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ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~

作者:ULLR
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フェアリー・ダンス編
新世界編
  新たな始まり

 
前書き
遅くなりました。 

 




無駄に豪華絢爛な廊下の真ん中を堂々と歩きながら待ち人達がふんぞり返ってるだろう部屋の前にやってくる。


「……お兄様、相変わらずそうで何よりです」


「ありがと、沙良」


「嫌みですけど……」


最愛の義妹と和解し、家族の一部との関係を修復したのは1週間程前の帰還直後だ。

まあ、そこら辺のどろどろしたいさかいは後々語ろう。

そんなわけで、お優しい(と書いて実はその真逆である)お祖父様は立場上狙われやすい俺が自衛出来るまでに回復する間の護衛を我が義妹に命じたのだが、心境的には非常に複雑である。

扉の前に着くと俺はコンコン、と扉を叩き、返事を待たずに中へ1人で入る。部屋の主が不要だと言うからである。


「御両名様ともお久しぶりです」


「うむ」


「元気そうで何よりだ」


形だけの挨拶をしてから、恒例と言っても過言ではない、視殺戦が始まる。この2人とはそういう関係だ。

「……長引けばお互いの精神衛生上良くない。故に結論だけ言おう。司法取引を貴殿に薦める」


「……なるほど、思っていたよりましな内容ですね」


「……政府とて、貴殿を嫌っているわけではないのだよ。故にこういった非合法な取引も提案するのだ」


「了解しました。受けましょう」


「内容も聞かずに?」



「拒否権など無いでしょう?」



そう言って人の悪い笑みを浮かべると、天井を指差す。否、天井に偽装されたホログラフィックの奥、ライフルを構えた10人もの武装集団を指差す。


「流石だな、感知能力は健在か……」


「むしろ、2年に及ぶ殺しあいの中で洗練されたようですなぁ」


ククク、と笑う2人は次の瞬間に凍りついた。

どさどさ、と落ちてきた武装集団と後頭部に添えられた拳銃、それを持っているのは緋色の目をした少女だ。


「結論だけ言うのでしょう?早いこと済ませて下さい。こっちはまだ全快ではないので」


「ひっ……」


沙良はカチリ、と音をたてて2つの銃の撃鉄を起こす。今どき珍しいリボルバー式の小銃だが、恐怖を煽るには十分だ。

だが、悲鳴を挙げたのは彼女の実質の上官である幕僚長だけ(あくまで擬似的なものなので、処罰することは出来ない)、俺の上官である総帥はピクリとも動かない。

というか、天井に沙良が居るのを気づいていた。

嫌なやつだが、実力は向こうの方が上なので気にくわない。


「いいだろう、簡潔に言ってもいいが、どうせ世間が今、何を騒いでいるか知らないだろうお前のために少し長話をすることになろう。座れ」


フン、と鼻を鳴らして正面の椅子に腰かける。


「約300人のSAOプレイヤーが未帰還である」


「なっ!?……どういう――」


「聴け。原因は不明。茅場晶彦は死亡が確認されている。故に彼の陰謀でない。どう考える?」


「現在はどこがサーバーを管理している?」


「『レクト・プログレス』のフルダイブ技術研究部門。代表は須郷信之」


「そいつクロ。捕まえて拷問して吐かせろ」


「……確かに怪しくはあるが、証拠がない以上、立ち入りもできん」


「で、俺に裏を取ってこいと?」


そう言うと、総帥は長方形のパッケージを放ってきた。

オンラインゲームのパッケージだ。タイトルは『アルヴヘイム・オンライン』。


「これは?」


