それから 本町絢と水島基は 結末
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2-⑹
帰省する日の朝、僕が駅に行くと絢はもう着いていた。グリーングレーのハイウェストワイドパンツに白のニットのフレンチ袖のTシャツ、少し大きめのサイドバッグを下げていて、あの青と紅の蝶々お守りはいつものことだ。
脇に、ショートカットの女性が立っていた。絢と同じような恰好をしている。僕に向かって、微笑みながら頭を下げていた。
「お姉ちゃんに、車で送ってもらったの。美人でしょー。せっかくだから、モト君に会ってみたいんだって」
「初めまして、絢から、いつも聞いていますわ 仲よくしてくださって」
くっきりとした眼に瞳がキラキラしていて、見つめられて、ドキっとした。僕は、少し、あわてて
「いや、僕も、聞いています。お姉さんのこと とっても理解があって、いつも助けてくれるって」
「あらぁーそう 私、こんな、素直で、賢くて、かわいい妹が出来て嬉しくてねっ」
「おねえちゃん ほめすぎ! もう行くよ」
「思っていたより、上半身もがっしりして、頼りがいありそうね 絢をよろしくね 迷子にならないようにね」
「もう、子供みたいに言わないで! じゃぁ行くね 送ってくれてありがとう」
絢は、お姉さんの胸を軽く叩いて、バイバイしていた。僕も、頭を下げて改札に向かった。絢は、直ぐに手をつないできた。
座席に座ると、絢はバッグの中から包まれたドッグを出してきて
「ハイッ モト君、多分、朝食食べてこないんじゃぁないか思って、作ってきた 食べてよぅ」
確かに、僕は、ギリギリまで寝ていたので、焦って寮を出てきた。口にほおばって
「絢は? 食べないの」二つあったから、絢の分かなと思った。
「ウチは、いらないからモト君、食べて」
山間を列車は走っていたが、窓の下に見える峡谷を、絢は時折、声をあげながら、見ていた。そして、手をつないできて
「新婚旅行みたいだね!」と小声で言って、僕の顔を、同意を求めるように、覗き込んだ。
「ウチ お願いがあるねん 中華街で小籠包食べて それから異人館歩きたいねん だめー?」
「えぇー 途中下車やん 絢が行きたいのならかまわんけど 遅くなるぞー」
「ええのー 家には帰る時間までいうてへんから」と、隣の座席の様子を見ながら、ほっぺにチュッとしてきた。
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