Fate/WizarDragonknight
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昔からの知り合い
『ガルーダ プリーズ』
赤いプラスチック状の物体がそれぞれ組み合わさり、やがて鳥の形となる。
最後のパーツとして、ハルトはその胸元に指輪を装填する。
「ガルーダ! 奴がいる!」
仮初の命を得た赤い使い魔、レッドガルーダが産声を上げると同時に、ハルトが怒鳴った。
すると、ガルーダはたじろき、ハルトの頭上を旋回。すぐさま、どこかへ飛び去って行った。
「ハルトさん?」
可奈美は、そんなハルトの表情を恐る恐る見上げていた。
彼がここまで取り乱すことは見たことがない。
だが、ハルトは左右を激しく見渡しながら、どんどん走っていく。
「ま、待ってハルトさん! さっきの人、誰なの!?」
だが、ハルトは止まらない。すでに可奈美のことなど忘れたかのように、人をかき分け、ジャンプで道順を省略していく。
刀使として、普通の人以上の身体能力を持っていると自負している可奈美だが、それでもその動きは、目を見張るものがあった。
「っ!」
可奈美は、慌てて足を止めた。その直後、可奈美の前を大型車両が通過した。
大きな車両。目の前の車道にある障害物により、可奈美は止まらざるを得なかった。
「ハルトさん!」
車に阻まれたのは、ほんの一瞬。だが、その一瞬ハルトから目を離したすきに、その後ろ姿は可奈美の前から消失してしまった。
「え!?」
可奈美は急いでハルトがいた場所に向かう。
だが、いくつにも分かれた道からは、ハルトの姿が確認できない。
戸惑いながら、可奈美はハルトの姿を探した。
「ハルトさん……一体どこに行ったんだろう?」
可奈美は、とりあえずと右側の道を進む。木組みの地区特有の、西洋クラシックな街並みが続くが、ハルトの姿は一切現れない。
だが、白と茶色が多く使われているその中で、その赤は非常に目を引いた。
「ガルちゃん!」
その声に、ハルトの使い魔は止まった。
空中からこちらを見下ろすレッドガルーダ。それは可奈美の姿を認めるとすぐさま胸に飛び込んできた。
可奈美が両手を差し出すと、ガルーダは嬉しそうにその手に収まる。
「ガルちゃん! ど、どう? 見つかった?」
見つからない、と言うように、ガルーダは首を振った。
「そ、そっか。ハルトさん、なんであんなに焦っているんだろう?」
可奈美は首を傾げながら周囲を見渡す。
ラビットハウスを飛び出したものの、この場所はそれほど離れていない。木組みの街並みの中、可奈美は足を遅めて進んだ。
のどかな空気。裏で聖杯戦争が起こっていることなど知る由もなく、人々は穏やかな生活を享受している。
「うーん……」
可奈美は、ポケットからスマートフォンを取り出す。
そのまま、ハルトへ電話をかけるものの、一向に出る気配がない。
「ハルトさん、どこ行ったんだろう……?」
やがて、細い通路を通り抜けて、無数の通路を渡り。
「あっ……」
いた。
先ほどの、オシャレな恰好をした青年。
帽子が特徴の彼は、口にガムを膨らませながら、川岸に突っ立っていた。両手をポケットにいれたまま、退屈そうに対岸を眺めている。
ガルーダを背中に回し、可奈美は恐る恐る彼に声をかけた。
「あ、あの……」
可奈美が言葉を口にしたと同時に、ガムが破裂する。
「ん? おやおや? 君はさっき、ラビットハウスにいた子だよね?」
口にこびりついたガムをなめとり、青年は可奈美へほほ笑んだ。
「はい。衛藤可奈美です。さっきハルトさんが帰って来たから、そのことをお伝えに来ました」
「へえ? わざわざ来てくれたの? ありがとう、可奈美ちゃん」
青年はニコニコ笑顔で両手を後ろに組み、可奈美へ近づく。
だが。
「あ痛っ!」
彼の声は、鋭い悲鳴になる。
