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刃こぼれ

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第五章

「罪は罪、ですから」
「それは償うか」
「そうします」 
 こう住職に答えた。
「これより。ですから出家し」
「以後は僧として過ごすか」
「その様にします」
「それはこの寺で行うか」
「いえ、育ち親しんできたこの寺では甘えましょう」
 源八は住職に確かな声で答えた。
「ですから」
「別の寺にか」
「入りまして」
 そしてというのだ。
「そこで、です」
「修行を積んでか」
「罪を償います」 
 その様にするというのだ。
「その様にします」
「そうか、ならな」
 住職は源八の話をここまで聞いたうえで彼に答えた。
「そなたの好きな様にせよ」
「そうしてよいですか」
「うむ、そしてな」
「罪を償って」
「そうして生きよ」
「わかりました」
 源八は住職に頭を垂れて答えた、そうしてだった。
 彼はある寺に入りそこで修業を積み後に徳の高い僧となった、それは後の話であるが彼が去ったのを見送り。
 住職は僧と飴屋に達観した顔で言った。
「これも運命か」
「ですね、数奇なものですが」
「それもですな」
「母が殺されつつも生まれ霊となった母と観音様に育てられ」
「長じて観音様のお導きで仇を討つ」
「そして罪を償う為に再び寺に入るとは」
「それも運命か、なれば」
 住職はその顔のまま言った。
「この話残すか」
「それがいいですね」
「後の世の人に伝えましょうぞ」
「そしてそれを教えにしてもらうとしよう」
 住職はこう言ってこの話の詳細を書き残した、そしてその石も残した。
 石は今も小夜の中山久延寺に残っている、この話も。遠江今の静岡県に伝わる非常に不思議な話である。


夜泣き石   完


                 2020・11・16 
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