隠れ軍師

「私もその影響で」
「天気予報とかチェックして」
「星座占いもなの」
「そうしてるの」
「そうなの」
　まさにというのだ。
「だからなの」
「そうなのね」
「そうした事情があってなのね」
「水瀬さん色々言えるのね」
「何かと」
「それと実は」
　皆で由貴を見て言った。
「優しくて」
「人を助けたくなる」
「そうした人ね」
「そうなのね」
「私そんな人じゃないわ」
　由貴は優しいと言われるとそれは否定した。
「別に」
「いや、優しくないとね」
「そうした人じゃないとね」
「困ってる人は助けないわよ」
「自分から進んで」
「いつもそっと来てくれて」　
　そしてというのだ。
「そっと助言してくれるのは」
「ただ色々知ってるだけじゃなくて」
「優しくもあるから」
「だからだね」
「そうよね」
「そうした人だから」
「そう言われると恥ずかしいから止めて」　
　これが由貴の返事だった。
「お願いだから」
「そこまで言うならね」
「私達も言わないわ」
「けれどいつも有り難う」
「感謝しているから」
　もうクラスメイト達は由貴を目立たないだの影が薄いだの言わなかった、すっかりクラスの縁の下の力持ちになった。
　それで高校三年生の時は皆に頼りにされ。
　大学のサークルやゼミでもだった、そして就職して結婚してもそうで。
　夫の神谷一馬黒髪に癖があり明るい顔で一七四位の背の太った体格でサラリーマンである彼に何かあるとだ、そっと来て。
　高校時代の様に助言した、すると夫はいつも彼女に言った。
「有り難う、これでまた」
「問題が解決出来るの」
「道が見えてきたよ」
　そうなったというのだ。
「本当にいつも有り難う、いや」
「いや？」
「君と結婚出来てよかった」　
　由貴にこうも言うのだった。
「本当に」
「けれど私小さいしスタイルも」
「容姿も僕好みだし」
「そうなの」
「それ以上にね」
　由貴に笑顔で話した。
「いつも助言してくれる優しさと知識がね」
「いいの」
「うん、君がいるから」
　それでというのだ。
「僕はいつも健康で明るくて仕事も」
「そちらもなの」
「順調だよ、お陰で今度課長に昇進だよ」　
　そうなるというのだ。
「だから君と結婚して」
「それでなの」
「本当に良かったよ、今度子供が生まれるけれど」
　見れば由貴の腹部が少し膨らんでいる。
「子供にもね」
「こうしてなの」
「言っていってね」
「そう言ってくれるなら」
「それならね」
「そうさせてもらうわ」
「ではね」
　夫も笑顔で応えた、そして。
　それからも妻の話を聞いた、そのうえで。
　彼は幸せに暮らしていった、子供も生まれたが。
　由貴は子供にもそうした、すると。
「いいお母さんだね」
「そうかしら」
「これからは家族で宜しくね」
「私は何もしてないわ」　
　由貴はぽつりとこう言うだけだった、だが夫も子供もずっと彼女の言葉を有り難いと思い頼りにした。控え目だが的確なその言葉を。それはずっと続いた。


隠れ軍師　　　完


　　　　　　　　　　　　　　　　　　２０２１・７・１５