SHOCKER 世界を征服したら
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特別編 せイーッ!なる夜のプレゼント
前書き
私からちょっと遅めのクリスマスプレゼントです!
昨日の夜中、頭にパッと思いついたクリスマス回。1日で慌てて作ったから出来が悪いかも……。
皆様、聖夜はいかがお過ごしでしたか?
勿論、私はボッチで1人寂しくケーキ食ってました。はい。
その日の日本エリアはいつもと違った。色採り取りの電飾で照らされる街並み、売店に並ぶリボン付きの箱、通りには浮足立った人の波。
そう、今日は………
「クリスマスだ!!!」
大ショッカー党本部の執務室でゾル大佐が叫ぶと室内はシンと静まり返る。
急遽、集められただけの怪人達と戦闘員達は戸惑う。
「えーと、大佐?クリスマスがどうされたのですか?」
そう尋ねるのは彼の配下の実験用狼男である。ゾル大佐は答える。
「未来を担う子供の思想を完全にショッカー化するにはあともうひと押しだ!そのためには子供達にショッカーが自分達を楽しませ、親以上にいつも側にいる存在として認知させねばならない!
そのためにクリスマスを利用するのだ!」
クリスマス。
その盛り上がりようはこのショッカーが統治する世界においても例外ではない。元より、ショッカー世界は宗教に関しては寛容なところがある。ゲルダム団のゲルダム教やキバ一族が信仰するドーブー教などエリアごとに信徒の数に差はあれど、基本的に他宗教を排斥しようとまではならない。
征服後に世界中の教典が書き換えられ、大首領こそが『神』であり、それを崇めることこそが教義であるとされたためだ。
よって、初詣もあればイースターだってあるし、クリスマスも盛り上がるのである。
政府もこの流れに対してうまく立ち回っており、この時期に爆発的に売れる怪人関連の玩具…特にショッカーライダーの変身ベルトは肖像権云々の関係で売上の数%がショッカーの収入源と入るようになっていた。
余談だが、怪人やショッカーライダーの商品化は玩具に限らず、ポスターやDVDなどのファングッズからハンカチやマグカップなどの日用品にまで多岐に渡る。
話を戻そう。ゾル大佐の立案した作戦はこうだ。
戦闘員達がサンタに扮し、子供達にプレゼントを配ることで子供達はショッカーを自ずと崇めるようになり、それを見た親達も『こんなに子供達を笑顔にできるなんてショッカーってなんて素晴らしい政府なんだろう』と無意識に思うようになるというものだ。
心理学のテクニックを応用した、まさに人民のショッカー化の最終段階である。
「偉大なるショッカーの理想を拡大する為だ。死ぬ気で働け!!ノルマを達成できなかった班には厳罰が待っているからそのつもりでいろ!!」
そう叫ぶとゾル大佐は短鞭を振るう。
こうしてショッカーのクリスマスが幕を開けた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
日本エリア 東京
「はぁー………緊張するなぁー」
若い男女を乗せたバンが住宅街を目指して進んでいた。
……僕はふと窓を見る。
車窓から見えるイルミネーションが今日という日がクリスマス・イブであることを強く意識させた。僕は田舎育ちだが都会のこういう景色も中々、イーッ!と思う。
ここまでくれば気づいた人も多いだろうけど、僕は戦闘員だ。
戦闘員の仕事は戦闘・暗殺など様々だ。征服前はこの中に改造素体の拉致が含まれていたがそれももう過去の話。今は拉致などしなくても合法的に"徴用"することができるのだ。
その代わりと言うべきか、征服後に新たに加わった仕事が『広報』である。
党大会やショーなどのイベントに出向き、ショッカーの栄光や偉大さを人々の目に触れさせる。それが仕事内容だ。
征服直後、ショッカーに対する理解を深めさせる目的で作られたそれは様々な場で大成功を収め、現在に至っている。
「先輩も緊張するんですね、私なんか緊張し過ぎで震えてますよ」
隣の座席に座り、そう言う彼女は女戦闘員だ。女戦闘員というとフェイスペイントに黒いレオタードという妖艶なイメージだが、今回は普通のサンタ服に、よくある白いボンボンの着いた帽子を被っている。うん、これはこれで可愛い。
そう言う僕も私服の上に申し訳程度にサンタ帽を被っている。
僕は征服前からショッカーに在席するベテラン(自称)。対する彼女は戦闘員研修を終えたばかりの新米。彼女からすればこれが戦闘員としての初陣であるため、落ち着かない様子だった。
今日は先輩としての威厳を見せるチャンスである。
「私達、A班はここ、○○地区を任されています。頑張って配りましょう!」
ああ、なんて初々しいんだろう。
まずは1軒目。玄関先にバンを停めるとインターホンを押す。母親が出てきたので事情を話し、子供を呼んでもらう。来たのは幼い女の子だった。恥ずかしがり屋なのか母親の背中に隠れていた。
