魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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最終章:無限の可能性
第262話「ミッドチルダの戦い」
前書き
次はなのは達に焦点を当てた戦いです。
ミッドチルダ首都クラナガン。
そこは先の襲撃の事もあり、ほぼ壊滅していた。
管理局の地上本部も、既に機能していない。
それでも、管理局員は戦っていた。
死ぬことがない。それはつまり、死ぬことで逃げる事も出来ないという事だ。
だからこそ、絶望しながらも局員は戦い続けていた。
「ぐぉっ!?」
地上本部の総司令、レジアス・ゲイズもその一人だ。
本人に魔力資質がないために、指揮を執る事しか出来ないが、それでも上手く部隊を動かして戦っていたのだ。
……だが、既に部隊も全滅し、レジアスも戦闘の余波に吹き飛ばされてしまった。
「う、ぐ……!」
傍らには娘であるオーリスも倒れている。
勝ち目は既にない。それでも、レジアスは意地で倒れようとしなかった。
しかし、だからと言って現状は変わらない。
理力の閃光がレジアスへと迫り……
「ぉおおっ!!」
割り込んだ者によって、弾かれた。
「ッ……!?ゼスト……!?」
割り込んだのはゼスト・グランガイツだ。
見れば、攻撃を仕掛けてきた“天使”に同じゼスト隊の者が反撃していた。
「……生きて、いたのか……?」
「……こちらも、聞きたい事があるんだがな……」
会話は続かない。
それよりも優先すべき事があると言わんばかりに、ゼストは前を睨む。
「お前の裏との繋がり、管理局の闇について……あいつらを退けてから、聞かせてもらうぞ。レジアス」
「ゼスト……」
「指揮は頼むぞ」
そう言って、ゼストは戦場へと飛び出す。
有象無象を蹴散らすように……とはいかない。
物理的な力は、敵の方が格上だ。だが、それを“意志”で覆し、拮抗させる。
建物を崩壊させていた“天使”を何とか引き剥がし、体勢を立て直す。
「『ジェイル!そちらは任せるぞ!』」
『くくく、任せたまえ。理論だけでは説明しきれない“意志”の力。私もとくと見せてもらうとしよう!』
ゼスト隊の他に、ジェイル率いるナンバーズとガジェットも戦っていた。
本来次元犯罪者で追われる身であるジェイルすら、管理局に協力するかのように“天使”と戦いを繰り広げていたのだ。
「ッ……!!」
槍型アームドデバイスを構え、ゼストは突撃してきた“天使”を弾き飛ばす。
そのまま、果敢に攻め立てる。
「………っ」
その背を見ていたレジアスは、ハッと気づいたように周囲を見る。
倒れ伏す局員達がそこかしこにいるが、決して死んでいる訳ではない。
それどころか、気絶すらしていない。
実力差に絶望して呻いているだけだ。
「なにをしている!!すぐに陣形を立て直すのだ!!見ろ!敵は決して敵わない相手ではない!!」
それを見て、レジアスは一喝するように指示を出す。
ゼスト達の戦いは倒れていた局員も見ていた。
そこへの一喝で、発破になったのだろう。
次々と、諦めないとばかりに立ち上がっていった。
「この力は………」
一方で、ミッドチルダ上空でなのは達は湧き出る力に驚いていた。
アリシア達と同じく、平行世界の自分達の力が上乗せされているのだ。
「……なのはとフェイトだけ?」
「奏ちゃんは感じないの?」
「ええ」
ただ、かつての神界の戦いの余波で運命が歪んでいた奏は違った。
平行世界の自分達から独立したため、力が得られなかったのだ。
「気にすることはないわ。質の分は―――」
「―――数で補うから」
代わりに、奏は分身魔法で数を増やす。
鍔迫り合いを繰り広げていた“天使”を死角から斬り捨てる。
「それなら、心配ないね……!」
すかさずなのはとフェイトの魔力弾で追撃する。
さらにフェイトと奏が一太刀入れ、トドメになのはの砲撃魔法で消し去った。
「凄い……さっきまでと段違い……」
「油断はダメよフェイト。多分、そろそろ……」
