ウルトラマンカイナ
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特別編 ウルトラカイナファイト part12
「あ、あれってガチの怪獣かよっ!? 人口が多い都市が狙われてるって、完全にデマじゃねーかっ!」
「嘘だろっ!? こんな孤島にまで飛んで来てんのかよっ!」
「んなこと言ってる場合か、いいからさっさと逃げろっ! ここはもう、昔みたいな『怪獣島』になっちまってんだよっ!」
かつては髑髏怪獣レッドキングをはじめとする、多くの強豪怪獣達が集まっていたことから「怪獣島」とも呼ばれていた多々良島。
険しい岩山や、鬱蒼と生い茂るジャングルに包まれたこの島も、現代においては大自然を堪能出来る観光スポットとして栄えていたのだが。
「いや、そんなもんじゃねぇ……ここは今、『超獣島』になっちまってんだ!」
テンペラー軍団の一角ことバキシムの出現により、過去のような戦場と化してしまったのである。
逃げ惑う人々を嘲笑うように、宿泊施設を踏み潰して行く一角の超獣。その姿は「怪獣島」ならぬ、「超獣島」の誕生を象徴しているかのようであった。
『行か……せるかあぁあッ!』
施設から逃げ遅れた旅行客を踏み潰そうと、バキシムが片足を上げた瞬間。その背後に組み付いたウルトラマンアークが、超獣の体勢を崩して行く。揉み合う両者が、施設を避けるように転倒したのはその直後だった。
『トワアァッ! テェェイッ!』
素早く馬乗りの体勢に入ったアークは、バキシムの顔面にパンチの嵐を叩き込む。超獣も反撃とばかりに、大顎から強力な火炎放射を放って来た。
『ヌヴゥンッ!』
その熱気に煽られ、マウントポジションを乱されたアークは、やがて体勢をひっくり返されてしまう。バキシムの体重に押し潰される前に、彼は渾身の力で巴投げを繰り出すのだった。
放り投げられた超獣の巨体が、険しい岩山に激突する。それはかなりのダメージになったはずなのだが、バキシムは痛みなど感じていないのか、傷も厭わず戦闘を再開していた。
『やはりこいつも、生き物としての恐怖を持たない個体なのか……!』
その両腕から連射されるミサイルを側転で回避しながら、アークは生物らしからぬバキシムの挙動に戦慄を覚えている。
怪獣を凌ぐ脅威を持つ、超獣。その名を冠する巨大生物には、「恐怖」という感情がない。それ故にどれほど傷付いても、立ち止まることなく戦い続けてしまうのだ。
1年間に渡り、その超獣達と戦い抜いてきた今のアークにとっても。彼らの無機質さには、悍ましさを感じずにはいられないのである。
『ぐあぁああッ!』
その僅かな精神の乱れが、命取りであった。
ミサイルの連射が止み、アークが反撃に移ろうとした瞬間。バキシムの象徴とも言うべき頭部の角が発射され、アークの胸に直撃してしまったのである。
たまらず吹っ飛ばされてしまったアークの巨体が、木々を薙ぎ倒しながら海岸線まで転がっていく。何とか立ち上がろうとする彼のカラータイマーは、すでに危険信号を発していた。
「あぁっ……! あ、あのウルトラマンアークが負けちまうっ……!」
「……!? おい、あれはなんだっ!?」
だが、その光景に旅行客達が絶望しかけた瞬間。海の彼方から飛んで来た無数の「軌跡」に、人々の目が留まる。
『……!?』
それが「砲弾」だとアークが気付いた頃には。すでにその全てが、バキシムの巨躯に降り注いでいた。
瞬く間に爆炎に飲まれ、転倒する超獣。その姿が、海の向こうから飛んで来た「砲撃」の威力を物語っている。
「見ろ……BURKだ! BURKのイギリス支部だぁっ!」
「すげぇ! BURK最強の艦隊が勢揃いしてやがるっ!」
それから間も無く。双眼鏡で遠方を観測していた旅行客達から、歓声が響いて来た。
彼らの言う通り、艦砲射撃でアークの窮地を救ったのは、BURKのイギリス支部だったのである。ユニオンフラッグを掲げる無数の戦艦を率いて、多々良島に駆け付けてきた彼らは、バキシム1体に持てる火力の全てを叩き込んでいた。
