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歪んだ世界の中で

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第二十二話 吹雪でもその三

「神戸ではとてもね。降らせられないから」
「だよね。あれは神戸の雪じゃないよ」
「あんな雪は滅多にないよ」
「何であそこまで降るのかな」
「それも不思議だよ」
 妖怪達にとっても想定外の雪だったのだ。しかしだった。
 希望はその雪を乗り越えた。それを見てだった。
 彼等は驚きを隠せずにだ。こう言い合うのだった。
「そこまでなんだね。あの娘のことが大切なんだね」
「千春ちゃんのことがね」
「それで毎日。あの吹雪の中でも行って」
「それで頑張るんだ」
「何か違うね」
 こうした言葉まで出た。
「彼はね」
「うん、違うね」
「僕達よりもずっと凄いよ」
「あそこまでできるのは普通の人間じゃちょっとね」
「できないね」
「そうですね」 
 ここでだ。姫も言ってきた。自身の場から。
「私もあそこまでの方ははじめて見ました」
「あっ、姫様もですか」
「そうなんですか」
「そうです」
 こう言うのだった。
「長く生きたつもりでしたが。特に」
「特に?」
「特にっていいますと」
「何かをするにあたって捨て身になる人は多いです」
 そして果たそうとする人間はだというのだ。
「そうした人は。ですが」
「ですがそこから」
「こうしてですよね」
「あえて自分の身体を大切にする人はですね」
「いませんよね」
「滅多に」
「この人は」
 希望はどうかと。姫は言うのだ。
「あの日だけを見てはいませんでした」
「その次もですよね」
「千春ちゃんのことを考えて」
「そのうえで自分の身体を大事にしていますね」
「毎日お薬をあげる為に」
「捨て身になることも難しいです」
 まずその時点でだとだ。姫は言う。
「しかしああして他の人の為に己を大事にすることは」
「それはですね」
「それ以上になのですね」
「難しいのですね」
「はい、難しいです」
 こう言うのだった。
「ですがそれができる人なら」
「絶対にですね」
「千春ちゃんを助けられますね」
「それができますね」
「この人なら」
 姫は確かな声で言った。部屋の中央に丸く映し出されている彼の姿、この日も千春に薬をあげている彼を見てだ。そしてこう言ったのである。
「できます。絶対に」
「そうですね。絶対にですね」
「この人千春ちゃんを助けられますよ」
「例え何があろうとも」
「それができますよ」
「それを見ることになります」
 温かい目になってだ。姫は述べた。
「この人の姿を」
 こう言ってだ。そしてだった。
 希望はずっとだった。千春に薬を与えて冬を過ごした。そしてだった。
 三学期が終わった。その始業式の後で彼は真人のクラスに入った。
 そしてそこでだ。こう彼に言ったのである。 
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