絶撃の浜風
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
外伝 Tesoro italiano ~イタリアの至宝~ 00 プロローグ ぽんこつアル重
前書き
絶撃シリーズ外伝 ポーラ編 第0話です
佐世保とティレニア海(Ⅱ)の前に、この世界のもう一人のヒロインであるポーラの話に触れておきたいと思います
(2021年8月30日 執筆)
「何よ! またなのっ! もうっ!!」
右太腿の魚雷発射管を破壊され、霞は憤っていた
対戦相手の一人、ポーラの放った砲弾が、霞の右舷、61㎝四連装(酸素)魚雷の発射管に直撃し小破していた。実際の所、大したダメージではなかったのだが・・・・
霞がイラついていたのには訳があった。今月は、何の因果か三度続けてポーラの所属する艦隊と対戦し、しかもこれまた三度続けて右舷の魚雷発射管のみを破壊されていた
某鎮守府に於いて《ぽんこつアル重》と揶揄されるポーラに三度も立て続けに被弾させられていたのである
「いやいや、いくら何でもポーラさんの攻撃を三回も喰らうとか、有り得なくない?・・・・・ぷっ」
堪え切れずに思わず吹き出す陽炎
「・・・しかも、三回とも同じ魚雷発射管とか・・・・・それ、お祓いした方が、いいかも・・・・」
真顔で何かに憑かれていると言わんばかりの霰・・・・無論本気ではない
同僚の陽炎や霰にまでからかわれ、霞のプライドはズタズタだった
「まぐれ当たりにしたって、あり得ないったら!」
いつものように、厳しい口調で嘯く霞であったが、そんな態度とは裏腹に・・・・・・
彼女は・・・霞は密かに確信していた
《迂闊だった・・・・これは偶然なんかじゃない・・・・・あの《ぽんこつアル重》・・・何者なの?》
「・・・・・・・・・・・さて、どうしたものでしょうか?」
そんな霞の様子を見て、第二水雷戦隊旗艦・・・霞の直属の上司である神通は何やら思案していた
今日の演習は、第二水雷戦隊 vs 第七駆逐隊第二小隊+ポーラという陣容である。重巡に駆逐隊の小隊という謎編成は、某の意向による所謂ねじ込みである。何故そうなったのかというと、それはポーラと艦隊を組みたいという艦娘があまりいないからに他ならなかった
それは、皇紀2738年の秋
あの、佐世保とティレニア海とを股にかけた大戦、《第三次深海棲艦戦争》から、既に二年が経過していた
この年は、とある三人の艦娘たちにとって、その運命を左右する四つの出来事があった
一つは、今年12歳になる不知火が、この夏に彼女の人生を左右する大きな転機を迎えたばかりだった。無論まだ覚醒はしていない
そして二つ目は、この年の秋の終わり、11月25日に《浜風》がこの世に生を受ける運命にあった
そして三つ目は、
ザラ級重巡ネームシップ、ザラ
並びに
ザラ級重巡三番艦、いや・・・・四番艦ポーラ・・・・
この二隻の最強重巡姉妹が、本年度より某鎮守府に配属されるという出来事であった
四つ目の出来事については、今は未だ触れない事にしておこう
ザラの名声はここ日本においても聞こえており、戦艦並みの長射程と防御力、高い索敵能力と自力で制空を取れる汎用性・・・・
第二改装を控えた身でありながら、既に世界最強の重巡洋艦の呼び声も高く、広く知られていた
その一方で、妹のポーラの事は、日本では殆ど知られていなかった
だが、あのザラの妹という事で、来日当初は重巡としてそれなりに期待されていた彼女であったが、実際組んでみると、戦果に及ぼすポーラの貢献度は何とも微妙であった
最初の砲撃・・・最初の二発の命中率は非常に優れている。それはポーラと艦隊を組んだ経験のある者なら誰もが抱く印象であった
と言っても、その最初の一発目は大抵の場合目標から大きく外れ、明後日の方向へ飛んで行く。しかもその着弾が、演習海域封鎖で巡回する哨戒艇であったり、ブイであったり、果ては射撃演習用のターゲットであったりと、とにかくまともな着弾が殆どなかった。とにかく《何か》に当たるという意味での命中率は群を抜いていた
だがこの着弾を、ただの無駄撃ちに終わらせないのがポーラだった
