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旧家のしきたり

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第一章

                旧家のしきたり
 京都の踊りの家鷹宮家に跡継ぎの妻に入った後藤綾香は京都の市会議員を務めている父から言われた。
「あの家で古い家やさかい」
「そやからですね」
「何かとしきたりがあるで」
 やや面長で色白で切れ長の大人しい目に細い整った眉を持つ娘に話した、背は一五八程で黒髪を後ろに伸ばしている。
「そやからな」
「そのしきたりにですね」
「従うんやね」
「そのお家に入るからには」
「それがこの街や」
 京都だというのだ。
「わしも代々ここにおるからな」
「京都のことは知ってるさかい」
「お前にも言うんや、お前もわかってるやろ」
「私も京都で生まれ育ったし」
 幼稚園から大学までずっと京都だった。
「そやさかい」
「そやな、ほなな」
「あのお家に入ったら」
「あのお家のしきたりに従ってな」
「奥さんとしてやってくんやね」
「まして跡継ぎさんの奥さんや」
 その立場だからだというのだ。
「もうな」
「どれだけしきたりに従ってるか」
「皆見るさかいな」
 家の中にいる者達だけでなく弟子達や後援会の者達そして京都の名士達もというのだ、綾香自身この家で子供の頃から踊りを学んでいる。他にも茶道や華道、書道も子供の頃から学んで色々と磨いてきた。
 その娘にだ、父は言うのだった。
「気をつけるんやで」
「そうしてくわ」
「お前はずっとしっかり勉強してきた」
 その踊りや茶道、華道等をというのだ。
「礼儀作法とかは身に着けてる、けどな」
「そのお家のしきたりはやね」
「どうしてもあるからな」
 それでというのだ。
「まずはそれをな」
「覚えてやね」
「やってくんやで」
「そうしてくわ」
 娘は父の言葉に頷いた、そうしてだった。
 綾香は鷹宮家に嫁いだ、夫の宏典は芸に熱心で家のこともしっかりと考えかつ真面目で温和であった。家の跡継ぎとしても夫としても充分な人物だった。
 だが日本には遊ぶことも芸を磨く為に必要という考えがある、梨園等ではよくそう言われている。それでだ。
 夫はよく後援者達と共に遊びに出た、これも芸の為ということでだ。それで酒を飲み女もであった。
 綾香はこのことはわかっていたので何も言わなかった、だが。
 今の当主である宏太、大柄でどっしりとした体格で着物が似合う白髪を奇麗に整えた彼にこう言われた。
「うちの家のしきたりは全部頭に入ってますな」
「はい、それは」
 綾香は義父に応えた、それも礼儀正しく。
「そのつもりです」
「わしもそう思ってます、綾香さんはええ奥さんです」
 息子にとってというのだ。
「ほんまに、それでこの家の妻はです」
「旦那様と息子以外の人にはですね」
「手を触れることもあきまへん」
「そうなってますね」
「自分の息子はええにしても」
 それでもというのだ。
「例え相手がわしでもです」
「あきませんね」
「そして家の男もです」
 義父はさらに話した。 
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