「ッ、避けて!!」
なのはの声と同時に、奏とフェイトは飛び退く。
直後、寸前までいた場所を極光が貫く。
「あれは……!」
攻撃してきた神に、奏は見覚えがあった。
神界に突入した時、奏が敗北する際にトドメを刺した神だ。
「(確か、“集束”に関する神……!)」
分身を逆手に取られた事で、分身全員のダメージが“集束”した際の記憶を掘り起こし、即座に次の手を予測する。
「ッ!!」
「奏ちゃん!」
移動魔法で飛び退く。
すると、空間が“集束”し、炸裂した。
「避けましたか」
「一度、“性質”を使う所は見たから。……尤も、避けられたのは偶然だけど」
「……なるほど」
“パチン”と、“集束の性質”を持つ女神が指を鳴らす。
すると、なのはとフェイトが集束させていた魔力が霧散した。
「(やっぱり……!)」
奏達は相手が“集束の性質”だとはわかっていない。
だが、特徴から奏はそう言った“性質”なのは見抜いていた。
「『気を付けて。相手は多分“集束”に関する“性質”。集束が関わる行動は全て干渉されると考えるべきよ』」
「『……という事は……』」
「『集束砲撃も、魔力刃も使えない……』」
どちらも魔力を集束させて形成している。
そのため、集束に干渉されれば今のように霧散させられるだろう。
故に、攻撃手段は限られる。
「シッ!!」
「ッ……!」
奏が肉薄し、分身と合わせて二人掛かりで斬りかかる。
しかし、振るったハンドソニックの刃は敵の理力の剣によって切断された。
「(集束の密度で、拮抗すら出来ない……!)」
「無駄ですよ……ッ!?」
「……なら、別の手でやるまで」
だが、即座に奏は戦法を切り替える。
分身魔法を解除し、直後に砲撃魔法を放った。
魔力の集束という過程を飛ばし、砲撃が理力の障壁を揺らす。
「はぁっ!!」
「そこ……!」
さらに、なのはとフェイトが魔力刃を使わずに小太刀と斧に変えたレイジングハートとバルディッシュで斬りかかる。
「ぐっ……!」
防がれはしたものの、意表は突けたようで、女神は驚愕していた。
間髪入れずに奏が再度分身。三方向から一斉に斬りかかる。
「『なのは、フェイト。“トゥインクルシフト”!』」
「「『了解!』」」
防がれた瞬間に分身を戻し、再び砲撃魔法を即座に発動させる。
その隙を利用し、三人で一斉に動き出す。
「はぁっ!」
先手はフェイトが取る。
速度を生かし、理力の守りを切り裂く。
間髪入れずに奏が斬りつけ、最後になのはが斬る。
「っづ……!?」
速度特化の連携攻撃に、女神は理力の障壁を破られダメージを受けた。
だが、倒し切れる訳ではない。
「なるほど、少しはやりますね……!」
“集束の性質”を利用した攻撃は、僅かに攻撃の出が遅い。
そのため、速度を生かした戦法は理にかなっている。
しかし、それだけで倒せる程甘くはない。
「ですが―――」
「ッ……!」
咄嗟に奏が分身魔法でなのはとフェイトの死角に回り込ませる。
そして、刃を振るい攻撃を相殺した。
「(“天使”……!)」
そう、女神が従える“天使”が攻撃してきたのだ。
ほとんどの神は眷属として“天使”がいる。
一人の神を相手取るならば、その眷属の“天使”も相手にしなければならない。
「私が引き受ける……!二人で神をお願い……!」
そこで、奏が“天使”を全員引き受けた。
人数分の分身を作り、なのは達から“天使”を引き離す。
「無駄だ!」
戦闘を分断した。
そう思った瞬間、“天使”によって分身が“集束”させられる。
神界での戦いでもあった、強制的な分身の送還だ。
「そうかしら?」
だが、前回と違いダメージは蓄積していない。
分身を戻されても痛手にはならず、再度分身を出す手間がかかるだけだ。
「何度でも、分身を出して相手してあげる」
前回のような絶望感も一切ない。
そのため、奏が負ける要素は今の所ない。
しかし、分身とその送還の千日手となり、倒すにも時間がかかるだろう。
「ッ……!!」
一方で、なのはとフェイトも攻めあぐねていた。
奏が欠けた分、ダメージを与えるに絶妙に足りない状態となっていた。
