Fate/WizarDragonknight
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るんって来たああああああ!
「るんって来たあああああああ!」
そんな大声に、ハルトはジャグリングのピンを掴み損ね、頭にぶつけた。
「痛っ!」
結果、見滝原中央駅、噴水広場。
もとより、ハルトのような大道芸人が時々集まっているらしく、ハルトの他にもぽつぽつと芸を披露する者たちがいる場所。その、駅前という絶好の大道芸スポットで失敗するという憂き目を見た。
「な、何だ……?」
ハルトは口を尖らせながら、突然大声を上げた相手を見上げる。
顔をぐいっと近づけてくる、目をキラキラさせた少女。紺色のチェックの上着と、水色の髪が特徴の彼女は、遠慮もなしに続ける。
「ねーねー! それ、どうやったの?」
「どうやったって……ジャグリングのこと?」
ハルトは足元に散らばったボウリングのピンを拾いながら尋ねる。
すると、少女は元気よく頷いた。
「そうそう! すっごいいっぱいやってたからね!」
「まあ、俺が用意したものだけじゃそんなにパンチないだろからね」
ハルトは足元に設置したホワイトボードを見ながら言った。ハルトがコネクトの魔法で持ってきたホワイトボードには、「ジャグリングしてほしいものがあれば何でも投げ込んで下さい」と記してある。
「まさか自転車投げ込んでくる人がいるとは思わなかったけどね」
「見てたよ! あの自転車もグルグル回して、ほんっとうにるんって来た!」
「る、るん?」
「そうそう! お兄さんの、すっごいるんって来た!」
意味不明な言葉を並べ続ける少女。彼女はさらに続ける。
「ねえねえ、もっと見せて! もっといろいろ見せて!」
「い、いいけど……ちょっと君、近い近い……」
見知らぬ人に対しての距離感ではない。女の子がこんなことでいいのかと思いながら、ハルトは少女の肩を押して距離を取る。
「ねえねえ! 教えて教えて!」
「はいはいはいはい、落ち着いて落ち着いて」
ハルトの言葉に、少女は動きを止めた。
「お、本当に止まった。犬みたいだ。よし、ちょっと犬っぽいことやってみようかな」
「ねえねえ!」
「五秒満たなかった!」
「ハルトさん!」
その時、駅周辺を探し回っていたココアが駆けつけてきた。
「ゴメン、ハルトさん!」
彼女は息を切らしながら、こちらに走ってくる。
姉を迎えに駅まできたが、ずっと探し回っていた彼女。どうやら見つからなかったようだ。
「お姉ちゃん、やっぱり駅にはいないや。もしかしたら入れ違いになったの……かも……」
ココアは少女の存在を認めると、徐々に声を小さくしていく。そして、指を指しながら、何やら声を出そうとした。
だが、その前にハルトは弁明しようとする。
「ま、待ってココアちゃん! 何やら誤解を受けているようだけど、俺は今単純にこの子に迫られただけで! 決してココアちゃんが考えているようなやましいことでは……」
「パステルパレットの、氷川日菜だあああああああああ!」
予想とは全くことなる発現に、ハルトは思わず「へ?」という声を上げた。
パステルパレット。
最近新進気鋭の、アイドルユニットらしい。
そして、今ハルトに大道芸をねだったこの少女こそ、そのメンバーの一人、氷川日菜だという。
「ふーん」
「え? ハルトさん知らないの!?」
「俺がテレビ見てないの知ってるでしょ?」
すると、ココアが「嘘……」と顔を真っ青にした。
「パスパレだよパスパレ! 今学校でも話題沸騰中で、テレビ付ければどこでも引っ張りだこのパスパレだよ!」
「だから俺見てないんだって……そもそもラビットハウスのテレビ、俺が見てるの見たことないでしょ?」
