大悪将軍
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第三章
「まことに暴君じゃな」
「本朝にあそこまでの暴君は出たことがないぞ」
「諫めようとする人にまでああするとは」
「これはまことに暴君じゃ」
「全く以てとんでもない」
「あれではじゃ」
誰かが小声で言った。
「何時か報いが来るぞ」
「そうであろうな」
「古来暴君がいい終わり方をしたことがない」
「徳がないからのう」
「徳がない者なぞ末路は知れたものじゃ」
「今の公方様の何処に徳がある」
「むしろ悪を抱え込む一方じゃ」
徳を備えるどころかというのだ。
「些細なことで怒られ人を罰する」
「諫めようとする人まで傷付ける」
「やたらと人を殺める」
「その様な方の末路なぞわかっておるわ」
「ではやがてな」
「無残なことになるわ」
多くの者がこう言いかつ願っていた、兎角義教は恐れられ忌み嫌われ誰からも無残な末路を願われていた。
その中で赤松満祐は子である教康に言っていた、親子でよく似た顔でありどちらも細面で細い目であるが父である満裕の顔は皺が多くそこが違う。
「当家はどうなると思うか」
「危ういかと」
教康は父に剣呑な声で答えた。
「公方様が叔父上にされたことを思うと」
「そうであるな」
「公方様は我等を廃してです」
「分家の方に継がせたいな」
「そうかと」
義教が重く用いる赤松貞村に赤松家を継がせたいというのだ。
「その布石としてです」
「弟から領地を召し上げたな」
「そして分家に与えたかと」
その貞村にというのだ。
「やはり」
「左様であるな」
「公方様のご気質を思えば」
「我等を廃してな」
「滅ぼすこともです」
「充分あるな」
「あの方は守護の家のことにも口を出されます」
教康は父にこのことも話した。
「それも常に」
「そうしてな」
「ご自身の思うままに主を替えられます」
「前の主なぞ虫の様に扱われる」
「命を奪うことも」
それもというのだ。
「常です」
「そうした方じゃな」
「ですから」
「我等もじゃな」
「非常に危ういです」
「ならじゃ」
満祐は教康に意を決した顔で答えた。
「覚悟を決めるか」
「それでは」
「宴を開いてな」
そしてというのだ。
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