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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Saga30-A遥かに永き旅路の果てへ~Land of Sternberg~

†††Sideトリシュタン†††

ルシルさんと本当の別れを済ませるため、アイリからの懇願かつ彼を思い慕う私たち願いの下、シュテルンベルク家発祥の地、ベルカ・シュトゥラ国はアムルへとやってきたのだけれど、「うそ・・・ここは本当にベルカなの・・・?」と、自分の目に映る光景に私は目を疑った。

「ちょっ、待って! ベルカの大地がめっちゃ再生してる!」

「いつの間にこんな・・・!」

「ありえないよ、これ!」

「でも幻じゃない。この緑の香り、本物だ」

澄み渡る青い空、白い雲、優しい風、温かな日差しが、アムル領主館の中庭へと転送された私たちを出迎えたことで、私やイリス、ルミナ、セレス、クラリス達ベルカ組は驚きを見せた。

「えっと、どうしたの?」

「えっとね。ルシルとフィヨルツェンの闘い以降、ベルカの地が再生し始めたって話あったでしょ? だから教会はたびたびベルカに調査隊を派遣してたんだけど、こんなに再生しているなんて調査結果は無かったから・・・」

「イリスたち局勤めとは違い、私やアンジェのような教会騎士は調査隊に何度か同行して、実際にこの目でベルカが徐々に再生していることを確認してきた。けれど、半月前に訪れた時にはこんなに自然豊かな大地では決してなかった・・・」

「そうそう。この前貰った資料には、再生が頭打ちにあるって・・・」

だから驚いた。屋敷の周辺は、アムル領本都の街並みが遺跡として広がっていて、青々とした自然に覆われていた。以前ここを訪れたのは1年前。その時は草木も生えておらず、屋敷も無かった。それなのにこの変わり様は一体・・・。私たちベルカ組が混乱している中、「アイリは何か知っているのですか?」と、イクスがアイリに尋ねました。

「うん。ベルカは今、マリアの干渉能力で2つあるの。アイリ達が今いるところが本当のベルカ。トリシュたち教会が訪れてたのは、この真のベルカの姿を隠すための結界。マイスター達の最期を邪魔しないようにマリアが張ったもので、屋敷中庭の座標に転送で来た場合は本来のベルカに、次元航行艦などで来た場合は偽りのベルカに立つことになるの」

「そういうこと。で、その結界はちゃんと・・・」

「解除されるよ。マイスターとマリアが帰るときにね。・・・それよりほら、ヴィータ達はこの屋敷を見て何も思わない?」

「は?・・・おいおい、マジか・・・。あの日のまんまじゃねぇか」

「イリュリアに破壊される前のシュテルンベルク邸と全く同じだな」

「ええ! 屋敷も、庭も、全然変わってないわ! 懐かしい・・・!」

「オーディ――いや、ルシルやエリーゼ達と過ごした当時のことが蘇るな」

「帰って、きたんだな・・・あたしら」

ヴィータさん、シグナムさん、シャマル先生、アインスさん、アギトがそう言って感慨深げに屋敷を見上げました。無言のままのザフィーラも、目では懐かしがっていると判ります。そういう私も、知るはずのない屋敷や庭などの景色を見て、どこか懐かしい気持ちになっていた。

――おかえりなさい――

(え・・・?)

耳元で囁かれたようなか細い声ながらハッキリと耳に残る声。自然と庭の片隅に生えている大木へと目を向ける。幻視していると理解できる。それでも単純な幻とも言えない存在が、幹の寄り添っていた。

(エリーゼ卿・・・)

シュテルンベルク家の家宝である、エリーゼ卿やオーディン様――ルシルさん達が描かれた絵画の通りのお姿であるエリーゼ卿が、私を見て微笑んでいました。今の、おかえりなさいは、ひょっとしたらエリーゼ卿の・・・。まばたきの一瞬、視界が閉ざされた後、エリーゼ卿の方を見ると、そこにはもうそのお姿はなかった。

