特殊陸戦部隊長の平凡な日々
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第16話:新体制の幕開けー4
クラナガンの水道管は基本的に地下に設置されている。
水道網の幹線を構成する水道管は大きく、その中を人が楽に立って歩けるほどである。
とはいえその中を水がびっしり埋め尽くしているわけではなく、水面の高さは下から
2割くらいのところにあるのが普通だ。
中には照明も設置されておらず、外界に通じているところもないため風が吹くわけでもなく、
時間が止まったかのように動きのない空間が広がっていた。
そこに、一条の光が差し、黒い装束で身を固めたゲオルグが降り立った。
マンホールを通ってたどり着いた地下の水道管の中は、地上に比べてひんやりとしていた。
ゲオルグはライトをつけると点検用の通路を足早に歩きだした。
やがて前方に頼りない照明に照らされて、うっすら明るくなっている場所が見えてくると、
ゲオルグは歩みを緩めて慎重にその場所へと近づいていった。
(あれだな・・・)
地図で目的とする場所の位置を確認して小さく頷くと、暗い照明に照らされた
機械室へとつながる小さな扉へと歩みよって、その脇にあるパネルに手をかけた。
そして指で何度かタップしたあとに小さくため息をつくと、首を横に振った。
(機能が停止してるな・・・。どうしたもんか・・・)
不満げな表情を浮かべて扉をにらみつけたあと、腕組みをしてしばし考え込む。
「部隊長」
ふいに背後から声がして、ゲオルグは勢いよく振り返りながらレーベンを構えた。
だが、そこに立っていた男の顔を見て、身体から力を抜いた。
「なんでこんなところにいる、ルッツ2尉」
「決まっているじゃありませんか。 現場情報の収集ですよ。
そういう部隊長こそなんでこんな暗がりに?」
飄々とした笑みを浮かべ、落ち着いた口調でそう言ったのはルッツ2尉だった。
ゲオルグは彼の言葉を聞くと、小さくため息をつく、
「決まってるだろ、現場情報の収集だよ」
「なるほど。しかしですね・・・」
ルッツはそこで言葉を止めると、ゲオルグに向かって一歩踏み出してゲオルグの肩に手を置いた。
「万が一、君が敵中で行動不能に陥ったらどうするんですか?
君は部隊の中核です。 君を失えば部隊は機能を失うんです。
部隊長としては軽率すぎますよ、シュミット君」
ルッツの言葉を聞いたゲオルグは、不機嫌そうに眉尻を吊り上げた。
ルッツの手をゆっくりとはねのけると、ルッツの目をまっすぐに見据える。
「誰が"シュミット君"だよ」
「すみませんでした、部隊長」
「とはいえ、お前の忠告は受け取った。 内部の調査はお前たちに任せるよ」
ゲオルグはそういうと、ルッツの背後に目を向けた。
そこには、暗がりから姿を現したルッツの部下たちが立っていた。
「了解です。 ところで、部隊長はどのように動く予定だったのですか?」
ルッツが問いかけるとゲオルグは自分がする予定だった行動を伝えた。
ルッツは頷くと部下たちのほうを振り返り、顎でしゃくって進むように指示を出す。
「では、1時間後に一度連絡を入れます」
「頼む。くれぐれも気を付けてくれ」
ゲオルグはそういうと、前進するルッツの部下たちの背中をじっと見つめた。
そして、ルッツの肩に手を置く。
「お前達が俺の切り札だからな。 失うわけにはいかないんだ」
ルッツはゲオルグの真剣な表情を見て、微笑をうかべる。
「わかってますよ。 こんな任務で負傷者を出すようなヤワな鍛え方はしてませんから
安心してください」
ルッツはそう言って部下たちのあとを追っていった。
「あれ? ゲオルグさんどうしたんですか?」
ゲオルグが意気込んで飛び込んでいったマンホールから、
たったの10分ほどでゲオルグが戻ってきたのを見て、シンクレアは目を見開いて
ゲオルグの顔を見た。
「ちょっと、な」
マンホールから地上に上がると、シンクレアの耳元に口を寄せた。
