魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者
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第五十六話 見知らぬ街 海鳴市
取り返したジュエルシードを封印したアスカ。
だがジュエルシードから爆発的にあふれ出た光に飲み込まれ、地上から姿を消してしまう。
アスカはどこに……
魔法少女リリカルなのは 前衛の守護者、始まります。
アスカside
「ぶぇっくしょい!!」
寒気を感じたオレは、大きなクシャミをして目を覚ました。
「うぅ~、寒い……」
身体を起こして、両腕を摩りながら周囲を見回す。暗い。
真っ暗な闇だけが目の前にある。
空を見上げると、満月だった。
「……ミッドチルダじゃねぇな。どこだ、ここは?」
夜空に浮かぶ月が1つだった事から、ここがミッドチルダじゃない事が分かる。
ミッドの月は、赤と青に2つ。
オレが今見上げている月は、白光を発している。これはまるで……
「……地球から見る月だな」
オレは視線を下ろした。目が慣れてきたのか、真っ暗だった空間が月明かりに照らされて見えるようになってくる。
「それにしても寒いな。ミッドじゃもう夏だってのに」
そう呟きながら、オレは立ち上がる。怪我は無さそうだ。
ん?オレは自分の身体を見て、肌寒い理由を知った。
いつの間にかバリアジャケットが解除されていて、訓練着一つだったからだ。寒い訳だよ。
「ラピ、大丈夫か?」
オレはイヤーカフに触ってみた。
《はい、とりあえずは無事です》
ラピの返事に、オレはホッとする。バリアジャケットが勝手に解除されていたから、もしかしたらラピの機能に異常でも出たかと心配したが、安心した。
「何があったか覚えているか?」
オレはジュエルシードから出た光に飲み込まれるまでの記憶しかない。
ラピが何か知っているかと期待したんだが……
《私のメモリーには、ジュエルシードを封印した後までの記録しかありません。青い光に包まれた次の瞬間には、今の状況でした》
何となく、そんな気はしていた。ロストロギア関係の事故は、訳が分からない事が多いからな。
「そうか……オレの記憶もそんなもんだ。じゃあ次の質問。ここがどこだか分かるか?」
ダメ元で聞いてみる。
月を見て次元転移したのは間違い無いんだけど、どの世界に飛ばされたか知りたい。まあ、分からないだろうけど。と思っていたら、
《はい。ここは第97管理外世界、地球です。派遣任務で来た場所に近いです》
「へ?」
アッサリ答えられたので、オレは間抜けな声を出してしまった。
今オレ達が居るのは、山の中腹辺りかな?オレは月明かりを頼りに、眼下を見下ろす。
そこには大きな湖があり、その近くにはロッジらしき建物があった。
確かに、派遣任務で来た時にアリサさんが貸してくれたロッジだ。
「なんだよー、焦らせやがって。だったら話は簡単じゃん」
オレはロッジに向かって歩き出した。
現地協力者には、ミッドと連絡を取れる手段が提供されている。確かこのロッジにも、緊急用通信機が備え付けられていた筈だ。
やれやれ。人生2回目の次元漂流で焦ったけど、これでみんなの所に帰れるよ。
outside
ロッジを見上げて、アスカはウンウンと頷いた。
「間違いない。アリサさんのロッジだ。だったら、緊急用の次元通信機が置いてある筈だよな?」
《偽装されている筈ですが、魔力反応をたどればすぐに見つかるでしょう》
アスカはラピと話をしながらドアに手を掛ける。だが、当然の事ながらロッジは施錠されていた。
まして今は深夜。人気などない。
第三者が見ればアスカは不審者である。
《日が昇ったら、アリサさんに連絡をしてみてはどうでしょうか?》
