Fate/WizarDragonknight
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観客が増えると嬉しい
晶の撮影は、ほんの一時間程度で終わった。
偶然来店した彼女が、そのまま風靡あるお店としてラビットハウスを紹介、ココアがもってきたコーヒーを飲んでコメントをするというものだった。
「ふう……」
ぐったりと背中を背もたれにつけ、ハルトは空を眺める。十一月は凍えるが、先日買ったマフラーが役に立つ。
「思ったより大変だったね。モデルさんの来店」
「そうだね」
可奈美が頷く。
「チノちゃんがあんなにガチガチになっちゃうなんてね」
「まあ、トラブルがなかっただけでもよかったけどね。それにしても……」
ハルトは大きく息を吸う。乾燥した冬の空気が、ハルトの肺を貫いていく。
「平和だな……」
「そうだね」
可奈美も、新しい水色のセーターで体温をキープしている。ベンチに腰付けることなく、竹刀を振っていた。
「この前の異変なんて、もう誰も覚えていないのかな……?」
「うーん、そんなことないと思うよ?」
可奈美は手を緩めることなく言った。
「忘れたいだけじゃないかな。あんなこと……世間でいうと、中学生二人もなくなったことを忘れたい、でも忘れることなんてできない。表面上だけでも平穏に過ごしているんだよ」
「そういうもんかね?」
「そうだよ」
可奈美の竹刀を握る手が、左右入れ替わる。
「まあ、以前学校で話した内容そのまま言ってるだけだけどね。それより、ハルトさん何してるの?」
素振りをどれだけ繰り返したのだろうか。可奈美がようやく腕を止める。
「ん? ちょっと大道芸でもしようかなと」
ハルトはカバンからゴムボールを取り出す。
すると、可奈美は目を丸くした。当然だろう、とハルトは思った。ただのゴムボールだと、可奈美自身が何度もゴムボールに触れて確認している。
「このゴムボールで?」
「そ。こうやって……」
ハルトは両手でゴムボールを握る。しばらくそれを見せたのち、手を放す。すると、
「え⁉」
可奈美が望んだとおりの反応を見せてくれた。
ゴムボールだったものが輪ゴムの束へと変わる。
「おおおおおお」
竹刀を脇に挟んだ可奈美に拍手を送られる。
その反応に快感を感じていると、ハルトは可奈美の背後に記憶にある人影を見つける。
「……面白そうだから黙っておこう」
「ん? 何? 何か言った?」
「何も?」
そのままハルトは、ごそごそと鞄の中を探すポーズを取りながら、横目で可奈美を見る。
そして。
「だーれだ?」
「わひゃっ!」
可奈美の目を覆う両手。ハルトからすればバレバレだが、可奈美は見事に期待通りの反応を見せてくれた。
しばらく両手を振って(その際竹刀を落としつつ)、離れる。
「何⁉ 何⁉ ……友奈ちゃん⁉」
「やっほー! 可奈美ちゃん!」
犯人は、赤いポニーテールの少女、結城友奈だった。
彼女は眩しい笑顔で手を振る。
「何してるの?」
「何してるって……」
可奈美はぜえ、ぜえ、と肩を鳴らしている。
「ココアちゃんたちが帰ってきたから、休憩兼ねて散歩してるだけだけど……」
可奈美の言葉がいつになく忙しなく聞こえた。
その中で、友奈はハルトの手にある無数の輪ゴムたちを見下ろした。
「何やってたの?」
「ああ、これ? 大道芸」
「大道芸?」
「お? 友奈ちゃんも見る?」
思わぬ観客の増員に、ハルトは喜ぶ。鞄からトランプを取り出し、
「じゃあ、今度はこれを使おうか」
「トランプ?」
「そ。ただのトランプマジックじゃないよ。これを……ん?」
ハルトが見れば、目をキラキラさせている少年がいた。小学校低学年くらいの年齢の少年。
「この前のやつやって!」
この前のやつ。どこかで芸を見せたことがあっただろうか。
リピート客の出現に、ハルトは少し笑みを浮かべる。
少年はピョンピョンと跳ねなあら、
「ねえねえ! もう一回、この前のやつやってよ!」
「この前の……もしかして……君、……」
「うん! チー君だよ!」
ああ、と思わずハルトは頷いた。
だが、ハルトの脳内のチー君……病院で迷子になっていた少年の姿とは、少し姿が重ならなかった。
そうしている間に、チー君の興味は友奈へ移った。
「……」
じっと友奈を見つめるチー君。友奈は彼と目線を合わせるようにしゃがんだ。
「どうしたの?」
「あれ? 友奈ちゃんもう懐かれちゃった?」
竹刀を拾いながら、可奈美が言った。その通りと言わんばかりに、チー君は友奈の腕を掴んだ。
「へへ……」
チー君は何も言わずに、手に頬ずりし始める。
これは未成年だからこそ許されることだなと思いながら、ハルトは頭を撫でられるチー君を見ている。
「チー君っていうの?」
「うん!」
チー君は友奈の腕にしがみつきながら、友奈をハルトの隣に座らせる。彼女の膝の上でちょこんと座ったチー君は、ハルトに目線で続きをねだる。
「可奈美ちゃんは、よくハルトさんの大道芸見てるの?」
「時々ね。同じ下宿先だから。でも、とってもびっくりするよ」
「そうなんだ! 楽しみ!」
チー君と同じくらいはしゃぎだす友奈。
彼女に「はいはい」と、応える。
「じゃあ……チー君もいるし、トランプよりわかりやすいもの……まずは、これかな」
ハルトは金色の玩具のコインを取り出す。どこにでもあるプラスチック製のそれを、タネの確認のためにチー君に手渡す。
「うーん……あやしくない!」
