アーチャー”が”憑依
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二十話
前書き
遅ればせながら、あけましておめでとうございます。
「ふっ!」
「はぁっ!」
ネギとフェイト、二人の拳がぶつかり合う。ガギィ! というとてもではないが拳が出しているとは思えない音と、周りに衝撃波をまきちらしながらだ。戦況は互角。ネギは己の戦闘技術を駆使し、何とかフェイトと渡り合っていた。
(基本は中国拳法。これといった技は出していないが、間違いないな)
戦いの歌を使用しているとはいえまともに受ければ骨が砕かれる様な拳をさばきながら、ネギは冷静にフェイトの動きを観察する。攻撃を繰り出す時の僅かな癖や、技後硬直の瞬間を見極めようとしているのだ。それも全ては勝利を掴み取るため。
”心眼”。歴史に名を残す英雄の様な才を持たぬ彼が得た力。修練・経験の積み重ねによって得られる物。得られた情報と戦闘経験に基づく冷静な状況判断によって活路を見出すスキルだ。このスキルは彼の戦いの中核を担っているといっていい。今も過去の膨大な戦闘経験からフェイトの攻撃をしのぐ術を導き出し、そして戦いながら相手の情報を収集することで勝利への活路を見出そうとしているのだ。
「驚いたな」
「何がかね?」
しかし相手も並の実力では無い。自分より劣っているはずのネギがここまで自分と戦える絡繰を察していた。
「君は戦いの最中に成長……いや、敵である僕に対して最適な戦い方を身につけている、かな」
「…………お褒めにあずかり光栄だな」
口ではそういうものの、ネギの顔には当然笑みは無い。当然だ、これほどの実力者ならば気付いているはずだ。ネギは戦えば戦うほど、手ごわくなっていくということに。そしてもう一つ、彼ならば……ネギに対してどう戦えばいいかも検討がついていることだろう。
「そうだね。まずは……」
フェイトの魔力が高まっていく。何らかの魔法を行使しようとしているのだ。だが、ネギはそれを阻止することは出来ない。うかつに入り込めば不味い。そのことをこれまでの戦いで理解しているからだ。故にネギは、フェイトの魔法を黙って見ているしかない。
「戦い方を変えようか」
高まっていた魔力が霧散し、フェイトの魔法が成ったのだと分かる。そしてフェイトの右手には、ネギの中にある大英雄の斧剣を彷彿とさせる、岩をくりぬいて作った様な巨大な剣が握られていた。
「いくよ」
「っく!」
虚空瞬動で接近したフェイトは巨大な岩剣を容赦なくネギへと振り下ろした。今自分が張っている障壁程度なら紙の様に切り裂くだろう斬撃を、ネギは思わず……
「へぇ、どこから出したんだい? それ」
「企業秘密だ」
投影した西洋剣で防いでいた。決して見せまいと思っていた魔術、それを使わざるをえなかった事に苦虫をかみつぶしたかのような顔をするネギ。だが、仕方がないといえば仕方がないだろう。ある程度把握し始めていたとはいえフェイトのスペックはネギの上を行く。
更には、フェイトの剣術スキルは全くの不明だったのだ。もしこの戦いを第三者見ていたら、きっとネギにこういっただろう。今の攻撃をよく防いだな、と。
「まぁいいや。おしゃべりはここまでにしよう。そろそろ、千草さんも不味いだろうしね」
「そうだな。終わらせよう。勿論、私の勝利で」
二人が同時に剣を構え、身に纏う魔力を高めていく。ここからは決着が着くまでノンストップ。手加減無のフルスロットルで駆け抜ける。
二人は同時にその場を駆けだし、全く同じ動作で剣を振り下ろす。そして、岩剣と西洋剣が、二人の間でぶつかり合った。
「アレは……なるほど、確かに最強の一手だ」
「どうしたんですか?」
刹那がこのかを奪還するとほぼ同時にこの場に現れた巨大な魔力。その魔力の持ち主を、スナイパーライフルのスコープを覗いていていた真名はしっかり捕えていたのだ。
「なに、近衛は無事刹那が取り返した。そして、スクナもじき倒されるだろう」
「このかは助かったの!? よ、よかったぁ。……って、あの鬼が倒されるって、一体どうやってよ」
「あそこだ。考え得る限り、最高の助っ人が来てくれている」
