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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Saga35王は再び舞い降り、そして・・・~Complex reunion~

†††Sideアイリ†††

ミッドチルダに突如出現した、並の魔導師や騎士じゃ太刀打ちできない程にヤバい生物。これまで確認されたことがない種で、生物同士で戦ってるんだけど、それが原因で街や自然が破壊されてた。唯一の救いは、民間人や迎撃に来た魔導師たちに対して危害を加えようとしないこと。そのおかげで今のところ死者は出てない。

(退避時の混乱での負傷者だけはどうしても出ちゃうけどね)

管理局を辞めて教会騎士団に入団したアイリは、元最後の大隊の融合騎を率いる部隊、藍木春菊騎士隊インディゴ・マルガレーテの隊長を務めてる。率いる融合騎をその都度任務に適した騎士に預けるのが仕事で、今回も例に漏れずに各融合騎を配置し、アイリはシャル率いる白金桜騎士隊プラティーン・キルシュブリューテと一緒して、ユニゾンしないままで個の戦力として奮闘中。

「こいつら、やっぱ魔族でしょ! 本能で判るわ!」

――光牙烈閃刃――

「同意! ルシルや先祖の記憶の中で出てきた魔族を思い起こさせる姿をしているし!」

――崩天雷舞――

「だよね! T.C.のアーサーが実はまだ残ってたり、とか?」

――氷柱弾雨(セリオン・エクサラシオン)――

「それはそれで、ルシルの影響が残ってるわけだから、嬉しいような切ないような、って感じ!」

――ルフト・クーゲル――

「しかし、あの不気味な獣どもとは違い、獣どもと戦っている白い巨人は何者でしょうか!?」

――業火拳衝――

シャル達が一斉に攻撃を加えるのは、3mくらいある巨大な目玉。本来白い部分は真っ黒で、眼球全体に幾何学模様が描かれていて、上下左右から触手を生やし、背部には4対の黒翼を生やしてる。そんな奴がえっと・・・60体くらい居て、ミヤビの言う白い巨人に群がって触手の先に付いてる鉤爪で突いたり引っ掻いたりしてるけど、空に浮遊してる巨人の肌は石造りっぽいからダメージが入ってないように見える。

「(頭部と下半身の無い胴体。有るのは長い両腕。・・・顔は胸と腹と背中に3つ・・・)たぶんだけど、天属じゃないかな? マリアがみんなに見せたマイスターの記憶には出てこなかったようだけど、テスタメント時代の記憶の中に、あんなのが居たよ」

――コード・シャルギエル――

アイリも氷槍を12本と展開して、「ジャッジメント!」の号令で射出。狙いは目玉で、理由は数が多いし気持ち悪いから。アイリ達の攻撃を目玉は迎撃も防御も回避もしないで受け入れた。よろけたり吹っ飛びはしたりするけど、ダメージは入ってない感じ。

「もし魔族なら、こっちも神秘で攻撃しないとダメかな~」

――悪魔の角(ディアブロ・クエルノ)――

攻撃を加えたアイリ達に一切構うことなく白い巨人にばかり突っ込む目玉たち。セレスが面倒くさそうにそう言って、さらに氷の螺旋杭を40発を再発射。目玉はやっぱり何のアクションもせずに受け入れて、霜を被りながら巨人に攻撃続行。

「決まり。どうする? すぐに魔術師化して、一気に叩き潰す?」

「ちょっと待って、クラリス。1つ気になってることがある。・・・わたし達が到着するまで局や騎士団が攻撃を加えてたのにアイツらまったく反撃しないし、わたし達に代わっても同様だった」

「だから?」

「だから、無視されてる理由がもし、わたし達が魔術じゃなくて魔法を使っているからじゃないか?ってこと」

「どうせ通用しないから、鬱陶しいけど無視しようっていうことか・・・。あ、そうか、なるほど。逆に脅威となるかもしれない魔術師と化した瞬間、目の色変えて反撃してくるかもしれない、と。じゃあ、どうする? あの巨人、40階建てビルと同じくらいに長くデカい両腕を振り回しているから、その風圧で周辺被害がとんでもないし・・・」