ジロジロと見まわしたチー君は、そのまま友奈にコインを回す。右手だけチー君から離してもらった友奈は、コインの裏表を確認する。
「うん。ただのコインだね」
友奈から返してもらったハルトは、「何もなかったよね?」と再度確認する。
二人が頷いたのを確認したハルトは、
「それじゃあ、よ~く見ててよ。ほいっ!」
親指が弾いたコインが宙へ飛ぶ。二人がそれをしっかりと目で追っている。
そしてハルトは、二人の目前で、両手で交差するようにして掴んだ。
「さあ? どっちの手で取ったでしょう?」
「ムムム……」
チー君は、難しい顔でハルトの両手を見比べている。何度も両手を見比べては、「うんうん」と唸っている。
「ちなみに友奈ちゃんは分かる?」
「え?」
友奈は口をポカンと開けていた。
「いや、ハルトさん結構これ速いよ? 分かんないよ!」
「じゃ、降参ってことだね? 可奈美ちゃんは?」
「右」
可奈美はノータイムで答えた。
そのあまりの素早さに、ハルトは目を白黒させた。
「どうして?」
「どうしてって……ハルトさんがコイン掴むの見えたから」
「見えるものなの⁉」
「刀使なら多分みんな見えると思うよ」
「マジで?」
「うん」
彼女の凄まじい動体視力に慄きながら、ハルトは右手を開く。可奈美の見切り通り、その中にはコインがあった。
「可奈美ちゃんすごい!」
「お姉ちゃんすごい!」
「えへへ……」
チー君の声に、可奈美は嬉しそうにほほ笑む。
だが。
「でも残念。正解はこれ」
ハルトは、左手も開いた。
するとなぜか、そちらからもコインが顔を見せた。
「嘘⁉」
「何で⁉」
友奈とチー君が驚いている。期待通りの反応に満足しながら、
「どうやったの⁉ 間違いなく右手だったのに」
「それは教えられないなあ」
チー君よりも、友奈の方が種明かしに必死になっていた。
「すごいすごい! ねえ、お兄ちゃん! もう一個! もう一個見せて!」
「うーん、そうだな……じゃあ、お次は……」
ハルトが次を出そうとしたその時。
大地が震えた。
「うわっ!」
思わぬ衝撃に、ハルトはバランスを崩す。それにより、次の小道具であるビー玉が地面に散らばった。
「あっ!」
ビー玉を拾おうと、止める間もなくチー君が走り出した。彼を止めようとするハルトと可奈美、友奈だが、その前に無数の人々が雪崩れ込む。
「逃げろ!」
「助けてくれ!」
一目散に公園を横切る人々に遮られ、チー君の姿は見えなくなってしまった。
逃げ惑う人々。彼らの表情から、鬼気迫るものを感じたが、その正体を問いただすことはできなかった。
「ハルトさん!」
友奈が切羽詰まった声を上げる。彼女が指差す方向。公園の外の住宅街には、ハルトが顔を歪める光景が広がっていた。
「火柱……?」
おおよそ昼間の町にはふさわしくないもの。
紅蓮の炎が、まさに柱となり、天へと伸びている。
周囲を破壊しながらの炎が、連鎖的に見滝原の街並みを壊していた。
「何だあれ……?」
ハルトが唖然とした顔をしている。だが、すぐにその緊急性に気付き、
「チー君! どこだ⁉」
「チー君は私に任せて!」
友奈が真っ先に名乗り出る。
ハルトは逃げ惑う人々と友奈を見比べて頷く。
「分かった! お願い! 可奈美ちゃん、行くよ!」
「うん!」
可奈美は携帯しているギターケースから千鳥を取り出す。
ハルトは互いに頷き合い、ともに火柱の方角へ急いだ。
去り際に、チー君を探して友奈が人混みの中に入っていくのを見送った。
後書き
ほむら「おかしいわね……」
キャスター「マスター。いかがなさいましたか?」
ほむら「二章が始まってしばらく経つのに、出番がないわ」
キャスター「それはたまたまかと」
ほむら「いいえ、変よ。ここにまどかと私がいるのは、私がまどかとキャッキャウフフするためのものでしょう? そうなのでしょう?」
キャスター「キャラ崩壊していますが」
ほむら「一章でメインヒロインになっていたこの私が、どうしてこのコンペだけの出番なのかしら? キャラの比率ではまどマギが一番多いはずよ」
キャスター「マスター。尺がないので、お早めに」
ほむら「……そこに価値があるのかしら。はあ、今回はこれよ」
___わたしにもできること やさしさを守りたい 涙ふいたら飛び立とう 明日へ___
ほむら「ストライクウィッチーズよ」
キャスター「放送期間は、1期は2008年7月から9月。2期は2010年7月から9月。宮藤芳佳脱退後を描いた劇場版が2012年3月。ミニアニメである発信しますっ!が2019年4月から6月に放送されています」
ほむら「他にも、ブレイブウィッチーズなどの外伝や小説、OVAなど多数あるわね。しかも2021年、ルミナスウィッチーズなる新作アニメも決定しているわ。全く、長寿アニメね」
キャスター「マスター。それはマスターにも言えることでは?」
ほむら「さあ? どうかしら? 扶桑と呼ばれる国の医者志望、宮藤芳佳がウィッチーズと呼ばれる部隊に所属して、ネウロイと呼ばれる人類の敵と戦う話ね。それにしてもこのストライカーとかいう機械、どういう頭でデザインしたのかしら」
キャスター「いわく、パンツでないから恥ずかしくない、とのこと」
ほむら「全くわけが分からないわ。うっ……」
キャスター「マスター?」
ほむら「なぜかしら。このルッキーニを見ていると、内側の何かが……にゃーっ!」
キャスター「マスター。似合いません」
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