
蒼い仮面にその内情を隠し、ひたすらにハルトたちと敵対してきた人物。全身を拘束具で覆い、かつて内に入れていた邪神魔獣グリムドの力を使う者である。
「トレギア……! 何でここに!?」
「ただの散歩と言ったら……信じるのかい?」
トレギアは苦笑しながら静かに紗夜を見下ろす。
「やあ、氷川紗夜。久しぶりだね」
トレギアはちらりと紗夜を見て、ハルト、可奈美、そして影から現れたフォーリナーを見下ろす。
「フォーリナー……初めましてだね」
「ええ。こちらこそ、初めまして。フェイカー……いいえ。トレギアとお呼びしたほうがよろしいでしょうか?」
フォーリナーはその言葉とともに、トレギアへ銃口を向ける。
銃弾が発射されると同時に、トレギアの爪からも衝撃波が放たれる。二つは相殺、同時に爆発。その衝撃波がハルトたちを突き飛ばす。
さらに、戦える二人が離れていったことにより、紗夜が完全に無防備になる。
「さて……あまり効率的ではないが……いい演出材料になってくれよ。氷川紗夜」
トレギアはそう言って、自らの仮面を外す。それを紗夜に投げると同時に、その姿は闇となり吸収されていく。
「まさか……紗夜さん! 逃げて!」
ハルトが叫ぶが、すでに手遅れ。
「ひっ……!」
トレギアアイは磁石のように紗夜の目元に装着され、そこから蒼い闇が溢れ出した。
それはみるみるうちに彼女の肉体を変質させていく。華奢な少女の肉体を、トレギアの闇の体へ。
「紗夜さん……また……!」
しかも前回とは違い、今度は目の前で。
氷川紗夜。その姿が、トレギアのものとなってしまった。
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