「結界が解除された瞬間、この辺りが更地になってしまうやもしれませんね」

「それだけは何としても避けないといけないんだけど、さて、どうしたものか・・・」

アイリ達が確認できただけでも武装隊の結界は三度も破られてる。これ以上は武装隊の魔力が持たない。そうなる前に、「わたしの創世結界に閉じ込める。そこで決着をつけよう」ってシャルが提案したところで・・・


「止せ。人の身では相手にならん。ここは儂らに任せて、そこで大人しく見ているといい」


どこからともなく聞こえた年老いた男性の声。直後、巨人の頭上から何かが降って来て、巨人と激突した。巨人の3つある口から悲鳴めいた叫び声が発せられ、降って来た何かと一緒に地面に墜落。その直後、目玉が横一列に整列して、墜落時に巻き起こった砂塵の方へと目の正面を向けた。

「な・・・何が起きたの・・・?」

「巨人の背中に誰か居る!」

砂塵が晴れて、空から落ちてきた何か――人物を肉眼で視認できるようになった。着物に羽織姿の、おじいちゃん一歩手前って感じの男性が1人。巨人の背中に有る大きな顔を踏み蹴りで粉砕したその人の額には結晶のような「角・・・!?」が2本と生えていて、ミヤビが「私と同じ・・・?」ってうわ言のように発した。

「あっ、巨人が起き上がる!」

「各騎、警戒! ちょこっと離れるよ!」

近くの低層ビルの屋上に降り立って様子見。男性の2つの角が真っ赤に染まると同時に強烈な発光を見せた。それを合図としたかのように目玉たちが一斉に巨人を包囲。そして左右の両腕を大きく伸長させて隣の目玉の両腕とガシッと掴み合うと、天まで伸びる筒状の結界が展開された。

――鬼刻炎昌――

男性の全身から炎が上がったかと思えば、グングンと高くなっていって最終的には炎の巨人となった。バンヘルドの真技を思い起こさせる様で、炎の巨人は起き上がろうとしてた白の巨人の背中を踏みつけて、さらに両腕を掴み取った。

「おおおおおおおおおお!!」

雄叫び1発。白の巨人の両腕をもぎ取って、炎を点けた腕で白の巨人をボコボコに殴り始めた。もぎ取られた自分の腕で殴られまくる白の巨人は抵抗も出来ず、最後は腕と一緒に粉砕された。結界内に転がる白の巨人の破片をこの後どうやって処理しようかなって考えてると・・・

「カメアエルの遺骸はこちらで処理しよう。ガナンマターハ族の方々、お頼みします!」

炎の巨人が消失し、そこから出てきた男性が目玉に向かってそう呼びかけると、目玉たちは結界を解除して白の巨人――カメアエルの遺骸らしい破片に向かって殺到。目玉部分がパカッと裂けると、気色悪い色の口が現れた。ギザギザの歯と4枚の長い舌があって、舌で破片を取るとそのまま口に運んで、バリボリと食べ始めた。みんなで「うへぇ」って引いてると、アイリ達の居る屋上に来るために男性がビルの外壁を駆け上がってきた。

「ほっ・・・と。お嬢さん方、怪我などはしておらんか? 人類を護るのが儂らの目的でもあるからのぉ」

額から生える角を消失させながらそう言ってきた男性に、まずは怪我をしてないこと、助けてくれたことへの感謝を述べてから、シャルが「時空管理局です。事情を伺っても?」って仕事に入った。

「この下位次元世界の秩序維持組織だったかい? 儂から話すのもやぶさかではないが、儂以上に適任が今、こちらに向かって来ておる。もう少し待っておれ」

男性はそう言って屋上の縁に腰掛けて、着物の袂からひょうたんを取り出した。そしてコルクのような栓を抜くとグイッと呷って、「美味ぇ!」って幸せそうに息を吐いた。まるで時代劇を観てるかのような光景だね。

「お楽しみ中申し訳ありません。私から個人的に質問があるのですが、よろしいでしょうか?」

「おう、そうそう! 儂もお嬢さんと個人的に話してみたかったのだ。お嬢さん、大戦の折、儂らディアヴァルネール族で唯一、大戦に参戦した分派の末裔だろう? ラグナロクで全滅しただろうとウリベルト狼が仰っておったと、先祖から語り継がれてきたが・・・。子を成し、その血をこの下位次元世界で繋いでおったとは。いやぁ、めでたい」