「トリシュ? 大丈夫?」

「イリス・・・? あぁ、うん、大丈夫。行こう」

アイリを先頭にみんなが屋敷の玄関扉に向かって歩き始めていて、樹を見つめたまま足を動かさなかった私を心配して、イリスが声を掛けてくれたみたい。イリスを安心させるために笑顔で答えた後、玄関扉を開けて待っていてくれているはやてにも、笑みを浮かべて頷いて見せた。イリスと一緒に駆け足ではやての元へ行き、一緒に玄関を潜った。

「内装も昔のまま・・・」

廊下に敷かれたレッドカーペット、壁に設けられた魔力燈、それに「おいトリシュ、コレ見てみろよ」と、ヴィータさんが壁に掛けられている額を見て言いました。そこには「コレ、失われていたはずの・・・」絵画がずらりと並んでいた。

「ルシル君がオーディンって名乗っていた頃の絵・・・?」

「わぁ♪ シグナムがドレスを着てるですよ!」

「シグナムお姉ちゃん、可愛い!」

「む!? み、見るな。それは無理やり着せられたもので・・・!」

「何よ。案外似合うじゃない」

「うん。シグナム、綺麗だよ」

「よしてくれ」

真っ赤なドレスで身を包み、キリッとした表情のシグナムさんのソロモデルの絵画。シャマル先生やアインスさん、ヴィータさんもそれぞれのドレス姿の絵画が飾られている。アイリの話によれば、マリアさんは当時のベルカを、ルシルさんをずっと見守っていたとのことで、一度は失われたこの屋敷や絵画などを一から元の姿に再生させることも出来たとのこと。

「あ! なぁ、アイリ! この絵ってさ! ルルとベディの描いたやつじゃね!? うっわー! 懐かしいな!」

「ルルとベディって、ルシル君とエリーゼちゃんの子どもよね?」

「ルシル君の・・・」

「子ども・・・」

「ルシルさん、私や兄様にとっては高祖父母・・・よりもっと昔の親族になるのかな」

――ママ~♪――

――ママとお姉ちゃんたちの絵かけた~!――

また幻視+幻聴だ。廊下の奥から駆けてくる小さな女の子と男の子。2人の手には、額縁に収められている拙い似顔。2人は私たちをすり抜けて、玄関の方へ。そちらに振り向くと、エリーゼ卿とアイリとアギトの3人の姿が。エリーゼ卿たちに絵を見せる子ども達の姿が微笑ましくて、私の胸の内がポッと温かくなる。
当時のシグナムさん達の絵画や、子ども達の描いた絵を見て思い思いに感想を言いながら、私たちは廊下を進み、「この部屋にマイスターが居る」と、アイリさんが執務室の両開き扉の前で一度足を止め、私たちに振り向いた。

「アイリからみんなに忠告しとく。マイスターの姿を見てショックを受けると思う。だけど、取り乱さないでほしい。お願い」

アイリの今にも泣きそうな表情と震えた声は、ルシルさんが今置かれている状況が酷いものだと理解するには十分すぎるものだった。私たちは息を呑み、アイリが2つのドアノブを捻るのを見守る。

――お願い。オーディンさんを、ルシルさんを・・・救ってあげて――

エリーゼ卿がまた姿を見せ、ゆっくりとこちらに向かって歩いてきました。そして、ご自身の胸に両手を添え、何かを抜き取るような仕草をします。蕾のような形にした両手を私に向けて差し出してきたので、私は手を伸ばした。

――シュテルンベルク家の最後の目標、ルシルさんを故郷に送り出す。その務めを、あなたに託す――

幻にしては現代の私と意思疎通が出来ているような気がしてならない。もしかすると、エリーゼ卿の亡霊・・・。ルシルさんの最期を見届けるために現代まで・・・なんて、そんな馬鹿な話があるわけ・・・。でも、エリーゼ卿の想いはしっかりと受け止めます。あなたと同じ人を好きになった者として。

