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幻の月は空に輝く

作者:国見炯
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日向の自己主張は白眼だ



 カンッカンッと無言のまま金槌を振るう。
 修行も大事だけど、こちらの修行も疎かには出来ないんだよね。やっぱり自分の使いやすい武器を思いのままに作れるってのはすっごくいいし。
 折角打てるスキルがあるというのに、打たないのは勿体無い。
 しかし、先日のうちは兄弟騒動は疲れたと、小刀を打ちながらも肩が下がりそうになる。あのマイペース…というより、我が道を行き過ぎる兄弟はなんだろうか。
 あの後ナルトに愚痴ったら、「ハッ」と口先で軽く失笑されたのは記憶に新しい。どうやら名門うちは一族の兄弟は知ってるらしいんだけどね。まぁ、イタチの方の天稟は有名だろうし知らない方が珍しいのかもしれない。
 

「……そういえば、中忍になったんだっけか」
 天稟って言われるのはやっぱ写輪眼と中忍に抜擢された所が大きいんだろうなぁ。それがイタチにとって良いのか悪いのか。多分このままでいくと悪い度合いの方が大きい気もするんだけど。
 まぁ、それはとりあえず置いといて……イタチが父さんに注文する武器も、前よりも実践的で個性的なものに変わってきたような気がする。
 ふむ、と金槌を置いて腕を組む。小さい頃から可愛がってもらった割りに、プレゼントを用意した事はなかった。先日はサスケとも友達になったっぽいし、イタチとの縁も深くなったような気がしないでもない。
 ここで一回今までのお礼として、プレゼントを渡すのもいいかもなぁ。そうなると何かな。何がいいかな。目の前の打ち途中のクナイを視界の隅に収めつつ、私の意識はすっかりとイタチのプレゼント一色になっていた。

 出来れば、平和的にいってほしい。そんな意味合いを込めて…。
「(って、イタチの里抜けって何時だろう)」
 何となく下準備を整えてるような雰囲気からもうじきだと思っていたけど、そういえば中忍になってから暫くは里にいたような気がする。
 二重スパイだっけかなぁ、とも思うんだけど、如何せん五年以上前の事。随分と記憶があやしげだ。
 幼い頃に何があったっけかなぁ…。他にも何かあった気がするんだよねぇ…。

《どうした?》

 タイミング良くぱさり、と銀の羽を軽やかに動かしながら、私の肩にとまるテン。
 ここに居る時は、私の邪魔をしちゃいけないっていうのと、腕を動かすからテン自身が落ち着けないって事で、少し離れた場所で寛いでる。
「ん……何か、里の人間に関わる事で、嫌な出来事があったような気がしなくもないんだけど」

《……ランが、生れ落ちた後にか?》

「そうそう。幼少期にね。この辺りがもやもや~とするっていうか、防ぎたい事があった気がするんだよね」
 なんだろう。
 喉辺りまで出掛かってるのにそれ以上が出てこない。完全に悩みだした私の肩にとまっていたテンが、ツンツン、と私の頬を軽く突く。

《ラン。恐らくソレは日向のヒザシの死だろう》

「あ……」

 あっさりと言われたテンの言葉に、私は目を見開いたまま両腕を力なく垂らす。
 言葉がないというのはまさしくこの事を言うんだろうか。
 すっかりと忘れてた日向の事件。
「……ッ。ネジは…」

《呪印を押されてはいる…な》

「そ…だよね」
 この世界で会った事はないけど、知っている死を防げないっていうか、忘れきってたっていうのは結構くるっていうか。
 何とも言いがたい表情で項垂れる私に、テンは宙でくるりと回り私と同じぐらいの子供の姿になる。
 銀の髪に青い瞳。色彩は私と同じ。
 ぺちぺちと私の頬を小さな手の平で撫でるように叩くテン。

《ラン。そなたは、我と契約を結んだ。故に生れ落ちた後は自由が利かぬ》

 ジッと私の目を真っ直ぐに見つめ、言い聞かせるようにゆっくりと言葉を紡ぐ。確かに私は生まれた直後から普通の赤ん坊よりも自由が利かなかった。よくある話しで、強大な力が身に宿り、それを身体に馴染ませる為に結構な年数がかかったのだ。
 ひょっとしたら、無垢な魂じゃなかったから時間がかかったのかもしれない。今のナルトを見ると私みたいな事は起こらなかったみたいだし。
 私の場合は四歳を過ぎるまで、自分で歩く事が出来ずに両親に抱っこされて育ったんだよなぁ。その時、カカシやイタチや、他のお客さんにも抱っこされながら育ったから、鍛冶屋のお客さんとはかなり仲良しだったりもする。
 何か寝たきり?の私がこうして修行したりしてると、感無量みたいでね。


