| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

Saga23開かれた真実の扉~God only knows~

†††Sideイリス†††

“T.C.”の襲撃からおよそ90分ちょい。わたし達は今、特務零課名義で貸し切ったミーティングホールに集合していた。メンバーはわたし、ルミナ、セレス、クラリス、ミヤビの特騎隊前線組。なのは、フェイト、アリシア、すずか、アリサ、はやて、アインス、リイン、アギト、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラのチーム海鳴。スバルとティアナとエリオとキャロの協力組。イクス、ヴィヴィオ、フォルセティ、アインハルト、コロナ、リオの子ども組は別室にて、ルーテシアとリヴィアに護衛されて待機。あと、スカラボシスターズがこっちで勢揃いしてるんだけど・・・。

「すぅーはぁー。あぁ、ドクターの香り・・・」

「ドクターの体温・・・」

「あーん! ウーノ姉様とドゥーエ姉様だけずるーい!」

「こらこら娘たち。感動の再会はもう済ませたろう? そろそろ離れてもらってもいいかい? シャルロッテ君たちの視線が少しばかり冷たく感じるのだがね」

「このままで話が出来ます」

「よね~」

「代わってくださーい!」

ドクターにピッタリ張り付いてるウーノとドゥーエ、それを羨むクアットロ。そんな3人の姉を苦笑交じりに見守る下の姉妹たち。そんなスカリエッティ家を冷めた目で見てるのは、“スキュラ”姉妹のアルファとベータとガンマ。そんな姉組の3人とは違い、スバル達と楽しく喋ってるのはデルタとイプシロンとゼータの妹組。

「・・・ドクター達は取り込み中のようだし、ディアーチェ達に話を聞こうか」

「遅いわ! しかも茶すら出さんとは! 我らはVIPであろう!」

ミーティングホールに集まってからというもの、椅子の背もたれに背を預け、腕を足を組んで座ってるディアーチェに言葉を掛けた途端、めっちゃ美人に成長してる(元がはやてなんだから当然だけど)あの子が怒声を上げた。お茶については申し訳ないから、通信で人数用のお茶を用意してもらえるようオフィスに連絡。でもVIP扱いはしない。理由はどうあれ公務執行妨害などを犯した犯罪者でもあるからね。

「落ち着いてくださいディアーチェ。我々も、近衛との激闘で少し前までダウンしていました」

「ボクも、カレンにボッコボコにされたからさっきまで寝てたしね~」

「私もラスティアに何度も体のどこかを吹っ飛ばされ続けた所為で、つい先程でようやくフル回復でありますよ」

「私もそうですわ」

「私もディアーチェも、ナーティアとレイルに叩きのめされて、消滅寸前にまで追い込まれたんですよ? シャル達だって大変だったんですから、そんなことを言ってはダメです」

「でもお茶は欲しいわね~」

「キリエ・・・」

「・・・ふんっ、続けるがよい」

他のマテリアル達からの具申に、ディアーチェも大人しくなってくれた。そう、ディアーチェ、シュテル、レヴィ、フラム、アイル、ユーリ、それにアミタとキリエもこの場に居る。気楽に行き来できないほど遠い異世界に引っ越してたはずのフローリアン家が。さらに・・・。

「もう。アルフはいつまで経っても甘えん坊ですね~」

「だって、またリニスと逢えるなんて思ってなかったんだからさ!」

椅子に座るリニスの太ももに乗っかってるのは子どもフォームのアルフだ。リニスと、フェイトとアリシアの母親であるプレシアが居るって話をエイミィから受けたアルフは、ついさっき本局に到着。そして面会許可が下りたリニスとプレシアと再会を果たした。
一応一般人なアルフが、今から機密会議を行うミーティングホールに入るのはよろしくないけど、プレシアとリニスは重要参考人であり“T.C.”のメンバーということもあって別室に置いておくわけにはいかないから、アルフは特別に入れてあげた。

(ま、アルフはフェイトとアリシアに付いて局の仕事に従事してたし、プレシアとリニスも協力的だから、端から問題ないんだけどね)

フェイトとアリシアも混ざりたいようでソワソワしてるけど、それは後にしてほしいと願うばかり。わたしは一度深呼吸をして、手元に展開した空間キーボードのキーを打った。そして、ここ円形ホールに設けられた円形テーブル上、みんなの前にそれぞれモニターを展開させた。それでお喋りしてたみんなが一斉に黙る。

