ウルトラマンカイナ
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特別編 ウルトラカイナファイト part6
前書き
◇今話の登場ウルトラマン
◇八月朔日要/ウルトラマンアーク
2年前、怪獣や異星人の脅威から地球を救った若きウルトラマンと、その依代になった人物。頭部にある二つのウルトラホールと、体の模様にある青い差し色が特徴のシルバー族のウルトラ戦士であり、必殺技は腕をL字に組んで放つメタリウムアークシュート。現在の要は大学生であり、年齢は18歳。
※原案はmikagami先生。
「ちょっと、なんでシャトルバスが動いてないんですか! 運転手まで逃げてるとかマジありえないんですけど!?」
「もしもしお姉ちゃん!? 早く迎えに来てよぉ、電車もバスも全然動いてないし……ウソ!? 渋滞!?」
テンペラー軍団の襲来によって、東京が大混乱に陥る中。都内の大学生達も、慌ただしくキャンパスから避難しようとしていた。
講義が中断されたことに喜んでいる暇などない。次の瞬間には怪獣の攻撃が飛んで来るかも知れない、という焦燥感に追い立てられ、誰もが必死にキャンパスの外へと飛び出して行く。
「皆、落ち着いて! 実は俺、こう見えてバス免許持ってんだわ! とにかく乗れるだけ乗ってくれっ!」
「おぉっ、さすが佐渡パイセン! 頼りになるぜぇっ!」
「あれ? ミスコンの菜緒ちゃんはどこ行ったんだ!?」
「知るかバカ! そんなことよりさっさと乗れよ!」
彼らの暴走を阻止したのは、とある1人の大学4年生だった。バス免許を持っているという佐渡光の声掛けに反応し、大勢の学生達が通学用のシャトルバスへと群がって行く。
「ねぇ……ほんとに行くの? 今回の相手ってさ、結構ヤバい……よね?」
「兄さん達は必ず行くだろうからな。俺が行かないってのは……ダメだろ、多分」
その混乱の渦中からやや離れたところにある、学生用の駐輪場には。1台のレーサーバイクに跨る青年と、そんな彼の傍らに寄り添う1人の女子大生が居た。
入学から間もない新1年生でありながら、Fカップの圧倒的プロポーションとその美貌を以て、今年のミス・コンテストのグランプリに輝いた猫島菜緒。そんな彼女が心配げに見つめている同級生の青年こと、八月朔日要にはとある「秘密」があった。
「……あ〜あ。ウルトラマン様はこんなところにか弱い女の子を置いて、さっさと1人で戦いに行っちゃうわけですかぁ。ミスコン優勝者でもほったらかしにしちゃうわけですかぁ。寂しいなぁ〜心細いなぁ〜」
「菜緒、お前なぁ……」
「ふふっ、冗談冗談。怒んないでよぉ。……ちゃ〜んと分かってるから。要君が一生懸命、皆を守ってくれてたってことくらい」
要は2年前、ウルトラマンエナジーの「後任」として地球に現れた、第5の新人ウルトラマンとして戦っていたのだ。
その頃から、この重大な「秘密」を共有してきた菜緒は。自分だけが正体を知っている、自分だけのヒーローである要を、密かに想い続けているのだが。未だに、その胸中を素直に明かしたことはないのである。
「……分かってるよ。私は、ちゃんと」
先ほど上空に現れた、「イカロスの太陽」による人工のウルトラサイン。それを目にした要の様子を見れば、おおよその状況は察しがつく。彼は再び、ウルトラマンとして立ち上がらねばならなくなったのだろう。
もはや、ウルトラマンの力だけが頼りなのだ。その背を押して戦いに行くよう促すのは、当然のこと。それは、頭では分かっている。
「ほんと……やだなぁ」
それでも本心では。そんな使命になど背を向けて、自分と一緒にここから逃げて欲しかった。ウルトラマンという過酷な道になど、戻って欲しくはなかった。昨日までの穏やかな日々のように、ただの大学生のままでいて欲しかった。
地球の未来などより、自分と過ごす1秒を優先して欲しかったのだ。要がどれほど苦しい思いを抱えながら、1年間も戦い続けていたのかを、知っているが故に。
「菜緒……?」
「……ん〜ん、何でもない。ホラ、早く行かないと怪獣が来ちゃうよ! 皆を守るんでしょ?」
「……あぁ。守ってみせるさ、必ず。お前も早く佐渡先輩のバスで、少しでも遠くに逃げるんだ」
