魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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最終章:無限の可能性
第286話「“可能性”は繋がれる」
前書き
各戦闘でかかった時間は割とバラバラですが、神界の特性上単純な時間経過とイリスに辿り着くまでの早さは比べられません。
よって、戦闘の終わった早さとイリスに辿り着いた順番は結構違ったりします。
(……と言うご都合主義なだけ)
「準備はいい?」
「いつでも」
神界の入り口にて、イリスに対する支援攻撃の準備が整えられていた。
既に砲台となる椿は準備できており、いつでも力を集められる状態だ。
「思ったのだけど、タイミングは合うの?」
防衛線を後方支援しているシャマルが椿に尋ねる。
椿が行おうとしている支援攻撃は、遅くても早くても意味がない。
さらには放てるのは一発が限度。
無茶をしてまでやるのはいいとして、一発勝負もいい所だ。
「それは、“意志”次第ね」
「距離という概念があやふやになるなら、椿や集束させた“意志”によって絶好の機会を狙い撃ちする……って事さね。……上手く行くかは不明だけどね」
「結局は一発勝負。先の見えない不安はわかるけどね」
「……なるほど、ね。そういった不確定要素を踏まえた上で賭けに出たのね。なら、今のは愚問だったわね」
“意志”を集束させるためのバックアップをしている紫陽が、椿の応答に補足する。
そして、その答えを聞いてシャマルも納得したようだ。
「それじゃあ、始めるわよ!」
きっと、手助けになると信じて。
椿はそんな決意の下、“意志”を集める器となった。
「……状況が変わったわね」
葵達が突入して間もなく、戦場を隔離する“闇”に変化が訪れた。
これまでは“闇”一色だったが、今は無色とのまだら模様になっている。
「“固有領域”を解放したのね……それも、お互いに」
戦場の外であろうと、戦っているのは自身の半身だ。
そのため、大まかに何が起きているのか優奈には理解できた。
「そういう事だから、突入は急ぎなさい。緋雪」
「詳しく聞きたいんだけど……お姉ちゃんは、何でここに?」
「貴女達を通すためよ」
―――“可能性の導き”
その一言と共に、“闇”に穴が開く。
「イリスは邪魔を拒んでいる。その壁に穴を開けるために、私はここにいるの。……後は、外側からも“領域”を削れない事もないしね」
「そっか……じゃあ、行ってくるよ」
「ええ。行ってらっしゃい」
自動迎撃の“闇”を弾きながら、優奈は簡潔に説明する。
悠長にしている余裕はない事を緋雪も悟り、すぐに突入する。
「……さて。行ったわね」
緋雪の突入を見届け、優奈は飛び退く。
同時に創造魔法で剣を複数創り出し、“闇”に突き刺す。
すぐさま剣はグズグズに崩れてしまうが、優奈は気にしない。
「蚊に刺されるよりも効いていないでしょうけど、塵も積もればなんとやら、よ」
出来る限り体力等の消耗を少なくしつつ、攻撃を続ける。
そして、やって来た味方を突入させる手伝いも担う。
今の優奈にとって、それが最善の行動だった。
「勝つか負けるかの瀬戸際。それも負ける“可能性”の方が大きいのに……やっぱり、“可能性の性質”だからかしら?」
決して戦場は見えない優奈。
中で実際に何が起きているのかは分からない。
それでも、自然と笑みを浮かべていた。
「……負ける気がしないのよね。全然」
その表情は、優輝を、そして仲間たちを信頼しきっていた。
「ぁ、ぐ……はぁ、はぁ、はぁ……!」
一方、突入した葵達は、空間に満たされた“闇”に苦しまされていた。
それは単に体力を削るだけでなく、洗脳や思考操作の類も効果に含まれている。
そのため、それを耐えるために動けずにいたのだ。
「“闇”が、晴れていく……」
そして、ユウキの“固有領域”によってそれも中和された。
「……ありがと、抑えていてくれて」