ミヤビが「え? え?」って混乱したから、男性はお酒を飲むのを中断していろいろとミヤビに伝えた。まずは自分の名前はラアルで、魔界最下層の奥地にある魔族魔人種鬼人ディアヴァルネール族の国ヤッフェル出身で、国の行政を司る本家の元目付役だったそう。

「待って待って。最下層の魔族がウリベルト達以外にも居たなんて、シャルロッテ様やルシルの記憶でも確認できなかった・・・。その分派っていうの、アースガルド同盟、ヨツンヘイム連合、どっちに加勢していたの? 鬼人なんて戦場で見かけたら、絶対にシャルロッテ様も憶えてるはずなのに・・・」

「国に伝わっている話では、どっちつかずの第三勢力だったそうな。鬼人が周囲に知られなんだのは、どうやら角を発現せずに、素の状態で戦いを楽しんでおったからだそうだぞ。儂ら一族は酒・戦、逆境・困難好きという、困った癖を持っておってな。人間の世界の史実に残っておらんのはそういうことだろうて!」

そう言って大笑いするラアルはひょうたんの栓を抜いたところで、「おー、来おった、来おった。お嬢さん方、あの者がいろいろと説明してくれるぞ」って言って空を見上げた。アイリ達も空を見上げて、そこに居た人物を視認。アイリ達は「え?」って目を疑った。だって、もう二度と逢えないって思ってた「マイスター?」が、剣翼12枚を背負ってその場に居たんだから。

「ルシル・・・?」

「え、うそ!?」

「本物!?」

「ビックリ」

「ルシル副隊長・・・!?」

難度も目を擦って幻じゃないことを確認したアイリは、はやて達も一緒だってことに気付いた。はやて達と一緒にマイスターがゆっくりとここ屋上に降りてきて、「久しぶり」って声を掛けてくれた。もう無理だ、我慢できない。

「~~~~っ! マイスター! マイスター! マイスター! マ~イ~ス~タァァァ~~~~!」

もう二度と逢うことが叶わないと絶望してた、マイスターとの再会。それが今、叶った。人間としての肉体に戻ってるマイスターを正面からハグして、その胸板に何度も頬擦りをする。その間、マイスターはアイリの頭を優しく何度も撫でてくれてる。

「久しぶりだな、アイリ。こちらの世界でもあれから1年しか経っていないと、はやて達から聞いたよ」

「うぅ・・・。1年でも、また逢えると、もう逢えないとじゃ精神的に全然違うよ!」

「そうか・・・そうだな。私も、同じ思いだ」

離れようとしないアイリに苦笑するマイスターは、「シャルも、みんなも、元気そうで何よりだ」ってシャル達に声を掛けた。

「ルシル・・・! どうして・・・! ううん、そんなことどうだっていい! ルシル!」

マイスターから離れがたいのを我慢して、シャルのために一旦離れる。シャルがマイスターの胸に飛び込むのを見守ってると、はやて達がアイリ達の元にやって来た。はやての目も若干赤く腫れてるっぽいから、やっぱ再会で泣いちゃったのかな。

「またルシル君と逢えるなんて、思いもせえへんかった」

「うん。・・・アイリ、マジで絶望してたからね。・・・はやて。これ、夢じゃないんだよね?」

「さっきアイリがハグしたのは幻やったか?」

「ううん。本物だったよ」

身長も匂いも変わっちゃってるけど、それでもアイリを撫でてくれる手の優しさは全くと言っていいほど変わってなかった。マイスターは確かに・・・帰って来たんだ。

†††Sideアイリ⇒イリス†††

ルシルが帰って来た。もう逢えないと覚悟してたから、この再会はあまりにも予想外、だけど最高に嬉しいし幸せだ。アイリと入れ替わるようにルシルの胸に飛び込んだわたしの背中を、ルシルは優しくポンポンと叩いてくれる。

「ルシル。本当にルシルなんだよね? クローンとか、実はまだテスタメントとかじゃないよね?」

「もちろん。ガーデンベルグを救い、ユルソーンを破壊して無事にテスタメントの契約を果たし、アースガルドに帰ることが出来た。正真正銘、一度限りの人生しか歩めない肉の体だ」