「シャドウの連中にまかせてきた」
「あらま、さすがルッツ2尉は動きが早いですねぇ」
ゲオルグの言葉を聞いたシンクレアは苦笑を浮かべて応じた。
そして2人はティアナたちのいる指揮所に向かって歩き出す。
「ゲオルグさん? なんで戻ってきたんですか?」
「お、暗いのが怖くて帰ってきちゃったのか?」
シンクレア以上に驚いた表情のティアナとニヤニヤと笑うクリスティアンに出迎えられた
ゲオルグは仏頂面を浮かべて作戦図が乗っている机のそばに立った。
「情報収集の担当者に任せてきた」
何度も説明するのが面倒と感じたゲオルグが、低い声でそう言うと
ルッツ以下のシャドウ分隊に任せてきたのだと察したティアナは小さくうなずいた。
「1時間後には連中から連絡があるからそれまでは待機だな」
ゲオルグがそういうと、クリスティアンは肩をすくめて苦笑を浮かべると
自分の部下たちのほうへと歩いて行った。
一方、ティアナは周りの人間の動きを伺いながら、ゲオルグのほうに寄ってきた。
「シャドウ分隊、ですか?」
ティアナが小声で発した問いに、ゲオルグは無言で頷く。
「それにしても、よくルッツ2尉に譲る気になりましたね。
あれだけ意気込んで出かけて行ったのに」
「そうですよね。自分で行きたくてしょうがないって感じだったのに」
シンクレアとティアナがゲオルグを茶化すような言葉を口々に言う。
それを聞いていたゲオルグは苦笑を浮かべた。
「そうなんだけどな。 ルッツに諭されると弱いよ、やっぱり」
そう言ってゲオルグは照れ臭そうに頭をかく。
「ゲオルグさんが任官したてのころからの付き合いなんですっけ、確か」
「まあな。俺が陸士部隊で分隊長をやってたときに部下だったんだよ」
「というと、なのはさんたちよりも古いお知り合いってことですか?」
「そうなるな。あいつよりも古い付き合いとなると、それこそクリスティアンみたいな
士官学校時代の知り合いぐらいかな」
3人がそんな会話を交わしていると、自分の分隊の隊員たちのところにいたウェゲナーが
近づいてきた。
「あれ、部隊長じゃないですか。情報収集はおわったんですか?」
ゲオルグの姿を見て驚きの声をあげるウェゲナーを見て、3人は互いに顔を見合わせてから
声を上げて笑った。
1時間後。
ゲオルグ宛にルッツからメールが届く。
そこには1階店舗エリアの襲撃犯の配置情報が書かれた図が添付されていた。
さらに、最上階の幹部フロアで拘束された銀行の幹部たちを発見したこと、
そしてそれ以外のフロアはフロアからの出入りが完全に封鎖されているものの
フロア内の銀行職員たちは、特に拘束されたり傷つけられたりはしていないことが書かれていた。
「どうしたんですか?」
ルッツからのメールを読んでいたゲオルグに、ティアナが声をかける。
「ルッツから情報が来た。 店舗エリアの敵の配置が送られてきてるから
これをもとに突入計画を立案しよう」
ゲオルグの言葉にティアナは頷く。
「あと、お前の推測は当たってたかもしれんな」
「どういうことですか?」
ゲオルグが彼女に向かってニヤッと笑いかけながら言うと、
ティアナは首をかしげて問いを返す。
「幹部が最上階で拘束されてるらしい」
ティアナは目をわずかに見開く。
「では、店舗エリアと同時に最上階へも突入しなくてはいけませんね」
ティアナの言葉にゲオルグは小さくうなずく。
「・・・任せていいか?」
「もちろんです。ありがとうございます」
ティアナが微笑を浮かべてそう言うと、ゲオルグは軽くうなずいて返した。
そして、ルッツから届いた店舗エリアの敵配置図を映し出す。
その周りにシンクレア・ウェゲナー・クリスティアンの3人が集まってきた。
「では、始めるか」
ゲオルグの言葉に全員が頷き、突入作戦を立案するための打ち合わせが始まった。
打ち合わせが始まって5分、突入作戦の立案が完了しゲオルグたちは
それぞれの持ち場に向かって移動を開始していた。