「いや……正直、運が良かっただけだ」
唯一、帝はユウキと同じように“固有領域”を扱えるため、無事だった。
それによって正気を保ち、葵と神夜を洗脳されてもいいように抑えていた。
「くそっ、触れるだけで苦しめられるのか……!」
「……そうでもないぞ。対策はある」
無事だったが故に、帝には考える時間があった。
そのため、洗脳すらしてくるその“闇”への対抗策も思いついていた。
「元々、前回は一瞬で洗脳されたんだろ?だけど、今回は違った」
「……そういえば、優ちゃん曰く、あの時のイリスは分霊だから……こっちの方が効果としては強いはずなんだっけ?」
「ああ。そして、俺が無事だったのは自身の“領域”を理解していたからだ」
自身の“領域”を理解してくるからこそ、それを侵しにくる“闇”を拒める。
だから、帝だけは無事だったのだ。
戦っているユウキも、同じ理論で無事なのだ。
「“意志”と“領域”は密接に関係しているが、同一ではない。だけど、“意志”だけでも抵抗は出来た。なら……」
「自身の“領域”を少しでも理解出来れば、対処できるって事だね」
「そういう事だ」
しかし、“領域”を理解する事は簡単な事ではない。
帝も優奈のおかげで“領域”を認識できたぐらいだ。
自力で認識するには、そもそも方法がわかっていない。
「問題はどうやって自分の“領域”を認識するかだが……」
「それは大丈夫」
「……そうだな」
「そうなのか?」
そんな懸念事項だったが、葵と神夜は問題ではないとばかりに返事する。
実は、洗脳される際に“領域”は侵食されているのだ。
そこから、“領域”を認識する事はそこまで難しくない。
一度も洗脳されていない帝だったからこそ、分からない事だった。
「さすがに“固有領域”までは使えないけど、これなら……!」
「っ……!」
直後、衝撃波が三人に届く。
見れば、遠くの方でユウキとイリスが戦っていた。
「……耐えられる、な」
「そうみたいだな」
三人がいる場所は、丁度二人の“固有領域”がせめぎ合う境目だ。
つまり、ユウキの力だけでなく、イリスの“闇”も届く。
先ほど散々苦しめられた“闇”を、三人は再び浴びていた。
だが、“領域”を認識する事を意識すれば、耐えるのは容易だった。
「それよりも……」
「……ああ。負けるぞ、あいつ……!」
帝が言った直後、ユウキは吹き飛ばされた。
「ッ、かはっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
「……終わりです。貴方を倒した後、やってくる人間も全て潰しますよ」
ギリギリで“固有領域”を維持しているが、ユウキは限界だ。
対し、イリスはダメージを負っているものの、まだ戦える。
結果は明白だ。ユウキはイリスに競り負けたのだ。
「く、はは……!もう勝った気でいるなら、油断もいい所だぞ」
「何を……」
「神として振る舞うのは次で終わりだ。その先は、人間としてやらせてもらうッ!!」
展開されていた“固有領域”が圧縮されていく。
同時に、理力が途轍もない勢いで消耗する。
「まさか……!」
「言っただろう?“これで、切り札が潰せる”ってなぁッ!!」
―――“導となりし、可能性の軌跡”
「しまっ……!?」
“可能性”が、力の奔流となってイリスを襲う。
イリスは咄嗟に“固有領域”による“闇”で相殺を試みる。
しかし、相手は圧縮された“領域”だ。いくらイリスでも簡単には凌げない。
「ここに来て、捨て身ですか……!」
「……神界での戦いは、ほとんど捨て身さ。けど、だからこそ拓かれる“可能性”も、あるんだよ……ッ!!」
息も絶え絶えにユウキは力の全てを出し切る。
“固有領域”を利用した一撃は、それこそ使えば満身創痍になる。
それでも、ユウキはイリスの切り札を叩き潰しにかかった。
「くっ……ぁ……ぁあああああああああッ!?」
そして、一際強い閃光が辺りを包み、爆発を引き起こした。
「っ、ぁ、ぐ、ぅう……!」
