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失態

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第三章

 しかもそれがティリー達の予想を遥かに越えていたのだ。
 それでティリーもこう言うのだった。
「このまま包囲が長引けばだ」
「兵糧がかなり少なくなっています」
「傭兵達の間で不満が高まっています」
 今の時点でそうだった。
「報酬も支払っていませんし」
「士気も低くなっています」
 包囲が長引けば攻める側もそうなる、既に傭兵達の不満は危険な水域にまで達していた。
「不満が我々に向けば危険です」
「伯爵、これ以上の包囲は」
「残念ですが」
「そうだな。ましてザクセンやスウェーデンの援軍が来れば」
 どうなるかは想像するまでもなかった。
「今の我々ではどうしようもない」
「勝てませんね」
「まず敗れます」
「スウェーデン軍は精強だそうですし」
「それでは」
「そうだ、迂闊には戦えない」 
 ティリー自身も言う。
「これ以上はな」
「ではやはり」
「ここは」
「もう数日か」
 ティリーは本陣からマグデブグルグの城壁を見た。それはまさに長城の如くそこに聳え立っている。その城壁を見てだ。
 こちらの大砲は受け付けず反撃を加えてくるのも見ながら言うのだった。
「それ以上はだ」
「傭兵達の怒りがですね」
「我々に向かいます」
「ですからそれ以上の包囲は」
「無理ですね」
「無念だが」
 ティリーはマグデブルグの城壁を見ながら忌々しげに言う。
「数日攻めてだ」
「陥落させられなければ」
「撤退する」
 こう決めたのだった。そして。
 ティリーはあと数日で撤退を決定した。そしてだった。
 期限を決めて攻める、その時に。
 ティリーはふと気付いた。マグデブルグの水路がだ。
「あそこが弱いな」
「はい、城壁が弱いですね」
「あの部分だけが」
「そこを攻めよう。それにだ」
 ティリーはここで周囲を見た。そこにいる傭兵達は。
 兵糧も少なくしかもかなり殺伐としていた。
「撤退してもな」
「はい、今にも暴れかねません」
「退路でどれだけ落伍するか」
「そしてどれだけ暴れるか」
「それが問題ですね」
「そうだ、このままでは危険だ」
 こう言うのだった。
「撤退してもその途中で食料や報酬を求めてだ」
「退路で蛮行の限りを尽くします」
「それどころか暴動さえ起こしかねません」
「これではです」
「今ここでマグデブルグを陥落させ」
「そして食料や報酬を手に入れましょう」
「何としても」
 幕僚達も危機を感じていた。このままでは傭兵達が暴れ暴動を起こすことは間違いなかった、それではだった。
 今はマグデブルグを陥落させそして得るべきものを得るしかなかった。そして。
 水路のところを集中的に攻撃を仕掛けた、それによって城壁が遂に崩れた。
 ティリーはその城壁を見て言った。
「よし、今だ!」
「はい、今です!」
「傭兵達を突入させましょう!」
「これで勝利です!」
「何とかなりそうだな」
 ティリーはその顔に安堵さえ浮かべていた。そのうえで。
 彼は傭兵達に突入を命じた、だが彼はこの時忘れていた。
 傭兵達は食料と報酬を求めていた、そしてだった。
 血走って餓えた目で見ていた。そのうえで。
 町の中に突入し早速だった。 
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