突入作戦は犯人グループが立てこもっている店舗エリアと、銀行の幹部が拘束されている
最上階で同時に行われることになった。
店舗エリアの突入作戦は、クリスティアン率いる第301陸士部隊が正面から
ウェゲナーが率いる特殊陸戦部隊のファルコン分隊が裏口からの突入を担当する。
最上階への突入作戦はティアナの率いるイーグル分隊が、まずは屋上に上がりそこから突入する。
そしてゲオルグはイーグル分隊に同行する、と決まった。
このため、ゲオルグとティアナはイーグル分隊の隊員たちとともに、ルッツたちがビル内へ
侵入していった経路、すなわち地下水道からエレベータシャフトを通って屋上へと
上がっていくことになった。
ゲオルグを先頭にマンホールから地下水道へと降り、ルッツたちが開けた侵入口へと向かう。
「なんか、ヴィヴィオを見つけたときのことを思い出します」
「ああ、確かにあのときも地下水道だったっけか」
地下水道を奥へと進むと、エレベータシャフトへの入り口が見えてくる。
その脇には茶色い制服を着た男が立っていた。
ゲオルグが近づいていくと、男は背を伸ばしてゲオルグに向かって敬礼する。
「部隊長、侵入口はこちらです」
「ご苦労。 ルッツは?」
「2尉は屋上でお待ちです」
「そうか。 シャフトの中は飛行魔法を使っても大丈夫なのか?」
「問題ありません。 シャフト内部に魔力探知装置などは仕掛けられていません」
「了解した」
男に向かって頷くと、ゲオルグは後ろに立つティアナのほうを振り返った。
「俺は飛行魔法で先に上に行く。 お前たちは気を付けて上がってこい」
「わかりました」
ティアナが答えるとほぼ同時に、ゲオルグはシャフトの中へと入り屋上に向かって飛び上がった。
ティアナはその姿を見送ると、イーグル分隊の面々に向かって振り返る。
「さて、屋上へ急ぎましょうか。 私は最後から登ります」
ティアナの言葉にイーグル分隊の隊員たちは"はっ!"と声をそろえて応じた。
そして、ティアナは傍らに立つイーグル分隊の曹長であるエミリア・マイラーの顔を見た。
「マイラー曹長は私の前ね」
「了解です」
そう言ってマイラーは頷く。
しばらくして、順番がまわってくるとマイラーとティアナは隊員たちに続いて
エレベータシャフトの片隅にある梯子をのぼり始めた。
「あの、分隊長?」
5フロア分くらい上ったところで、マイラーがティアナに話しかけた。
「なに?」
ティアナは梯子を上る手を止めることなく、マイラーに返事をする。
「分隊長ならこんな梯子を上らなくても、アンカーガンを使えばさっさと屋上まで行けますよね」
「まあ、そうね」
「なんでそうしないんです?」
「私だけが先についたって意味ないもの」
「それだけですか?」
「あとは、分隊のみんなが転落しないためのサポートも必要だし」
「それは確かにそうですね」
それきりマイラーは黙り込んだ。
そこからしばらくは無言で梯子を上っていく。
[ねえねえ、ティアナ]
15階を超えたところで、ふいにマイラーからティアナに念話が届いた。
呼びかけられたティアナは怪訝な表情を浮かべて、自分のすぐ上で梯子を上る
マイラーのほうに目を向けた。
[急になによ、エミリア]
この2人、階級はティアナのほうが上なのだが、年齢はマイラーの方が上ということもあり
また同性でもあるので、2人きりのときにはファーストネームで呼び合う仲であった。
[ティアナってさ、部隊長のこと、好きでしょ]
[はあ? 何言ってんの?]
ティアナは眉間にしわを寄せて不機嫌さを多分に含んだ念話を送る。
[何言ってんのじゃないでしょ。 どう見たって部隊長のこと好きじゃない]
[別に、恋愛感情なんてないわよ]
ティアナは早く上がれとばかりにマイラーの足をつつく。
一方、マイラーはあきれたように冷たい目線をティアナに送る。
[急かしたって上が詰まってるんだから早くならないって。
ていうか、図星なんじゃない]
[うっさい! いいから任務に集中しなさいよ!]