「そこが発売しているフルダイブ型MMORPGだ。魔法あり、完全スキル制。そこで、とある写真が撮られた」


総帥が懐から出した写真は荒かったが、俺に衝撃を与えるのには十分だった。


「……アスナ!?」


間違いない。見間違うはずがない。憂いを含んだ表情からは悲壮感が漂ってくる。


「彼女もまた、未帰還者の1人。ちなみに、レクトのCEOの娘だ」


マジですか……っていうか彰三さんの娘かよ。


「場所は世界樹という場所だ。行くか?」


「……相変わらず回りくどいことをするやつだな。どこで俺の交友関係を洗ったか知らんが、行くに決まってる」


「そう言うと思ったよ。1つ、良いことを教えてやる。ALOはSAOのコピーサーバーで動いている。この意味をしっかり考えろよ」


聞きたいことはもうない。総帥から写真とそのデータの入ったメモリー、それとゲームパッケージを奪うと(つまり了解を得ないで持ち去った)その場を後にした。


帰りの車で沙良がおずおずと話掛けてくる。


「あの……お兄様」


「どうした?」


「実は私……そのゲームのユーザーなのです」


「……マジでか。こいつの噂は?」


俺が写真を見せながら尋ねると頷きながら答えた。


「人影があったというだけの話ですが……GMという説が優勢ですね」


「ふむ……」


沙良がユーザー、これは中々計算外だったが、熟練者がいるのはなかなか……いや、待てよ?


「沙良、リアルにこれをやってる知り合いは?」


「友人1人と一緒に始めました。その子も兄がSAO被害者のようです」


……その瞬間、俺はその人物の苗字をほぼ確信した。これまでの経験で世間が意外と狭いことを知っている。

同時に、今回の件を解決するシナリオを高速で組み立てながら、菊岡に電話を掛ける。


『どうしたん―――』


「プレイヤーネーム『キリト』、『エギル』の住所を調べろ」


『はっ?どういう―――』


「5分以内。メールでいいから送れ」


ピッ、と通話を切ると、?マークを頭の上に浮かべている沙良の顔を見る。


「沙良、その友達の苗字は『桐ヶ谷』か?」


「………!?う、うん」

沙良は俺の突飛な発言とその思考回路を熟知しているので、余計な口を挟まず、同時に俺の発言から、意図したことまでを正確に読んだ。


「決行は2ヶ月後、それまでに仕込みは終わらす。――頼んだぞ」


「任せて下さい。お兄様」


その目はまるで、『レイ』のようだった。









_____________________








眼前の巨大な液晶画面に映っているのは無数の数字や記号の羅列。似たようなウインドウが幾つか開いているが、中心にあるものだけは次々と書き換えられていた。

驚くべきはその作業の速さ、エラー表示が出ているウインドウを目にも止まらぬ速さで片付けていく。
作業開始から30分でその作業は終了した。


「ふぅ……」


集中のため、遮断していた周囲への意識を再び解放する。

おもむろに手を伸ばしてマウスで『Object view』をクリック。


画面内に2振りの大太刀が現れた。


「久しいな、相棒……もう一度、俺と戦ってくれ」


当然、返事などはなかったが、彼は刀が了承の意志を示したの感じた。







____________________________





Side 沙良

自室に入り、ベットの脇に置いてある第二世代フルダイブマシーン、《アミュスフィア》を見る。クラスメイトに誘われてALOを始める時に購入したものだ。

薦めてきた彼女――直葉も他のクラスメイトに薦められたらしい。

もともと、クラスの人達とは会話が無く、いつも1人で読書をしていた。嫌でも義務教育である中学課程を修了しなければならないのは、既に仮にも自衛官として働いている彼女としては少々、複雑な気持ちではあった。