「娘たち、大切な話が始まる。静粛にしたまえ」

最後までうるさかったウーノとドゥーエとクアットロにドクターが一言。すると3人は「はい」って彼から離れて席に着いた。わたしはそれを確認して、「単刀直入に聞かせてもらう」って尋ねながらモニターに“T.C.”の近衛っていうメンバーと、リーダーとガーデンベルグを表示させた。

「T.C.のメンバーが王と呼んでるリーダーの正体は?」

「我らが答えるまでもなかろう? うぬらはもう察しておるはずだ」

わたしは隣に座るルミナをチラッと見る。前世テルミナスの意識から自分の体を取り戻し、2人一緒に医療部の治療を受けてる最中に聞いた、シャルロッテ様や当時のセインテスト王(偶然にもルシルと同じ名前だったみたい)と知り合いだったらしい前世の記憶の内容。それに、私とルミナとクラリスが戦った金髪の女性に、わたしは・・・すべてを察した。

「・・・T.C.のリーダーは、セインテストシリーズ・・・ううん、もう遠回しな言い方はよそう。ルシルなんでしょ? ルシルは死んでいない。今もどこかで生きている」

「「「「え・・・!?」」」」

わたしの言葉に、スバルたち協力組が息を呑んだ。なのは達はなのは達でディアーチェ達からヒントを貰ったのか、ルシルが“T.C.”のリーダーとして生きてるかもしれないってことにもうたどり着いてたみたい。あ、でもシスターズも驚いてるみたいね。ドクターからのヒントは無かったのかも。

「まず、彼女について。そこに居るなのは達のそっくりさん達と関わった事件の際に見たことがあるの。直接会うことはなかったんだけど、ルシルと仲が良さそうだったから誰か尋ねてみれば、ルシルのオリジナルであるセインテスト王の時代より仕えてるヴァルキリーの1体であると教えられたわ。名前はそう――」

テルミナスのスキルによってローブを失い、素顔を晒された金髪の女性の顔をズームアップして、さらに砕け得ぬ闇事件の際にユーリと互角以上に戦った残滓、「プリメーラ」の画像も出した。見て判る通り完全に同一人物だ。雷撃の魔術も使うところも同じだしね。

「くっくっく。あやつの生存を確信したな? よい! 現時刻を以て、T.C.リーダーより我らに掛けられた緘口の呪縛は消失した。親鴉、貴様もそうであろう?」

「え?・・・っ! 確かに、私に課せられていた緘口指令が解除されている・・・!」

「アインス。みんなに判るように」

「はい。私が元々ルシルの使い魔生成スキル・エインヘリヤルによって召喚された偽者ということは、スキュラを除く皆が知っていることだと思います。新たなリインフォース・アインスとして私を召喚した際にエインヘリヤルから完全に独立されましたが、その時に私は彼からある命令を受けました」

「今後、私の取る言動全てについて逆らわず、私自身の真実・情報を一切他言するな、だな。我らも、というよりは、すべてのエインヘリヤルは似たような命令を受けておる」

「ああ。だからこそ、私はこの瞬間まで主はやて達に話せませんでした。ようやく話せる・・・。ルシルは、それにアイリも生きています。そうだな? ディアーチェ」

「うむ。うぬらがルシリオンの存命を確信した瞬間、あやつの計画は崩れ、我らへの緘口令も解除されたのだ。では、嘘偽りなく告げよう。あやつと、その融合騎アイリは生きておる。我、ユーリ、シュテル、レヴィ、フラム、アイル、アミタ、キリエも、あやつの手によって召喚されたエインヘリヤルということを、改めて断言しよう」

「言うまでも無いだろうけど、私とスキュラ姉妹もエインヘリヤルさ」

「私とリニスもそうよ」

「ちなみに、すでに消滅していますが、聖王女オリヴィエ殿下、覇王イングヴァルト陛下も、エインヘリヤルとして召喚されていました」

自身の胸に両手を添え、心底安堵したかのような表情を浮かべたアインス、それにディアーチェは、ルシルとアイリが生存してることを断言。それに加えディアーチェ達はルシルの“エインヘリヤル”だってことを告白してくれたし、シュテルがオリヴィエ様とイングヴァルトのことも教えてくれた。

