陽性と出ても
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第一章
陽性と出ても
稲荷駿は妻の友希、一四六程の背で黒髪を短くしてセットしているあどけない穏やかな童顔で大きな目がやや垂れている彼女に話した。
「診察受けたけれどな、やっぱりな」
「そうなの」
「ああ、俺は子種がないそうだよ」
面長吊り目の顔で言った、茶色がかった髪の毛は短く一七三程の背で痩せている。
「残念だよ」
「そうなのね、ずっと子供が出来ないのはね」
「俺のせいだ」
「仕方ないわね」
「ああ、だからお前がよかったらな」
夫は妻に暗い顔で告げた。
「もうな」
「いいわよ、子供は欲しいけれど子供が全部じゃないでしょ」
「全部じゃないか」
「夫婦のね。別れるなんてしないわよ」
夫に穏やかな声で告げた。
「そんな考えないから」
「そうなのか」
「だから今の言葉は取り消して」
離婚のそれはというのだ。
「あなたが気に病むことじゃないわ」
「子供が出来なくてもか」
「それでもね」
「一緒に暮らしていくか」
「夫婦でね」
「それじゃあな」
夫婦で家の中で話した、こうしてだった。
駿と友希は夫婦で暮らしていった、そんな中で。
友希は生理が遅れていた、それで夫に言われた。
「お前最近生理痛ないみたいだけれどな」
「どうもね」
生理痛の激しい友希は普通の顔で答えた。
「今はね」
「まさか」
「いえ、だからね」
「そうだよな」
「最近忙しいからストレス?」
共働きであり特に最近友希は忙しくそれは自覚していた。
「そのせい?」
「そうか?いや子種がないっていっても少しはあるんだ」
ここで夫はこう言った。
「だからな」
「ひょっとしたら」
「ちょっと検査してみるか」
若しやと思いつつだ、夫は言った。
「そうするか」
「じゃあ検査薬で」
「それから産婦人科に行ってな」
「確めるのね」
「そうするか」
「ええ、じゃあね。ただ私が浮気してるとか」
「お前がそんな奴の筈ないだろ」
駿はそれは即座に否定した。
「というか俺もお前もそういうことしてもな」
「性欲はね」
「あまりない方だしそうしたタイプは言い寄られないだろ」
「それはね。私外出の時メイクも服も地味だし」
「それであるか」
浮気なぞはというのだ。
「誰が何言っても俺は言い切れる」
「私は浮気してないって」
「そうだ、だからちょっとな」
「検査薬でチェックして」
「それからな」
「産婦人科でも」
「そうしてみるか」
こう妻に言った、そして妻も頷いてだった。
実際にまずは検査薬で検査をした、すると。
「陽性だったわ」
「そうか、それじゃあな」
駿は友希の言葉を受けて明るい顔になって言った。
「今度はな」
「産婦人科ね」
「そこに行ってな」
自分も明るい顔になった妻に話した。
「それでだ」
「あらためて検査してもらうのね」
「そうしよう、若し本当に出来ていたら」
「いよいよね」
「結婚して十年ずっとな」
「子供が出来なかったけれど」
「俺も子種がないって言われたけれどな」
「奇跡ね」
「ああ、奇跡が起こっているかもな」
夫婦で太陽の様に明るい顔になって話してだった。
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