バリヨン
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第二章
「その様に思います」
「そして実際にいればだな」
「一財産手に入れられます」
「成程な」
「面白い話ですね」
「君が書く作品とは少し違うがな」
「そうかと」
泉自身もこう返した。
「私は確かに妖怪を書きますが」
「そうした妖怪は書かないな」
「そうした面白さよりもです」
「奇麗さだな」
「そちらを求めます」
師匠に対して答えた。
「やはり」
「そうだな」
「ですから」
「このバリヨンについては書かないか」
「そのつもりです」
「それがいいな、君の作風ではない」
尾崎は泉を見つつ述べた。
「それよりもな」
「やはり私は」
「美を求めた方がいい」
「私の作風では」
「それがいい」
尾崎は泉に言った、こうした二人はバリヨンの話を終えたがその話を聞いてだった。
東京でも有名な強欲の年寄り前田桔平が泉のところに来て言ってきた。見れば皺だらけの顔であるが腰はしゃんとしている。
「新潟にバリヨンというのが出て」
「はい、背負うとです」
泉は前田に率直に答えた。
「それで家まで帰りますと」
「大判小判がざくざくですな」
「大判はないですが」
「小判がですな」
「そうなります」
「それは何より、丁度新潟の方に用事がありまして」
前田は泉の話を聞くとにんまりとして言った。
「では夜に出るという道を歩いて」
「そうしてですか」
「また一儲けします」
「そうですか、ですが」
泉は前田にどうかという顔で述べた。
「貴方はもう」
「金は持っているというのですな」
「元禄からの大店で」
それでというのだ。
「ご一新でも商いに工夫を凝らして」
「いやいや、商売人は金があればあるだけです」
「よいのですか」
「店の商いにも金は必要ですし働いている者達にも多く給金を与えられます」
「だからですか」
「それでまた一儲け出来るなら」
それならというのだ。
「それを逃さずです」
「儲けますか」
「左様であります、ただ」
「ただといいますと」
「わしは確かに欲が張っていますが」
前田は自分でこのことは認めた。
「しかし道は踏み外さぬ様です」
「心掛けておられますか」
「そのつもりです」
このことはというのだ。
「ですから」
「そうですか、では」
「そのバリヨンのところに」
是非共というのだ。
「行って来ます」
「それでは」
泉は前田に応えて送り出した、その後で。
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