「っ!?(魔力が・・・全快した・・・!?)」

エリーゼ卿の開かれた両手の中には何もなかった。けれど、その何もない空間に伸ばしていた右手から流れ込んだ来る温かな魔力が、空っぽになっていた私の魔法用のリンカーコアを満たした。自分の身に起きた奇跡とでもいうような状況に驚く私の耳に「お願いね」という、エリーゼ卿の声がハッキリと聞こえた。

「トリシュさん。大丈夫ですか?」

「あまり顔色が優れないようですが・・・」

「休める部屋、探してきましょうか?」

「ありがとうございます。ですが大丈夫です。・・・私たちも入りましょう」

イクスとフォルセティとヴィヴィオ、それに心配そうに私を見るアインハルトとコロナとリオに微笑みを返し、アイリが両開き扉を内側に向かって開くのを見つめる。部屋はカーテンが閉められていることで薄暗いけれど、そこに居た人物が誰かは判った。

「あら~? どうしてアイリが居るのかしら~? それに、管理局の連中も~?」

部屋の中央に立って私たちを出迎えたのは、「ミミル!」と、側に控えるフラメルとルルスの3人。ルシルさんに魔力を吸収されたシグナムさん達、ルシルさんやミミルと交戦し魔力を限界まで消費しているはやて達みんなを護るため、私は“イゾルデ”を双剣形態フェヒターフォルムで起動した。

「待って、みんな。ソイツはもう大丈夫」

そう言ってアイリはミミル達の前に移動して、彼女たちの奥、布が被せられた何かを見て、「マイスターの様子は?」と尋ねた。その言葉からして布の中にルシルさんが居ることが判ったのだけれど、どうして布を頭から被っているのか?という疑問が生まれた。

「ダメね~。もう陛下自身の機能でコミュニケーションは取れなくなっているわ~」

「そう。じゃあ、計画通りに・・・」

「ええ。私たちの最後の役目を果たすわ~」

アイリが執務室の奥へと移動するとルシルさんを覆っている布に手をかけ、「みんな。いくよ」と一言断りを入れたのち、布をゆっくりと外した。そこに居たのは、車椅子に座ったルシルさんでしたが、私たちはその姿に絶句した。ルシルさんの体の至る所が崩れ、霧散し、体の向こう側が見えるほどに薄くなっていた。

†††Sideトリシュタン⇒イリス†††

アイリが取っ払った布に隠されてたのは、車椅子に座るルシル。でも、もはや人として活動できるような体じゃなかった。両脚はもう膝から下が無くて、右わき腹が崩れて、右腕は半透明、左手の指先は無く、左肩も崩れては元に戻ろうとしたり・・・。顔は、右目辺りが半透明で、左下顎が少し崩れて、額が陽炎のようにゆらゆらと揺れてる。
ルシルのそんな無残な姿にわたし達は絶句して、何一つ言葉を発することも、その場から動くことも出来なかった。ただひとり、アイリだけが「ごめんね、マイスター」って謝った後、ルシルの左手に自分の両手を重ねた。

「マイスターのこと、裏切っちゃった。アイリ、帰ってきちゃダメだったのに、はやて達を連れてきちゃダメだったのに・・・。でもね、マイスターを孤独のまま帰らせることが我慢できなかったの。許してくれなくたっていい。・・・これが最後だもん。だから、少しでもいいから話をしてあげて」

「アイリ~? そろそろ始めるわ~」

ミミルがフラメルとルルスを連れてルシルの側へと行き、アイリと入れ替わるように立ち位置を変えた。何をするのか?っていうわたし達の疑問は、アイリの説明で解決した。

「パイモン達の役目だよ。マイスターの糧となるため、自身を魔力化させて魔力炉(システム)と融合するっていう・・・ね」

「私は初めからそういうコンセプトで造られたのよ~。もちろん、私の造ったフラメルとルルスもね~」

ルシルの糧となることを前提に造られたミミルや、彼女に造られたフラメルとルルスだけど、その表情から不服はなさそう。ううん、そもそも不服っていう感情すらないのかも。ミミルはチラリとわたしを見た後、すぐにルシルへと視線を戻した。

