Fate/WizarDragonknight
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荒魂ファントム
「変身!」
「遅い!」
ハルトが、再度ルビーの指輪をベルトに重ねる。同じように出現した魔法陣がハルトの体を作り変えるよりも先に、バハムートの拳が体を抉った。
「がはっ!」
生身の体を貫くかと思った。
右手で防御するのが少しでも遅れていれば、ウィザードに変身と同時に体に穴が開いていただろう。
転がったウィザードは、痛む体で指輪を取り出す。
『ビッグ プリーズ』
「食らえ!」
ウィザードの前に出現した魔法陣へ、蹴り込む。すると、魔法陣を通じて巨大化した足蹴りが、バハムートへ向かう。
だが。
「無駄ァ!」
それに対する、バハムートの蹴り。大きくなって強化されたにもかかわらず、荒魂による蹴りの力は、ウィザードの攻撃を跳ね返した。
「こいつ……強い……!」
蹴りの反動で起き上がったウィザードは、そのままウィザーソードガンで斬りつけていく。だが、荒魂の力を身に宿したバハムートは、驚くべき身体能力を発揮。素手で、ウィザーソードガンの攻撃をいなしていく。
「なんて化け物だよもう!」
ウィザードは、次にトパーズの指輪を左手に嵌める。
「力自慢か……だったらこれだ!」
『ランド プリーズ』
「力勝負ができるのか……望むところだ!」
ウィザードの足元に黄色の魔法陣が生成される。
『ド ド ド ド ド ドン ドン ド ド ドン』
上昇する魔法陣により、ウィザードのルビーがトパーズに書き換わると同時に、バハムートの拳を受け止める。
すると、手から伝わってきた猛烈な力に、ウィザードは思わず怯む。
さらに、バハムートの連続攻撃。ウィザードはその格闘技を受け止めていくが。
「いつものファントムより強い!」
「ハハハハハハ!」
バハムートの連撃に、どんどんウィザードは追い詰められていく。
「くっ……だったら……!」
『バインド プリーズ』
発動した魔法により、大地の力を持つ鎖がバハムートを巻き込む。
ウィザード屈指の拘束能力を持つそれだが、バハムートはいとも簡単に引きちぎってしまう。
「うっそだろ……!」
その力量に驚きながら、ウィザードは次の指輪を入れる。肉弾戦をする相手に対する、ウィザード最強の防御手段。
『ディフェンド プリーズ』
地面より突き出た壁。土でできた壁に、バハムートの拳が埋まり、その動きを封じた。
だが。
「甘い!」
バハムートが腕を横に薙ぐ。すると、土の壁はいとも簡単に粉砕され、ウィザードへの攻撃を許した。
「ぐっ……!」
ファントムの力ではない。
圧倒されるウィザードは、そう感じた。
荒魂ファントムは、自らの体を見下ろしながら、笑い声をあげた。
「これはすごい! 体が軽い! これなら、いくらでも絶望させられそうだ!」
「させない……!」
『ウォーター プリーズ』
トパーズのウィザードは、サファイアへ。魔力に秀でるウィザードは、即座に水のウィザード専用魔法を発動させる。
『リキッド プリーズ』
それは、体の液体化の魔法。物理能力に秀でたバハムートに有効と判断しての魔法だった。
予測通り、バハムートの攻撃はすり抜け、逆に水のウィザードの攻撃が追い詰めていく。だが、水のウィザードは魔力に秀でる代わりに力が小さい。いくら斬撃を与えても、バハムートが怯む様子はなかった。
「なるほどな……体を変質させたのか。確かにこれなら、俺は一切手出しできない。この時点で、さっきまでの俺では勝てなかっただろうな……」
「……?」
だんだんバハムートにダメージが蓄積されていく。やがて、体を大きくのけ反らせていった。
「だが……甘い!」
バハムートの無数の目が発光する。
すると、液体という名の盾を貫通し、マグマのような熱風がウィザードを貫いた。
「ぐあっ!」