マイラーは小さくため息をつく。
[わかったわかった。 続きは隊舎にもどってからね]
ティアナはそのあとも仏頂面を浮かべていたが、屋上が近づいてくると
大きく一度深呼吸してからキリっと引き締まった表情へと変わった。
一方、一足先に屋上へと辿りついたゲオルグは、屋上に待機しているルッツと合流していた。
屋上にちょこんと乗ったようなエレベータの機械室の外壁にもたれるように座り込んでいる
ルッツの横に座り込んだ。
「待たせた」
「いえいえ。イーグル分隊はどうしたんですか?」
「すぐに来る。早めに状況を把握しておきたかったんで先に来た。それで?」
ゲオルグが最低限の言葉で尋ねると、ルッツは最上階の平面図を映し出す。
そして中央付近にある大きな部屋を指さした。
「幹部たちはこの幹部会議室に両手両足を縛られた状態で転がされてます」
「敵は?」
少し食い気味で尋ねてくるゲオルグの言葉を聞き、ルッツは渋面を浮かべて頭をかいた。
「それがですね・・・、見当たらないんですよ」
「はあ?」
予想していなかったルッツの答えに、思わずゲオルグは高い声をあげる。
「ちゃんと探せよ」
「探しましたよ。 生体反応センサーも使いましたけど、最上階フロアにはいません」
「・・・どういうことだ?」
「さあ? わかりませんよ、そんなの」
怪訝な表情のゲオルグが問うと、ルッツはお手上げとばかりに肩をすくめてみせた。
「・・・わかった。 あとはティアナが上がってきてからだな」
そうして5分ほどたったころ、上空からバタバタという音が聞こえてくる。
ゲオルグとルッツは音の聞こえてきた方向の上空に目をやった。
「ヘリ? こんなときに飛ばしてくるなんて、どこの部隊だよ」
苦い表情を浮かべたゲオルグの言葉を受けて、ルッツは付近の航空管制レーダー画面を開く。
次の瞬間、ルッツの顔がさっと変わった。
「部隊長、あれはテレビ局の取材用です!」
同じころ、本局の自室で仕事をしていた、テロ対策室長たるクロノ・ハラオウン少将の
部屋のドアが乱暴に開かれた。
「閣下! テレビで事件現場の映像を放送してます!!」
「なんだって!? どこの局だ?」
「CTVです。部隊の展開状況も放送されてます!!」
駆け込んできた部下の言葉に、クロノは思わず立ち上がる。
そしてすぐに通信画面を開く。
『はい、どうされましたか、ハラオウンさん』
相手はCTVの編成局長で、クロノはすぐに本題に入る。
「やってくれたな。包括協定違反だぞ、君のところ放送内容は」
クロノのすごむ口調に編成局長は気圧されたように、両目を泳がせる。
『申し訳ありませんが、何のことでしょうか?』
「君は自分の局の放送内容も把握してないのか!?
人質立てこもり事件の突入作戦の陣容を放送するなんて、
君たちは人質と管理局の人間の命を軽く見すぎている!!」
クロノは怒りもあらわに声を張り上げる。
そして、もはや話すことはないとばかりに通信を切ると、
立て続けに次の相手に通信をつないだ。
『ゲオルグ、今いいか!?』
近づいてくるヘリの姿を見上げていたゲオルグは、クロノからの音声通信を受けると
いきなり慌てた様子で話しかけてくるクロノの様子に面くらいながら応じた。
「なんですか?」
『CTVがそっちの状況を空撮で生中継している。
部隊配置状況なんかも全部放送されてしまった』
慌てた様子で話すクロノの言葉を聞き、ゲオルグは眉間にしわを寄せた。
「そういうことですか・・・」
『というと?』
「CTVの取材ヘリが飛んでるんで」
『そういうことか。 とりあえずCTVの編成局長には苦情を入れておいたが、
放送をされたのはもう変えられないから、その前提で動いてくれ』
「了解しました」
『頼むぞ』
クロノの言葉にゲオルグが頷き、通信は終わる。
通信画面が閉じると、ゲオルグはウェゲナーとクリスティアンに連絡を取り始める。
『部隊長、どうしました?』
『なんだ、ゲオルグ』
彼らとの間に音声での通信がつながると、ゲオルグは寸暇を惜しむように早口で話し始めた。
「時間に余裕がないから手短に言う。
今上空にいるヘリから我々の展開状況を撮影され、ライブで放送されてしまった。
このため、部隊配置を敵に知られてしまったと判断し、敵に対応する時間を与えないように
店舗エリアへは即座に突入を開始する。 いいか?」
『了解しました』
『わかった』
「よし。ではそちらの統括はクリスティアン3佐に任せる。
クリスティアン、頼んだぞ」
『ああ、任せろ』
ゲオルグはウェゲナーとクリスティアンへの指示を終えると、ルッツの方を振り返った。
「大丈夫ですかね?」
ルッツは、彼には珍しくその両目に不安げな色を讃えてゲオルグの方を見ていた。
「下は大丈夫だよ。 それより俺らはこっちの仕事をきっちりやろう」
そのとき、エレベータシャフトを上ってきたイーグル分隊の面々が屋上に姿を現した。
「お待たせしました、ゲオルグさん」
