要石
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第二章
「そうであるな」
「そこまでお考えですか」
「民も困らぬ」
地揺れが起こらぬ様になってはとだ、光圀は宮司に確かな声で答えた。
「そうであろう」
「それはそうですが」
「ならしてみる、ではな」
「これよりですか」
「石がどれだけの大きさか掘って確める」
こう言ってだった、光圀は率いてきた者達に命じて石の周りを掘らせていった、そうしていったがこれがだった。
一週間経っても果てがない、それでだった。
宮司は光圀にこう言った。
「あの、流石にです」
「一週間掘ってな」
「はい、果てが見えぬのでは」
「地の真ん中はとてつもなく深くな」
「人では辿り着けず」
そうした深さでなくというのだ。
「鯰もです」
「人がどうか出来るものではないか」
「その鯰ですが」
宮司は光圀にあらためて話した。
「少し動いただけで」
「地を大いに揺らすか」
「そしてです」
そのうえでというのだ。
「多くのものを壊し人も巻き込む」
「恐ろしいものであるか」
「それがあまりにも酷いので」
それでというのだ。
「鹿島の神が鯰の頭と尾が重なっていた時に」
「その時にか」
「その上にです」
そこにというのだ。
「あの石を置いてです」
「鯰をそうそう動けぬ様にしたか」
「そう言われています」
「そうであるか」
「はい、ですから」
宮司はさらに話した。
「若しあの鯰に辿り着けたとしても」
「迂闊なことをすればであるな」
「鯰が暴れてです」
そうなってというのだ。
「そしてです」
「本朝の全てがどうなるか」
「わかったものではないかと」
あまりも恐ろしい地揺れが起こってというのだ。
「それは」
「そうであるか、ではな」
光圀は宮司の話をここまで聞いて述べた。
「これ以上は掘らぬ、そしてな」
「堀った後はですか」
「埋めておこう」
こう言うのだった。
「そうするとしよう」
「そうされますか」
「人の手ではどうにもならないものがある」
光圀は宮司にこうも言った。
「だからな」
「それで、ですか」
「うむ、だからな」
それでというのだ。
「これで止める、そして二度とな」
「確められませぬか」
「一週間掘ってまだどれだけの大きさかわからないだけでな」
まさにそれだけでというのだ。
「充分であろう」
「途方もない大きさですな」
「だからな」
「それで納得して」
「それでな」
そのうえでというのだ。
「よりとしてな」
「このことを終えますか」
「そうする、社を乱した始末はしかとしておく」
このことも言うのだった。
「だからな」
「このことはですか」
「終わりとする、そして石のことは後世に伝えよう」
こう言ってだった。
光圀はこの話を書き残させた、それでこの話は後世に残っている。
鹿島神宮には事実この石があり祀られている、見てみると直径二十センチ位しかない。だがそれでも地の中に続いていて。
その大きさは途方もないものであるという、その先には鯰がいるとも言う。ことの真実はわからない。だがこの石が恐ろしく大きなことは事実なのは間違いない、何しろ一週間かかっても掘り出せなかったのだから。光圀はそこから全てを察したと思われる、そしてもうこの石の周りを掘る者は一人もいない。一見すると小さなその石の果てまで。
要石 完
2021・6・9
ページ上へ戻る