「そんな……」
ココアがショックを受けている一方、当人の日菜は気にすることなく「あはは」と笑っていた。
「彩ちゃんが聞いたらショックだろーなー! それより、大道芸人さん!」
「いいんだ……」
ココアのツッコミを聞き流しながら、少女、日菜がハルトに詰める。
「もっと色々見せてよ!」
「いいけど、ちょっと待って。ココアちゃん」
ハルトはココアに向き直る。
「どうする? お姉さん、探さなくちゃだし」
「もちろん! ここで日菜さんに、とっておきのマジックを披露するよ!」
ココアがハルトの足元に落ちていたステッキを拾い上げながら宣言した。
「私のとっておきのマジックで、日菜さんも仰天間違いなしだよ!」
「おおっ!」
「いや、お姉さん探しに来たんでしょ!」
ハルトのツッコミを聞かず、ココアはハルトへ宣言した。
「とうとうハルトさんと決着をつける時がきたね! 私が皆を、ハルトさん以上に笑顔にしてみせるよ!」
「俺が暇だったからってこんなところで芸を始めてしまったばっかりにこんな面倒くさいことに……」
「すごいすごい! るんって来たああああああああ!」
頭を抱えるハルトとは裏腹に、この日菜という少女はどんどんテンションが上がっていく。
「ちょっと待ってて! お姉ちゃんを呼んでくる! お姉ちゃん!」
日菜はそう言いながら、ハルトとココアに背を向けて走り出した。どんどん小さくなっていく彼女を見送り、ハルトはココアへ向き直った。
「いいの? あんなこと言っちゃって」
「ふっふーん。ハルトさんがラビットハウスに来たばかりのころの敗北を、私は忘れていないよ!」
ココアがステッキを向けながら宣う。
「チノちゃんや皆が、ハルトさんの芸にばっかり受けてたからね! 今回は、私が勝たせてもらうよ!」
「それは改めて別の時にやっても良いんじゃない? お姉さん探してる今じゃなくても……」
「お待たせ!」
ハルトが言いかけたところで、日菜が戻ってきた。
彼女は、ほとんど顔が同じ少女を引っ張ってきている。
日菜とは違い、ウェーブがかかった長い髪の少女。日菜が笑顔が似合う少女だというのなら、彼女は落ち着いた表情が似合う人物だった。
「ちょっと日菜……」
「お姉ちゃん、こっちこっち! すごいよ! すっごいるんって来たんだよ!」
日菜は笑顔で少女___どうやら姉らしい___へハルトたちを紹介する。
すると、日菜の姉は呆れたようにため息をつきながら、ハルトたちへ頭を下げた。
「すみません。日菜が迷惑をかけたみたいで」
「いえいえ。全然。私達大道芸人コンビからすれば、嬉しい限りです」
「誰がコンビなのさ誰が」
ハルトのツッコミも、ココアは聞き流した。
そして、騒ぎの原因になった日菜は、興奮しながら姉に訴える。
「一緒に見ようよお姉ちゃん! この人の大道芸、すっごいよ!」
「……」
姉はむすっとした顔で視線を逸らす。
「さあ、ハルトさん! 今日こそ私の勝負、受けてもらうよ! そして、ラビットハウス1のエンターテイナーの座を返してもらうよ!」
「……ほう……」
その言葉に、ハルトは思わず不敵な笑みを浮かべた。
「そこまで言うからには、とっておきのものを見せてくれるんだよね?」
「もちろんだよ! ハルトさんだってビックリするような奴を見せてあげる!」
そこまで言われたら、ハルトも黙ることはできない。
ハルトは「コホン」と咳払いし、
「えー、それでは……見滝原中央駅、噴水広場、恒例でもない大道芸対決を始めます!」
「おーっ!」
日菜が拍手でハルトとココアを迎える。
すっかり大道芸人の血が騒いでしまったハルトは、大見得を切って大衆へ語りかける。