〈マスター!〉
爆発が晴れた所には、全身がボロボロの煤だらけとなったユウキが、剣の形態に姿を変えたリヒトを支えに膝をついていた。
「ッ……やってくれましたね……!」
対し、イリスもボロボロではあったが、まだ五体満足に立っていた。
確かに“固有領域”は破壊したが、肝心の“領域”までは砕き切れなかったのだ。
「……これで、布石は打った。後は……」
「っ―――!!」
イリスがトドメを刺す、その直前。
極光が二人の間を突き抜ける。
「“人”による、神殺しの時間だ……!」
「おおおおおおおッ!!」
さらに“意志”を巨大な剣とし、帝がイリスに向けて振り抜いた。
「優ちゃんの治癒よろしく!あたし達がその間抑えるから!」
「ああ!」
先ほどの砲撃魔法を放った葵は、神夜に指示を出してからイリスに斬りかかる。
指示を受けた神夜も、すぐさまユウキに治癒魔法を施す。
「気休めにしかならないか……!」
「……神としての力は、もう失ったからな。そう簡単には戻らん……」
ボロボロの体は治っていくが、力は戻ってこない。
既に、“ユウキ・デュナミス”としての力は失ったのだ。
今は満身創痍の“志導優輝”がそこにいるだけだ。
「らららららららららぁッ!!」
「くっ……!近接戦では、彼以上ですか……!!」
一方で、帝は障壁の上から猛攻を仕掛けていた。
“闇”による障壁のせいで、攻撃は一切通じていないが、帝が放つ攻撃の激しさに少しばかり慄いていた。
「邪魔です!」
「そこッ!!」
イリスにとって、目下の目的はユウキへのトドメだ。
そのために、理力の衝撃波で帝を吹き飛ばす。
しかし、その行動を読んでいた葵がすかさず霊術を放ち、妨害する。
さらに“意志”と共にレイピアを繰り出し、イリスを抑える。
「今更、そのような攻撃が……!」
―――“全なる深淵の闇”
「通じるとでもっ!」
「ッ……!?」
“闇”を圧縮した不定形な武器が、葵のレイピアを弾き飛ばす。
それだけに収まらず、そのまま刃となって葵を斬り刻んだ。
「なんて、厄介な武器だ!」
すぐさま帝が戻り、不定形の武器による攻撃を手刀で弾く。
濃密な気を纏わせている事と、イリスも消耗しているために、不定形の武器はユウキと戦っていた時程の切れ味が発揮できずにいた。
おかげで、何とか帝はその武器とやり合える。
「理力や“性質”を用いた不定形の武器だ……。圧縮した理力や“性質”に応じて、強度も変わる。……幸い、僕が戦っていた時よりは数段弱いけどな」
「不定形……って事は……」
「っ、避けろ帝!!」
神夜がどういう事なのか口を出す前に、優輝が叫ぶ。
見れば、イリスの武器が檻のように帝を囲んでいた。
そのまま、収縮して斬り刻むつもりなのだろう。
「ぐっ……!!」
気を纏い、ギリギリ隙間を縫って包囲を抜け出す帝。
だが、避けた先にも武器の刃が迫り、左肩が貫かれる。
「まずい……!」
葵がレイピアを生成し、壁を作る。
それが気休めだという事は全員わかっていたため、優輝達も飛び退く。
帝も即座に復帰し、傷の再生も終わらぬうちにイリスへと飛び掛かった。
……しかし、一歩遅い。
「これで、終わ―――」
―――“破綻せよ、理よ”
武器によって壁が崩され、帝も弾かれる。
そして、“闇”による極光が放たれる、その寸前。
集束した“闇”が爆発し、僅かにイリスは怯んだ。
「させないよ」
「緋雪……!」
駆けつけたのは緋雪だ。
“破壊の瞳”によって、イリスの攻撃を潰したのだ。
「状況は見ていたよ。今の内にお兄ちゃんを―――」
―――“Lævateinn Überwindung”
「―――お願い!」
振るわれるイリスの武器に対し、緋雪も武器を振るう。
赤と青の霊魔相乗による螺旋を纏った白き刀身が、“闇”を打ち砕く。
細く伸びた“闇”であれば、緋雪の剣で破壊が可能だ。
「っ……!次から、次へと……!」
「葵さん!」
緋雪は基本大振りな攻撃ばかりだ。
細かい動きも可能ではあるが、今の武器ではどうしても大振りになる。