「そっか・・・。ルシル君とアイリが生きててくれたことは嬉しい・・・ホンマに嬉しい・・・」

はやての言葉、想いが、わたし達チーム海鳴みんなが抱く最初の感情だった。ルシルとアイリが殺されたってことで、わたし達は怒りと悲しみに暮れてた。今回の襲撃に対しても、復讐心に燃えてたのはわたしだけじゃないはず。だけど、「嘘を吐かれたのは、やっぱり悲しいね」ってわたしが言うと、みんなが俯いた。

「・・・あのさ。ルシルが生きてるってのは判ったけど、ルシルが自分の死を偽る前からT.C.は活動してたわけじゃない? そこのところはどうなわけ? シャル達は気付かなかったの? ルシルがエインヘリヤルを召喚したり、レオンたち幹部と連絡を取り合ったりしてたことにさ」

「さすがにお手洗いや入浴時は判らないけど、ルシルが密かにどこかと連絡を取って様子はなかったし、何よりT.C.の幹部たちに対する憎悪のような感情爆発を見た限りじゃ、ルシルがT.C.のリーダーだって言われてもちょっとって考えられる感じなんだけど」

「私たちも、シャルちゃん達が幹部フォードと初遭遇した時の映像を見せてもらったけど、あの時のルシル君の取り乱しっぷり、暴走っぷりは、演技じゃ済まされないほどだったよね・・・」

アリサの疑問に答えたわたしに続き、なのはも腕を組んで唸った。PT事件の被疑者の1人であるステア本人だったことを、10年以上にも亘ってわたし達に隠し通したっていう演技派だったルシル。だからって、あの時ルシルが見せた暴走も演技だったとはどうしても思えない。

「あの、皆さんが先に戦っていた幹部、レオン、プリムス、フォード、アーサーも、私たちと同じエインヘリヤルですよ? もちろん召喚したのはルシリオン君です」

「リニス、それ本当?」

「え、ええ、もちろんですよ、アリシア。T.C.とは、ルシリオン君とアイリさん、そしてエインヘリヤルのみで構成された組織ですから」

「それを聞くと、いよいよルシルが主演男優賞を受賞できるレベルの演技派ってことになるね・・・」

自分が召喚した憎き旧敵の“エインヘリヤル”を相手にブチギレて、めちゃくちゃに暴走したあの行為が全て演技だとしたら、これからはルシルの言動すべてを疑ってかからないといけなくなる。

「その辺りはまた事情があるのだが・・・。プレシア君」

「私? まぁいいけれど・・・。あなた達、彼が2人いるということを失念していないかしら? 遺体として発見された彼と、今なお身を隠している彼がいるということを」

プレシアにそう言われて、ようやく「あっ!」てなった。そうだ、ルシルが生きてたって話に夢中になりすぎてて、“T.C.”に殺害されて、埋葬されたルシルとアイリの遺体のことが頭から抜けてた。となれば少なくともルシルの体が2つあるということ。遺体が偽者になるわけだから、それはきっと「クローン・・・?」ってことになる・・・。

「はい、ご明察です。遺体として発見されたルシリオンさんとアイリさんはクローンでした。1人がT.C.と共に活動し、もう1人が皆さんの行動するという形ですね」

「遺体のルシル君とアイリがクローンなのは判ったんやけど、それやったらレオン達エインヘリヤルに肉体があるのはどうゆうことなんやろ」

「そうだよね。魔力の塊なんだから死亡イコール消滅だろうし・・・」

「ドクター、プレシアさん達も。私たちにはあまり時間が無いと思うので、回りくどいことは無しで情報の開示をお願いします」

すずかがキッパリと告げた。わたし達には時間が無いっていうのはあくまで推測だけど、“T.C.”の活動はまだ終わってない。わたしとルミナとセレスが戦った第4支局以降の襲撃がピタリと止んだからだ。いつ襲撃が再開されるか判らない中でわたし達がこうしてミーティングを行えてるのはひとえに・・・降伏状態だからだ。

