なんかポケモンの世界に転生したっぽいんだけど質問ある?
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第8世代式 育成法って すげー!・2
ポケモンの世界には、最初期の頃からレベルアップアイテムが存在する。これは『ふしきまなアメ』というアイテムで、使用したポケモンのレベルを1上げるという代物。ただし、店で売っているアイテムではなく、道中で拾うにしても数が少ない。後の作品では数を手に入れ易くはなったものの、その入手には手間の掛かる物だった。
しかし、俺が最後にプレイしていた第8世代……所謂『剣・盾』の世界ではふしぎなアメより簡単に入手できて、しかもその効果はそれ以上というアイテムが存在していた。その名も『けいけんアメ』。その名の通り、経験値を濃縮して固めた様なアメ……というか氷砂糖のような塊だ。大きさがXS~XLまでの5段階あり、封じ込められている経験値の量も大きさによって変化する。俺がワニノコに食わせたのはXLサイズのけいけんアメ。1粒で30000の経験値が入る素晴らしい物だ。そしてその1粒でレベルが満たされ、進化が始まった訳だ。
進化。ポケモンシリーズお馴染みのシステムであり、後の育成RPGに多大な影響を与えた要素。ポケモンの中には成長……つまりは一定のレベルまで上げる事でその姿を変化させ、より強力なモンスターに生まれ変わる物がいる。まぁ、進化の方法はレベルアップだけではないけれど、一般的なのはレベルアップによる進化だ。小さくて可愛らしかったワニノコはその身体を大きくして、顔にも狂暴さを滲ませる。
「どうだ?進化して『アリゲイツ』になった気分は」
ワニノコ改めアリゲイツは、不思議そうに首を傾げている。何しろ一度も戦っていないのに進化してしまったのだ、戸惑いもするだろう。だが、これが発売から25年の時を経て進化した最新の育成法なのだ。能力の高い個体を厳選し、育成方針を決めたら適切なドーピングを施し、仕上げに大量の経験値を流し込んでレベルを上げる。従来は一匹のポケモンを仕上げるのに何時間もかかったものだが、今や道具と育てるポケモンさえ揃っていればものの数分で強力なポケモンが完成する。いやはや、凄い時代になったもんだ。しかもそれが現実になったら……もう、相手が憐れにさえ思えてくるレベルだ。
「どうだ?アメちゃん、もっと欲しいか?」
アリゲイツの目の前で、先程口に放り込んだけいけんアメを見せつける。さっきの進化でどういう代物かは何となく察しているのだろう、もっと寄越せとばかりに頷く。
「よしよし。ほれ、アーン」
がぱり、と大きく開かれた口に再びけいけんアメを放り込む。今度はXLサイズを纏めて5つ、ぽいぽいと放り込む。それを美味そうに咀嚼するアリゲイツ。そして再び起こる身体の激しい振動。アリゲイツには、もう一段階上の進化があるのだ。さっきまで俺より小さかった身長は俺を追い抜き、見上げる程に大きい。脚はその巨体を支える様に太く、逞しくなり、腕も伸びて鋭い爪が備わる。アリゲイツの時に残っていた顔の幼さは消え失せ、精悍な顔付きに変わる。おおあごポケモンという異名の通り、その顎は俺を一口で丸呑み出来そうな程に大きく、そこに生える牙もナイフの様に鋭い。
「進化おめでとう、『オーダイル』。つっても、まだ自分でも変化に理解が追い付いて無さそうだがな」
厳つくなった顔に浮かぶ感情は『困惑』……そりゃそうだ、さっきまで俺より小さな体だったのに、数分も経たない内に俺を見下ろす巨体に変化したんだから。
「さぁて、と。改めてこれから宜しくな!」
友好の握手のつもりで、右手を差し出した。が、オーダイルは動かない。どころか、ニヤリと悪意の見える笑みを浮かべている。その瞬間、オーダイルはその逞しくなった腕と鋭さを増した爪を振り上げ、俺を切り裂かんと振り下ろして来た。
…………まぁ、予想してたんでしゃがみ回避余裕でしたが。