そんなある日のことだ――


「ちょっと、いい加減にしてよ!」


「いいじゃん、別に~。桐ヶ谷さん推薦組でしょ?俺らもだからさ、帰りにゲーセン行こうぜ」


「だから、用事が有るって言ってるでしょ。悪いけど、付き合えないから」


「え~ちょっとだけだからさ、な?」


放課後、教室に居るのは彼女達4人と私だけだった(男女比3:2)。

クラスメイトの桐ヶ谷直葉はクラスでそこそこの人気がある女子だ。

原因は多分、胸。私より大きい……いや、別に羨ましい訳じゃ、ない……。

今日、彼女は日直で当番の仕事をしていた。群がってる男共は……まあ、だらだらしてただけだろう。私は寝てた。昨日の演習がキツかったのだ。

私は存在感が無い割には席は真ん中だ。存在感が無いことは気にしてない。むしろ、眼鏡(伊達)をして、髪も面白げの無いポニーテールにしてそれをブーストしている。

目の色も変えるために、黒のカラーコンタクトをしている。さらに前髪を垂らし、陰気キャラを作っている。

ともかく、桐ヶ谷さんには悪いが、私は関係ないので帰らせて貰う。

そう思って立ち上がった私に桐ヶ谷さんがドンと、ぶつかる。仕方ない、あの野獣から逃れるために後退していたのだから。

私は衝撃で落ちた眼鏡を拾うと、再び歩き出そうとして、自分の良心に負けた。


「桐ヶ谷さん、嫌がってるんだからその辺にしたら?」


恐らく、中3の2学期になって彼らは始めて授業以外で私の声を聞いたに違いない。

私は眼鏡を一旦、自分の机に置くと、彼らを殺気を込めて睨みつけた。

……素人にはただ睨まれた位にしか感じないだろうが(それに彼らに目は見えていない)。


「あぁ?何だ水城。おめえに用はねぇんだよ。引っ込んでろブス」


……イラッ

ツカツカと歩み寄って胸部に一発入れる。

ドカァッとすごい音をたてながら教室の後ろ(約4m)まで吹っ飛ぶ。まあ、空手部だから死にはしないだろう。

ポカーンとする一堂。吹っ飛ばされた男子はまだ現実に帰ってこれて無いようだ。

私は髪を掻き分け、素顔をさらしながら言う。


「……別に、自分の面に愛着は無いけど、女にそれを言うやつは最低だから」


開けていた窓から風が入り、さらにハッキリと私の顔を彼らに見せた。

――その左目は緋色(ぶつかった時に取れた)。

その眼光が彼らを絶対零度の温度で包む。

数秒後、彼らは化け物を見たような叫び声をあげて去っていった。それから、何となく下駄箱まで無言で2人で歩いていった。


「あの……」

「何か」

「えっと、さっきはありがと。助けてくれて」

「女子剣道部のエースには余計な横槍だったかな、とは思ったけど……竹刀無かったしね」

「あっ、そっか。今度から持って置くよ」

さらっと物騒なことを言う彼女に向かってクスッと吹いてしまう。それを見た桐ヶ谷さんは心底驚いた顔をする。……失礼な。


「水城さん、前髪あげたら可愛いじゃん。何で隠すの?」

「…………」


存在感無くすためとか言ったらどうなるだろうか。とりま、真実の一部を話す。


「これ」


カラコンが外れたままの左目を見せて、右目も外す。


「わぁ……!」

「な……何で、そんな詰め寄ってくるの!」

「綺麗……」

「良い眼科……紹介するわよ」

「これ、隠してたの?」


無視かい!!


「そう。虹彩の異常。教師が五月蝿いの」

「へ~大変だね。……大丈夫、私は綺麗だと思うよ」

「……………」


この目を綺麗だと言ったのは家族以外では始めてだ。因みに、バレたのも始めて。


「桐ヶ谷さん、用事があるんでしょ。早く帰った方がいいわよ」

「……用事、こっちなんだ」


そう言う桐ヶ谷さんの声には憂いがあった。

やがて、目の前に大きな病院が現れた。


「ここ?」

「うん、お兄ちゃんが入院してるんだ」


声はさらに寂しそうになる。


「お兄ちゃん、あのゲームの被害者なの……」

「え……!?」


余りにもビックリしたので、思わず、大声を出してしまう。


「ど、どうしたの?」

「……私のお兄様も、同じ」


自分から死にに行った気違いだけど。


「そう、だったんだ……って、お兄様!?」


しまった……


「私の家、ちょっと古いから……」

「へ、へえ」


世が世なら華族。というのは彼女のために言わないで置こう。


「それじゃ」

「ま、待って水城さん!!」

足を止めて振り返る。

「友達にならない!?」


……は?


「えっと……桐ヶ谷さん?」


血迷いましたか?


「あたしは沙良って呼ぶから、沙良は直葉、もしくはスグと呼ぶように」

「……いいけど」

「よし、じゃまた明日ね、沙良」

「……さようなら、直葉」


そんなこんなで、お互いを名前で呼ぶようになり、彼女がALOを始めるときも誘われてプレイようになったのだ。




アミュスフィアを被り、今日の冒険に思いを馳せる。

待ち合わせ時刻まではあと10分、生真面目な彼女はもう中に居るだろう。


「リンク・スタート」


始めて出来た友人、彼女は私にとって太陽のような人だ。

このゲーム中にお兄様が言う悪意があるとしても――



『貴女には、指一本触れさせはしない』



そう決意しながら、彼女は仮想世界のゲートをくぐった。


 
 

 
後書き
さて、沙良がこれから活躍します。兄以上に(笑) 
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