ポーラの評価は、主に次の二発目の命中率に集約されていると言っていい。二発目に関して言えば、ポーラは必ずと言っていい程の命中率で敵前衛の駆逐艦に着弾させる。これは、某鎮守府では他に並ぶ者がない程で、弾着観測射撃に関しては稀有な才能と集中力を持つ艦娘・・・・それがポーラの評価の全てだった
だが、三発目意向の砲撃はどんなに撃っても全く当たらない。それ故ポーラの二発目はただのまぐれ当たりか、集中力を持続出来ないヘタレだ、などと噂されており、それさえ気をつけていればあとは絶対に被弾しないという認識が、某鎮守府中の艦娘達の間で定着していた
早い話が、ポーラは演習の度に必ず一発は当てるが、絶対に一発しか当てられなかったのである
ポーラの艦隊における戦果への貢献度は、精々駆逐艦一隻撃沈程度で、それ以上の戦果は現在までの戦績を見る限り皆無であった
にもかかわらず、ポーラは一番砲塔以外のスロットは全てRo.43水偵と五十八試Re.2000P アストーレserie2水戦、それと五十八試アンサルド・UB・シエルヴァC.45RPという、三式指揮観測機に似たあまり見かけない装備で埋められていた。連撃をする気が初めから皆無であるのは明白であった。せっかくの長射程を有効に使えるのは弾着観測射撃を含めてたったの二発、となると、流石に僚艦から不誠実だと思われても無理からぬ事であった(因みに補強増設スロットにはワインボトルが差し込まれていた)
極めつけは、彼女は演習にワインのボトルを持ち込んで、戦闘中にこっそり飲んでいた(みんなにはバレている)。仕舞いには酔い潰れて海上を漂うゴミと化すため、ポーラと組んだ艦娘たちは、戦闘終了後に《ゴミ》を曳航するという、余計な仕事が増える羽目になっていた
気がつくと、ポーラと艦隊を組もうという艦娘が、ただの一人もいなくなっていた。なので某提督がポーラとの艦隊編成を強制的に決め、それに従うのがここ、某鎮守府のローカルルールの一つとなっていた
要するに、ポーラと組む事は、某鎮守府名物の【罰ゲーム】と化していたのである
(2021年11月30日 執筆)
本日の演習も例に漏れず、ポーラの直撃弾は霞の武装、61㎝四連装(酸素)魚雷の発射管に被弾させたのみで、これといった戦果もなく終了した
そして最早某鎮守府の風物詩と化した、《ゴミ》の曳航で本演習は締めくくられた
「このクソ重巡! 何で酔い潰れてるのっ!? 普通にあり得ないから!!! ほんっと、冗談じゃないわっ!!!!」
アルコールの匂いをぷんぷんさせた《生ゴミ》をアンカーでグルグル巻きに拘束し曳航する曙は、もう爆発寸前だった
「誰よっ!? この《粗大ゴミ》を日本に持って来たバカはっ!!!!!」
「クソって言っちゃだめだよ曙ちゃん、ちょっと怒りすぎ。お通じ悪くなっちゃうよ?」
本日の罰ゲームのもう一人の犠牲者、朧が曙をなだめていた
「だってコイツ重すぎっ!! 今日はアタシたち二人しかいないのよ! ・・・ったく、あり得ないわっ!!」
「・・・まぁ・・・重たいよね・・・何でこんなに重たいんだろ?」
そう言いながら朧はポーラの大きく張り出した《バルジ》という名の胸部装甲に目をやる・・・・そして
そして今度は曙のささやかな地平とを見比べる
「・・・・曙ちゃんは、肩凝ったりしないよね?」
「・・・しないけど? 何で?」
「んーーー、何でもない・・・それより早くゴミ出ししてシャワー浴びようよ」
「うん、そーしよ。ところでコレ、産廃でいいのかしら?」
「・・・・多分」
(2021年12月2日 執筆)
翌朝、バッカンを回収に来た産廃業者が、泥酔したまま投棄されていたポーラを発見した。危うく産廃処理されかかったポーラであった
「もう、何やってるのよポーラァ! 危うくゴミに出される所だったのよ!」
夕べから行方がわからなくなったポーラを寝ずに探し回っていたザラは、ポーラの無事な姿を見てほっとしたのか、その端正な顔をぐしゃぐしゃにしながら泣き怒りしていた
「ザラ姉さまごめんなさい・・・ポーラァ、もう演習中に飲んだりしません・・・・多分」
「もう・・・・姉さまに心配掛けさせないで・・・ぐすっ・・・」