(聖王教会本部でT.C.を迎撃した母様や多くの騎士たちは全滅して、さらに魔力を奪われた。そしてわたしたち特騎隊も、ルミナ、セレス、クラリス、ミヤビと魔力を奪われて、魔導師として復帰できるのは早くて明後日。ルミナはなんか、分解スキルをさらに昇華させた干渉スキルってものを発現できたみたいだけど、そればかりを頼れない)

なのは達の協力もあることはあるけど、ミーティング前に見せてもらった各交戦映像を観た限りじゃ勝てないと判断するしかない。それほどまでに連中とわたし達の実力差は明らかだった。

「ふむ。まぁ、すずか君の言う通り時間もそう掛けられないだろうしね。レオンたち幹部の遺体は姿形を似せて作られた人形に過ぎないものだね。6千年以上も昔の人物であるレオン達の遺伝子など遺されてはいないし、魔力の塊であるエインヘリヤルから採取も出来ないからね」

「待ってください。一から遺伝子を作り、レオン達の姿になるように調整してクローンを生み出したってことですか?」

「それを可能にするだけの技法と頭脳の持ち主がいるのよ。あなた達も知っているでしょ?」

どこから用意したのか、アルファは爪やすりで自分の爪を磨きながらそう言った。それを言われるより先に脳裏に浮かんだ顔、「ミミル・・・!」の名前をわたしは口にした。だけど、「あり得ないでしょ」ってアリサが首を横に振ってきた。そう、アリサの言う通り普通はあり得ない。ミミル、真の名前をパイモン・エグリゴリ。ルシル達セインテストシリーズと敵対する戦力“エグリゴリ”の1体だ。

「エグリゴリがルシル君に協力するなんて、確かにあり得ないよね・・・?」

「でも、他にそんなことが出来る技術者なんている?」

「広い次元世界を探せば・・・」

「人ひとりを造るって、何と言うか・・・管理世界の技術を使えば割と簡単に出来るような気がするんだけど・・・」

「まぁ融合騎や魔法生物を生み出せる技術があるくらいだし・・・」

「待って、みんな。今はそんなことよりアルファが言った、私たちが知る技術者が関わってるっていうことが大事だよ。・・・話を戻すよ。えっと、ルシル君たちのクローンをミミルさんが造ったということを前提として考えよう」

「そうだね。そこから生まれる疑問は2つになると思う。ルシル君がエグリゴリのミミルさんと協力関係になったのはどうして、そしていつから?」

ルシルにとって“エグリゴリ”は、救済という大義の元に破壊すべき敵だ。協力関係になることはないはず。しかもミミルは、オリジナルの“エグリゴリ”じゃなくてイリュリア製の贋作機。純粋に破壊したいだろう敵・・・だけど。

「いつから、どうやってってのは判らないけど、ミミルの持つ技術力に目を付けて利用した、とは考えられるよね」

「撃破して、破壊する代わりに協力するよう取引を持ちかけたってこと?」

「問題は、それがいつ起きた話か、ね。少なくともT.C.活動後じゃないことは、わたしたち特騎隊が証人になる。ね? ルミナ、セレス、クラリス、ミヤビ」

「「「うん」」」「はい」

「あの、クローンってどれくらいの期間で作れるものなのかな?」

なのはの疑問にプレシアとドクターがお互いを見て、少しの沈黙の後にプレシアが「作るものによるけれど、およそ3週間から数ヵ月ね」って答えた。それに補足するようにドクターが「レオンは10ヵ月、ルシリオン君は1年近く掛かっているそうだよ」って言った。

「その情報はどこから?」

「作った本人、ミミル――パイモンからさ。彼女とは生前からの知人、いや私とプライソンにとっては母親であり技術者の師だからね。直接聞いたのだよ。しかし、私の学習意欲はエインヘリヤルになった今でも留まることを知らないね。やはり彼女には驚かされるよ。肉体を造るには必ず遺伝子が必要になってくる。遺伝子を使わず、優秀な本局医務局の検死にも引っ掛からない偽りの肉体を造るなど、さすがの私にも無理だからね」

「ルシルだけそこまで時間が掛かった理由は?」

「それに答える前に問わせてもらおう。うぬらと一緒に過ごしていたあやつ、本人かクローンか、どちらか判るか?」

ディアーチェの言葉が脳に浸透して、ゾッと背筋が凍った。本人だと思いたい。でも、もしクローンの方だったら、わたし達は・・・ううん、わたしはルシルの何を見てたんだろうってなる。違和感はなかったし、きっと「本人だよ」ってわたしは願った。