「さてさて。普段は見滝原公園で色々やっている私ですが! 今回は、こちらのお嬢さまから挑戦を受けての開催になります!」
見滝原公園とは違い、中央駅の人々はのんびりと足を止めたりはしない。腕時計を確認しながら駅へ駆け込むサラリーマン、メモの内容と買い物袋の中身を睨めっこしながらブツブツ呟く主婦、残り少ない冬休みを満喫させようと必死の学生たち。
だが、それでもハルトは続けた。
「まずは手始めに、不慣れな挑戦者とは別に、私の手品をお一つ。お見せします」
「おおー!」
目の前でしゃがんでいる日菜が拍手を送る。
「本当にごめんなさい……いや、これは日菜が悪いのではないのかしら……?」
姉が頭を抱え始めた。ハルトは彼女がこちらを向いてくれるまで少し動きを止める。紗夜はしばらくして、続きを促すように目線を投げた。
ハルトは右袖をまくろうとして、一瞬踏みとどまる。左袖をめくり、真冬の空の下、何も仕込んでいないことを大衆に晒す。
「さあさあ皆さま。この手には、タネも仕掛けもございません」
日菜と、彼女の隣で立っている姉、そして道行く人々の一部が、ハルトの腕に注目する。
十分な視線を感じたハルトは、そのまま左手で指をパチンと鳴らす。すると、その手には、どこから調達したのか、黄色の造花が握られていた。
「ええ!? どうやったの!?」
日菜が立ち上がってハルトに問い詰める。
だが、ハルトはそれに応えることなく続けた。
「さあさあ、タネも仕掛けもございません。それでは、次に彼女がどんなものができるか見せていただきましょう!」
ハルトはココアを煽りながら、少しずつ離れていく。
よし、と気合を入れたココアは、手に持ったステッキを握りながら言った。
「私だって! ハルトさんがここからマジックの色々するの、見てるんだから! 行っくよ~!」
「……! ココアちゃん、ちょっと待って!」
異変に気付いたハルトが思わず声を上げるが、時すでに遅し。
本来は天高く伸びていくはずのステッキは、上下を逆転に持ったココアの腹へ伸びていった。遠慮のないバネの入ったそれは、ココアに「ぶっ!」と悲鳴を上げさせ、悶絶させた。
「あっちゃ~……」
「あははは! なにそれ!」
結局、この滑稽な奇術を楽しんでいたのは、日菜ただ一人だけだった。
その時。
「お嬢さん。そこ、よろしいですか?」
突如として、男性の声がココアの後ろから聞こえてきた。
見てみると、彼女の背後に、いつやってきたのか、ピエロの姿があった。
ピエロと言っても、肌を白く染め上げた奇天烈な恰好をした人物ではなく、普通の肌色の男である。
彼をピエロだとハルトが感じたのは、左右を白と黒で分けた服装と、右手に持った無数の風船からの印象からだった。
その服装は、ハルトに別の人物の姿を思い起こさせた。
「モノクマの擬人化?」
あまり連想したくない名前を口にしながらも、ハルトはそのピエロの動きを見ていた。
風船を片時も手放さないまま、ジャグリングをし、予め仕掛けてあったのであろうか、空中に張った紐で一輪車の綱渡りをし、大勢の注目を集めた。
「すごいな……あれ」
ハルトが思わずつぶやいたところで、ピエロがハルトの前に着地した。ご丁寧に紐もその右手に回収しており、握られていた風船の手を放す。
無数に空へ広がっていく白と黒の斑点模様。それは、ココア、日菜、紗夜のみならず、忙しくしているはずの人々。そして、ハルトさえも見とれていた。
「さあ、フィナーレです」
そう宣言したピエロは、高く掲げた指を鳴らした。
すると、見滝原中央駅の一面をモノクロカラーで染め上げた風船たちは、一斉に破裂した。
連続する乾いた音。
一瞬の沈黙の後、日菜をはじめ、紗夜、ココア、そして街の人々がピエロへ拍手を送った。