「姉さま泣かないで。ポーラはほらっ!何ともありませんよ~」
「・・・ちゃんと提督にも謝りに行くのよ・・・それと、早くお風呂に入りなさい。臭うわよ」
「おっかしいなぁ? ポーラ、夕べの記憶がありませ~ん。何であんなトコで寝てたんですかねぇ?」
「いいから早くシャワー浴びちゃいなさい!」
「は~い」
ポーラは部屋に戻ると、生ゴミやらなんやらの複雑な臭いのついた衣類を脱ぎ捨て、シャワールームに入る。ちゃっかりプロセッコの小瓶を持ち込む事も忘れなかった
ザラの心配を余所に、今日のポーラは何だかとっても気分がよかった。その理由は、昨日の演習で試したユニットが、ポーラの要求を充分に満足させるものに仕上がっていたからであった
シャワーで体の汚れを洗い流しながら、時折プロセッコのしゅわしゅわを堪能する。もうすっかり気持ちよくなったポーラは、無意識にカンツォーネを口ずさんでいた
「♪~Sul male lucica~l'astro d'argento~Placida e l'onda~prospero e il vento~♪~ふぁ~きもちいい~♪」
脱衣所に無造作に脱ぎ捨てられた衣類を拾い上げ、ザラはそれを洗濯機に入れる
「・・・【Santa Lucia】 なんて口ずさんで・・・ナポリが恋しくなったの? ポーラ?」
子供の頃からよく聴かされたポーラのどこかふわふわとして可愛らしく舌を巻くカンツォーネ・・・・それは、ザラの耳元に心地よく響く
ポーラが歌うと、フィレンツェの街を行き交う人々は振り返り、しばし足を止めたものだ。その筋のスカウトに声を掛けられたのも、一度や二度ではなかった
もし、ポーラが艦娘として覚醒する事がなかったら・・・・・カンツォーネの歌姫として生きていたのかも知れない・・・あの子のおおらかで物怖じしない性格はそういう生き方に向いているような気がする
それだけに・・・ポーラと共に日本へ来た経緯を思うと、ザラは少しだけ胸が痛んだ。この子は陽の当たる場所で生きるのが似合っている・・・
そんなザラの声色を、ポーラは聞き逃さなかった・・・声の調子だけで、ザラが落ち込んでいるのがわかってしまう・・・・
「え~、違いますよぅ・・・・まぁ、違わなくもないですけどぉ・・・昨日はですねぇ、ポーラとってもと~ってもいい事があったんですよぅ!」
そんな言葉とは裏腹に、ポーラはナポリ統連合軍司令部や、フィレンツェの実家での生活に想いを馳せる
確かに、あの群青とペパーミント・ブルーの織りなすサンタ・ルチアの海を眺めながらキャンティ・クラッシコを堪能する暮らしは堪らなく幸せな時間だった・・・・でも、本当は・・・モンテフィオラッレのワイナリーに引き籠り、サンジョヴェーゼの香りに包まれて余生を過ごすのがポーラの夢なのだが、それはザラの前では言わなかった
「・・・昨日?・・・・・・あぁ、アレの事?」
ザラの問いかけに、ポーラは我に返る。そう・・・・ここは日本なのだ
「そうなんですよぅ! やっぱりカス~ゥミは違いますぅ! とってもいい動きをする極上の的なんですよぅ! ポーラとーーーーーーーっても楽しかったですぅ! 大満足ぅ!」
「そう・・・よかったわね・・・・・でも、あんまり霞ちゃんばかり狙ってると気付かれるかも知れないから気をつけなさい・・・・・・・・・・あ、そうそう!」
「?・・・どうかしたんですかぁ?」
「アレで思い出した。夕張さんがポーラの事呼んでたわよ。あとで工廠に来てって」
「?・・・なんでしょう???」
「なんでって・・・・昨日のテストの報告に決まってるでしょ! 上がったら、早く行くのよ!」
「は~い・・・・・・・ザラ姉さま、今日はいつもよりちょっとだけ怒りっぽいです・・・なんででしょう?」
「いいから早くしなさい!」
「は~い・・・・・・・また怒られてしまいました・・・」
(2021年12月7日 執筆)
某鎮守府地下工廠にて
あれからポーラは、風呂上がりにワインガチャで引き当てたグランサッソの四本セットを全部開けてしまい、足元もおぼつかないまま夕張の元へ向かったのだが・・・
「・・・・・なんで来ないのよ、ポーラは!」