真名が指さす先を明日菜とのどかは眼を凝らして見る。指の先には何らかの光源があり、見やすくなっていることと、ネギからの身体強化のおかげで視力が向上していることもあり、二人は何とか二つの影の姿を捕えることが出来た。二人が捕えた影、その正体は……
「あ、あれって……」
「私達のクラスの……」
「茶々丸さん!?」
「エヴァンジェリンさん!?」
二人にとっては普通のクラスメートであったはずの二人だった。
振り下ろし、薙ぎ払い、切り上げ。二人の間を目まぐるしい速度でぶつかり合う岩剣と西洋剣。互いに一歩も引かず、ただ相手を切り裂かんと一心不乱に剣を振る。
「この魔力は……」
戦場へと現れた巨大な魔力。それを察知したフェイトが間合いを開けることで打ち合いは終わりを見せる。だが、そんなことは構うものかと言わんばかりにネギはフェイトへと追いすがる。
上段から振り下ろされる西洋剣。だが、その剣撃は岩剣によって難なく防がれていた。
「君の余裕はアレか。闇の福音……頼みの綱が女性とは、情けないとは思わないの?」
「そのようなプライドは邪魔なだけだ。使える者は使う。それだけだ」
目前では互いの剣が相手の剣を押し切らんとギチギチと音を立てているというのに平然と口を交わす二人。そうは見えているが、両者には一切の油断はない。隙あらば相手を切り裂かんとしているのは想像に難くないだろう。
「何にせよ、私はスクナが倒されるまで耐えればいい。今の私では君に勝つことは難しいが、それぐらいならば可能だ」
「………………」
フェイトは答えない。ネギの言っている事は事実。確かに、今のネギではフェイトを倒し事はかなり難しいと言っていいだろう。だが、時間稼ぎなら充分。それだけの実力なら、ネギは持ち合わせている。
最早勝敗は決している。ならば速やかにこの場から去るだけだと頭の中で逃亡のプランを立て始めるフェイト。だが、ふと目の前にいるネギの顔が目に入った。その顔は、間違いないく……
「逃げる算段を立てるのは構わんが……そうやすやすと出来ると思うなよ」
笑っていた。
「ククク……」
エヴァンジェリンは高揚していた。久しぶりに全力で力を振うことのできる戦闘にだ。ここ十数年、魔力を封じられた彼女はストレスが溜まりにたまっていた。ネギが来てからは魔法球で模擬戦を行うことである程度発散していたが、模擬は模擬であるし、別荘内部の被害を考えれば規模を抑えたものにせざるを得ないのだ。純魔法使いタイプ。いわゆる大火力の固定砲大である彼女には、些かそれが不満だったのだ。
だが、今はどうだ。目の前には巨大にして強大な敵。そして、エヴァンジェリンにとってはどうでもいい被害を気にしなくて済む土地。憂さ晴らしにドデカい魔法をぶっ放すにはもってこいのシチュエーションだ。
「茶々丸、結界弾を」
「Yes,マスター」
憂さ晴らしに邪魔が入っては意味がない。結界弾如きでスクナを抑えられはしないが、それでも十数秒、エヴァンジェリンが詠唱するには充分な時間は得られるはずだ。
「リク・ラク ラ・ラック ライラック!」
久しく感じることのなかった膨大な量の魔力が一度に体から失われていく感覚。本来なら虚脱感を覚える筈のそれすら、今の彼女には快感だ。
「契約に従い我に従え氷の女王!」
スクナを中心に冷気が発生し始める。この魔法こそ、氷系最大の広範囲殲滅呪文。
「来れ! とこしえのやみ! えいえんのひょうが!」
例えスクナであろうと防げないほぼ絶対零度の魔法の冷気。それはスクナの巨体を瞬く間に氷漬けにしていく。
かのリョウメンスクナノカミを凍結。普通ならこれで充分満足していいだろう。だが、この魔法の操り手は最強無敵の悪の魔法使い、エヴァンジェリンだ。これで終わる筈がない。そもそも、この魔法はまだ未完成だ。
「全ての命ある者に等しき死を! 其は安らぎ也!」
ついに完成する大呪文。彼女が座する、最強と呼ばれる者達が振うにふさわしき力。
「”おわるせかい”」
エヴァンジェリンが指を鳴らすとそれに連動するようにして、リョウメンスクナノカミはその身体を粉々に砕かれた。正に圧倒的勝利であった。