わたしからのハグもそこそこにして、ルシルはルミナ達とも和やかに挨拶を交わした後、「いろいろと聞きたいことはあるだろうが、もう少し待ってくれ」って頭を下げた。今回の魔族や、たぶん天使なんかの来襲に関しては事情を一番知ってるのはルシルだろうから、今すぐにでも聞きたいんだけど・・・。

「なのは達の方に向かった私の協力者から連絡を待っているんだ。一度に説明した方が互いに楽だろうからな」

「協力者って・・・」

少し離れたところでミヤビと何か話してるラアルっていう、最下層の魔人(の割には神秘を感じないんだけど)をチラッと見る。最下層の魔族の協力者って、割とすごいんじゃ・・・。そんなことを考えてると、「よし。終わったな」ってルシルがホッと一息吐いた。

「ルシル?「ルシル君?」「マイスター?」

わたしとはやてとアイリがほぼ同時にルシルに駆け寄った。その様子にルシルはちょっと苦笑いを浮かべて、「各地に出現した天属・魔族の掃討が終わった」って言って、空間キーボードを展開。キーを打とうとしたところで手を止めたから、わたし達は小首を傾げた。

「・・・はやて。現在の本局長は誰だ? あれから1年少ししか経っていないのだから、おそらく今なおアンダーソンか?」

「あ、ううん。半年前の局長選考会議で、リンディさんが局長になったんよ」

「おお! それはすごい! それならはやて。リンディさんに取り次いでくれないか?」

「了解や」

「シャル。聖王教会のトップは今なおマリアンネさんか?」

「うん。わたしから母様に連絡して、ルシルにバトンタッチすればいいんだよね」

「ああ。頼む。じゃあ私は・・・」

「マイスター! アイリは!? アイリは何をすればいい!? なんでもするよ!」

わたしとはやては、母様とリンディさんがルシルと通信できるようにメールを出して調整を始める中、アイリが自分にも仕事が欲しいってルシルに詰め寄った。ルシルは少し考えた後、「それなら、なのは達と通信を繋げてくれ」って指示を出した。

「ヤヴォール! チーム海鳴に全体通信を掛けるよ!」

ルシルとの別離以降、全くと言っていいほど見せてくれなかった満面の笑顔を浮かべるアイリに、リインとアギトが「アイリが笑ってくれた!」って喜び合ってる。

『イリス、どうしたの? あなた、今は正体不明生物の制圧任務に出ているはずよ』

メールの返事を待ってると、携帯端末がバイブ機能で振動したからモニターは展開せず、コールに応じた。耳に当てていた携帯端末の受話口から聞こえてきたのは母様の声。今も仕事で忙しいだろうからメールをしたんだけど・・・。

「聖下。お忙しい中、申し訳ありません。それについてなのですが、今回の正体不明生物来襲について、事情を知る関係者と接触しました。その関係者が、母様やリンディ・ハラオウン本局長と同時通信で説明したいと言っています」

『なんとまぁ、いきなり両組織のトップと話したいだなんて・・・。礼儀のなっていないその関係者とやらは、いったいどういう方なの?』

クローンでもなく“テスタメント”でもない、本来の肉体に戻ったルシルがアースガルドからミッドチルダに戻って来たことを、呆れる母様に伝えて、通話を続けながら携帯端末のカメラをルシルに向けて映像を送る。

『あら!? うそうそ、本当にルシル君!? ルシル君が戻って来たなんてあなたが言い出すから、我が娘ながらとうとう心をヤッてしまったのね、と不安になったけど!』

「病むならルシルと別れた直後です。きちんとお別れをしましたし、狂うことなどありえません」

ニヤニヤが収まらず緩み切った顔を浮かべてる自覚をしながら、わたしは「驚いたでしょ。ルシルが人間の体で戻って来てくれたの」って、任務中なために上司と部下という立場を守るべきところを、思わず母と子という立場で母様に答えてしまった。

『それならルシル君争奪戦も再開になるのかしら? 人に戻っているのならルシル君の寿命やら記憶消失の問題もないのでしょ? 今度こそ、ルシル君のハートをかっさらっちゃいなさい!』