「もう一人いたならともかく、二人だけで倒せるとでも?」
「っ、倒す!」
なのはの“意志”を込められた一撃が理力の障壁を切り裂く。
しかし、もう一手が足りない。
即座に障壁を再展開され、フェイトの追撃が防がれる。
「どう足掻いても、彼女が戻ってくる事はありませんよ」
周囲では、多数に分身した奏が出現したり消えたりしている。
分身の展開と送還が繰り返され、千日手となっている状態なのがよくわかる。
「……だから、どうしたの?」
「奏は、絶対に勝つ」
「そして、私達も!」
最早決意はとうに固まった。
軽い揺さぶりの言葉は、二人には効かない。
むしろ、さらに“意志”を強くした。
「ッ……!」
速度を上げ、何度も斬りつける。
有効打を入れるため……ではなく、有効打が入るまで二人は斬りつける。
対し、女神はそれを阻止するために理力を放出する。
「くっ……!」
「無駄です!」
二人は吹き飛ばされ、なのははそんな中で砲撃魔法を放とうとする。
しかし、“集束の性質”で砲撃魔法の魔力が霧散する。
「だったら!」
「ッ、その術式は……!?」
ならばと、なのはは別の術式を展開した。
魔力の集束が出来ないのであれば、その必要がない魔法を使えばいい。
そう判断して、霧散した魔力のみで発動できる魔法を放った。
「“ディバインウィンド”!!」
風が砲弾となり、理力の障壁を打つ。
威力自体は砲撃魔法に劣るが、その分を“意志”でカバーする。
「ッッ!!」
「ぐっ……!」
すかさず、フェイトが仕掛ける。
しかし、寸での所で届かず、理力の剣に阻まれた。
「速攻魔法……!まさか、この場で……!?」
「人は常に進化し続ける……私に宿っていたルフィナさんの知識が、そう教えてくれた!だったら、私もフェイトちゃんも、奏ちゃんも、限界を超えて見せる!!」
「なっ……!?」
なのはの言葉と共に、大量の魔法陣が展開された。
驚くべきことに、そこには集束の必要がない程に、魔力が装填されていた。
「くっ……!」
「させない」
すかさず装填された魔力を霧散させようと、“性質”を使う。
だが、その前にフェイトが肉薄し、阻止する。
「それでも……!」
その上でなお、“性質”を使おうとする。
「ッッ!!」
しかし、それすらフェイトは想定していた。
「ぇ―――?」
体が雷光によって斬り刻まれた時にはもう遅かった。
“性質”はそれを阻止する“意志”によって完全に止められ、なのはの魔法が放たれ、女神はそれに呑み込まれた。
「―――“雷光連閃”」
最早、光の速さとも言える速度だった。
ただ速さを求め、それを“意志”で再現した結果、女神にすら見えない速度でフェイトは斬り刻んでいたのだった。
「……耐えられた!」
しかし、相手の防御や“性質”を破る事に“意志”を割きすぎたためか、二人の攻撃が直撃してなお耐えられてしまった。
「ッ、っ……!?」
「悪いけど、ここで終わりよ」
―――“Angel Beats”
だが、反撃は来ない。
背後を取っていた奏が、その前に砲撃魔法を至近距離で繰り出したからだ。
「奏ちゃん!」
「これで全員倒したはずよ」
「まさか、他の“天使”を全員……?」
「ええ。数には数よ。弱点を突いてくる“性質”ではあったけど、対策がある今ならむしろ格好の的よ」
見れば、つい先ほどまでいたはずの“天使”が消えていた。
奏の言う通り、既に殲滅してきたのだ。
「さすがだね……」
「二人も、大して苦戦していなかったでしょう?」
もし、奏が手を出さなかったとしても、二人ならばあのまま押し切れただろう。
それほどまでに、以前と違って対等に戦えていた。
「ッ!」
だが、戦後の会話は続かない。
敵はまだミッドチルダ中に散らばっているからだ。
すぐさま別の“天使”が三人に襲い掛かり、それをなのはが弾き飛ばした。
「油断もしていないわね」
「当然だよ」
弾き飛ばしたのは砲撃魔法だ。
平行世界の力を手にした今、魔法陣を設置してそこから砲撃魔法も放てる。
それを利用し、迎撃として“天使”を吹き飛ばしたのだ。
「平行世界の私達のおかげで、普通の“天使”ぐらいなら地力すら上回れる」