だが、この本心を悟られてはならないのだ。自分の気持ちが、要の枷になってしまうことこそあってはならないのだから。
菜緒はそんな葛藤を胸の奥にしまい込み、笑顔で要を送り出して行く。
どこか寂しげな色を残した彼女の笑みに、思うところを抱えながらも。要は促されるままに、バイクのエンジンを起動させるのだった。
「もし負けちゃったりしたら要君の正体、今度の動画で配信しちゃうからねっ! 私のパルクール動画、ますますバズっちゃうかなぁ〜?」
「負けられない理由を余計に増やすんじゃねーよっ!」
菜緒は光が運転するシャトルバスに向かって走りながら、軽やかに振り返ると。懸命に手を振りながら、自分なりの激励の言葉を送る。
その洒落にならない内容に怒号を上げながらも、要は苦笑を浮かべてバイクを発進させて行くのだった。光のバスと別れるように。菜緒の視線を、振り切るように。
「……絶対、ちゃんと帰って来てよね。ガチの告白、まだなんだから」
そして。遠くへと走り去って行く要のバイクを、寂しげに見送りながら。菜緒は独り豊かな胸に手を当て、「再会」が叶う未来を祈るのだった。
「……来たなッ!」
それから、僅か数分後。要を乗せたバイクが無人の街道に辿り着いた瞬間、その頭上に無数の瓦礫が降り注いで来た。
ウルトラマンカイナとテンペラー軍団の激突による「余波」は、この地点にまで及んでいるのだ。要は左右にハンドルを切り、スピードを落とすことなく紙一重で瓦礫をかわしていく。
「ぐッ!」
それでも「変身前」の身体能力が人間と同じである以上、全てを回避することまでは叶わない。墜落の際に弾け飛んだ瓦礫の破片が、要の頭部に命中してしまう。
「まだ……だァッ!」
だが、吹き飛んだのは彼が被っていたヘルメットだけであり。切れた額から血を流しながらも、要は全く怯むことなくエンジンを全開にしていた。
露わになった彼の鋭い素顔は、すでに「歴戦の勇士」の色を帯びている。正面から廃車が転がって来ても、要は躊躇うことなくそのまま直進し――車体に乗り上げ、空高くジャンプしていた。
「菜緒がいる世界を……この地球を、壊させるわけには行かないッ!」
そして着地と同時に、廃車を飲み込んだ爆炎を背にしつつ。瓦礫の雨を掻い潜るバイクが、最高速度に達した瞬間。
ハンドルから手を離した要はそのまま立ち上がると、勢いよくライダースジャケットの胸元を開く。そこには、彼がウルトラマンとして蘇ったことを示す「証」があった。
カラータイマーの輝きを彷彿させる、五角形の宝石のペンダント――「アーククリスタル」。
首に下げられていたそれを引きちぎり、天高く翳した瞬間。要の「変身」が、始まるのだ。
「――アァークゥッ!」
その絶叫に呼応したアーククリスタルから広がる閃光が、彼の全身を包み込み。やがて眩い輝きの中から「ぐんぐん」と、銀色の巨人が拳を翳して飛び出して行く。
無人となったバイクが力無く横転した瞬間、その巨人の全貌が露わとなった。
頭部のトサカに備わる、二つのウルトラホール。額に輝くウルトラスター。ウルトラマンリブットに近しい、複雑なラインを描いた模様と、青の差し色。アーククリスタルと同じ、五角形のカラータイマー。
その勇姿はまさしく、この次元における5人目の新人ウルトラマン――「ウルトラマンアーク」のものであった。カイナ以来となるシルバー族の戦士が、2年の沈黙を破ってついに降臨したのである。
『やはり、兄さん達も動き出している……! 俺も行きます! テェェイッ!』
両手を揃えて地を蹴り、マッハ3.5の速度で飛び上がったアークは。その音速を以て、「先輩達」の元へと急行する。
守りたいと願った女性がいる、この地球に真の平和を取り戻すために。
「……君の大切な人は、必ず私が守り抜いて見せる。思いっきり戦ってくれ、ウルトラマンアーク」
そして、菜緒を含む学生達を乗せたシャトルバスが、東京を脱出した頃。その運転手を務めていた光は、バックミラーに写し出されたアークの後ろ姿に微笑を浮かべていた。
ウルトラマンドクテラと共に、別次元の宇宙からやって来ていた「ウルトラマンフィスト」は今――佐渡光と名乗り、アークの復活を見届けている。その背中に、「かつての己」を重ねながら。
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