至極真っ当な意見をラピが進言する。
「アリサさんの連絡先が分からねぇよ。それよりも、もっと確実な手がある」
そう言って、アスカは何やらゴソゴソと探し始める。
窓枠を、地面を、辺りをくまなく探しているうちに、目的の物を捜し当てた。
「このロッジの鍵は古いタイプの物だ。だったらこれでイケる筈」
アスカが探していた物は針金だった。それを鍵穴に差し込み、カチャカチャと解錠を試みる。
《マスター、さすがにそれは……》
ラピッドガーディアンがそう言い掛けた時だった。
カチャ
鍵が開いた。
《へ?》
今度はラピッドガーディアンが間の抜けた声を出した。
「ざっとこんなモンよ」
得意げに言い、アスカは扉を開いて中に入った。
《ど、どうしてそんな事ができるのですか、マスター?》
「ん?099部隊じゃよくやってたからな。オヤジのヤツが酒を鍵付きのロッカーとかに隠してやがってさ。勝手に開けちゃ呑んでいたんだよ。そんで大喧嘩」
アスカは、さも世間の常識のように平然と言ってのける。
このマスター、いつか後ろ手にまわるかもしれないと思うラピッドガーディアンであった。
ドロボウよろしく、ロッジの中に入ったアスカ。だが、電気をつけようとはしない。
理由はどうあれ、やはり無断で中に入った事への後ろめたさがあるからだ。
大胆な事をする割に、ヘタレである。
とにもかくにも、緊急用通信機を探し出す為にアスカはロッジ内を隅々まで見て回った。が、どこにもそれらしき物は無い。
魔力反応も皆無だ。
「あっれ~?確か現地協力者用の通信機が置いてある筈だよなー?」
目的の物が見つからずに、アスカは途方に暮れる。
《おかしいですね。まさか片づけた訳ではないと思いますが》
ラピのその言葉を聞いて、アスカはピンと悪い方へ閃く。
「分かった、スバルだ」
《…………はい?》
突然何を言い出すのだろうと、ラピは本気でマスターの事が心配になる。
「そうだよ!派遣任務の時、オレとシグナム副隊長が温泉に行っていた時にここを片づけていたのはスバル達だ。スバルの事だ。きっとおいて置かなきゃいけなかった通信機まで一緒に片づけたんだ。そうだ、間違いない!」
《い、いや、マスター?》
「くっそ~!スバルめ、何てヤツだ!」
と勝手に盛り上がるアスカ。
《落ち着いてください、マスター。今はそんな事を言っている場合ではありません。これからどうするかを考えるべきでは?》
放って置いたらこのまま暴走しかねないアスカを、ラピが宥める。
「それもそうだな……」
割とアッサリ切り替えるアスカ。さてどうするかと腕を組む。
「……仕方がない。隊長のご家族に助けてもらおう。家族なら通信機を持ってる筈だからな」
この地球でミッドチルダに連絡が取れそうな人は、現地協力者のアリサかすずかの二人か、なのはの実家しかない。
《そうですね。夜が明けたら、高町隊長のご実家に向かいましょう》
「……オレ、隊長に家の場所、知らないぞ?」
アスカは翠屋には行った事があるが、なのはの家には行っていない。
派遣任務で翠屋に立ち寄ったときに、スバルとティアナは美由希に連れられて行ったが、アスカは翠屋で待っていたのだ。
《大丈夫です。以前にスバルさんが隊長のお部屋を見に行った時に、地図データを転送してくれてますので》
「そうか!でかしたスバル!」
さっきまでは酷い言いようだったのに、現金な物である。
じゃあ朝までロッジで一眠りしようという事になったが……
「はーっくしょい!!う~、寒い!夜とは言え夏だろが!何でこんなに寒いんだよ!」
訓練着姿のアスカが、あまりの寒さに身震いする。
(おかしいぞ?ミッドと日本じゃ、季節は殆ど同じの筈だ。でも、この寒さは夏の肌寒さとかじゃない……まるで春先の寒さだぜ?)