「その点はかなり大きいよね」
多くの“天使”が襲い掛かってくるが、その悉くをなのはとフェイトが速さで翻弄して斬り捨てていく。
一部の“天使”は“性質”を使おうとするが、それは奏が分身魔法と“意志”を込めた攻撃を用いて阻止していた。
「は―――?」
それは、正しく神界の者にとっても想定外だった。
本来、よほど力を極めた者でない限り、他世界の、それも人間が神を力で上回る事は到底あり得る話ではない。
しかも、例え神を上回ってもそれは戦闘特化ではないごく一部の神だけだ。
概念や因果そのものに干渉できる以上、どうしてもその分野では神に敵わない。
だが、今は世界そのものの“格”が昇華され、さらに司と祈梨の祈りによって“意志”による“性質”との相殺が可能になっている。
「今なら、神の速さすら凌駕できる……!」
そして、何よりも平行世界の同一人物の力が上乗せされている。
イリスの勢力に抵抗しているのは、なのは達のいる世界だけではない。
その周辺の平行世界、全てが抵抗している。
この世界は神界に対して他の世界の“盾”となっている。
そのため、他の世界が最大限の支援を行っているのだ。
結果、集まった力は神すらも凌駕する程になっていた。
「(……だとしても、二人の場合は強くなり過ぎてるような……)」
その上でなお、二人は強くなりすぎていると奏は思う。
しかし、その理由もミエラの知識によってすぐに思い当たった。
「(―――二人が、物語における重要人物だから、ね)」
“リリカルなのは”という物語において、なのはとフェイトは必要不可欠と言っても過言ではない存在だ。
主人公と、そのライバルまたは親友。
そんな二人が普通の因果を持っている訳がない。
物語のキーパーソンだからこそ、あらゆる平行世界において二人は“ただの一般人”にはならない。
「(どの平行世界でも、二人は大きな力を持つ。直接的にしろ、そうでないにしろ……ね。……そんな存在が一点に集約されれば……)」
強靭な因果を持つ存在だからこそ、集約された力は凄まじかった。
加え、なのはは不屈の心を持つ。
諦めが悪く、その“意志”は絶対に貫く。
今この戦いにおいて、その心意気は途轍もなく相性が良かった。
フェイトも、そんななのはにつられるように、強靭な“意志”を持っていた。
「……私も、負けてられないわね」
そんな二人に負けないように、奏も敵を翻弄する。
分身魔法と移動魔法を併用して翻弄し、確実に意識の隙を突く。
平行世界から独立した転生者故に、なのはとフェイトのように平行世界の自身から力を得る事は出来ず、地力は二人に大きく劣る。
それでも、“意志”だけで二人に負けないように戦いを繰り広げていた。
「はぁっ!!」
分身魔法による同時攻撃や連携攻撃は、奏以外に真似できないモノだ。
だからこそ、その唯一性を生かし、“天使”に攻撃を与えていく。
「ぐっ……!」
「そこよ!」
一人の分身がやられれば、その直後の隙を突く。
または、一人が攻撃を受け止め、その間に他の分身が攻撃する。
それぞれが同じ“自分”だからこそ、完全な連携が取れていた。
「ッ……!」
一方で、なのはも一人で複数の“天使”を相手取っていた。
本来、遠距離には弱い小太刀だが、今のなのはは違う。
平行世界の力を生かし、小太刀から魔力の刀身を伸ばす。
それは、さながら砲撃魔法を放ちながら振り回すようなものだ。
射程の短さが完全に補われ、敵を薙ぎ払う。
「遅いよ」
「くっ……!?」
フェイトも平行世界の力を生かしていた。
こちらは単純に速さに磨きを掛け、“天使”を率いる神を相手取る。
「ふっ……!」
高速で攻撃を加え続け、障壁を切り裂く。
そして、切り裂いたその隙間から蹴りを叩き込み、なのはの方へ飛ばす。
「そこっ!!」
蹴り飛ばされた神は、転移する間もなく“天使”ごとなのはに叩き切られる。
瞬時に、他の“天使”が一斉に襲い掛かるが……
「っ、バインド……!?」
「掛かったね……!」
二人で設置しておいたバインドに引っ掛かり、一瞬動きを止めた。