液体の魔法を解除させた威力のそれ。
バハムートの体、その荒魂らしい体の部位が発光した。
不気味なほど赤いその光が、見るだけでウィザードの体を痛めつけていく。
さらに、その両手から紅蓮の球体が発生する。
バハムートというファントムの性質とは明らかに違うそれは、ウィザードの足元を破砕、大きく吹き飛ばされる。
「まさか……ウォーターがアンタみたいなタイプに追い詰められるなんて……」
「ハルトさん!」
ウィザードに代わり、復帰した可奈美がバハムートへ挑む。
だが、彼女の素早い剣撃も、バハムートは見抜く。卓越した動きで、目で追えない可奈美の攻撃を必要最低限の動きでガードしていた。
「嘘ッ!?」
「無駄無駄ァ!」
さらに、バハムートの肉弾戦。動きを封じられると、千鳥という長物を持つ可奈美の方が不利になった。
バハムートの連続パンチ。一つ一つを捌くことができたのは序盤だけ。
やがて、どんどん加速していくバハムートの攻撃は、可奈美でさえも耐えられなくなり、やがて写シの霊体の体にめり込んでいく。
「うわっ!」
可奈美が、悲鳴とともにウィザードの隣に吹き飛ばされていく。アスファルトを転がる彼女だが、痛みを気にせずにバハムートを見つめている。
「荒魂……いや、ノロを体に入れた状態……! つまり、実質S装備や親衛隊と同じ……?」
「可奈美ちゃん!」
「ッ!?」
さらに、バハムートは可奈美の首を締め上げる。
「さあ……お前をどうすれば絶望してくれる? それとも、いっそのことプチっとやってしまえば、そっちの魔法使いが絶望するか?」
「やめ……」
「さあ! 俺の強さに絶望してファントムを生み出せ!」
バハムートの腕の力がどんどん上がっていく。今に、可奈美の華奢な首をへし折ろうとする魔人。
間に合わない、とウィザードが駆けだそうとした。
その時。
どこからともなく湧き上がる、紅蓮の炎。それは渦を巻きながら、バハムートの頭上に集っていく。
「何だ……!?」
全身を貫く微熱に、ウィザードは顔を上げた。
集っていく炎。竜巻のようにも見えてくるそれは、やがて刃となり、その中心に光る刀に走っていく。
「あれは……!?」
その中に見える、小さなシルエット。
剣を振り上げる、ローブの人物。その姿を彩るように、炎がどんどんたまっていく。
そして。
「神居!」
それは、斬った。
可奈美を締め上げる手を切断し、彼女を地面に落とす。
「ぐああっ!」
二つの異形を取り込んだ怪物は、悲鳴を上げるものの、即座に再生。
ローブが繰り出した蹴りとバハムートの蹴りがぶつかった。
そのまま、蹴りを連打したローブは着地する。
「ちぃ!」
思わぬ新手の反撃に、バハムートは可奈美から離れる。
しゃがんだ足を伸ばし、その日本刀をバハムートに向けるローブ。その刀の先端が欠けていることに、ウィザードは気付いた。
「君は……?」
一方の可奈美。彼女は、じっとローブの姿を見て、顔を輝かせた。
そして。
そのローブが風により浮かび上がり、下ろされていく。
現れたのは、少女の顔。
ツーサイドアップにまとめられた髪の一部が、炎のように輝き、その下に燃えるように輝く真っ赤な瞳がある。
元気そうな顔つきは、揺るがない自信に満ち溢れている。彼女は、可奈美の姿を認める。
二人の少女は、数秒見つめ合い、笑みを零す。
「……行こう!」
「うん!」
可奈美とローブの少女は、共に頷きあった。
千鳥、切っ先が折れた日本刀が並ぶ。
「図に乗るな!」
バハムートの全身……荒魂の紋様が表に出ているところから、無数の光弾が発射される。
だが、白い光に包まれた二人の少女たちは、それをいとも簡単に切り裂く。
「ちぃ!」
バハムートの腕が、ローブの少女の日本刀とぶつかる。
「貴様、一体何者だ……!?」
「うわっ、荒魂が喋った……! ってことは、スルガと同じなの?」
「ふん!」
バハムートの蹴りが炸裂する。だが、ローブの少女もまた足蹴りにより、その軌道を反らし、逆に斬り込む。