そこを、葵がフォローする。
「私と彼の戦いを……邪魔するなッ!!」
「ッ……!?」
単純な戦闘では、少しばかり時間がかかる。
そう判断して、イリスは“闇”と共に拒絶の“意志”を放つ。
「堅い……!!」
「はぁっ!!」
緋雪と帝の攻撃すら、“意志”の壁を破れない。
攻撃し続ければ破れるだろうが、その前に優輝に辿り着かれる。
「くっ……!」
「今更貴方程度が止められるとでも……!」
「うるさい!!」
優輝を庇うように、神夜が“意志”の剣を振り被る。
「く、ぉおおおおおおッ……!」
障壁と拮抗はするが、破れない。
そして、隙だらけだ。
「ぐふっ……!?」
不定形の武器に串刺しにされ、神夜はたたらを踏む。
しかし、瞳に灯る“意志”は消えていない。
「つぁッ!!」
「ッ!?」
障壁を破れないのならば、その上から吹き飛ばせばいい。
そう考えたのか、神夜は“意志”を衝撃波として放った。
狙いは上手く行き、イリスは無傷ながらも後退させられた。
「なら……!」
「っ、緋雪!帝!横に避けろ!」
追撃をしようと肉薄する緋雪と帝を無視してイリスは“闇”を集束させる。
近づけないのならば、遠距離から仕留めるというつもりなのだろう。
「ッ……!」
全員が横に避ける。
だが、当たり前のように一発で終わりのはずがない。
追撃の極光が放たれ、それは真っ直ぐに優輝へと向かう。
「舐める、なッ!!」
―――“霊魔相乗”
―――“Wille Aufblitzen”
理力が使えない今、優輝は著しく弱体化している。
それでも、“意志”による一閃で極光を逸らし、受け流した。
「はっ、ふっ、ふぅ……!」
“領域”にも罅が入っているため、優輝は常に疲労しているのと同義だ。
追撃を避け、緋雪と帝が反撃に入ったのを見て、何とか息を整える。
〈マスター、あまり無理はなさらずに〉
「ああ。……けど、何もしないのは、な」
幸い、魔力と霊力は無事だ。
魔法や霊術による攻撃で、イリスの気を散らそうと援護する。
「合わせて!」
「ああ!」
前衛に帝と緋雪。
どちらもかなりの力を持っている。
相変わらず“闇”と“意志”による障壁は破れないが、それでも真正面で戦える。
そんな二人を、葵と優輝で支援する。
優輝は遠距離から、葵は二人でカバーしきれない隙を補うように支える。
「………」
そして、神夜はただじっと“意志”を溜めていた。
霊力は扱えず、魔力も今では優輝と同程度だ。
魔法による簡単な援護や障壁は使っているが、それだけしか出来ない。
だからこそ、“意志”のみで戦闘の支援をするための前準備を行っていた。
「ぁぐッ!?」
状況が動く。
帝と緋雪の隙を補うべく前に出た葵が、掌底で吹き飛ばされる。
その後、帝の攻撃を敢えて障壁で受け止めず、カウンターを直撃させた。
「ッ……!?」
「まずっ……!」
すかさず緋雪が“破壊の瞳”で牽制しようとするが、一歩遅い。
戦闘技術を現在進行形で積み重ねているイリスは、その動きを読んでいた。
不定形の武器で“破壊の瞳”を握ろうとする緋雪の手を斬り飛ばしたのだ。
「(来るか……!)」
三人を一瞬で吹き飛ばし、僅かな間優輝は無防備になる。
そこを狙い、イリスはさらに攻撃を仕掛ける。
途中、神夜が待ち構えているが、イリスはそれを大した障害ではないと断じる。
……その油断こそが、神夜の狙い目だった。
「“ぶち貫け”ッッ!!!」
それは、単純な言霊だ。
しかし、“意志”と共に放たれるのであれば、その効果は絶大なモノになる。
「ッ、無駄です!」
意表を突かれた。
それでもイリスはいくつもの障壁を一瞬で展開する。
「―――ダメか……!」
障壁のほとんどは貫通した。
意表を突いた事から、衝撃波までは防ぎきれなかったのだろう。
僅かとはいえ、イリスにダメージが通った。
だが、あまりにも浅い。
「おおッ!!」
「はぁっ!!」
間髪入れず、葵のレイピアが飛び、優輝の魔法と霊術が飛ぶ。
同時に帝と緋雪が近接戦を仕掛け……全てが障壁で防がれた。
