IS《インフィニット・ストラトス》‐砂色の想い‐
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篠ノ之『箒』
「ねえ、カストさんも専用機もってるんだよね?」
「は、はい。一応」
「オーストラリアの専用機かー。やっぱり『デザート・ウルフ』?」
「いえ、一応実験中の第3世代の『デザート・ホーク』を……」
「第3世代!?」
「すっごーい! オーストラリアってあんまり有名じゃないと思ってたけど、もうそこまで行ってるんだ!」
「赤道連合も遊んでばかりじゃないってことね!」
今は授業が終わってお昼の食堂。私が昼食を取っているとクラスの色々な人たちが話しかけてきました。
皆さんやっぱり気になっていたみたいで、今日の騒ぎで一気に話を聞きに来たみたいです。
それはいいんですけど……食べる時間がなくなりそうな勢いです。
「おーい、カルラ!」
「あ、織斑君だ!」
私の周りの人たちが一斉に振り返りました。私も声のほうを見ると、一夏さんと篠ノ之さんがトレーを持ってこちらに向かって来ていました。
「あっちで一緒に飯食わないか? 少し話したいこともあるし」
「あ、はい。いいですよ。皆さんすいません。話はまた今度で」
「うんうん、行って来な!」
「はあ~、いいなあ。私も一緒に食べたい!」
「我慢我慢、まだまだこれからよ!」
トレーを持って奥のテーブル席に移動します。篠ノ之さんは相変わらずの仏頂面でした。確かに朝と同じで食べにくいけど……朝よりはマシかな。マシだと思う。マシだと信じたい……
しばらくは特に大した会話も無く3人で昼食を食べていて、もうすぐ食べ終わるという段階になって一夏さんが口を開きました。
「箒、カルラ」
「なんだ」
「はい?」
「俺にISのことを教えてくれないか?」
篠ノ之さんはあの篠ノ之博士の実の妹。その関係で一緒に誘っているのでしょう。でもこの話し方、前も思いましたけどそれ以前からの知り合いのようですね。
「それは構いませんけど……でもそれなら篠ノ之さんだけで十分ではないですか? あの束博士の妹さんならば尚更私なんかより……」
「私はあの人ではない。それにそれは一夏の自業自得だ。あんな分かりやすい挑発に乗ったこいつが悪い」
やっぱり天才の妹、と思われるのはこの人にとっては苦痛みたいですね。あまりこの話題を出すのはやめておきましょう。
「でも箒はこうしてIS学園に入ってるし、カルラもオルコットと同じ代表候補生なんだろ? だったらどっちが強いかとかは置いておいて、少しでも経験のある奴から教えてほしいんだ」
「で、でも私と一夏さんはひょっとしたら戦うかもしれないんですよ? それなのに私に頼むなんて……もしかしたら私が貴方に不利になるようなISの操縦方法を教えるとか考えないんですか?」
「いや、それはないだろ。カルラなら」
ああ、もう! この人は何でつい昨日知り合いになった人にここまで断言できるんでしょう?
それに相変わらず篠ノ之さんの好意に気づいていないのも問題です。
「箒、どうした?」
「なんでもない」
「な、なんで怒ってるんだよ? 俺何かしたか?」
「何でもないと言っている」
「嘘つけ、顔が怒ってるじゃないか」
「この顔は生まれつきだ」
そう言って篠ノ之さんが残りのご飯を一気に掻き込みました。
ああ! そんなことしたら!
「むぐ!」
ああ、やっぱり。案の定喉につまらせたようです。
「だ、大丈夫ですか?」
私が背中を摩りながら水を手渡すと、篠ノ之さんが一気にそれを飲み干しました。
「す、すまない。迷惑をかけた」
「いいえ、篠ノ之さんこそ大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない」
「なにやってんだか」
「ねえ、君って噂の男の子でしょ? 代表候補生と喧嘩するってことになった」
急に話かけられて3人の視線がそちらに向くと一人の女性が立っていました。帯の色が3年生の赤色……ということはこの人は3年生ということですか。IS学園は胸元のリボンの帯の色で学園が分かるようになっています。私たち1年生は青、2年生は黄、3年生は赤。そして目の前の人の帯の色は赤色です。
「良かったら、私が教えてあげようか?」
「結構です、私が教えることになっていますので」
篠ノ之さんがその人が言い終わる前にその人に言い放ちました。
「あなたも1年生でしょ? 私は3年生。私のほうが上手く教えられると思うけど?」
「私は……篠ノ之束の妹ですから」
言うときに少し苦そうな顔をして言っていました。篠ノ之束の妹、という位置づけは相当苦労しているらしいですね。姉の名前を嫌がりながらも使うほど一夏さんのことが好きなのでしょう。
「そ、そう。で、でも……」
束博士の妹ということに驚いたのが丸わかりですが、引き下がってもらえません。これは助け船を出しておきましょう。
「大丈夫ですよ。私も教えますので」