警戒を解くべく女戦闘員の彼女が腰を屈める。そして女の子に対して微笑みかけるとプレゼント箱を手渡した。
すると女の子の表情は明るくなるとやっとこちらに出てきた。
「わぁー!お姉さん、ありがとう!」
「フフ、どういたしまして」
そう言うと女の子に手を振り、次の家に向かった。リストによると次の家の子供は男の子らしい。
玄関先につくと、先程と同じようにインターホンを鳴らして、子供を呼ぶ。男の子が出てきたところで彼女が袋からプレゼント箱を手渡すと男の子はその場でラッピングを剥ぎ、中身を取り出した。
「あー!これ、僕が欲しかったおもちゃだー!何で分かったのー?」
「それはね、偉大な大首領様が何でも知っているからだよ〜」
プレゼントを貰ってはしゃぐ男の子に彼女は優しく微笑んでそう答えるが『大首領様は何でも知っている』。それはショッカーが全人民の一挙一動を全て監視しているということを意味している。
周囲はそれをありがたがっているが僕には時々、それがとても恐ろしいことのように感じることがある。…今度、病院に行くべきだろうか。
だが、よく考えてみると本当にサンタがいるならば、彼はどうやって子供達の欲しいおもちゃの情報を把握し、尚かつどこからそれを購入する資金を得ているのだろう。
もしかして本物のサンタも秘密結社時代のショッカーと『同じこと』をしているのでは……いやいや、邪推はよくない。サンタが世界中の子供の私生活を監視し、金塊強盗をしている様など絶対に想像してはいけない。世の中、想像していいことと悪いことがある。
「よし、次で最後ですね、場所はどこですか?」
バンに乗り込んだ僕と彼女はリストを見る。目的地は郊外にある邸宅。どうやら子供の親は大ショッカー党の党幹部らしい。
「最後の場所はここから少し離れた郊外の邸宅のようだ。少し距離があるから急がないとな」
「そうですね……でもここからなら間に合うでしょう」
僕は彼女の言葉を聞くと、より力を込めてアクセルを踏み込んだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
数時間後………。
結論を言おう。
緊急事態だ。途中までは何とか間に合いそうだったのに下道を通ったせいで長距離の渋滞にはまってしまった。目的地まであと少しだというのに。
元々、距離があったというのに不測の事態のせいで予定より3時間もオーバーしてしまった。辺りはすっかりと暗くなってしまっている。
こんなことなら少ない交通費をケチらずに高速道路を通ればよかったと後悔する。
僕は腕時計を見る。現在時刻は22時。
午前0時……つまり、25日まであと2時間までしかない。
あ、前方の車が進み始めた!このまま突っ走るぞ!!
しばらくして……。
人間本気を出せば何でもできるというがまさにその通りだと感じた。そういえば、僕達は戦闘員だった。人間という表現を使うのは不適切かもしれない。
しばらく山道を走り続けると豪華な和風の門が見えてきた。
どうやら、目的の家に着いたようだ。バンを少し乱暴に停めて、急いで降りる。
「遅くなりました!ショッカーからプレゼントです。お子様はいらっしゃいますか?」
寒さのせいか、はぁはぁと吐く吐息が白い。彼女が息咳切って門の前にいた黒服の2人組に尋ねる。おそらく警備の人間だろう。
「坊っちゃんならおられるが……プレゼントだと?怪しいな。まぁいい。中身を確認させろ」
「そんな!時間がないんですよ!」
すごすごと近づく黒服の男に彼女は反論する。しかし、黒服の男達は一歩も引かない。
「ここをどこだと思っている!党幹部の方のお住いだぞ!配送物の中身を確認せずにお渡しできるか!中身が危険物だったらどうする!?」
もっともだ。
自分達が不審者扱いされているのは心外だが、これが普通の対応だろう。
「困ったぞ……これではノルマが達成できない…」
『ノルマを達成できなかった班には厳罰が待っているからそのつもりでいろ!!』というゾル大佐の言葉が脳裏に蘇る。彼が課する厳罰など想像するだけで恐ろしい。
「フフン………私に任せてください」
「何?」
「トゥッ!!」
彼女はジャンプする。次に着地した時には纏っていた服装が変化していることに気づいた。先程まで着ていた赤いサンタ服とは異なり、黒いレオタードに黒いスカーフ。顔には赤と青のフェイスペイントが施されていた。
お馴染みの女戦闘員の格好である。
「何事だ!?おい、女、何をす…るつも……り」
「そう、私の目を見て……そう、そのまま」
女戦闘員は黒服の男達にゆっくりと近づき、一人一人の目を覗き込む。
黒服の男達の目がボンヤリと半開きになっていく。どうやら催眠にかかっているらしかった。段々と力が抜けていっているのが分かる。
「先輩!!今です!!私はこのまま護衛を全員催眠にかけておきますから、急いで!!」
「お、おう」
とにかく、彼女の"献身'を無駄にするわけにはいかない。この隙に邸宅の中に侵入した。家の造りは和洋折衷なノスタルジックなものだった。玄関先にプレゼントを置くとインターホンを鳴らした。