どうなっているんだ、とアスカは思ったが、とりあえず防寒対寒をする事にした。
「ラピ、アーマードジャケット展開。こう寒くちゃ風邪を引いちまうぜ」
アーマードジャケットで寒さを凌ごうと考えたアスカだったが……
《……できません》
予想外の答えを言い放つラピッドガーディアン。
「え?」
《できません》
聞き返すアスカに、再び同じ答えを繰り返すラピッドガーディアン。
「できないって、どういう事だよ!」
思わず声が大きくなるアスカ。
《封印回収したジュエルシードが私のコアと融合してしまい、機能の殆どがロックされてしまっているからです。現状では、セットアップそのものができません》
「……逆に、現状でできる事って何よ?」
《現在できるサポートは、魔法演算、フィジカルヒーリング、簡易バリア展開等です。後は、私のメモリー内部にある記録検索と通訳です》
「……」
アスカはその答えに絶句してしまう。
デバイス無しでも魔法は使えるが、カードリッジによる魔力の底上げはできないし、魔法具現化の速度が低下してしまう。
魔法演算のサポートはできるので具現化速度はそれほど問題はないだろうが、カードリッジが使えないのは痛い。
「カードリッジって、どれだけ持ってきてたっけ?」
《カードリッジ6発入りマガジン2ケースと、私にセットされていた3発です》
「15発か~!使えないのは痛いぜ!」
ガックリとアスカは肩を落とす。
いま、何かあったら素の魔法だけで対処しなくてはならない。
「ほんと……なんて日だ……」
アスカは力なく呟いた。
機動六課は慌ただしく動いていた。
はやて自らが陣頭指揮をとって、行方不明になったアスカの捜索を指示している。
108部隊への引継を終えたティアナ達は、隊舎に戻ってきていた。
そこで、今後の指示を受けたのだが……
「そんな!私達に何もするなって言うんですか!」
スバルが声を上げる。
なのはが戻ってきたフォワードメンバーに出した指示は、各自部屋に戻って休息を取ると言う物だった。
「今は部隊長が指揮を取って副隊長が動いているから、みんなは身体を休めて。何か分かったらすぐに知らせるから」
宥めるなのはだったが、スバルは納得しない。
「仲間が行方不明になってるんです!私達の力は小さいかもしれませんが、別世界の捜索はできます!やらせてください!」
なのはにしがみついたスバルが懇願する。
その気持ちは、なのはにも痛い程分かる。
なのはも平静を装っているが、内心アスカの身を案じている。
だが、全ての戦力を捜索に振り分ける事ができないのが現状だ。
「やめなさい、スバル」
ティアナがスバルを引き離す。
「なのはさんの言っている事は分かるでしょう?今、アタシ達ができる事は無いわ」
諭すように言うティアナだったが、スバルは感情的に声を荒げてしまう。
「そんな!ティアはアスカが心配じゃないの!」
「いい加減にしなさい!」
ティアナが叱りつける。
「スバルがアスカを心配しているのは分かってる。アタシだって心配しているし、できるなら今すぐにでも探しに行きたい」
「そ、それじゃあ!」
「でも一番探しに行きたい筈なのに、我慢している弟と妹がいるのよ?お願い……分かって」
その言葉にスバルがハッとする。
エリオとキャロは、黙ったまま俯いていた。
同室で生活を共にしていたエリオは、唇を噛んでギュッと拳を握りしめ、今にも飛び出して行きたい衝動を堪えている。
「……ごめん……ごめんなさい……」
それで少しは頭が冷えたのか、スバルが謝罪を口にする。
だが、今のエリオとキャロにそれに答えるだけの余裕は無かった。
「心配なのは分かるよ。でも、今は我慢してね」
なのはの言葉を、スバルはようやく受け入れる。
「ちょっと話をしようか。先に休憩室に行ってて」
ティアナに促され、スバルはエリオとキャロを連れて休憩室に向かった。
「ごめん、ティアナ……私が言わなくちゃいけない事なのに……」
本来であれば、隊長であるなのはがスバルを止めなくてはいけなかったのだ。それを気にして、なのははティアナに謝る。
「いえ、気にしないでください。アスカなら……きっと……こうしたろうって思ってやった……」
そう言い掛け、ティアナは口を押さえた。ずっと堪えていたのだろう、一筋の涙がティアナの頬を伝う。
冷静に見えて、アスカの事が心配で堪らないのだ。
「ティアナ……」
「すみません、大丈夫です。これくらいで挫けてなんかいられませんから」
涙を拭いて、ティアナが顔を上げる。
ずいぶんと強くなった、となのはは思った。
「スタンドアローンで次元跳躍できるのはシグナムさんとヴィータちゃんだけだから、今はあの二人が近隣世界を探している。それが一番早い方法だから。何か分かったら必ず教えるから、それまでみんなをお願いね」
「はい、分かってます」
なのはの言葉に、ティアナは力強く答えた。
地球、日本。某ロッジ。
日が昇り、気温が少し上がってきた。
結局、アスカは一睡もせずにロッジで夜を明かした。
「そろそろ行くか。ここからだと……8時くらいには隊長の家につくか?」
《そうですね。町に出るまではエリアルダッシュを使えますが、そこから先は徒歩で》
「あいよ。ナビゲート頼むわ」
アスカは行動を開始した。ロッジを離れ、町中を歩く。
以前訪れた事があるので、何となくは分かっている。筈だったが……
(???何かが変だ。何か違う?あれ?)