「え?」
「こう見えてもオーストラリアの代表候補なので」
「そ、そう……頑張ってね……」
明らかに肩を落としたその3年生は渋々ながらに元の席に戻っていきました。
束博士の妹と代表候補生では自分の出る幕はないと感じたようです。これが代表候補生なら食いついてくるのでしょうが、今の3年生は代表候補生のデータベースに顔載ってませんでしたし大丈夫でしょう。
「教えて……くれるのか……?」
そんなことを考えていると一夏さんが箒さんに向かって嬉しそうな声を上げていました。
「放課後に剣道場に来い」
「そっか! サンキュー箒!!」
「ふ、ふん!」
うん、私の出る出番は無さそう。これなら篠ノ之さんの思いに一夏さんも……
一夏さんにばれないように篠ノ之さんに耳打ちをする。
「良かったですね。告白頑張ってください篠ノ之さん」
「な! わ、分かるのか?」
私の耳打ちに箒さんが顔を真っ赤にして振り向きました。
「それはもう」
「そ、そうか。ありがとう……それからカスト。その……苗字で呼ぶのは止めてくれ。私は箒という名前がある」
「あ、分かりました。では箒さんと。私もカルラでいいですよ」
「む、そうか。ではそう呼ぶとしよう……それからな、カルラ」
「はい?」
「このことは一夏には黙っていてくれ、頼む」
顔を赤らめたまま呟いた箒さんの言葉に私は黙って頷きました。
やっぱり篠ノ……箒さんは一夏さんが関わらなければいい人のようです。初めてこの人の素の笑顔を見れた気がしますよ。
――――――――――――――――――――――――――――――
放課後の剣道場
「どうしてこうなったんでしょう……」
「どうしてこうなっているんだ……」
私と箒さんがほぼ同時にそう呟きました。
事の発端は授業が終わって直ぐ。二人が剣道場に行くのを見守っていると一夏さんに私も一緒に来てくれと強制連行されました。以上。
「だから、カルラにも教えて欲しいんだって言ったろ?」
「諦めろ、あいつは言い出したことは曲げない。多分カルラが頷くまでこんな感じだぞ?」
箒さんがもう慣れたといった風に肩を竦めます。
「箒さんは一夏さんのこと、よく理解しているんですね」
「そりゃ箒は俺の幼馴染だからな!」
聞こえていたのか一夏さんがそう言った。なるほど。幼馴染……高校で再会した幼馴染。片思いとそれに気づかない鈍感男……
どっかで聞いたような話が始まりそうな予感ですね。しかもBADEND臭がプンプンするんですけど……
「分かりました。でも放課後はそこまで時間はありませんし、それに一夏さんのISも届いていないそうなので、一応訓練機の使用許可を求めてみましょう。それが出たなら私が可能な限り教えますよ」
「そうか! 二人とも、ありがとうな!」
「言っておきますけど使用許可は自分で出してくださいね。そこまで面倒は見ませんよ」
「おう!」
そう言って一夏さんは笑顔を向けてきました。天然ジゴロとは正にこのような人を言うんでしょうね。ここまで純粋な笑顔を向けられるとこっちが照れてしまいます。
そこからはしばらく私は見学。一夏さんが箒さんと打ち合うのを見ているだけです。こうやって見ると箒さんの剣道の腕は凄まじく、様々な技を駆使して一夏さんを見事に翻弄しています。
しばらくすると一夏さんが待ったをかけました。明らかに疲労していますね。
「どういうことだ! どうしてそこまで弱くなっている! 中学では何部に所属していた!」
「帰宅部! 3年連続皆勤賞だ!」
思わず何も無いのに転びそうになりましたよ……
「一夏さん、それ自慢することじゃないです……」
「そうか?」
「IS以前の問題だな! これから放課後三時間! 私が稽古をつけてやる!」
「ちょっと待て! 俺はISのことを教えてもらいたくて頼んだんだぞ! 今更剣道の稽古なんて……」
「いえ、一概にそうは言えません」
「カルラ?」
「ISは乗り手の思い通りに動いてくれます。だからIS自体の性能も重要ですが、操縦者の心身鍛錬も非常に重要なんです。その技術をそのままISに使用できますから。ですので一夏さん本人の実力次第で勝負が有利にも不利にもなったりするんです」
「カルラの言うとおりだ! ほら立て!」
そうは言っても箒さんは嬉しそうです。やっぱり好きな人と二人で同じことを出来るというのは嬉しいのでしょう。
私の出番はISの使用許可が出てから。それまでは箒さんに一夏さんとの時間を作ってあげよう。
「脇が甘い!」
「ゴボァ!」
作って上げ………
「防御を下げるな!」
「ペプシ!?」
作って……………
「死ねぇ!」
「………………!!!!!?!?」
声に鳴らない悲鳴を上げる一夏さんを見て思ったこと。
告白する前に一夏さん死んじゃうんじゃないかな……
後書き
誤字脱字、表現の矛盾、原作流用部分の指摘、感想、評価等などお待ちしてます。
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