ティアナがゲオルグの前にやってきて敬礼した。
ゲオルグは無言で頷くと、彼女とルッツに向かって指をクイっと動かして呼び寄せた。
ティアナは傍らのマイラーに"待機を"と告げてゲオルグのそばへと移動した。
「時間に余裕がないから状況を説明する」
ゲオルグはそう言って、自分たちの配置状況がカメラで撮影され放送されてしまったこと。
そのために店舗エリアへの突入を速めたこと。
最後に最上階には銀行の幹部が拘束されているものの、敵の姿は確認できていないことを伝えた。
時折頷きながら聞いていたティアナは、ゲオルグの話を聞き終えると苦笑を浮かべた。
「敵がいないんじゃ、ちょっと気が抜けてしまいますね」
ティアナの言葉にゲオルグも思わず苦笑を浮かべる。
「気持ちはわかるけど、ちゃんと気合入れてけよ。油断は禁物だ」
ゲオルグがそう言ったとき、ビルの下のほうから"どすん"という低い音が響いた。
『301、突入を開始した』
『ファルコン01、裏口から突入開始』
それとともに301部隊とファルコン分隊が突入を開始したという通信が入る。
「始まったな」
「ええ。 こちらもはじめましょう」
ゲオルグとティアナはお互いに向かって頷きあうと、ティアナはイーグル分隊員たちのほうへと
移動していった。
そしてマイラー以下の隊員たちに作戦内容を説明する。
分隊をいくつかの班に分けて、それぞれの班にどの部屋を探索させるか割り当て、
そのルートの指示を与えていく。
その様子を見ていたゲオルグは、満足げに頷いた。
(立派に分隊長やってんじゃん)
それからすぐに作戦説明を終えたティアナが、ゲオルグの前に戻ってきた。
「準備完了です。 いつでもいけます」
「よし。 では作戦を開始せよ」
「はっ!」
ティアナはゲオルグに向かって敬礼すると、踵を返して隊員たちのもとへと戻り、
突入口である非常階段への入り口の前に移動していく。
全員が並んだのを確認し、ティアナは右手を上げてから勢いよく振り下ろした。
『イーグル01、最上階への突入を開始』
ティアナの声で通信が入り、イーグル分隊の姿が入り口の中に消えていくのを見送り、
ゲオルグもそのあとを追うように、非常階段を下りて行った。
『ファルコン03、店舗エリアと階段の遮断を完了』
『ファルコン12、3名の敵を無力化』
『301、窓口付近の人質15名を保護した。 突入口から退出させる』
『ファルコン07、カウンター内にいた人質5名を保護』
突入部隊の通信音声を聞きながら、ゲオルグは銀行の幹部が拘束されている
幹部会議室に向かって歩いていく。
『イーグル02、会長室クリア』
『イーグル07、社長室クリア』
最上階の制圧も順調に進んでいく中、ゲオルグは幹部会議室の前までたどり着いた。
『イーグル01、幹部会議室の制圧を完了。 拘束された人質6名を保護』
ティアナの声で幹部会議室の制圧を終えたという通信が入り、ゲオルグは幹部会議室に
足を踏み入れた。
そこは、コの字型に会議机が並べられた部屋で、20脚ほどの豪奢な椅子が置かれていた。
人質たちは会議机に囲まれた中に並べて転がされていた。
その両手と両足は縄で縛られていた。
「あ、ゲオルグさん」
部下が彼らの拘束を解いていく様子を見ていたティアナは、
ゲオルグが近づいてくるのに気が付くと、振り返って彼に向かって敬礼する。
「順調そうだな?」
「ええ。最上階の部屋はだいたい制圧を完了してますね。
各部屋に隠し空間がないかの調査をはじめさせてます」
「そうか。くれぐれも慎重に頼む。
潜んでいた敵に後ろから刺されるなんて、ごめんだからな。
お前が納得するまで何日でも続けて構わない」
「了解です」
ティアナはゲオルグの言葉に頷く。
次いで、ゲオルグは拘束を解かれて手首をさする人質たちの方をちらりと見る。
「で、彼らの事情聴取だがどこでやろうか? 隊舎よりも本局のほうが近いけど」
「そうですね・・・。本局のほうがいいんじゃないでしょうか。
捜査部とか情報部とか、いろいろ2度手間になるのも面倒なんで」
「わかった。 ならお前は彼らと一緒に本局に行け。
事情聴取はお前に任せる」
ゲオルグの言葉にティアナは目をわずかに見開く。
「いいんですか?」
「お前、そっちが本業だろ?」
ゲオルグがそう言ってウインクすると、ティアナはにこっと笑って頭を下げた。
「ありがとうございます」
「ここの調査もあるから忙しくなると思うけど、頼むぞ」
「はい」
その時、クリスティアンの声で通信が入る。
『301、店舗エリアの制圧を完了。
人質は30名全員を無傷で保護。
犯人グループ12名を全員拘束した。
店舗エリアの突入作戦を完了する。 以上』
「シャドウ00、了解」
ゲオルグは通信に返答すると、小さく息を吐いた。
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