それも、威力の低い魔法等は体を覆う障壁で受け止め、帝と緋雪の攻撃は一点集中させた障壁で的確に受け止めていた。
「こいつ……!?」
「イリスは今も成長している。正面からのごり押しは通じないぞ、帝」
「みたいだ、なッ!」
気弾をばら撒き、障壁を蹴って帝は離脱する。
緋雪も砲撃魔法を放ちつつ、その反動で間合いを取った。
「おおッ!!」
「はぁッ!」
そんな二人を、不定形の武器が追撃する。
無論、ただで食らう訳にもいかない二人は、その攻撃を弾く。
「ッッ……!」
―――“徹貫突”
その二人の間を駆け抜け、葵が一閃を放つ。
踏み込みと同時に放たれた渾身の一突きが、イリスの障壁を貫通した。
「残念でしたね?」
だが、そこまでだ。
貫通した穂先は、イリスには当たらなかった。
当然のように躱され、渾身故に隙を晒したその体に、極光が叩き込まれた。
「ッ!?」
直後、イリスの背後で銀閃が煌めく。
寸前で振り返ったイリスだったが、障壁は葵に破られ、再展開も間に合わない。
故に片腕を犠牲にその一閃を凌いだ。
「……っ」
追撃の連撃が放たれる。
イリスは、それを直接防がずに転移する事で避けた。
「判断が早い……!」
「奏ちゃん!」
「片手だけじゃ、大したダメージにならないわね」
攻撃を放ったのは奏だ。
緋雪と同じように、優奈の協力の下ここにやってきたのだ。
「ぐっ……!」
「ちっ、こっちに来たか!」
悠長に会話する暇はなかった。
転移したイリスは直接優輝に肉薄してきたのだ。
即座にリヒトで攻撃を受け流したが、追撃は防げない。
咄嗟に神夜が攻撃を仕掛けるが、不定形の武器相手では手数が足りない。
「ッッ!!」
それを、奏がフォローする。
瞬間的な速さでは、この中では奏が一番だ。
その気になれば帝も追いつけるが、それでも今この瞬間は奏しか間に合わなかった。
「くっ……!」
「それ以上は!」
「させねぇッ!」
ガードスキルのディレイを多用し、奏はイリスの武器を捌き切る。
それでも、力の差で奏の攻撃が弾かれる。
そこを緋雪と帝がすかさず割り込む事でフォローした。
「また……ッ!」
「優ちゃん!!」
直後、再びイリスは転移する。
葵が咄嗟に優輝を庇うように動くが、それをイリスは予測していた。
「ッ……!?」
“闇”による斬撃が葵を阻止するように飛ぶ。
ほんの一瞬、葵の動きが遅れ、それが致命的な差となる。
「がぁッ!?」
“意志”の剣で迎え撃った神夜も、不定形の武器による連撃で串刺しにされる。
そのまま、返す刃で優輝へと迫り……
「一歩、遅かったな……!」
「くぅッ……!」
創造魔法の剣とリヒトによって、防がれた。
いくら不定形の武器と言えど、一瞬でも防がれればその間に行動は起こせる。
即座に優輝は創造した武器を爆破させ、目晦ましを行う。
「理力は使えなくとも、霊力と魔力は万全だ。後は“意志”さえあればどうとでもなるさ。……残念だったな。トドメを刺せなくて」
“ユウキ・デュナミス”としての“領域”は砕けたも同然だ。
だが、その内にあった“志導優輝”の“領域”はほぼ無傷だった。
総合的に見れば依然瀕死だが、それでも優輝は戦線復帰したのだ。
「リヒト、ここからだ」
〈……はい!〉
これまでは理力の出力や相性の問題でリヒトを使っていなかった。
しかし、今は理力を使い果たしている。
理力の有無はかなりの差ではあるが、それをリヒトで埋める。
リヒトの“意志”も加わり、突破力だけなら他の皆に引けを取らない。
「ならば、改めて倒すまでです!」
「奏!葵!」
手数や速さが長所の二人を呼び、イリスの不定形の武器を弾く。
今までは優輝を庇う立ち回りだったものが、ただの役割分担となったために三人とも動きは機敏になっている。
「シッ!」
「はぁッ!」
庇う必要がないという事は、基本背後を気にせず回避も出来る。
スピードや回避を生かせるために、細く伸びる刃を躱し、的確に凌げた。
「お、らぁッ!!」