アスカは町並みを見て違和感を覚えた。以前来た時と同じ町が、何かが違うのだ。
だが、その”何か”が何であるのか、アスカに認識できない。
妙な居心地の悪さを、アスカは感じた。
しばらく歩いてると、スバルとティアナに奢ったアイス屋まで来た。だが、
「……本屋?あのアイス屋、潰れたのか?」
その店舗は本屋だった。前の面影が微塵もない。
喉に小骨が刺さったような気持ち悪さを感じながら、アスカはまず翠屋に向かった。
「……間違いないよな。翠屋だ……?」
時間的にまだ開店していない翠屋。だが、以前来た時よりも綺麗に見える。
どこか改装したようには見えないが、何となく新しく見えた。
(前に来た時は夕方だったから、少し印象が違うのかな?)
いや、それは違う。アスカの無意識の部分が本人の考えを否定する。
「……隊長の家に行くか」
釈然としない物を感じるアスカだったが、とりあえずなのはの家に向かう事にした。
そして、自分の置かれた状況に愕然とする事になる。
「お……おっきいな、隊長の実家って……」
高町家を目の当たりにして、アスカはポカンと口を開けて呆然とした。
グルリと囲む塀の向こうに見えるのは、お屋敷とまでは行かないが、庭付き一戸建て、広い庭には離れに道場がある。
充分に裕福な家庭である。
「すげぇ……高町隊長って、お嬢様だったんだな」
貧乏性を拗らせているアスカは、デデンとそびえる高町家に近づけずにいた。明らかにビビっている。
《……マスター?怖じ気付いている場合ではありませんよ?》
グズグズしているアスカにラピッドガーディアンが話しかけた。
「べ、別に怖じ気付いてねーし!こんなの全然余裕だしぃ?何言ってんのかなぁ?」
アスカが強がって一歩進んだ時だ。
「行ってきまーす!」
高町家の玄関から元気な声が聞こえてきた。思わず電柱の影に身を隠すアスカ。
《なに隠れているんです?》
すかさずツッコミを入れるラピ。
「いや……つい……」
反射的に隠れてしまったアスカが口ごもる。
(あれ?でも今の声って?)
アスカは聞こえてきた声が、幼い事に気がついた。小学生くらいの女の子の声。
派遣任務で寄った時には、そんな子は居なかったし、話題にも出てこなかった。
(確か、兄ちゃんと恋人がいるって言ってたような気が……)
なのはの兄の恋人なら、小学生の筈がない。
誰だろうと思い、電柱の影からこっそりと覗き見て……アスカか固まった。
アスカが目にしたもの。
それは、白い制服を来てバックを背負った、元気そうな少女だった。
その少女に、アスカは見覚えがあった。
(!……子供の頃の高町隊長にそっくりだ…………)
ティアナの一見で揉めている時にシャーリーが見せてくれた、なのはの過去の映像。
その時の姿とまるっきり同じ少女がそこにいたのだ。
「し……親戚の子を預かってるのかな???」
そう呟くが、声が震えている。
動揺しているアスカに、更に追い打ちをかける事態が起きた。
「待ちなさーい。ほら、ハンカチ忘れてるわよ、なのは」
玄関からなのはの母、桃子が出てきて少女にハンカチを手渡している。
「あ、ごめんなさい、お母さん」
「はい。もう忘れ物はないわね?」
そこには、どこにでもある普通の家庭の風景が描かれていた。
だが、アスカはそれどころでは無かった。
(な、なのは!?お母さん!?って事は子供の隊長!??え?何??何のドッキリ???う、嘘だろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!)