ガチャッとドアが開くコンマ数秒前に近くの茂みの中に身を潜めることに成功した僕は受け取り主の様子を伺った。
「はーい、誰?ってプレゼント?」
ドアを開けたのは幼い男の子だった。まだ4、5歳といった印象だ。こんな夜遅くまで起きているとは余程、プレゼントが楽しみだったとみえる。
男の子は状況を理解するとパアッと明るい顔をした。
「お母さーん!やっとサンタが来てくれたよ!プレゼントがあるー!」
そう大声で言うとプレゼントを抱えて家の中に急ぎ足で戻って行った。母親に自慢するのだろう。
近くに誰もいないのを確認すると僕は茂みから出て、静かにその場を後にした。全てのプレゼントを配り終え、達成感に包まれていたが、高揚というよりは何だか優しい気持ちになっていた。10年、戦闘員をしてきたが今日ほど心が温まったのは初めてではないかと思う。
最後に高い塀を越え、邸宅の外に出た。
そして彼女を回収すべく、近くに駆け寄った。まだ彼女は男達を魅了していた。
黒服の男達はボンヤリとした目で彼女を凝視している。
レオタード姿の薄着の女性を凝視する男達。……完全にアウトな光景だ。党幹部を護る護衛がこんなのではこの世界の将来が思いやられる。
「……まだやってるよ。そろそろ終わらせないと」
僕は彼女にハンドシグナルを送り、任務完了を知らせる。
すると彼女は男達の催眠を解いた。完全に催眠が解けているわけではないのか男達は頭を押さえて、ふらついた様子を見せていた。
「今です。逃げましょう!」
「そうだな!何とか間に合ってよかったな」
急いでバンに乗り込み、エンジンを蒸す。すると助手席から声がかかった。
「……先輩」
「ん?どうした?」
僕はアクセルペダルを踏みながら彼女の方をチラッと見た。
彼女はどこか恥ずかしいような、緊張したような面持ちだった。
「お疲れ様です。メリークリスマス!!」
「……ああ、メリークリスマス!!」
山道に駆けるバンのエンジン音と「ハハハ」という若い男女の笑い声が響いた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
数十秒後………。
「ハッ!あの不審者達は!?どこに行った?」
「探せ!探せー!!」
ようやく女戦闘員の催眠から覚めた黒服達は慌ただしく動き出す。
そんな中、門の前に高級車が停まる。運転手はこの屋敷の持ち主の党幹部だ。男は車から降りると慌ただしい雰囲気を感じ取り、辺りを見回す。
家主の突然の帰宅に黒服達は不審者の捜索を中断し、ビシッと横一列に並んで整列する。
……有名な話だが党幹部であるこの男は元々、戦闘員だった。
ショッカーによる世界統一前に起きた本郷猛討伐作戦で武功を上げ、その功績のおかげで党幹部にまで昇りつめたのだという。あの英雄であるショッカーライダー№7も党大会の場で『アイツがいなければ本郷猛を倒すことはできなかった』と口を漏らしたほどだ。
とにかく、党幹部の方の前で粗相を見せる訳にはいかず、黒服達は頭を下げる。
「お帰りなさいませ!お早いご帰宅で!」
「あ、ああ……会議が早く終わってな。それよりもどうしたんだ、何の騒ぎだ?」
「ハッ!屋敷の近くで不審者2名を見つけました。逃げられてしまいましたが現在、その2名を捜索中です。屋敷の中に入られた形跡はないようです」
「そうか、被害がないならよかったが…」
男は再び、車に乗り込むと『千堂』と書かれた表札のついた門を潜った。
玄関に着いて車を降りるとどこからともなく彼の息子が駆け寄る。
両手には先程のプレゼント箱が抱えられていた。
「お父さーん、サンタさんからプレゼンが来たの!」
「そうかそうか、それは良かったな」
「でもね、サンタさんを探したけどどこにもいなかったの。お父さんみたいに戦闘員だったのかもしれないね♪」
「ハハ、そうかもな」
そう言うと男は幼い息子を抱き上げて家の中に入って行った。
「お父さん、また昔の話をしてー」
「それ、もう何度目だ?まぁ、いいか。今日は『狼作戦』の話でもしようか…、その日はちょうど今日みたいなクリスマスの日でな……」
党幹部として成り上がった戦闘員1010号……改め、パーソナルネーム『千堂院』も他の人民と同じく、息子と楽しいクリスマスを過ごした。
また、男性戦闘員と女性戦闘員はその後、なんとか時間内に拠点に帰投することができ、無事任務を遂行することができたことに安堵した。
この件で二人の絆は深まり、数年後に結ばれたという。
後書き
戦闘員1010号改め、千堂院が登場しました。第2話依頼ですね。
元ネタは『仮面ライダーオーズ/OOO』に登場した生き残り戦闘員です。この世界線では随分、立派になってますが、気づいた人はどれくらいいるでしょうか。
次回は予告通り、アンチショッカー同盟側の話です。お楽しみに。
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