「よしっ」
 パンッと自分の両手で頬を叩いて気合をいれる。
「日向に行ってみよう。父さんの納品についてく」
 
《うむ》

 となると父さんの仕事状況の確認だね。
 私は置きっぱなしになっている道具を片付けて、足早に居間へと向かう。今頃父さんはお茶の時間。母さんと一緒にのんびりとお茶を飲んでるから、居間にいるのは間違いないはず。





 けれど珍しく父さんがお茶してなくて、どうしたのかなって思いながらも出入り口まで行ってみたらお客さんの姿。常連の人はこの時間帯は外すから、慣れてない人だろうなぁ、って思ってたんだけどね。
 背中が邪魔で来客の姿がまったく見えないんだけど、基本常連さん以外は私には関係ないから、お仕事の邪魔をしないように壁に背をつけて様子を見るだけにしておく。

「クナイかぁ。俺はクナイよりも刀や小刀の方が多いしな。希望通りの品は難しいと思うがなぁ」
 ぼりぼりと後頭部を掻きながら、しみじみと言った口調で父さんがお客さんに話してる。うん。みみっちいのは性に合わないって常日頃言ってるもんね。だからクナイなんかは一般的なものしか打ってないけど…それじゃ駄目なのかな。
「手に馴染むものがいい。これだと今の俺の手には大きい」
「まぁなぁ…。手に馴染むっつーと……ラン」
「ん?」
 何? 突然呼ばれたけど珍しい。
 壁に寄りかからせてた身体を起こし、父さんの隣まで歩いていく。
「お前の打ってるクナイを見せてやれ」
「別にいいけど」
 本当に珍しいな。父さんがそんな事言うなんて。
 そんな珍しい行動を父さんにさせた珍客をここで初めて見てみれば…。

「(噂をすれば影…)」

 私が飛び込むんじゃなくて、相手から飛び込んできたと驚いたらいいのかどうなのか。私が原因でフラグが乱雑するんじゃなくて、父さんが腕の良い鍛冶屋だから勝手に寄って来るんだろうなとここで再確認。
 忍にとって武器は命だし。
 命運をわける時もある。
 そんなわけで、腕利きの鍛冶職人の父さんの下には、名うての忍が訪れたりするんだよね。
「コイツが?」
 っと、飛びかけた思考を引き戻すように、私の前には不機嫌を隠しもせずに表情を顰めさえ、尚且つ声も低くして私を睨み付ける子供が一人。
 そうか。日向の自己主張は目だ。
 うちはと違って、日向ですと言わんばかりの自己主張は白眼だ。ここであっさりと先日の疑問が解決したんだけど、新しい疑問がわき上がる。
 ネジが何故ここにいる。
 脳裏に沢山のはてなマークが浮かぶが、目の前のネジはそんな私に怪訝な眼差しを向けたまま、鼻先で笑った。
 何だろうなぁ。
 その反応。すっごくデジャブだねぇ。なんていうかうちはの某弟君と反応がまったく同じなんだけど気のせいかな。

「こんなガキに打てるのか?」
 やっぱり似てる。天才と呼ばれる人間はどこかしら似る所があるのだろうか。
 心底思いながら、私はチラリ、と父さんの方を見てみる。別にクナイを見せる分には全然構わないんだけど、見せた方がいい?という確認の意味も込めてね。
 すると父さんは、一度だけ軽く頷いた。
 あぁ、見せるんだね。

「見る気があるなら、付いてくればいい」
 ふわりっと腰に巻いてある布を風に靡かせて、私はネジの問いには答えないまま背を向ける。
 興味があるなら付いてくればいいし、無駄だと思うなら帰ればいい。
 答えない代わりに態度で表してみた。

「流石ハニーの子。クールな感じが似てるよなぁ」
 後ろの方で父さんがしみじみと呟いてる。
 父さん相変わらずだね。流石にネジが引くんじゃないかなってチラリと様子を確認したら、案の定引いてた。
 何だこいつと言わんばかりの目線で父さんを見てるんだけど、その気持ちはよっく分かるよー。
「チッ」
 その後忌々しげな舌打ちが聞こえたんだけど、直後に続く足音からどうやら付いてくる事にしたらしい。
「本当にあるんだろうな」
「さぁ」
「……」
「俺の使いやすいものがある。アンタのは、知らん」

 父さんみたいに商売じゃないから、所詮私の打つものは趣味しかないしね。それが分かったのか、ネジは何も言わずに黙って私の後をついてきてた。
 何か、ちょっとイメージが変わったかも。
 上から目線が標準装備かなっていうイメージがあったからね。 


 
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