「ふぅ、満足満足。さて、あっちも助けてやるとするか」
エヴァンジェリンは地上に降り立つと影に沈み、弟子の救援へと向かった。
「どうした、動きが単調だぞ」
ネギとフェイトの戦いは一転してネギが優勢で事を運んでいた。その理由は焦り。フェイトは自らの内に抱く焦りによって動きの精彩さを僅かだが欠いているのだ。
余り感情などを抱かないはずの彼だが、この状況ではさすがに思うところがあるようだ。何せ、彼は滅ぼされるわけにはいかない。己の存在意義を満たすため、それはあってはならないのだ。
だが、このままではそれが起こりうる。一刻も早くこの場を離れなければならない。だが、それは目の前の相手が許してくれない。
「これで……!」
このまま剣を交わし続けても戦況は変わらないと踏んだフェイトは岩剣を捨て、無詠唱の魔法を放つ。選択したのは自分を中心に数多の岩の棘が周囲に生える対集団用の魔法だ。無詠唱では範囲が狭まるとはいえ、ネギにある程度の距離を開けさせることはできる。そして……
「また、君とは会うことになる気がするよ。ネギ・スプリングフィールド」
その隙さえあれば、フェイトは充分転移を発動させることが出来る。足元に魔法陣が現れ、転移が発動しようとした正にその時。
「どこへ行こうというんだ? なぁ」
フェイトの腕が、彼の影から現れた別の腕に掴まれていた。
「飛べ!」
蚊を払うかの様に無造作に振られたもう片方の腕。しかし、その腕に込められた魔力は膨大。ちょっとやそっとでは砕けないはずのフェイトの障壁は、まるでガラスか何かの様に砕け散った。
だが、これは都合が良かった。何せ、向こうから遠くへ吹き飛ばしてくれたのだ。しかも、追撃の気配が無い。
「ネギ・スプリングフィールド」
先ほどまで対峙していた相手の名をもう一度呟き、今度こそ転移を発動させ、フェイトはこの場から完全に消え去った。
「エヴァ」
「何だ?」
「君のせいで奴にまんまと逃げられたではないか」
「わ、私のせいか!?」
フェイトを倒すためのジョーカーが、どういうわけか此方に牙をむいた。その結果にネギは怒る気にもなれずただただ呆れていた。とりあえず、目的であったこのかの奪還は成功したのだからと自分を納得させ、只今絶賛エヴァンジェリンをいじくり中である。
「今回の礼に君の好物をごちそうしようかと思っていたのだが、やめにするか」
「なにぃ! ちょっとまて! 私はスクナを倒しただろう!」
「さて、近衛達は……」
「無視するなぁ!」
フェイトと言う未知の脅威こそ取り逃したものの、長かった修学旅行の夜もようやく終わりを迎えたのだった。
「…………」
昨夜、天ヶ崎率いる一味の企みを見事阻止したネギ。最強の一角、エヴァンジェリンの助力があったとはいえ、これは大きな戦果だ。そんな功績をあげたネギだが、彼は現在ホテルのロビーに置かれたソファの中で静かな寝息をたてていた。
何せ昨日は激闘に次ぐ激闘。それに加え今朝は烏族の掟だのと言って去ろうとした刹那を拳を少々含めた話し合いで留まらせたりと休む暇がなかった。今日は今日でエヴァンジェリンの観光に付き合わされた後詠春と会う約束もある。
精神は大人だが体は子供。少しは休まねばもたないとの判断だ。
「うわぁ、かわいい」
「ネギ先生ってこんな顔もするんだ」
そんなネギを取り囲むのは彼の受け持つ3-Aの面々。ネギは普段子供とは思えない雰囲気や仕種、仕事っぷりから特に生徒たちと親しいわけではない。だが、今のネギは体を休めるために寝ている。それはつまり、無防備な年相応の姿が拝めるということだ。
「写真とっても大丈夫かな?」
「あ、私も取りたいかも」
誰が言い出したのか、その人声をきっかけに生徒達は次々にポケットから携帯を取り出し始める。許可を取らずにいいものか、と思うものもいるにはいたようだが本人は寝ていて許可などとれるはずもなく、また、後で叱られようと写す価値はあると全員が判断した。
「止めておいた方がいい」
だが、今まさにシャッターを切ろうとした面々を止める声があった。その声の主は真名だ。
「先生はとにかく勘が鋭い。静かに眺めているだけならともかく、それ以上のことをしようとすれば絶対に目を覚ますぞ」