必ず勝て。敗北など我々が許さん。アークに対して、そう訴え掛けるかのように。
『……ははっ。ここまでお膳立てされて負けたりしたら、また菜緒に怒られちまうし。琴乃さんにも、「ぶったるんどる」ってどやされちまうなッ!』
その艦隊の勇姿を目の当たりにしたアークは、不敵な笑みを溢しながら。全身に力を込めて立ち上がり、再びバキシムと相対する。
『そうですよね……エース先生ッ!』
イギリス支部の艦砲射撃を受けて満身創痍になってもなお、不屈の超獣は躊躇うことなくアークに襲い掛かっていた。そんな怪物の魂を鎮めるべく、アークも一切の迷いを断ち切り、眼前の「命」を絶つ決意を固める。
ウルトラマンエースの教えを受けた、弟子の1人として。
『ジェミニギロチンッ!』
バキシムの両手から放たれるミサイル掃射を掻い潜り、アークは頭部のウルトラホールから円形の光刃を発生させ、一気に投げ付ける。
その刃は瞬く間に超獣の両腕を斬り落としてしまったのだが、恐怖を知らぬ怪物は間髪入れず、大顎から火炎放射を放って来た。
『アークバリヤーッ!』
だが、恐れることなく突き進むのはこちらも同じ。アークはそう言わんばかりに両腕を突き出し、光の防御壁を出現させる。
その壁で炎の直撃をかわしながら、彼は熱気に怯むことなく前進して行った。両者はやがて、拳が届くほどの距離にまで近づいて行く。
『メタリウム……アークシュートッ!』
そこまで接近した瞬間、アークはバリヤーを後方に放り捨てながら腕をL字に構え、至近距離から強力な光線を叩き込む。その一撃を顔面に叩き込まれたバキシムは、痛みを知らぬまま「死」へと吸い寄せられるかのように、後退りして行った。
『……これで、終わらせる!』
だが、恐怖を知らない超獣は死ぬまで戦うことを止めようとはしないのだ。それをよく知っているアークは、今度こそ決着を付けるべく、「最後の必殺技」の発射準備を開始する。
両手を天に掲げたアークは、頭部のウルトラホールにエネルギーを集中させると。己に秘められた全ての力を、一つの光球として具現化させていく。
やがて、その光球を両手で握り締めたアークは。体勢を立て直し、こちらに突進して来る哀れな超獣へと。
『スペース……アァークゥッ!』
全力を込めて、投げ付けるのだった。ウルトラマンアークという超人に秘められたエネルギーを、限界まで凝縮させた光球は――バキシムの巨体に触れた瞬間。
超獣の肉体すら一瞬で吹き飛ばすほどの、大爆発を引き起こしたのだった。天を衝く爆炎が超獣の肉片を四散させ、この戦いの終焉を周囲に報せていく。
「アークの勝ちだ……! ウルトラマンアークが、勝ったんだ!」
「やったあぁあ! 俺達、助かったんだあぁあ!」
スペースアークの炸裂を目の当たりにした旅行客達から、爆発的な歓声が上がった頃には。遠方から戦況を見守っていたイギリス支部の艦隊も、目標の沈黙を確信し、祖国へと帰還し始めていた。
「……あれが、ウルトラマンアーク。2年前にもこの地球を救ってくださった、栄光あるウルトラ戦士の1人なのですね。共に戦えたことを……光栄に思いますわ」
その司令官を務めていた、金髪を靡かせる色白な美少女――オリヴィアも。縦ロールに巻かれた髪をか細い指に絡ませながら、安堵の笑みを溢している。
『やっぱり、BURKあってこその俺達だよなぁ。……さぁ、俺も早く兄さん達と合流しないとな! テェェイッ!』
去り行く艦隊を見送ったアークも、やがて先を急ぐように両腕を揃えて伸ばすと。一気に地を蹴り、大空へと飛び出して行くのだった。
旅行客達や艦隊に手を振りながら飛び去って行く彼の姿は、人々を苦笑させている。彼が度々見せている、ウルトラマンらしからぬ人間臭い仕草は――機械のような超獣とは、あらゆる面において対極のようであった。
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