またどこかで酔い潰れているのではと思い、近くを探しに行こうとした夕張だったが、工廠の扉を開けると、目の前でうつ伏して力尽きているポーラがいた
「・・・ほんっとに、どうしてこんなにだらしないのかしらポーラは?」
流石にもう慣れたとはいえ、節制するという事をまるで知らないポーラに空いた口が塞がらなかった。一向に改善する様子はない
聞いた話では、子供の頃はザラよりもしっかりしていたらしい(とても信じられないが)
「・・・・余程ショックだったんだよね・・・・・・」
ポーラがこんなになってしまった理由は・・・・・一応は見当がついてはいる。夕張のような女が、こうしてポーラの世話を焼いているのも、事情を知ってしまったからというのもある
「・・・・ん・・・・あふ・・・・・・すぅ~~~~~・・・・・・」
先に来ていたシロッコは、もうすっかり待ちくたびれてしまい、ソファーの上で丸くなって眠っていた
「おーい、ポーラァ! 起きろ~! シロッコも起きなさい!」
「・・・・・・う・・・・・ん?・・・あれぇ?・・・・ここどこ~~~?」
「やっとお目覚めかしら? ほらっ、さっさとブリーフィング始めるわよ!」
「・・・・へ?」
「・・・・で、どうだった? 一応、飛行試験では15㎞超えたら厳しいって言っといたのに・・・・無茶するわよねあなたも」
「・・・えっとぉ・・・・・何のお話でしたっけ?」
「んもうっ! シエルヴァ以外に何があるっての!?」
「あぁ・・・そうでした~・・・・とーーーーーーーーっても、よかったですぅ。気持ちよく撃てましたぁ」
「そう・・・とりあえずホッとした・・・・といっても、実戦レベルの動きに対応するには、あの距離が限界・・・・反応速度もカツカツだし、ポーラのレベルには程遠いわ・・・はぁ・・・」
「なんでしたらポーラが制御やりますぅ?」
「・・・え? そんな事出来るの?」
「RPの制御と似たようなものだから、出来ますよぉ・・・・多分」
「・・・・いや、いい。それじゃあポーラの負担を増やす事になるし、何か負けた気がするから」
「でもぉ、テストだけでも、やってみません?」
「・・・・まぁ・・・・テストは必要よね・・・・・・仕方ないわね・・・」
「あとぉ、姿勢制御だけで空中静止させるのはぁ・・・・凄いとは思いますけどぉ・・・・・これ以上距離が伸びたらもう無理だと思いますよぉ?」
「・・・・それを言うかぁ・・・・・・出来ればオートジャイロで実現したかったんだけどね・・・・」
「実現してますよぉ。ゅう~ばりぃは凄いですぅ! 天才ですぅ~~!・・・・・でも、これ以上は流石にぃ・・・・・」
「・・・・ポーラの言う通りよ・・・・・・・・・・・・・・・・わかった。回転翼にも動力設けるわ・・・・二重反転プロペラと・・・可変ピッチも入れる・・・・・これで飛躍的に精度が上がるはず・・・・・あぁ、貴重なオートジャイロが只のドローン化しちゃうのかぁ・・・・」
そんな夕張を見て、ポーラはしみじみ思う・・・
「日本行きが決まった時ぃ、アクィラがいないんで正直退屈すると思ってたんですけどぉ・・・・・ゅう~ばりぃがいてくれて、ほんとにほんとによかったですぅ」
「まぁ・・・アクィラにポーラの事頼まれてたからね・・・・てか、よくシロッコ連れて来れたわね?」
「シロがいないとポーラお手上げですぅ・・・・ナポリ統連合軍司令部とグレちゃんにはちゃ~んと許可を貰ってますよぅ」
「・・・シロ本人の許可は? 来たばかりの頃はすっごい帰りたがってたでしょ? 今はすっかり馴染んでるけど」
目をこすりこすりしながら、シロッコがぼそぼそと喋り始める
「だって、寝ててもあんまり怒られないし・・・・あと、間宮のスイーツ美味しいし」
「ポーラのアシストって事で、演習参加、免除されてるからね・・・叱る理由もないし」
重巡としてはポーラのみが実装可能な稀少な回転翼機、アンサルド・UB・シエルヴァC.45RPの試験運転の補佐役として、シロッコはポーラに随伴してきた事になっていた。いつも寝ているのは、夜勤明けで疲れているからだと某提督が府内に告知していた。そのため誰にも咎められる事なく、大手を振って昼寝が出来る某鎮守府は、シロッコにとっては正に楽園であった