「では、これにてさようならよ~」

ルシルの足元に展開されるベルカ魔法陣。三方の小さな円の中にミミル達は立ち、ルシルに体の正面を向けた状態で片膝立ち。そして「ルーイヒ・エンデ」とミミルが呟くと、彼女たちの輪郭が一斉に崩れて、崩れた体は魔力素となってルシルの胸へと吸い込まれてく。小さな体のフラメルとルルスはすぐに消滅して、残るはミミルだけとなった。

「ミミル・・・」「ミミル、さん・・・」

「何を悲しむのかしらぁ、イリス、はやて~? 私たちは敵同士なのだから~、喜びこそすれ、悲しむのは違うんじゃない~?」

「・・・そうね。でも、敵だったけど、子どもの頃からの知人には違いないでしょ?」

「リインの誕生にお世話になったこと、忘れてへんよ。あなたがおってくれたから、リインを生み出せた」

「です。とっても感謝してるですよ。ですから・・・ありがとうございました!」

リインの礼儀正しすぎるお辞儀を見たミミルは嬉し気にフッと笑って、「懸命に生きるといいわ~」とリインに声を掛けて、そして完全に消滅した。3人分の“エグリゴリ”の魔力を吸収したことで、ルシルが普通の体にまで再生した。血の気が失せて真っ白になってた肌も赤みを帯びて、生きてるって思えるようになった。

「マイスター。アイリだよ。判る?」

「・・・イリ・・・」

「うん。そうだよ、マイスター。ごめんね、来ちゃった。アイリ、命令無視した」

「・・・来るんじゃないかって、そんな気はしていたよ。お前が本局に発つ前、ものすごい剣幕で俺を説教してくれたし、それに・・・。主従契約の解除してしまった以上、俺の命令を聞く必要はないと開き直るんじゃないかってね」

「あ~、そんな言い訳もあるか。それは考えつかなかったな~♪」

「本当か?」

「ホントホント~♪」

「・・・みんな」

ルシルの視線がようやくわたし達に向いたけど、すぐに気まずそうに目を逸らした。アイリは「はやて達も一緒に連れて来た」って、ルシルの座ってる車椅子の後ろに回るとグリップを握って、ルシルの体をわたし達に向けさせた。でも、いろいろと言いたいこと、怒りたいことがあったのに、さっきのボロボロなルシルの姿を見て、わたし達は掛ける言葉が見つからず沈黙しちゃった。

「ルシル君」

そんな中ではやてがルシルの目の前まで歩み寄って、ルシルの頬に両手を添えて顔を近付けた。完全にキスの流れ。わたしとトリシュは慌てて駆け寄り、後ろからなのは達は「ヴィヴィオ達にはまだ早い!」って声が。ヴィヴィオら子ども達の目を手で防いでるんだろうな~。

「む、むぎゅ~~~!?」

キスをするかと思われたはやては、ルシルの頬を全力で引っ張った。しかもただ引っ張るだけじゃなくて、抓ったり捏ねたりと痛みを増加させる。

「ルシル君の抱えてる問題は教えてもらったから知ってる。そやけど、ルシル君のしてきたことは同情できひん。フォルセティが言うてたんやけどな、ルシル君が逃げへんかったらこんな大事にならへんかった。これは、そんな混乱を招いたルシル君への罰や」

そう言ってからルシルの頬から両手を離したはやてがスッと後ろに引いた。その視線からはやてが考えてることが判ったわたしは、「これは、わたしからの罰ね~♪」って、ルシルの顔を両手で挟んでギューッと力強く挟み込んだ。