「ふッ!!」
細かい攻撃の対処を担当するのが三人ならば、アタッカーは帝と緋雪だ。
帝は拳を、緋雪は大剣を用いてイリスへと攻撃を放つ。
「っ……!」
自動で張っている障壁では、その攻撃は防ぎきれない。
そのため、イリスが自己判断で障壁を重点的に展開し、防御していた。
「(通じないか。なら)」
武器による攻撃を回避し、そのまま優輝は剣を引き絞るように構える。
そのまま、“意志”と共に鋭い刺突を解き放ち、障壁を穿つ。
「そう来るのは、予想済みです!」
直後、障壁が変異。
割られた障壁がガラス片のように飛び散り、帝と緋雪を切り裂く。
さらに、欠片は集束し、極光を放つための球へと変わる。
障壁を利用したカウンター技を伏せていたのだ。
「奇遇だな。僕もだ」
「ッ……!」
だが、優輝はそれを予想していた。
集束した“闇”に対抗するように、優輝の背後で“意志”が集束する。
攻撃に参加せずに“意志”を溜めていた神夜による一撃だ。
「くっ……!」
「撃ち貫け!!」
二つの極光がぶつかり合い、衝撃波を撒き散らす。
優輝達は即座に飛び退いたため、その衝撃波にはあまり巻き込まれずにいた。
「ッ!!」
「ここ……ッ!」
極光同士が相殺された直後を狙い、奏と優輝が仕掛けた。
後詰めに帝が砲撃を、緋雪が大剣を繰り出す。
奏と優輝に意識を向けさせ、そこを帝と緋雪が叩く算段だ。
帝と緋雪の攻撃を何とかしなければ、防御は突破され、かと言ってそちらを対処すれば薄くなった障壁を奏と優輝が突破する。
最低でも隙を晒す。そんな状況を作り出した。
「甘いですよッ!!」
「ぐっ……!?」
「っぁ……!」
だが、帝と緋雪の攻撃は“闇”の斬撃に相殺された。
それだけに留まらず、奏と優輝にもカウンターを食らわし、吹き飛ばしていた。
「っ……」
しかし、イリスも無傷ではない。
奏と優輝の刃が僅かながらにも命中していた。
「(あの状況下で、一切の動揺もなく最低限の被害と最大限の打撃を成立させるとは……本当に、天才肌だな……!)」
同じような状況下ならば、多少なりとも動揺などが現れる。
なかったとしても、そこから最善の結果を掴むのは至難の業だ。
それを、イリスは冷静に対処した。
「(……以前と見違えたな。イリス)」
優輝は心の中でイリスを称賛する。
かつての戦いでは、イリスはここまで戦闘技術は高くなかった。
それが、今では複数人を相手にしてここまでの戦闘技術を見せている。
その事実が、イリスの成長を表している。
それを、優輝は素直に称賛したのだ。
「―――――」
「(“可能性”は繋がれる。……それは、お前も例外じゃないぞ、イリス)」
イリスは、そんな優輝を見て目を見開く。
敵同士だと言うのに、こちらは叩き潰そうとしているというのに。
それでも笑みを浮かべる優輝に、戦慄していた。
かくして、“可能性”は繋がれ、戦いも決着に近づいていく。
勝利、敗北、いくつもの結末の“可能性”の中で、優輝はただ一つの“可能性”へと、着実に手を進めていった。
後書き
導となりし、可能性の軌跡…“可能性の神話”のギリシャ語。緋雪が使った水面に舞え、緋色月と同じように、“固有領域”の全てを込めた一撃を放つ。代償として、放った直後は完全なガス欠となり、無防備を晒す事になる。
徹貫突…貫通力特化の刺突技。“意志”によってその威力は底上げされており、イリスの障壁すら貫ける威力を持つ。
イリスや他の神も“固有領域”を圧縮して放つ事は出来ますが、代償が大きいのと展開の問題(今回の場合は不意打ち)で基本使いません。と言うか、使った上で無事で済む方がおかしいと言った具合です。
戦場におけるイリスの“闇”による洗脳及び精神干渉ですが、葵達は本編の通り、緋雪は帝と同じく“固有領域”が展開できるため、奏はミエラの経験を引き継いだ事で“領域”を認識できるようになっています。
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