そして、バインドの発動を起点に砲撃魔法の魔法陣が多数展開される。
「回避はさせないわよ」
転移で避けようとする“天使”を、今度は奏が分身魔法で止める。
そして、砲撃魔法が一気に“天使”を一掃した。
「これで……トドメ!」
最後に、分身魔法を戻した奏とフェイトによる一閃が飛び、“天使”の体が一気に切り裂かれた。
「そん、な……“性質”が、効かない、なんて……!?」
「生憎、“性質”はこの世界の“意志”によって差し押さえられてるわ」
ギリギリ耐えた残党を、奏が念入りに倒し、周囲の敵を殲滅し終わる。
「そうだったの?」
「そうだよ。私も、ルフィナさんの知識がないと知らなかった事だけど」
神界の存在を厄介たらしめる“性質”だが、この世界でのここまでの戦いにおいて致命的な程に苦しめられる事はなかった。
イリスが襲撃した時はギリギリで足掻けていた程だったのに、今では“それなりに厄介”程度の脅威でしかない。
それらは全て、この世界そのものの“意志”によって相殺されていたからだ。
「だから、私達は対等に戦える」
「そういう事。……次、来るわよ……!」
再び別の神とその“天使”が襲い掛かる。
攻撃を捌き、冷静に対処していく。
『少しいいか!?』
「『クロノ君!?』」
そこへ、クロノからの念話が入る。
『戦闘中すまない。自由に動ける君たちに頼みたい事がある!』
「『手短にお願い!』」
『カバーしきれない避難場所がある!そこへの救援を頼む!』
向こう側でも戦闘中なのか、クロノの声の所々に力が籠っている。
なのは達も戦闘をこなしつつ、その話をしっかりと聞いていた。
「『了解!』」
「なのは、フェイト!ここは私が引き受けるわ。二人は先行して!」
念話が終わり、早速行動に移す。
分身魔法で時間を稼ぎやすい奏が残り、なのはとフェイトが件の場所へ向かう。
当然、敵も追いかけようとするが……
「悪いけど、ここから先は行かせないわ。どうしてもというのなら、私を……いいえ、私“達”が相手よ!!」
分身魔法を使い、複数に増えた奏が、それを阻んだ。
「座標は……この辺だよ!」
「なのはが先に行って!私がスピードで攪乱する……!」
一方で、なのは達も件の場所についた。
前回の襲撃で避難していたその場所は、今回の戦闘で避難場所として機能していない程にボロボロになっていた。
すかさず、フェイトが瞬時に襲撃中の“天使”に斬りかかる。
「わかった!」
なのはもそれに合わせ、建物内に突入する。
建物は既に崩壊寸前な上、火災に見舞われている。
いくら生死の概念が崩れて死なないとはいえ、一般人には苦しい環境だ。
「……こっち!」
理力特有の独特な気配を頼りに、なのはは炎の中を突っ切っていく。
辿り着くと、そこには避難民に襲い掛かろうとする“天使”がいた。
辺りには既に倒れている人がおり、戦闘があった事が見て取れた。
「させない!!」
「っ!人間が、何人来た所で!」
レイジングハートで理力の剣を受け止め、その場に割り込む。
「“ディバイン、バスター”!!」
「ッ!?」
その“天使”は、今まで普通の人間を相手にしてきた。
そのため、なのはも同じだと考えたのだろう。
だからこそ生じる油断を、なのはは見逃さなかった。
突き出された理力の一撃を避け、カウンターばりに掌底を叩き込んだ。
さらに、そこから砲撃魔法を放ち、上空へと吹き飛ばす。
「少し、じっとしててください」
その隙に大きな魔法陣を展開し、避難民を守る障壁を張る。
直後、転移で先ほどの“天使”が戻ってくる。
「貴様ぁっ!!」
「っ……!“ハイペリオンスマッシャー”!!」
激昂した“天使”が砲撃を放つ。
対し、なのはも同じく砲撃魔法で対抗し、攻撃を拮抗させる。
「(ッ……余波だけで、障壁が持たない……!)」
相殺ないし、押し切る事は可能だ。
だが、余波だけで張っておいた障壁が破られてしまう。
なのは自身は無事で済んでも、背後の避難民は無事では済まない。
「それ、でも!」
それでも、なのはは砲撃魔法を続けた。
込める魔力を増やし、“意志”と共に押し切る。