「それは・・・うん・・・」

母様含めた家族には、わたしとはやてとルシルの三角関係がすでに決着していて、わたしが負けたことをまだ伝えてない。ルシルははやてを選んで、最後の最後で2人が結婚式を挙げたことをアイリから聞いた。もちろん公的な手続きなんてものはしてなくて、2人だけで決めたもの。

(はやてとアイリが、ルシルのことで嘘を吐くわけもなく・・・。わたしの初恋は終わった)

ルシルもいなくなってしまったことで、この想いに区切りをつけて前に進もうと、ヴェロッサからの告白を受け入れるかどうかを迷っていたところでこの再会だ。消そうと思ってたルシルへの想いが再燃したのがハッキリと判る。ルシルがはやてを選んだのは確かなんだから、諦めるのが筋なんだろうけどさ・・・。

『『ルシル君!?』』『『『ルシル!?』』』

モヤモヤしながら母様と話してると、背後からなのは達の驚きの声が聞こえてきた。そちらに目を向けると、大き目のサイズのモニターが展開されていて、なのは達がルシルが居ることに本気で驚いてる様子が映し出されてる。

『え? ええ!? ホントにルシル君!?』

なのは達も、ルシルがクローンじゃないかとか“テスタメント”じゃないかとか、いろいろと不安がってたけど、ルシルがわたし達にさっき言ったように「ちゃんと人間だよ。今までと違い、死ねば1発アウトのな」って自分の心臓付近の胸に右手を添えた。

『・・・ていうかさ、ルシル。アンタ・・・髭生やしてんの!?』

『剃ったら? なんかオッサンみたいに見えるよ?』

アリサとアリシアが、ルシルの口ひげとあごひげにツッコみを入れた。当然わたしも、ルシルがひげを伸ばしてることには気付いてたし、なーんか似合わないな~とか、アリシアの言うように老けて見えるな~とか、思ってはいたけど口には出さなかった。

「今の私は、アースガルドの魔術師軍を統べる総督という役職に就いている。仮にも軍のトップだからな、少しでもこの女顔に威厳を持たせたくて、ひげを伸ばしたんだが・・・。駄目か?」

『うーん。ん? 軍総督って言った? ルシルって、王族で、しかも王だったのよね?』

『そう言えば・・・。ルシル君、総督と王様と兼任しているの?』

「いや。私が目覚める千年以上も前に王政は廃止されていた。それに、私自身も封印されてから6千年以上経過した世界の政治に参加しようとは思わなかったからな。再誕戦争を生き残った生粋の魔術師として、そしてセインテストないしアースガルド最後の王だった者として、せめて最高クラスの何かしらの役職を、とのことで、軍を治めることになったんだ。人間だった頃も、テスタメントだった頃も、ずっと戦いばかりだったからな、政治家になるよりかは合っているよ」

そう言って首を竦めたルシル。ルシルの肉体では6千年、意識で言えば2万年近く、アースガルドの進歩を見ることが出来なかった。目を覚ましたら故郷がガラリと変わってたなんて、どういう気持ちなんだろう。

「まぁ、そういうわけで、今の私は軍人なんだ。・・・で、やっぱり髭はおかしいか?」

『『おかしい』』

あくまでルシルのヒゲは変だっていうアリサとアリシアだけど、ルシルにはルシルの考えがあるんだし、「わたしは良いと思うよ」って言っておく。続いてなのは達も、悪くない、みたいな肯定派。リンディさんとの通信の準備を続けてるはやては「格好ええけど・・・」って濁した。

「・・・評判が宜しくないのは解った。やはりこの女顔がダメなんだろうな。持って生まれた顔を弄るのは気が進まないが整形でもするか。ザフィーラくらいに男らしい顔であれば、ひげなんて要らな――」

ルシルがとんでもないことを言い出したから、最後まで言わさずにわたし達は「却下」と下した。威厳とかどうでもいいからルシルらしさを失わせるような真似はしてほしくない、っていうのがわたし達みんなの意見だ。

「髭は帰ったら剃るとして・・・。みんなの1年はどうだったんだ? 1年の間に何か変わったこととかあるか? 私は今言ったように王での復帰はせずに軍隊の長となり、あとは・・・ヴァルキリーも無事に再起動できたよ」