「はい、次~」

「では、私が・・・」

わたしが離れると、今度はトリシュがルシルの前に立った。はやては頬抓り、わたしが顔挟み、トリシュは何をするのかな?って見てると、あの子はルシルの側頭部を両手でガシッと掴んだ。まさかの頭突き、もしくは膝蹴りか!?と思ってたら、なんてことはない、その決して大きくもない薄い胸にルシルの顔を埋めるという、蛮行を働いてくれやがった。

「「トリシュ!?」」

「むぐぐっ・・・!」

「いやイリスとはやてが痛みを与えるなら、せめて私くらいは優しくしておこうか、と」

「そうは言ってもトリシュの胸は小さいんだから、ルシルに肋骨や胸骨を押し付けてゴリゴリして痛くしてるんじゃないの?」

「はは。イリスは面白いことを言う」

ハイライトの消えた目でわたしを見るトリシュは、ルシルから離れて「ふふふ」って一切喜楽の感情が無い笑い声をあげて近付いてきた。わたしがトリシュから逃げる間、アリサが「じゃあ、次はあたしね」ってルシルに近寄って、「あちょー!」と派手な音を立てるほどに強烈なビンタを食らわせた。

「いっっって! アリサ! おま――君、全力で打ってくれたな!?」

「そりゃそうよ。アンタは知らないだろうけどね、本局でのフォルセティやアイリの姿があまりにも・・・! ダメだわ、思い出したらまたアンタに腹が立ってきた」

往復ビンタをかまそうとするアリサに「ダメだよ、アリサ」って止めたのはアリシア。目に見えてルシルがホッと安堵したのが判ったんだけど、アリシアの「だって、次は私の番だし♪」の言葉に、ルシルはふるふると首を横に振った。

「しょうがないよね~。これは罰だもんね~」

ビンタの練習なのかアリシアが右手の素振りを始めた。ルシルの左頬はさっきのアリサの一撃で真っ赤になってるから、そこに追撃のフルビンタはきっついだろうな~って、トリシュに捕まってヘッドロックを受けてるわたしは思う。

「どう? 私の胸がクッションになって、そんなに痛くないでしょう?」

「確かに柔らかい胸だけど、やっぱ骨が当たって痛いかも」

「まだ言いますか?」

「痛い、痛い、痛い」

わたしの頭をロックしてるトリシュの左腕をタップする。そんなわたしとトリシュを余所に、アリシアは慈悲のつもりかルシルの右頬に手の甲でのビンタを食らわせた。あれはもはや裏拳とも言える。

「いっっ・・・! つぅ・・・! 待って、ちょっと待ってくれ。まさかと思うが、もしや全員から罰を受けるのか・・・!?」

アリシアの背後でシャドーボクシングをしながら待機してるアルフを見て、ルシルは顔を青くした。真っ先になのはが「いやいや、私はやらないよ!?」って前に突き出した両手を慌ただしく振るって、さらにフェイトにすずか、スバル達も、ヴィヴィオ達も首を横に振った。

「父さん。僕は遠慮なくやらせてもらうよ」

「いって!・・・あ、ああ、フォルセティ。馬鹿な父親だと嗤ってくれ」

結局パンチじゃなくてデコピンを食らわせたアルフが離れ、涙目のルシルが次に目の前に立ったフォルセティを優しい眼差しで見て、そして自嘲した。フォルセティは「嗤わないよ」って、ルシルの真正面から両肩に手を置いた。そして深呼吸を何度か繰り返した後・・・

「これが、母さん達を悲しませ、泣かせた罰だよ! 父さん! ふんっ!!」

それは見事な頭突きを食らわせた。その勢い、衝突音にわたし達は絶句した。ルシルもガックリ項垂れて、「くく、効いたぁ・・・ふふふ」って、痛すぎたのか小さく笑い始める。フォルセティも額を真っ赤にして、痛みで涙目だ。

