八条学園騒動記
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第六百二十四話 茶道をしてみたその五
「ですから座り方も」
「正座でなくて」
「楽にです」
そうした座り方でというのだ。
「どうぞ」
「それじゃあ」
「作法はもうお話しましたね」
「はい」
スターリングはすぐに答えた。
「もうそれは」
「そうですね、ではです」
「その作法はですか」
「守られて」
そうしてというのだ。
「楽しまれて下さい」
「わかりました」
「それじゃあ」
蝉玉も言った。
「楽しませてもらいますね」
「はい、どうぞ」
「和菓子も」
こちらもと言ってだった。
蝉玉も他の面々もお茶を飲みはじめた、和菓子の羊羹もそうした。そうしてここで聞いた作法通りに飲むと。
「結構なお手前で」
「いえ」
このやり取りをした、そして。
菅は飲んでからこんなことを言った。
「確か井伊直弼さんも」
「あの評判の悪いですね」
「幕末一の悪役も」
この時代でもそうなっている。
「茶道はですね」
「非常に造詣が深かったです」
「そうでしたね」
「逼塞していたので」
井伊家の中でだ、藩主の息子でも十六男程にもなれば分家や養子のあてもない。その為彼も一生埋もれて生きていくと思っていた。
それでだ、様々なことに打ち込んでその逼塞間を紛らせていたのだ。無為に過ごす様よりはずっといいと感じ。
「和歌や陶芸、学問に居合に」
「色々とですか」
「励み究めて」
「茶道もですね」
「そうでした」
「そして運命の悪戯か」
「殿様になって」
長兄の養子になり藩を継いだのだ、彼にとっては思わぬ事態であった。
「そうしてです」
「ああなったんですね」
「若し藩主にならなければ」
「そのまま埋もれていれば」
「評判もです」
今も尚悪く言われているがというのだ。
「悪くなかったかと」
「歴史にも出なかったですね」
「そうだったかと」
「あの人殺されてますね」
七海はこのことを話に出した。
「桜田門外の変で」
「堂々と襲撃されまして」
「撃たれたんですよね」
「そうでした」
「首まで切られて」
「前代未聞だったとか」
茶道部の人もこう返した。
「何でも」
「江戸幕府では」
「幕府の偉い人が江戸の町中で襲われ」
それも江戸城の表門の前でだ。
「そして首まで取られた」
「前代未聞のことで」
「そして討たれて」
そうなってというのだ。
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