「アイリね! アイリ、今は騎士団に所属していて、元大隊の融合騎を束ねる隊長なんだよ!」

「ちなみにミヤビを含めたわたしたち特騎隊前線組も揃って局を辞めて、騎士団に再入団。んで、特騎隊と同じように即応遊撃部隊を立ち上げて、わたしが率いてるよ」

「銀薔薇と対を成す白金桜として、管理世界の犯罪者どもにもう恐怖を植え付けてるよ」

「私やアリシアは特に変化は無いけど、エリオがね、保護隊で自分の班を持つことが出来るようになったんだ」

「もちろんキャロもフリードも一緒だし、後輩っていうか部下も出来たんだよ!」

「私は変わらず教導隊で頑張っているかな。あ、ヴィヴィオの選手ランキングがまた上がったのは大事な変化だね~」

「そうそう! なあなあ、ルシル! フォルセティの奴がよ、すげえんだ!」

「そうですよ、ルシル君! ヴィータちゃんの言う通り、フォルセティがすごいんです!」

「フォルセティ、インターミドルの男子の部で世界チャンプになったんだぜ!」

「判定にまでもつれ込んだのだけど、見事に判定勝ちだったのよ!」

「ああ。あの反撃は実に見事だった」

「驚いたのは、フォルセティが優勝インタビューの際に、ヴィヴィオに愛の告白をしたことだ」

「あ、うんうん! ヴィヴィオもね、カメラが回ってるのにOKしちゃって! まぁ、母として、娘の恋は応援していたし? フォルセティも良い子だから反対なんてないんだけどね!」

わいわいとこの1年での変化をルシルに伝えてると、『イリス。そろそろ私も、ルシル君とお話がしたいわ』と母様との通信を繋げてたのに放置してたことを思い出した。母様にごめんなさいをして、「ルシル。母様も話がしたいって」って、携帯端末を操作して、モニターを展開させる。

『ごきげんよう、ルシル君。お久しぶり』

「お久しぶりです、マリアンネ聖下。ご無理を言って申し訳ありませんでした」

『いえいえ♪・・・娘たちからは不評だったようだけど、私はルシル君のお鬚、格好いいと思うわよ。ま、60手前のおばさんだから、若い子の感性とはすこーしズレがあるけれどね』

「いえ、そう言ってもらえると嬉しいですし、マリアンネ聖下も変わらずお美しいですよ」

『ま♪ あなたも変わらずお上手ね♪ ところで、ルシル君はこの1年で何かあったかしら? 王ではなく総督という、軍のトップになっているというのは聞いていたわ。他には?』

「他ですか? 再誕戦争当時にアースガルドと同盟を組んでいた世界、それに私が封印されている間に新しく同盟を結んだ世界との繋がりがあって・・・あ」

そこまで言いかけたルシルは口を閉ざし、「まぁいろいろとです」なんて切り上げたから、わたし達は「ん? なに?」ってジッと見詰めて、言いかけた言葉の先を促す。それでもルシルは「いやー、普通さ、普通」とはぐらかすだけ。

『まさかとは思うけど・・・。恋人でも作ったとかかしら?』

「っ!! いや! ちがっ! 違いますよ! 恋人なんていません! 永遠の別れになるかもとはいえ、はやてに告白し、公式とは言えずとも結婚式を挙げた以上、はやて以外の恋人を作るつもりはありませんし、結婚なんて以ての外。セインテストの血も私の代で終わり・・・と、考えていたのですが・・・」

『へ? あ、ほぅ、そうなの~。はやてさんと・・・ふーん』

母様がチラッとわたしを見てきたから、わたしはスッと顔を逸らしてその視線から逃れた。だって、失恋したなんて親に言いにくいでしょ。母様からの視線からさらに逃れるべく、ルシルの話の最後が気になったから、「考えていたのですが、の先を教えてくれる?」って聞いた。