「こいつ……!?」
「人は、無限の可能性を持ってる。……だったら、これぐらい凌駕して見せる!!」
魔力が増大し、極光が“天使”を呑み込んだ。
そのまま建物を貫通し、穴から空が見えた。
「―――隙を見せたな」
砲撃直後、それを二人の別の“天使”が狙っていた。
一人は、余波で体勢を崩した避難民の一人を。
もう一人は、直接なのはに奇襲を仕掛ける。
「ッッ!!」
―――御神流奥義之歩法“神速”
刹那、なのはは極限まで集中力を高めた。
避難民を襲う“天使”へ、レイジングハートの小太刀を片方投げつけ、もう片方で自身への不意打ちを受け止める。
そして、その反動を生かして跳躍。
壁を、天井を蹴って投げた後弾かれた小太刀を掴み、二刀による斬撃を放つ。
「な、に―――!?」
「―――大丈夫、私が守るよ」
襲われた青髪の少女に、なのはは優しく言う。
同時に、砲撃魔法で二人の“天使”を無理矢理外へと押し出した。
「『フェイトちゃん!敵を一纏めにできる?』」
『こっちも人がいるから難しいけど……やってみる!』
念話でフェイトに頼み、その間になのはは周囲の魔力と理力を集束させる。
ルフィナの依り代になっていた影響で、理力を集束して放つ程度ならなのはにもできるようになっていた。
「星よ集え、神すら撃ち貫く光となれ!」
空にて雷光が煌めき、複数の“天使”と一人の神が集まる。
フェイトが攪乱し、上手く集まるように誘導したようだ。
直後、仕掛けておいたバインドで動きを止め、タイミングを合わせた。
「貫け、極光!!“スターライトブレイカー”!!」
まさにベストタイミング。
示し合わせていたとしか思えないタイミングでなのはが極光を放つ。
僅かにでも意識の外側に追いやっていた“天使”達は、避ける事もできずに極光に呑み込まれ、そしてそのまま“領域”が砕けた。
「フェイトちゃん!」
「よかった。そっちも無事だったんだね」
敵を一掃した後、なのはとフェイトはそれぞれ避難民を連れて合流した。
「ギン姉!」
「スバル!」
お互い離れ離れになっていたため、合流できた事に喜ぶ避難民もいた。
だが、まだ気は抜けない。
「ここから、クロノ君達の場所まで移動しないと……」
「転移魔法……は難しいよね」
「できなくはないけど、時間がかかるよ」
ルフィナの知識のおかげで、普段は使えない大規模転移魔法もなのはは使える。
しかし、時間がかかるようで、このままではまた別の“天使”に襲われる。
「その間は、私が露払いするわ」
「奏ちゃん!追いついてきたんだ」
「ええ」
そこへ、奏が合流してきた。
「じゃあ、お願いできる?」
「任せなさい」
一人で複数人分の動きができる奏ならば、露払いに適している。
おかげで、避難民の移動をつつがなく行う事ができた。
「……じゃあ、もうひと踏ん張り、行こう!」
「うん……!」
人を助けながら、イリスの勢力を退ける。
三人のミッドチルダにおける戦いは、まだまだ続く。
後書き
トゥインクルシフト…技名ではなく、所謂戦法の名前。遠距離攻撃をほとんど捨て、身体強化特化で斬りつける連携を取る。
ディバインウィンド…文字通りなのはが放つ風の魔法。魔力の集束の過程を省くため、砲撃魔法に威力は劣るものの、即時放つ事が可能。
雷光連閃…その身を雷へと変えるかのような速度で斬り刻む近接魔法。武器に込めた魔力で一発当たりの威力が変わるが、今回はそれを“意志”で底上げしていた。なお、レヴィも使える。
奏が敵の“性質”を無視して砲撃魔法を即座に使えているのにはちゃんと理由があります。尤も、それが明かされるのは奏の弱点を突いてきた神との戦いでなので、まだ不明なままです。
また、現在のなのはやフェイトのような“リリカルなのは”におけるメインキャラは、総じて司や奏よりも物理的な強さは上回っています。
ちゃっかり空港火災の代わりにイベントを起こしています。神界勢の蹂躙で空港火災のイベントに繋がらないので……。
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