この告知は、真実ではない。シエルヴァの試験運転中のシロッコは、むしろ暇であった。彼女の本業は、シエルヴァを使用しない射撃テストの時のアシストにあったのだが、この事実は最重要機密として一部の艦娘以外には伏せられていた
「それにしても、誰に怒られてたの?」
「グレちゃんがすっごい怒るの~。あと、アクィラ怖い~」
「へぇ、意外~。アクィラってそんなだったっけ?」
「アクィラはですねぇ~、いつもはと~っても優しいんですけどぉ・・・・キレると笑いながらほっぺたをぎゅ~~~~~~~っ、と抓るんですよぅ・・・・アレ、すごく痛いですぅ」
「でも、二人ともつねられるような事をしたんでしょ? 自業自得だから」
(2021年12月14日 執筆)
「このあと、どうしますぅ?」
「ポーラの言った通り、【アルテミス】に制御を任せてみましょう。テストデータは多いに越した事はないしね。そのあとすぐに改装に入るわ。あと、Ro.43だけど・・・・」
「Ro.43には愛着ありますけどぉ、流石にもう無理ですねぇ・・・・アストーレだけで十分ですぅ。それにぃ、いい加減、二番砲塔を積めってみんながうるさいんですよぉ」
「それじゃあRo.43はdue(2号機)と差し替えて、それでしばらく様子見しましょう・・・・ごめんね、ポーラ・・・・シエルヴァの方は、改装後もシステムの再構築でしばらくかかると思う」
「いいですよぅ。ポーラァ急いでませんしぃ、のんびりいきましょう~♪」
「シロも~、早く終わったらお昼寝出来なくなるからぁ、ゆっくりでいいよ~」
「あ、あんたたちねぇ~(汗)」
「それよりぃ~、ゅう~ばりぃ~・・・・」
夕張とポーラは、工廠の奥に置かれているコンテナに目をやる
「うん・・・わかってる・・・・」
夕張はポーラに促されるまま、今朝方某鎮守府に納品され、工廠に搬入されたばかりのコンテナを解放する
そこには、ポーラ達の故郷、イタリアはジェノバのアンサルド社から送られてきた203mm/59連装砲cinque(5号機)と、大量の交換用スリーブ、そして砲弾が収められていた
「差し当たって一基、ようやく完成ね・・・」
「ポーラァ、まさか丸二年もかかるとは思わなかったですぅ~」
「仕方ないわよ・・・製造プラントは解体して無くなってるんだし、殆どハンドメイドみたいなもんなんだから。 Fase砲弾の製造プラントが再稼働しただけでも良しとしましょう」
「早くザラ姉さまに使って欲しいですぅ~」
「・・・・まだよ!・・・わかっているでしょ?」
「・・・・・わかってますよぅ・・・・」
「こいつにこれを載せる・・・・六十試疑似射撃指揮装置アルテミス Versione degradata・・・・これは、私にとっても未知への・・・ポーラへの挑戦だから・・・・」
そんな夕張を見て、ポーラは改めて思う
あの、フィレンツェの美しい街並みと・・・・モンテフィオラッレの葡萄畑の香しい香りとに別れを告げてきたのはとても淋しかったけど、その甲斐はあったと・・・・
何故ならそれは・・・・
極上のワインにも勝る、至福の時をポーラに与えてくれていたから・・・・・・
第二水雷戦隊詰め所にて
先日までの演習以来、ポーラに対し、ある種の疑いの目を向けていた霞であったが、その翌朝、何故か神通に呼び出されていた
「霞ちゃん・・・・次の演習から、二水戦の旗艦代行を命じます・・・やれますね?」
「・・・え?・・・・・・ちょ、ちょっと待って神通姉さん! いきなり何で?」
「もうそろそろ頃合いだと思ったからです。やるからには、ぬるい艦隊指揮は赦しませんからそのつもりでいて下さい」
「え・・・」
「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
唐突に第二水雷戦隊旗艦を命じられた霞は、陽炎たちだけでなく、神通をも従えなければならなくなった。当然の事ながら、ポーラの事を気にかけるどころではなくなったのである
Pola 01 イタリアの至宝 へ続く
ページ上へ戻る