「「大丈夫? フォルセティ」」

「額、真っ赤ですね。加減なしが過ぎますよ」

「すっごい音したもんね。無茶しすぎだよ」

「私のヒーリングで治しましょう」

「だ、大丈夫だよ、ヴィヴィオ、コロナ。ごめんなさい、アインハルトさん、リオ。ありがとう、イクス」

フォルセティの元に集まるヴィヴィオ達の様子が微笑ましい。あの子たちを優しく見てると、『僕も、そっちに居ればグーパンくらいするんだけどね』って、こちらと通信を繋げたユーノが、モニター越しにそう言って苦笑いを浮かべた。

『そうだな。ルシル、君が本局で巻き起こした混乱の後始末が無ければ、俺も行って、一発はぶちかましていたぞ』

『ステアの正体が実はルシルだったなんてね~』

『私たちが知らない間に、ルシルは実は生きてて、しかも敵でなんたらかんたらで、ビックリしすぎてハゲるかと思ったんだけど~?』

「いつつ。ユーノ、クロノ。あと・・・」

今気づいたけどルシルは首から下が動かないのか自分の手を使わずに、アイリが代わりに赤く腫れた額や頬をそっと撫でて、「ヒーリング」の魔法を発動してそのダメージを回復させる。

『セレネ!』

『エオス!』

『『1年ちょっと会わなかったからって、忘れないでよ!って、ちょっと待って、ガチで忘れてる!?』』

「冗談だよ、セレネ、エオス」

『『だよね!? そうだよね! 焦った、マジで焦った! やめてよね!』』

ユーノの両肩から覗き込むようにモニターに映ってたセレネとエオスはルシルの冗談に乗せられて、ユーノを圧し潰すかのように覆い被さるようにしてモニターに張り付いた。ユーノがそんな2人に『重いから早く退いて』って言うものだから、2人は体を起こしながら『失礼』って、ちょっと理不尽なチョップをユーノの後頭部に打ち込んだ。

「ユーノとセレネとエオスは、相変わらず仲が良いな」

『まぁ大事な人たちだから。・・・ルシル。今度こそ、本当のお別れになるんだよね・・・?』

「ああ。今度こそ、偽りなく」

『そっか・・・。とても残念だよ、ルシル。もう二度と逢えないなんて』

『私も残念。でもさ、あなたの事情は重々承知してるけど、やっぱ死の偽装だけじゃやっちゃダメなやつだったよ?』

『死んだと見せかけて実は生きてて、しかもT.C.のリーダーでしたって聞いて、すっごく腹が立ったんだから』

『『でも・・・。寂しいよ、ルシル』』

「ありがとう。ユーノ、セレネ、エオス」

『局員としても優秀だった君を亡くすのは惜しい。もちろん友人としても辛い。なんだかんだ言って、君は頼りになる友人だった。そんな君にはとんでもない貧乏くじを引かされたよ、まったく』

「ははは。クロノはチーム海鳴の兄貴分だからな。頼りにしているし、されているんだよ」

『ったく、調子のいいことを。・・・実年齢で言えば君の方が圧倒的に兄だろうに』

「こんな身勝手で自己中な兄などいるものかよ」

『そうだな。・・・本当なら俺も、君の旅路の果てを見届けるべきで、俺もそうしたかったのだが、どうしても抜けられない仕事が残っているんだ』

「クロノらしいよ。それに、俺の仕出かした暴走の後始末なんだろ? 迷惑を掛けるな。・・・俺の見送りが出来ないことなんて気にするな。元より俺は誰に見送られることなく行こうとしていたのだしな。・・・エイミィやお子さん達、リンディさんにもよろしく伝えておいてくれ」

『ああ。・・・良い旅を、ルシル』

クロノが通信を切り、彼が映るモニターが消えた。ルシルはモニターがあった場所を少しの間見続けた後、「ありがとう」って、もう届くことはないクロノへ感謝の言葉を口にした。
 
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