「・・・ハズレだ。うぬらと過ごしていたのがクローンの方だ。本物のあやつはずっとT.C.の本拠地に居た。判らなかったであろう? それが制作に1年近く掛かったあやつのクローンの成果だ。うぬらの言う、あやつが幹部たちに対して怒りを露わにしたのは演技ではなく、自分がクローンであることを知らぬからだ。よもや自分がオリジナルの駒として利用されておるとは思いもしなかったであろうな」

わたしはもう、ルシルについて何も聞きたくなくなってきて、両手で顔を覆って俯いた。そんなわたしの肩を優しく叩いたルミナが「で? いつから入れ替わってたわけ?」って聞いた。少なくとも1年前には協力関係が築かれてたっぽいし、もう何が何だか判らない。

「これは子鴉らの方が知っておるだろうな。あやつとクローンが入れ替わったのがいつか・・・な。明確な時期があったはずだ」

「え?・・・えっと・・・、いやまさか、そんなわけ・・・。ひょっとして、ルシル君がリアンシェルトと戦いに行く言うて、アイリと一緒に姿を消した数日間・・・か?」

「ちょっ、それって3年以上も前になるじゃない!」

あまりに過去の話になったから、驚いたわたしは思わず顔を上げてディアーチェを見た。チーム海鳴で裁判ごっこをした記憶がフッと脳裏に浮ぶ。リアンシェルトに戦いを挑む前は、いつ死ぬとも知れぬほどに弱り、車いす生活を余儀なくされてたルシル。けれど敗戦後、そして退院後には自力で歩けるほどに回復してた。それは何故か・・・。

「リアンシェルトに・・・魔力を貰ったから・・・」

「そうや! それでルシル君の寿命問題は解決したんやった・・・!」

「ミミルどころかリアンシェルトも味方につけてたってこと!?」

わたしの言葉にみんなが大混乱。当時のことははやてから聞いてる。重体のルシルと意識不明のアイリを連れてきたリアンシェルトとミミル、その使い魔のフラメルとルルス。リアンシェルトはボロボロになりながらもルシルとアイリを負かした。“エグリゴリ”はルシル達セインテストシリーズを殺すことを目的に動いてる兵器だ。それなのにリアンシェルト達はルシルを殺すことなく、あまつさえ命を救った。

(リアンシェルト達の気まぐれだろうってルシルは言ってたけど、よく考えてみればやっぱりおかしな話だ)

そうか。その時のルシルはもうクローンで、寿命問題なんて関係ない体だ。それに、おそらく本物のルシルによって記憶などがいじられてるんだから、気まぐれだなんて曖昧なことで片付けることが出来たんだ。だからって、それでルシルがクローンだとか偽者だとかという考えに至れるわけもなく。との道わたし達はルシルの手の平の上だったわけだ。

「リアンシェルトはもうおらぬ。アレはすでに破壊、救われておる。残るエグリゴリは、ガーデンベルグ、そして倒す必要のないパイモンとフラメルとルルスの4機のみだ」

そう言ってティーカップに口を付けて、「美味いな」って若干悔し気なディアーチェに、わたし達は「えええええ!?」って驚いた。最強の“エグリゴリ”っていうリアンシェルトがもういないなら、ルシルが本当に死ぬまでの期間が短いことを示す。ガーデンベルグを救い、ソイツが持ってる神器を破壊すれば、ルシルは任務完了ということで死ぬように設定されてるんだから・・・。

「ルシル君を負かして、私たちの家に連れて来たリアンシェルトは本人? それとも・・・」

「あれがルシル本人です、主はやて。ルシルがリアンシェルトの姿に変身していたのです。・・・主はやて、皆も。当時からルシルとアイリが偽者だということが判っていましたが、例の緘口令によってお話できませんでした、申し訳ありません」

「マジかよ・・・」

「待て。ルシルのクローンを造るのに1年なのだろう? 3年前の時点で完成していたとすれば、4年前にはルシルとエグリゴリの間で協力関係にあったということではないのか・・・!?」