「あっちゃあ、やっぱりこうなったか」
ポケモンシリーズには、他のRPGとは違い序盤からレベルを上げまくって無双出来ない様にとある仕掛けが施されていた。それは、『一定のレベルを超えてしまうとトレーナーの言うことを聞かなくなる』という物だ。ゲームシステム的にはレベルキャップが設定されていて、そこを超えるとトレーナーに反抗する、という設定になっているのだろう。それを解放するのがストーリー上で集める事になるジムバッジで、子供の頃は難しく考えずにバッジを集めていたが、大きくなってから考えると良くできたシステムだなぁと感心する。それがリアルになると、『強くなりすぎたポケモンにナメられる』という形で表れたワケだ。だってオーダイルの奴、こっちみてビックリしてるもの。あわよくば今の一撃で俺をぶっコロして、野生に帰ろうとしてたもの。
「なぁオーダイル、今からでも俺に従う気はねぇか?」
と、一応尋ねてみたが、返答は鼻で笑われた。
「はぁ?何で今更お前みたいな弱い生き物に従わないといかんの?」
みたいな事が顔にデカデカと書いてある。
「あーなるほど、そういう事ね。大体理解したわ」
こういう跳ねっ返りの躾も、リアルだとトレーナーの仕事なワケね。ハイハイ。そりゃジムリーダーとか尊敬される訳だわ。
「要するに、だ。自分の立場を弁えねぇバカは、おイタしない内にその鼻っ柱へし折ってやらねぇといかんのね。ヘイ、ロトム!」
「なんダ?」
「『ブルさん』のボール、出せるか?」
「あいヨ」
スマホの画面からペッ、と吐き出された1個のモンスターボール。中身は俺のよく知るポケモンが入っている。
「さぁて、ブルさん。生意気な後輩にいっちょ教育的指導……かましてやってくれ」
そう言って俺は、そのボールを放り投げた。
そのポケモンが登場したのは、第4世代と呼ばれている『ダイヤモンド・パール』の時だった。元々そのポケモンの進化前の奴からお気に入りだった俺は、そいつが進化できると聞いてずっと楽しみにしていた。そしてそいつを手に入れた時、俺は嬉しくて涙を流しそうだった。進化前よりもパワフルになったその姿に、多彩になった技のレパートリーに、何よりその強さに俺は惚れ込んだ。でんきタイプのポケモンも多数いるが、個人的な好みはこいつがぶっちぎりの1位だ。その証拠に、第4世代から第8世代まで、俺は最初に手に入れたそのポケモンをデータを移行させてずっと使い続けて来たんだ。ぶっちゃけ、最新作がでる度に貰う御三家……最初の三匹よりも圧倒的に思い入れがある。その名はエレキブル、通称『ブルさん』。今では一番付き合いの長い、相棒とも言える存在かもしれん。そんなブルさんだからこそ、一番下っ端の『教育』を任せられる。そう判断した。そんな事より。
『リアルエレキブル、かっけええええぇぇぇぇぇ!』
俺は目の前に現れたリアルのエレキブルにテンションが上がりすぎておかしくなりそうだった。だって10年以上好きだったポケモンがだよ?目の前に現れた上に俺の指示ちゃんと聞いてくれんだよ?もうそれだけでご飯どんぶり三杯は食えるわ。ああもう、めっちゃ写真撮りたい。写真どころか戦ってる姿を動画に収めて鑑賞会したい。と、テンションアゲアゲで呆けていたせいだろう。無視されていると感じたらしいオーダイルが、目の前に現れたエレキブルに向かって爪を横薙ぎに振るった。
「ガルァッ!」
シカトこいてんじゃねぇ、とでも言ったのか、不機嫌そうな唸り声付きで迫る爪を、ブルさんは余裕綽々と言った具合に片手どころか尻から伸びる2本の尻尾の片方で受け止めて見せた。ギョッと驚くオーダイルに、ニヒルに笑うブルさん。いちいちカッコいいなお前は。
「さて、初のリアルポケモンバトル……行ってみますかね」
相手、俺の手持ちだけど。
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