可奈美の後ろから飛び出したガルーダが、青年の顔面へ体当たりをしていた。ガルーダはそのまま、コンコンと連続で青年の頭を叩き続ける。
「痛い痛い痛い! ……ああ! 君は!」
涙目になりながらも、青年はガルーダの姿に目を輝かせる。
「フフフ、久しぶり! 元気?」
それに対し、ガルーダは鳥の鳴き声で叫ぶ。
レッドガルーダの意思が分かるわけではないが、可奈美にはその声は、敵意に満ちているものに聞こえた。
「フフ、相変わらず優秀な使い魔っぷりだね。今回は、この子のお守りかな?」
だが、ガルーダは攻撃の手を緩めない。それどころか、より苛烈になっており、青年へ徹底的な体当たりを繰り返していく。
「ちょっと……いい加減にしてよ!」
とうとう堪忍袋の緒が切れたのか、青年はガルーダを弾き飛ばす。
可奈美の足元に転がって来たガルーダ。再び青年へ攻撃をしようとするガルーダを、可奈美は捕まえて止めた。
「ガルちゃん! どうしたの? なんでそんなに荒れてるの?」
だが、可奈美に意思疎通の手段はない。
やがて、ガルーダを阻む手の感覚が消える。
すでにその体は消失し、可奈美の手には、ガルーダを召喚するのに必要な指輪を残すのみとなった。
「ガルちゃん……?」
「ククク……アハハ!」
それを見て、青年は頭を抱えて笑いだす。
「相変わらず、僕はハルト君には嫌われているようだね! 全く、お仲間同士なのに悲しいな……」
「あの……ハルトさんと何かあったんですか?」
ガルーダの指輪を無くさないように右手中指に嵌め、可奈美は尋ねた。
「なんか、さっきもハルトさん、すごい顔でラビットハウスを飛び出していっちゃって……」
「ん? まあ、ちょっとね。喧嘩別れだからなあ……」
「喧嘩別れ?」
その疑問にも、青年は答えることはない。
そのとき。
「可奈美ちゃん!」
松菜ハルト。
息を切らしたまま、数段上の段差からこちらを見下ろしている。
彼の目線は、まずは可奈美。やがて、青年に移っていく。
ハルトが青年を捉えると、すぐにその表情が歪んでいく。
「やっぱりお前か! ソラ!」
ソラ。
そんな青年の名前が、ようやく可奈美に分かった。
「ハロー! ハルト君! 久しぶり!」
肝心のソラは、そんな風に右手を挙げた。どこにでもある、普通の挨拶。だが一方で、ハルトは穏やかではない。
「可奈美ちゃんから離れろ!」
あんな怒声、聞いたことがない。
だが、ソラはそんなハルトに臆することなく、クスクスとほほ笑む。
「そんなに怖い顔しないでよ。折角会えたんだから、積もる話だっていっぱいあるでしょ?」
「お前と話すことなんてない……! お前に対してあるのは……ただひたすらの殺意だけだ!」
ハルトがそんなことを口にするのか。
そんな事実に驚愕したせいか、可奈美は反応が遅れた。
「おおっと。僕にそれ以上近づかない方がいいよ」
いつの間にか背後に回った、ソラと呼ばれた青年。可奈美が何より驚いたのは、刀使として鍛えてきた肉体を、彼があまりにも素早く捕まえたことだった。右手を縛り上げ、完全にその動きを封じる。
「うっ!」
「可奈美ちゃん!」
「僕のことは知ってるよね? ハルト君……」
ソラがそう言うと同時に、可奈美の視界の端より、銀色の刃物が現れる。
「えっ?」
鋏。
背後から可奈美を動けなくしたソラが、可奈美の顔近くにハサミを見せていたのだ。
「ダメだよハルト君。この子は人質なんだから。指輪なんて使わないでね? 僕、君のことだったら何でも知ってるんだから。フフフ」
可奈美の目の前で、ハサミが何度も動く。
それを見て、可奈美はむしろ、刃物の動きばかりに気を取られていった。
「さあ……この子も、こんなに怯えているよ? ハルト君……」
「……怯えて?」
「だって見てよ。この子、こんなにびっくりして、僕の鋏を見つめちゃってさ……」
ハルトの疑問の声は、可奈美には届かない。
可奈美はじっと、ハサミの刃の部分……日光に反射する部分を見つめていた。