「むっ!?」
同時にバハムートは、背後にも腕で防御した。回り込んだ可奈美の千鳥が、甲高い音を立てた。
「すごい……!」
「無駄無駄無駄ァ!」
二人は再び加速し、連続で攻撃を加えていく。だが、達人的な動きをするバハムートには、中々決定打にならない。それどころか、可奈美たちの動きを見切り、逆にダメージを与えている。
「だったら……!」
ウィザードは、青い面が描かれた指輪を右手に入れた。
水のウィザードのもつ、最大の一撃。
『チョーイイネ ブリザード サイコー』
冷気を持つ青い魔法陣が、バハムートの足元に出現する。
「何!?」
「はああっ!」
ウィザードの掛け声とともに、魔法陣より極寒の大気が発生した。それは、みるみるうちにバハムートの体を凍り付かせていく。
「なんだと!?」
予想外の妨害に、バハムートの動きが止まる。
おそらく彼の腕ならば、その氷もすぐに壊せるだろう。だが、この一瞬だけ注意を惹ければ十分だった。
「今だ!」
ウィザードの掛け声とともに、刀巫女の姿が浮かび上がる。
「しまっ……!」
バハムートが反撃しようとするが、もう遅い。
可奈美の白い体。それは、瞬時に深紅に染まっていく。
「太阿之剣!」
リーチの長い一閃。それは、バハムートの氷を一瞬で蒸発、さらに本体にも大きなダメージを与えた。
だが、バハムートは倒れない。全身から湯気を昇らせながらも、可奈美を睨み、彼女へ襲い掛かろうとしていた。
だが。
『ウォーター スラッシュストライク』
水のウィザードが、青い斬撃を放つ。
巨大なエネルギーの動きにより、水蒸気が周囲をたちこめた。
「無駄無駄無駄無駄ァ!」
だが、白い煙の中であっても、バハムートは反撃してくる。
その猛烈な格闘技に、ウィザードと可奈美は防御をせざるを得なかった。
だが。
その白い水蒸気たちの頭上を、炎を纏った刀の少女が舞い上がる。
「行くよ清光……! 神居!」
夕焼けさえも染め上げる、紅蓮の炎。それは刃となり、バハムートの体を切り裂く。
「効かん……! 効かんぞ……!」
刀傷の跡から、蒸気が立ち昇るバハムート。炎の刃は、彼の体に大ダメージを与えたものの、倒すには至らなかった。
「残念だったな……さあ、この強さによって絶望しろ!」
だが。
「いいや。終わりだ」
『チョーイイネ キックストライク サイコー』
すでに、ウィザードもまた新しい攻撃に移っていた。青い魔法陣を戦闘にした跳び蹴り。
「何度やっても同じだ!」
そう言いながら、今度こそ反撃しようとするバハムート。
だが。
『ドリル プリーズ』
ドリルの魔法により回転が追加。それは、突き出されたバハムートの拳ごと、その腕を粉々にした。
「ば……か……な……!」
冷却、加熱、再び冷却、加熱と繰り返されたバハムートに、再び水の過冷却。急激な熱衝撃により、バハムートの体は粉々に破壊されていった。
荒魂と融合したファントム。ようやくそんな異形を倒したところで、ウィザードはその変身を解除して、助けてくれたローブの少女を見つめた。
ローブの切れ間から覗く、今の可奈美と全く同じ赤いセーラー服。それと日本刀を持つ姿から、彼女のことは一つだけ、断定できた。
「刀使?」
「美炎ちゃん!」
敵がいなくなったと同時に、可奈美が大声で手を挙げた。
ローブの少女もまた、それに応じる。
二人で、大きな音を立てたハイタッチ。
美炎と呼ばれた少女は、さらにすぐに可奈美へ抱き着いた。
「可奈美! 久しぶり~! 元気だった?」
すると、可奈美はバランスを崩し、よろめいた。
「どうしたの!? どうして、ここに?」
「可奈美こそ! なんでこんなところに!?」
二人はそのまま、美炎という少女のバランスによって、倒れ込んだ。
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