「ルシルの代でセインテストは終わり。そう考えていたけど・・・ってことは、だよ?」

「終わらなかったってことになると思うんやけどな、さっきの言い方やと・・・な?」

「・・・アースガルドの政府高官が、原初王オーディンから紡がれているセインテスト王家の血筋、それを絶やすなど以ての外だと叱られてね。どうしても子を成して、セインテストの血を未来へ繋げてほしいと。しかし、先ほど言った通り私にははやてへの想いを貫き通すという決意があった。それでも高官たちは折れず、その妥協案として・・・そう言った行為をせずに子を残すための精子提供ということになった。ほ、ほら、ミッドにもあるだろう? 精子バンクが。あれと同じ・・・ような感じなんだが・・・」

わたしとアイリとはやての3人でルシルに詰め寄ると、ルシルが申し訳なさそうに答えてくれたんだけど・・・。こればかりは責めることは出来なくて、わたし達は「大変だったね・・・」って声を掛けた。生まれが特別だとこういった問題が出るのは仕方ないと思う。何よりルシルは本当にすごい人物だからなおさらね・・・。

「で、マイスター。子どもは何人くらいいるの? きっと1人2人って感じじゃないでしょ? あ、でも答えたくなかったら答えなくてもいいんだけどね」

「・・・アースガルドの四王族は、セインテスト王家以外の本家は潰れているんだが、分家はなんとか残っていたんだ。その分家の中で未婚かつ希望者に、その・・・提供したわけだ。さらに、同盟世界のアールヴヘイム、スヴァルトアールヴヘイム、ニヴルヘイムには王族本家が残っていて、希望女性にも・・・。半年後には、100人ほどの子どもが生まれる予定だ」

ルシルの言葉にわたし達は「100人・・・!?」って絶句。ルシルはそんなわたし達、特にはやてに「誓ってそういう行為はしていない」って詰め寄った。うーん、完全にはやてを選んだからこその行動だよねこれ。はあ~~と深い溜息が出る。

「え、あぅ、う、うん。信じるよ? そやから安心してな」

顔を真っ赤にして詰め寄ってきたルシルから1歩後退するはやて。その様子にルシルは「すまない!」って慌てて離れようとしたんだけど、はやてがルシルの腕を取って制止させた。2人の纏う雰囲気に気まずくなる。2人のその姿が悔しいやら微笑ましいやら。

「コホン。いい雰囲気のところ悪いんだけど、はやて。携帯端末、鳴ってない?」

「ふえあ!? あ! あー、ホンマや!」

はやてが携帯端末のコールを受けて、メールを確認した後、「ルシル君。リンディ本局長との通信、いつでも出来るよ」と報告。

「あ、ああ! ありがとう、はやて。すぐにでも頼むよ。アースガルドに帰らないといけないからな」

「っ! 了解や!」

ルシルの、アースガルドに帰る、って言葉に一瞬だけ泣きそうになったはやてだったけど、すぐにリンディ本局長との通信を行うために準備に入った。繋がるまでの間にアイリは「マイスター。帰るの? また逢えるよね?」って聞いた。

「・・・すまない。私は、ルシリオン・セインテスト・アースガルドだ。本来いるべき世界で、最期まで生きると決めている。帰るよ。ただ、二度と逢えないということはないと思う。せっかくアイリ達と同じ時間の中で生きていることが判ったんだ。いつでもすぐにとはいかずとも逢いに来たいとは思う。ただ・・・」

アイリの頭を撫でて、そこまで言いかけたところで、『ルシリオン君。お久しぶりね。お元気そうで何よりだわ』と、展開されたモニターに映し出されたリンディ本局長が笑顔で挨拶した。

「はいっ。お久しぶりです、リンディ本局長。あなたもお元気そうで」

それから、ルシルから今回の事件の顛末が語られた。天界、魔界、人間界の三界を巻き込んだ戦争が、アースガルドを中心とした上位次元世界で勃発してること。ミッドチルダを中心とした下位次元世界に影響が出たのは今回が初めてで、今後も天属と魔族が下位次元世界に現れるかもしれないことなどなど。
そんな大事な話の中で、わたしはまったく違うことを考えてた。性行為をせずともルシルの子どもを得られたあちらの世界の女性たちのこと。

(ルシルとの子どもなんて・・・めっちゃくちゃ羨ましいんですけどぉぉぉぉーーーーーー!!)

一度にいろんな事が起きた今日、わたしは自分の不憫さに全力で叫びたくなってしまった。
 
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