これは事実だ。ネギは異変があった際すぐに起きられるように基本的に眠りは浅い。今は生徒達が見ているだけなので起きないようだが、それ以外の事をしようとすればすぐさま覚醒する事だろう。
「そ、そうなの?」
「ああ」
真名の即答に彼女の言ったことが嘘ではないと悟った生徒達はネギの寝顔を記録に残せない事を悔やみながら、せめて自分の記憶にはと前以上にネギの顔を凝視するのだった。
「待ち合わせはこの辺りの筈だが……」
睡眠から起きたネギは早速、エヴァンジェリンにそこかしこに連れ回されることになった。短時間の睡眠でも疲れをとることが出来るネギはともかく、一般人の明日菜やのどか。一緒に付いてきた元気なはずの班員ですら、エヴァンジェリンのペースに合わせるのは辛そうだった。
「あ、お父様や」
その場で皆が周囲を見渡し詠春を探す。そして、一番最初に詠春を発見したのはこのかだった。さすがは娘、人混みの中でも真っ先に父親を捜しあてることが出来たようだ。
「どうも皆さん、休めましたか?」
「え、ええ」
「あ、あはは」
班のメンバーが苦笑いを浮かべながらエヴァンジェリンを見るが、色々見学し、満足げなエヴァンジェリンにはどこ吹く風であった。
「それでは、そろそろ行きましょうか」
「お願いします」
一行が目指すのは木々の生い茂る中に佇む小さな建物。ネギの父親、ナギが京都で使っていた所詮別荘と言う奴である。正直、ナギの行方に興味がないネギだが、別荘にはナギが収集した数多くの書籍があるという。千の呪文の男と呼ばれた魔法使いが集めたというそれに興味があったネギは訪問を決意した。尤も、西の長である詠春の誘いを断れないという対外的な理由も含んでいたが。
「…………」
数多くある書籍からめぼしいものをいくつか抜き取ってパラパラと大雑把に読んでいく。魔道書の類もそれなりにあるようだが、大半は一般に売られている書籍が占めているようだ。
「天文……その中でも火星関係が多いな」
「私の父親には宇宙に興味でもあったのか?」
私は知らん、と隣で同じく書籍をパラパラとめくっていたエヴァンジェリンが返す。
「どうですか?」
ある程度時間が経ち、書籍あさりもひと段落した頃に詠春が声をかけてきた。どうやら、ネギ達に気を使っていたようだ。
「いくつか気になるものもありました。ゆっくりできないのが残念です」
「それなら、鍵をお渡ししましょう。好きな時に来て構いませんよ」
それはありがたい言葉だった。エヴァンジェリンから聞いてはいたが、ナギもネギと同じく得意属性は風、光、雷だ。そのせいか、置いてある魔道書はそれらの属性に関するものが多かったのだ。
「おい、これを見ろ」
ネギが詠春から鍵を受け取っていると、エヴァンジェリンが一枚の写真を持ってきた。ネギにそっくりな少年を中心に、一人の少年、四人の男が写ったものだ。
その容姿から、中心に立つ少年がナギであることは容易に想像がついた。だが、それよりも目を引いたのはナギの隣に立つもう一人の少年。その少年は、髪型が違うせいか雰囲気こそ異なるものの、昨夜の敵、フェイトにそっくりの容姿をしていた。
「これは……」
「彼はナギの師匠で、名をゼクトと言います」
ネギの視線を受けて詠春が自ら口を開く。彼が何ものなのか、そして、既に亡くなっている事を語った。
「容姿にそぐわない知識や言動から只人ではないと思っていましたが、話してくれない以上聞くべきではないと思っていたのですが……」
「ふむ。昨夜の奴は何処か機械染みた動きだった。もしかしたら、奴とコイツは同じ技術で”造られた”ものなのかもしれんな」
エヴァンジェリンが自分の推測を口にするが、その答えを知る者はこの場にはいない。
楽しいはずの修学旅行は波乱と幾つかの懸念事項を残し、終わりを迎えた。
後書き
以前にも書いたかもしれませんがにじファン時代に掲載していた分も残り少なくなってきました。
そのため、近いうちに何かリハビリがてらに書いてみようと思います。
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