森での出会い

「この子の名前だけれど」
「そうね、名前ね」
「何にしようか」
「今ちょっと思いついたけれど」
　妻はここで言った。
「チートでどうかしら」
「チート？」
「ええ、この名前でね」
「そうだね、雄だしね」
　それならとだ、夫も頷いた。
「チートでもいいね」
「名前はね」
「そうだね、それじゃあこの子の名前は」
「チートにしよう」
「そうしましょう」
　二人でこう話してだった。
　猫はチートという名前になった、そしてチートは家では。
　いつも夫婦の傍にいて身体を摺り寄せて懐いてだった。
　甘えてその仕草の一つ一つでだった。
「癒されるね」
「そうね」
　夫婦で微笑んで話した。
「チートがいてくれるだけで」
「その姿を見ているだけで」
「撫でたりご飯あげたり」
「そうしているだけで」
「そうなるわね」
「猫がこんなにいいなんて」
　夫はこうも言った。
「思わなかったよ」
「そうね、ただお家にいてね」
「ご飯を食べたり色々仕草をするだけで」
「それを見るだけで」
「何でもないことなのに」
「それが凄くいいね」
「そして癒されるわ」
　二人で笑顔で話した。
「若しあの時チートに出会わなかったら」
「あの森でそうならなかったわ」
「僕達はこんなに幸せにならなかったね」
「そうね」
　絶対にとだ、妻も応えた。
「チートに出会えなかったら」
「助かったのはチートかも知れないけれど」
　二人に出会ってご飯を貰って家族になってというのだ。
「けれど癒されて幸せになっているのは」
「私達ね」
「そうだね、本当にチートに出会えてよかったよ」
「ここまで癒されて幸せになれるから」
「出会わせてくれた神様とそうさせてくれるチートに感謝だね」
「本当にそうね」
「ナア」　
　チートはそう話す二人のところに来た、そうしてだった。
　今はソファーの上に座っている二人の膝の上を歩いて夫の膝の上で丸くなった。夫婦はそんな彼を見てまた笑顔になった。


森での出会い　　　完


　　　　　　　　　　　　　　　　　２０２１・３・１７