そして。
___鋏って、近くで見ると剣みたいだな___
「それ以上近づくと、僕……何をするか……」
「せいやっ!」
ソラがそれ以上何かを言うよりも先に、可奈美は彼のハサミを握る手を取り、そのまま肩にかける。
ソラが反射できない速度で、一気に抱え、投げ落とした。
「うわっ! すごい、これは驚いたな……」
可奈美としては、至近距離の投げ技を着地した方に驚くのだが、と心の中で思った。
ソラは可奈美から離れ、指で鋏を回しながら「へえ」と息を漏らす。
「君みたいな子供が、こんなことができるなんて。僕も人を見る目がなかったかな」
「いやあ、ハサミって近くで見ると剣に見えてきて、なんかワクワクしてきちゃって……」
可奈美が頭をかきながら言った。
だが、それはソラに唖然とさせるには十分だった。
「え? 何? 鋏を見て、剣だと思って、それでワクワクしてきた?」
さっきまで余裕の表情だった彼が、目を白黒させている。
それに、何となく勝てたような気がしてきた。
「あ~あ、人質の人選ミスったなあ。もうちょっと別の子を人質にしておけばよかったな」
ソラは手をポケットに入れながら、その場でジャンプする。
それは、人間のものとは思えないほどの跳躍力で、建物を伝い上昇していく。
だが。
「逃がすか!」
『エクステンド プリーズ』
ハルトはすさかず伸縮の魔法を使った。
ゴムのようにしなる腕が伸び、即座にソラの足を捕縛する。
「ハルトさん!?」
可奈美が止めるのも聞かず、ハルトはその伸びた腕を容赦なく振り下ろす。
鞭のようにしなりながら、ソラを捕縛した腕は、彼を地面に叩き落とした。
アスファルトが土煙となるほどの勢い。そして、生身の人間が原型を残せないほどの衝撃音。
だが、可奈美がぞっとするよりも先に、ソラが動く方が先だった。
「痛いなあ……全く……」
むっくりと起き上がったソラ。服装は傷んでいるが、生身の体にも関わらず、ほとんど無傷に近いようだった。
「僕が人間じゃなかったら死んでいたよ?」
「……」
ハルトがソラを睨んでいる。
そして。
「いいよ……久しぶりに……やろうか」
ソラはそう言いながら、帽子に手を当てる。
すると同時に、彼の顔に不気味な紋様が浮かび上がっていく。
不気味を体現したようなそれは、瞬時にソラの全身へ行き渡り、その全てを大きく変質していく。
そうして現れたのは、緑の体。肩や全身の至る所に突起物が生え、あたかも生物的な脅威を感じさせる。
その存在。それが何者なのか、可奈美は知っていた。
「ファントム……!? 嘘……あの人が……!」
「久しぶりに遊んであげるよ。ハルト君。いや……ウィザード」
「来いよ……グレムリン!」
グレムリン。
西洋の、悪戯を好むと言われている妖精。それと同じ力を持ったファントムが、ソラの正体。
「だからいつも言ってるじゃない。ソラって呼んでって。ね? ハルト君」
その正体に、可奈美は驚愕の声を上げた。
「そっか……だからハルトさんは、あんなに慌てて追いかけていたんだ……」
「アイツは以前、俺が倒せなかったファントム……」
『ドライバーオン プリーズ』
ハルトは説明しながら、ベルトを起動させる。さらに、そのつまみを操作し、ベルトから待機音声が流れ始めた。
『シャバドゥビダッチヘンシーン シャバドゥビダッチヘンシーン』
「だから今度こそ……ここで、倒す! 変身!」
『フレイム プリーズ』
赤の魔法陣が、ハルトをウィザードに変えていく。
だがグレムリンは、一切動じることなくその両手に短い剣を握る。
「そういえば、何時か決着を付けるって、約束したっけね?」
「なら、それを今日にしてやる……来い、グレムリン!」
「だから……その名前で呼ばないでって。僕は……ソラだ!」
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