「いえ、違います。自分のクローンが造られていたと知ったのは、ルシルがリアンシェルトに勝った後だったそうですから、その頃はまだ協力関係にはなかったですよ」

「え、待ってちょうだい。・・・ユーリの言うことが事実なら、エグリゴリは密かにルシル君の味方をしていたということになるわ」

「まさしく。ルシリオン君さえ知らなかった真実だよ。実はエグリゴリの洗脳はとうの昔に解けていたんだ」

「その辺りの話はパイモンからの又聞きだけどね。洗脳されたことでヴァルキリーからエグリゴリとなったあの連中は、ルシリオンの家族や友人を多く殺害した。エグリゴリにとっても家族のようなもので、洗脳されていたとはいえ殺害したことには変わらない」

「だから洗脳が解け、自我を取り戻した後は苦しんだそうよ。しかも自害は出来ないから余計に」

「ゆえにエグリゴリはせめての罪滅ぼしとして、洗脳が解けていないように偽り、一片の同情もされぬように敵として振る舞い、あやつの手によって殺される、という計画を企てた。それが6千年以上も前、ルシリオンに生み出された子ども達ヴァルキリー、いやエグリゴリ全体の目的だ」

ディアーチェがそう締めた。わたし達は黙り込んで、わたしはディアーチェ達から聞かされた真実を何度も反芻する。

「・・・セインテスト王から続いてたエグリゴリとの戦いの真実が、そんな悲しいものだったなんて・・・」

「そうだね。ルシリオン君の行う救いは、暴走しているエグリゴリを苦しませることなく破壊――解放すること。エグリゴリの望む救いは、開発者であるルシリオン君に殺され、自分たちの死によって、長年続く呪縛から彼を解放すること。どちらにも救いはあるが、その結末は悲しいものだよ」

ドクターが悲痛な面持ちでそう告げた。なんだろう、さっきからドクター達の言葉には何か引っ掛かりを覚える。パッと考えが纏まらないけど、思ったことをそのまま口にしていけばたどり着けると思って、わたしは「あのさ・・・」って切り出そうとしたとき・・・。

「さっきから聞いてるとドクター達って、ルシル君と、セインテストシリーズのオリジナル――セインテスト王を同じ存在として扱ってへん? その辺がちょう気になったんやけど・・・」

「あ、うん、わたしもそれ気になった・・・と思う」

はやてに同意を示すように首を何度も頷いた。いくら記憶などが受け継がれててもオリジナルとクローンは別人である。それを同一存在扱いするのはちょっとおかしい。ドクター達はまた顔を見合わせて、「そうか。そこからだったな」ってディアーチェが深く頷いた。

「まず、その認識を潰さなければならぬな。セインテスト王のクローン、セインテストシリーズ。そもそもそのようなモノは存在しておらん。オーディンも、おぬしらの言うルシリオンも、等しくセインテスト王、ルシリオン・セインテスト・アースガルド本人だ」

ディアーチェの言葉に、わたし達は何度目かも判らない驚愕。古代ベルカで戦った魔神オーディンが、わたし達が一緒に過ごしてきたルシルが、6千年以上も前の魔術師セインテスト王本人・・・。ダメだ、情報過多すぎてもう頭がパンクしそう。

「その辺りの話については、私たちエインヘリヤルより詳しい人物がいるわ」

プレシアがそう言って、ミーティングホールの出入り口の方を見た。それにつられてわたし達も視線を移せば、「っ・・・!」そこには怪しい人物が1人。桃色の神父服とフード付き外套を身に纏い、目や鼻や口といった穴が1つもないツルツルな仮面を付けた、おそらく10代前半の子ども。その格好にわたし達チーム海鳴は一言、「テスタメント・・・!」って口にした。PT事件の折、ステアとして活動してたルシルが名乗っていたコードネームだ。色違いだけど神父服などなど同じデザインだし、間違いない。

「ここからは私、5thテスタメント・マリア・・・。いえ、マリア・フリストス・ヨハネ・ステファノスがお話します。4thテスタメント・ルシリオン、ルシリオン・セインテスト・アースガルド様が、どこでどのようにして生まれ、育ち、そしてテスタメントとして存在してきたのか、そのすべてを私からあなた達に語りましょう」

マリア。ルシルがかつて語った、協力者の名前。そんな彼女が手をポンッと叩いたかと思えば、わたしの意識は一瞬で落ちた。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