今のアスカに、現状を理解しろと言うのは酷であった。
どこをどう歩いてきたか覚えてないくらい、アスカは動揺していた。
気がつけば、ポツンとロッジのある湖の畔で体育座りをしていた。
アスカは今、ボンヤリと湖をみている。
第三者が見れば、入水自殺でもするんじゃないかと思うくらいに意気消沈している。
《……マスター》
先ほどから何も喋らないアスカを心配して、ラピが話しかける。だが、
「ちょっと黙っててくれ……」
アスカは取り合わない。それでもメゲないラピは根気強く話しかける。
《高町隊長って……》
「いいから喋るな」
《子供の姿と言う事は》
「それ以上言うな」
《私達はもしかして……》
「静かにしてくれないか……」
さすがにこれ以上は無駄かと、ラピが静かになる。が、しばらくして、
《タイムスリップしてしまったのではないでしょうか?》
「あーーーーーーーー!言っちゃった?言っちゃったね!?全力で目を背けてたのに、言っちまったよ、コイツ!!!!!!」
あー!と頭を抱えてアスカがゴロゴロと地面を転がる。
「いや、さすがに無理!タイムスリップって何よ!?次元漂流と同時に時間漂流しちゃったってーの?設定に無理がありまくりなんですけどぉぉ!」
完全に理解を越えた展開に、アスカがヤケクソで叫ぶ。
《マ、マスター!落ち着いてください。ここが本当に過去の世界かを確かめたほうが……》
「子供の隊長がいたんだぞ!?しかも桃子さんが”なのは”って呼んでたんだ、間違いねーよ!」
《と、とにかく落ち着いてください!》
ラピッドガーディアンに諫められ、アスカは転がるのをやめた。
仰向けになり、よく晴れた空を見上げる。
ゴチャゴチャになった頭の中が、少しづつ整理されていく。
落ち着くと、今度は急に寂しくなってくる。
「……みんな、心配してるかな……」
アスカは機動六課の仲間の事を考えた。
気のいい仲間ばかりだった。
エリオ、キャロ、スバル、ティアナ。前線でお互いに信頼しあえる、仲間以上の仲間だ。
シャーリー、アルト、ルキノ。ロングアーチスタッフはいつもフォワードの事を気にかけてくれてた。
部隊長、隊長、副隊長。変に偉ぶってなく、いつも心配をかけていた。
アスカにとって、今や機動六課はただの部隊ではない。家族だった。
過去の世界に急に放り込まれたアスカ。7年前に何も知らずに次元漂流した時のような喪失感を感じた。
「何だよ……オレが何をしたってんだよ……何でオレばっかり、こんな目に……」
そうグチを溢しても、誰もアスカを責められないだろう。
「……そうも言ってられないか……」
ポツリと呟き、アスカは半身を起こした。
「ラピ、過去の世界にいる間は、会話は全部念話モードでする。分かったな?」
『なぜでしょうか?』
早くも念話モードで聞き返すラピッドガーディアン。
「……過去の世界にいるって事は、ラピは未来技術の塊みたいなものだろ。この時代の管理局にバレると、色々面倒だろ?」
『了解しました。では、帰還できるまは念話で会話をします』
(帰還できるまで……か)
ラピの言葉に、アスカは考え込んでしまう。はたして帰れるのだろうか、と。
時間の壁を飛び越える事など、不可能でしかない。何をどうすればいいか、まだアスカには分からなかった。
『ところでマスター。一つ報告があるのですが』
「何だ?」
『湖の中心の最深部に、ロストロギア反応があります』
「……へ?」
予想外の報告に、アスカの目が点になる。
『この反応は、封印処理されていないジュエルシードです。確保しましょう』
この期に及んで、まだ仕事をしなくてはいけないのかとアスカは肩を落とす。
だが、放っておけないのも確かだ。
下手をすれば、再び暴走して次元震を起こしてしまうかもしれない。
「ったく、本当に何て日だよ!」
立ち上がったアスカは、訓練着のまま冷たい水に飛び込んだ。
その様子を、離れた森の中から注意深く伺っている二つの人影があった。
後書き
自由に出歩けない昨今、少しでも暇つぶしになっていれば幸いです。
今回、アスカは過去の世界(無印なのは)に飛ばされてしまいました。
無印編のスタートです。
前回の瞬間的ブラックホールは、タイムトラベルのできるカーブラックホールだったのです。
くわしくは、シュタインズ・ゲートをやってください。
今後、少しずつでも更新できればと思っています
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