ピエロはお辞儀をしたのち、ハルトへ告げた。
「さあ、次はそちらの番ですよ」
彼の影が、ピエロ本来の物とは違うことなど、気付く余裕はなかった。
「……はっ!」
司会進行役を買っていたこともすっかり忘れて、ハルトはココアへ言った。
「ココアちゃん! 今、お姉ちゃんきてたりしてない!?」
だが、肝心のココアまでもが、ピエロの芸に見とれていたせいで、わざわざ見滝原中央駅まで来ていた理由が飛んでいた。
「忘れてたあああああ!」
慌てふためく自称大道芸人の二人を、ピエロは駅のビルから見下ろしていた。
顔に張り付けた仮面の笑顔で、二人を___正確には、革ジャンの青年を見下ろしていた。
「ライダーのマスター……ねえ?」
張り付いた笑顔が歪む。口角が吊り上がりながら、その黒い瞳に青年、ハルトの姿を捉える。
「アサシン、エンジェルのマスターを倒した……さて、どう動こうか……」
ピエロは胸元より、群青色のそれを取り出した。
手のひらに収まるサイズの道具。その上部には、金色のバンドがXの字状に巻きつかれており、それを拘束していた。
ピエロはそのまま、そのアイテムの頭頂部を叩く。すると、拘束具の封印が解かれる。棒状のそれは左右に開かれ、面の形となる。
ピエロはそのまま、面を顔に合わせる。複雑なディティールの中、両目にあたる部分のみが開いていた。
仮面より、群青の闇が溢れ出す。さらに、目が赤く輝き、その姿を変えていく。
人の形こそしていれど、それは人間とは言えないものだった。
ただ一つ。ピエロの姿をメインにしていることを除いて。
「もっと私を愉しませてほしいなあ……君と、君の大切な仲間たちの物語で」
後書き
チリーン
可奈美「いらっしゃいませ」
チノ「ココアさん、お帰りなさい」
???「い……いいえ……その、ごめんなさい……! 期待とは全く違う、私のような不出来なものが来てしまってごめんなさい!」
可奈美「わわわ! お客様!?」
チノ「あ……ごめんなさい……その……お席へ、どうぞ……」
???「あ、美少女二人が迫ってきて私に謝りながら尽くしてくれる……あばばばば……サービス料金はいくらですか……? あばーっ」
可奈美「ここそんなお店じゃないからね!?」
チノ「何だ……? この客」
???2「ごめん、遅れた! かおすちゃん!」
可奈美「いらっしゃいませ。あ、お連れ様ですか? どうぞ」
???2「ありがとう! あ、ドリップコーヒー!」
???1「すでに小夢さん、私より順応しています!」
???2「あ、注文待っている間に、紹介コーナーだよ!」
チノ「それどころかレギュラーの番まで!」
___真っ白な未来 キミと描いて 彩る世界 裸足で蹴って___
???1、2「「こみっくがーるず!」」
可奈美「2018年の4月から6月まで放送のアニメだよ。はい、ドリップコーヒーお待たせしました」
???2「わーい! やっぱり苦っ!}
???1「小夢さん!?」
???2「それより解説だね! 気弱で色々問題が多い漫画家のかおす先生と!」
???1「あばばばばばばば!」
???2「私、恋スル小夢が、漫画家さんだらけの寮で暮らしていくドタバタコメディ!」
可奈美「すごいマイペースな……」
???2「あと、琉姫ちゃんや翼ちゃんなんて、楽しい仲間たちと一緒にまたまた楽しく暮らしてます!」
可奈美「楽しそう!」
???2「でしょでしょ! そうだ、店員さんも一緒においでよ!}
???1「あばっ!?」
チノ「どうしてそうなるんですか……」
可奈美「だって、楽しそう!」
チノ「可奈美さんとこのお客、すごく……似てる……」
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